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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第一章 魔族大陸にて
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18 出発、イビルバロウ

 男の娘ならセーフ説


今回少しだけリヴァイアさんのキャラ崩壊ありです

 sideルリ


 今日、セツさんがイビルバロウを旅立ちました。私が城下街で、貰った屋台の準備を始めてるところに、セツさんがわざわざ挨拶しに来てくれたのです。


「ルリ、俺今日ここ出てくから」


 ちょっとトイレ行ってくる―――――くらいのノリで突然言われ、私は少しの間ポカンとしてしまいました。その間に彼は自分のポケットを漁り、何やら紐状のものを投げ渡してきました。

 慌てて受け取り確認すると、それはネックレスでした。奇妙な形をした石に、白い紐が通してあります。これは何なのかと聞いてみると、彼は「親しい人との別れの際に渡しているアクセサリー」だと言いました。別れの時のプレゼントと言うと、デザスさんが持っているブローチと同じ扱いでしょうか? 

 それが嬉しくて、少し舞い上がっていると、セツさんは意地悪な眼で私を見てきます。私はそれに怒りますが、この人はスルスルと逃げてしまいます。

 なんとなく、お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなって思います。この人の私への接し方も、まるで妹を相手にしているようです。本当はもっと女として見て欲しいんですけどね……

 私がからかわれて涙目になってくると、この人は私の頭に手を乗せてきます。セツさんの手は暖かく、気づいたら頭を優しく撫でられてて、とてもじゃないけど抗えません。


「ま、屋台頑張れよ。戻ってきた時繁盛してたら手伝ってやるからよ」


 最後にそう言いながら、セツさんは街の外へ続く門へ歩いていきます。

私はまだまだ話したいことがたくさんありましたが、ここで引き止めてしまっては彼の迷惑になってしまいます。名残惜しい気持ちを押さえつけ、セツさんの背中を見送りました。


 彼と一緒にこのお店をやっていけたら、それはどんなに幸せなことなのでしょうか。新たにできたその夢の為にも、この店を繁盛させ、セツさんの基準をクリアさせなければいけません。

 私は気合を入れて開店準備をします。本当なら明日開店だったのですが、思い切って今日の午後から開店させちゃいます。私はさらに気を引き締め、明日使うはずだった食材に手をつけ始めました。











「――――――アクセサリーを渡した連中もだいぶ増えてきたな……」


 俺はネックレスをルリに渡した時のことを思い出しながら、ポツリと呟いた。

 

 基本的に、俺が渡すアクセサリーには俺の加護が入っている。加護といっても、精神干渉系の攻撃を無効、生命の危機になりうる攻撃を一度だけ無効、そして危機に陥ったとき、それを瞬時に俺に知らせるといったものしかない。もう少し身体強化などの力も入れてやりたいが、込めるための石などが、それだけの力を詰め込める容量を持っていないのだ。

 今のところそれを持っているのは、一緒に旅をした三人と、夕陽、デザス、そしてルリ。もう一人いるにはいるんだが、そいつはこの三大大陸から離れた場所にいるため、その内紹介しようと思う。


 そうこう考えているうちに、街外れの門へとついた。門を守る兵に、外へ出せる者かチェックしてもらい(犯罪者を外に出すわけにはいかないからな)、街の外へ出た。


「――――――遅かったじゃない」


 俺が外の空気を吸っていると、突然声をかけられた。

 声の主を探すと、道の端にリヴァイアが立っている。 


「ああ、ルリの所へ行ってたからな。お前も一緒に来りゃぁよかったのに」

「いいのよ。あなた達の時間を邪魔したくはないしね」


 俺とルリの時間? そんなに気を遣う別れの場面でもなかったがな……


「ま、私はしばらく二人っきりの時間をもらえるからね、それくらいはあげないと」


 そう言いながらリヴァイアは歩き出した俺の横にぴったりくっつく。

 

 なぜリヴァイアが俺の旅に同行することになっているかといえば、俺が頼んだからに他ならない。また海上を移動することになるし、戦力としても申し分ない。どの道海に帰るつもりだったと言うし、一緒に行かない理由はなかった。

 それにしても、なんか今日素直だな。いつもは変なツンデレを発揮してたはずなのに……


「そういえば……私との約束覚えてる?」

「ん? お前の言うこと聞くってやつ? 決まったのか?」

「……そういうことをちゃんと覚えているからずるいのよね……この女殺し……」


 聞こえないように小声で言ってるのか知らんが、聴覚も強化されている俺にはばっちり聞こえてるぞ。俺をそこら辺の鈍感男と一緒にしないでもらおうか。


「ええ、決まったわよ。なんでもいいのよね?」

「ああ、俺のできる範囲でな」


 範囲外の要求してきたらウロコ剥ぐんで、その辺よろしく


「多分範囲内よ……あのデザスが着ていたウエディングドレスってあるじゃない?」

「ああ」


 純白だったせいでデザスに似合わなかったあれな。そういえば黒と赤のドレスなんて誰に頼めばいいんだろうか? 普通に作ってもらえんのかな?


