11 海神とのなりそめと、不穏な影
昨日投稿できなかったぁぁぁ!
もうしわけありません
「ほい、手出せ」
「あ、はい」
俺は先に龍の頭に乗り、いまだに唖然としているルリの腕を引いて乗せてやる。
「あの、馬車の荷物はどうすれば……」
「あー……」
言われて気づいたが、岩場の向こうに馬車を停めっぱなしだった。さすがの海神様でも馬車まるごと乗せるのは無理だろう、てか馬が大人しくしててくれないはずだ。でも荷物は大事だよな
「ちょっと待ってろ」
「へ?」
俺は頭から飛び降り、馬車へと向かう。
馬は無理でも荷物だけならば俺の魔法袋で運べるため、それだけでも回収しようと思ったのだ。
「なールリ! 馬は連れてけねぇけど大丈夫か!?」
残念ながら魔法袋には生きているものは入れることができない。
生きているといっても、例えば石化の魔法をかけられた生物は入れることができる。基準がイマイチよくわからないが、簡単に言えば動くものがダメなようだ。
「だ、大丈夫です!!」
「そうかー!!」
さっきから大声で会話してるため、段々周囲が気になってくる。まだ人の気配はないが、人の通りがない場所ではないはずなので、時期に人が来るだろう。
「めんどくせ、まとめて突っ込も」
俺は荷台と馬を離し、荷台に袋の開け口を近づける。魔法袋は巾着ほどの大きさだが、開け口を対象に触れさせることで、それを丸ごと飲み込んでくれる。一瞬にして巨大化した袋がまるで捕食するように荷台を飲み込み、再び巾着ほどの大きさに戻る。
馬は放置だ。この世界の馬は雑食らしいから自然に送り出せば生きていけると聞いたことがあるし、持ち主であるルリが大丈夫といったなら大丈夫だろう。
「よし」
魔法袋を回収し、急いでまたリヴァイアさんの頭に乗り込む。
「ほい、いいぞリヴァイアさん」
「そう呼ぶのやめてってば!! ……じゃあ行くわよ?」
「おう、ルリはちょっと俺にしがみついとけ」
「は、はい」
ルリが俺の腰に手を回し、しがみついてくる。まだ幼いが、女性らしい体の柔らかさを感じて一瞬ドキッとしてしまった。ロリコンではないためすぐに落ち着いたがな、やっぱもう少し歳をとって発育が進んでいる女性が俺の好みだ。
「なんか猛烈に失礼なことを考えられている気が……」
「気のせいだ」
どうやら俺は色々とわかりやすいらしい。気をつけなければ
「目的地は魔族大陸でいいのよね?」
「ああ、どれくらいかかる?」
「4時間以内―――――ってとこね」
ちなみに船だと半日かかるため、それを考えると大分早い。
「おし、頼むぜ」
「しっかりつかまってなさいよ?」
龍の頭が岩場から離れていく。その頭を魔族大陸のある方向へと向けると、最初ゆっくり進み始め、数秒もしないうちに一気に加速。先程までいた岩場があっという間に遠ざかる。
「はや……いです……」
「息苦しいか?」
ものすごい勢いで風を受けるため、ルリが息も絶え絶えに頷く。
さすがに倒れてしまうと思い、彼女を中心にして空気の幕を作ってやる。この幕なら風を通さないし、空気も確保できる。風魔法が得意な俺には造作もないことだ。
「あれ? 風が……」
「楽になったか?」
「あ、ありがとうございます」
向こうに着いた時にダウンしても大変だもんな。
風を遮断できたことで余裕が出来たのか、ルリが俺について質問を始めた。
「さっきから聞きたかったんですけど……セツさんはどうして海神さんと知り合いなんですか?」
「ん? 前ちょっとな」
「ちょっとな、じゃないわよ!! いきなり拳骨してきたのはどこのどいつ!?」
「海で暴れまくって邪魔してきたのはどこのどいつだよ!!」
海神に拳骨って―――――と言いながら唖然とした顔を向けてくるルリに分かりやすく説明すると、当時大金払って買った船で人間大陸から魔族大陸へ行くときに、なぜか海が大荒れして、転覆の危機に追い詰められたことがある。その時に海から姿を現したのが、この海神
「あの時は地上の戦争のせいでイライラしてたのよ……」
この世界での戦争は、基本的に海を制した者が勝つ。大陸を移動するにはどうしたって海を使わなければならないからだ。上陸に成功すれば、あとは魔術師が〈ゲート〉と呼ばれている大規模魔法を使い、自分の大陸に開かせている〈ゲート〉とそれを繋げる。するとその〈ゲート〉どうしで移動が可能になるのだ。一度ゲートが開かれれば、それは相当の時間をかけないと破壊できないため、攻められている大陸側からすれば如何に相手に上陸させず、ゲートを開かせないかにかかっているとも言える。
つまり戦争の序盤は、海上が戦場になるのだ。
海を総べる海神にとっては迷惑極まりなかったのだろう。
「あん時俺は戦争の仕方なんて知らなかったからな……ただ邪魔されたとしか思わなかった俺が、拳骨でこいつを大人しくさせちまったってわけだ」
「いや……拳骨って」
「どういう原理かわからないけど、こいつの拳骨って何にでも聞くのよ……」
魔王にも獣王にも通じたからな。
ガード無視のダメージ一定技ってとこか
まあ大人しくさせたはいいんだが、そしたらこいつが『戦争を止めたら通してあげるわ!』なんて言い始めたんで困ったものだった。元々そうするつもりだったから、それを伝えたらすんなり通してくれたがな。この海神少女はちょろいのである。
「ま、なんやかんやあって通してもらった俺は、こいつに色々な餌付けを施し、こうして従えてるってわけだ」
俺が戦争を止めたって話はルリには省略して話す。ややこしいし、多分信じてもらえない。人間国は俺の存在を抹消してやがるからな……戦争が終わった理由も随分と改変されているせいで、急に真実を話してもルリだって受け入れにくいだろう。
「って、海神である私が誰に従ってるって言うのよ!?」
おっと、遅れて海神がツッコミを入れてきやがった。
あんだけ白身魚のフライ作ってやったのに薄情なやつだ
「白身魚程度で私を従えられると思ったら大間違いよ!!
……でもまあ? こうやって呼んでくれたら頭に乗せてあげたり、助けが欲しい時は手伝う程度ならしてあげてもいいと約束したけど? 」
……たまたま釣れた魚でフライを作った時の余りをやっただけなのだが、こいつはそれをすごく気に入り、あっという間に心を許してきたのだ。そんで試しに頼みごとをしたら聞いてくれよと言うと、フライをくれたら聞いてやると一切の迷いなく返してきた。それを聞いた俺はほくそ笑みながらフライを食わせまくり、多大な貸しを作っておいた。
「く……あの時誘惑に負けてあんなに食べなければ、こんな風に言うこと聞かなくてもよかったのに……」
「なんだよ、別に聞かなくてもよかったんだぜ?」
「か、海神である私が貸しを作ったままなんてありえないわ!!」
「そうか、そんなに俺との約束を大事にしてくれたのかぁ!」
「は!? べ、別に大事にしてたわけじゃないんだからね!!」
ひどく動揺した声を