「その……ね? ……私もあれを着せて欲しい……とか思ってみたり……」


 段々声が小さくなり、最後は俯いてしまった。素直になると、途端に可愛くなるなこいつ。俺は具体的に聞きたくなり、その先を促した。


「海色のドレスでね……海の上に氷で場所作って……」

「ほうほう……」

「それで――――――って恥ずかしくて言えないわよ!?」


 っち、もう少し遊べるかと思ったんだが……まあ要するに――――――


「――――――結婚したいと」

「うーー!! そんなストレートに言わないでよ!!」


 ゴウッと風を切って向かってくる怒りの拳を、俺は難なく避ける。ツッコミにしては威力がダンチだな。一般人なら木っ端微塵だ。それと暴力系女子はあまり需要ないぞ。


「避けないでよ!!」

「やなこったい」


 俺は拳を手で受け止め、その頭をペシンと叩いてやる。

叩かれたリヴァイアは、その部分を抑えながら大人しくなった。


「う~~~……はぁ、だめね。私には素直になるのって難しそう」

 

 突然肩から力が抜け、ガクンとリヴァイアが脱力する。


「急に素直になったと思ったら無理してたのかよ……なんでまた」

「だって、デザスなんてすごいストレートにあなたに思いを伝えてるじゃない。他にもあなたを慕う人は結構いるし……私の想いなんて届いてなさそうで……」


 そう言いながらリヴァイアがさらに顔を伏せる。


 ……なんて言うのか、素直じゃないとかツンデレとか言っても、要するにそれは相手が鈍感な奴の時に伝わらないだけなんだよなぁ……逆に人をからかうのが好きな俺としてはわかりやすいくらいなんだが――――――


「――――――お前の想いは届いてるから安心しろよ。結婚したいんなら、言ってくれればちゃんと応えてやっから」


 ほれ言ってみ、ほれ言ってみ――――――と煽る俺。もちろんゲス顔を添えて。


顔をどんどん赤くするリヴァイアは、唇を震わせ、羞恥で涙目になりながらも言葉を紡ごうとして……


「わ、私と……け、結婚を――――――


――――――って言える訳ないじゃないのバカぁ!!」


「ぶふぉ!? おいウォーターレーザーはやめろ!!」


 俺は顔に消防車の放水のような水魔法を食らいつつ逃げ回る。

ムキになったリヴァイアの暴走はしばらく止まらず、ようやく止まった頃にはすっかり太陽が空高く登っていた。


 おかしいなーさっきまで朝だったんだけどなー


この時が、相変わらず俺の出発は締まらねぇんだなと悟った瞬間であった――――――











「はぁ!!」


 ディスティニア城の屋外訓練所、その中心で激しく魔法をぶつけ合う二人の少女がいた。

一人は氷の礫を放ち、もう一人は夕日色の炎を放っている。


「夕陽さん!! 出力にもっと気を使いなさい!! この程度の礫を消すのにこれほど大きい炎は要りませんよ!!」

「は、はい!! エルカ先生!!」


 再び放たれた氷たちを、今度は少し抑えた炎で迎え撃つ。二つが接触し、激しく蒸気を上げる。

だが――――――


(くっ……今度は弱いの!?)


 溶かしきれなかった礫が、炎を突き抜けて夕陽の頭部を打つ。

大体野球ボール程度の塊を受けた彼女は、頭に強い衝撃を受けて地面に倒れこむ。


「……今日はこの辺にしましょうか、大丈夫ですか夕陽さん」

「はい……なんとか。いてて……」


 夕陽は頭を押さえながら体を起こす。身体強化は常に施してあるため、大したダメージにはなっていないが、どうやら皮膚を切ったようだ。押さえた手を離すと、そこに血が付いている。


「うーん……あの出力じゃダメだったかぁ……もう少し大きくして、厚さを増させれば――――――」

「――――――ユウ!!」


 突如名前を呼ばれた夕陽は、思考を中断し声の方に視線を向ける。そこには全力疾走でこちらへ駆けてくる光真の姿があった。

 あっという間に夕陽の元へたどり着いた光真は、上半身を起こした夕陽の体を支え、頭部に回復魔法・ヒールを施す。ちなみに回復魔法は光属性、適性のある光真にとってヒールは得意分野だ 


「また休日にこんな訓練をして……だからこんな怪我するんだ」

「う、うん……?」


 光真は真剣な表情で傷を治すと、夕陽に肩を貸し立ち上がる。

夕陽は別に肩を貸されなくても立ち上がれたが、気遣いを無下にもできず、されるがままに立ち上がった。


「このまま部屋へ戻ろう、今日は休むんだ」

「…………」

「わかった?」

「……うん」

「ならいい」


 二人で自分たちの部屋へと歩き出す。去り際に、光真がエルカの方へ顔を向け、恨みのこもった視線を投げかけてくる。エルカはそれに何も言わず、二人に背を向け歩き出した。ドMな彼女もそういう視線は好きではないのだ。





 部屋に戻された夕陽は、光真によってベットに寝かされていた。別に彼女はすでに動き回れるし、そもそもあのまま訓練だって続けられたのだ。エルカに止められた以上、続けるつもりはなかったが、光真にあんな言われ方をされて、強制的に連れてこられたというのは中々に納得がいかないことであった。


「日々の訓練も相当辛いんだぞ? そこにあんなハードな訓練をプラスするなんて……」

「……それでもやらなきゃ」

「どうして?」


 ユキくんと一緒に居れるようになるため――――――と言いかけたが、夕陽は光真がディスティニア側の人間であることを思い出し、なんとか留める。エルカに許可された人間以外には、このことを話してはいけないとキツく言われているからだ。


「……とにかく強くなりたいんだ、私」

「そ、そうか……」


 そう言っても納得できないと言いたげな顔をしていたが、あまりの夕陽の真剣さに、光真もこれ以上追求できる度胸を持っていなかった。


「……でもあまりに休まなすぎだ、今度の休みは一緒に街に出よう。な?」

「……ごめん、訓練受けないとだから」


 はっきり言われてしまった光真は、衝撃を受けたように目を見開き、夕陽はそれを気にした様子もなくベッドから体を起こした。そのまま立ち上がり、部屋の出口へと歩き出す。少しさっきの訓練は物足りなかったため、エルカに頼み込んで追加訓練をしてもらおうと夕陽は考えていた。


 その彼女の腕を、横から光真が掴む。


 セツ以外の男に触られていることを少し不快に思いつつ、夕陽は光真の方へ顔を向ける。

彼の顔にあったのは悔しげな表情。そして僅かに恨みのこもった顔を彼女に向けてきていた。


「ユウが頑張るときは……いつもあの須崎 雪が関わっている時だ」

「え?」


 思わず図星を突かれ、夕陽は驚愕する。確かに、昔から彼女が頑張ったときは、大体セツが関わっていた。彼が休んだ時には、その間のノートを自分のより優先で書き取り、その後どんなに用事があっても、それを凄まじい速さでこなしてセツの家へ直行する。彼が小説の読み過ぎで寝不足になり学校で倒れた時も、その体を一人で保健室へ運んでいった。

 元々頑張り屋さんなどと言われていた夕陽の頑張りは、ほとんどセツのための頑張りであったのだ。


「今度も……やつが関わっているのか? 一体あんなネクラのどこがいいんだ!! 俺のほうが絶対に――――――いッ!?」


 いきなり夕陽の腕を掴む光真の腕に激痛が走った。見ると、彼女の自由な方の手が、彼の腕の手首を握り締めていた。メキメキという音が鳴りそうなほど力がこもっており、指が光真の腕へめり込んでくる。


「ユキくんのこと、あんまり悪く言わないで。あんまりひどいと――――――いくら光真くんでも……燃やすよ(・・・・)?」

「ッ!?」


 彼女の可愛らしい整った見た目からは想像できないほどの殺気が、光真の体を打つ。思わず力が抜け、崩れ落ちそうになるが、掴まれていた腕をそのまま引かれ、無理やり立たされる。

  

 夕陽と光真の間には、すでにこれほどの差が出来ていた。セツがいなくなってからまだ日は浅いが、エルカの本気(・・)の指導を受けている才能の塊(夕陽)が伸びないわけがない。


 フラつく光真から手を離し、夕陽は今度こそ部屋を出ようとする。


「心配しないでも、明日の迷宮訓練には支障をきたさない程度の訓練にするよ。安心して?」


 最後にそう言い残し、夕陽は部屋から出てドアを閉めた。

光真からするとそういうことを気にしたのではなかったのだが、彼はいまだに何も動けずにいた。


 愛する者からの殺気をモロに受けた彼が立ち直ったのは、それから数十分後のことであった。



次回、港町到着


 さあ、光真くんの恋の行方はどうなるのでしょう!!(わかりきっていること)

そして夕陽ちゃんはここからどう成長(意味深)するのでしょうか!?

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この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
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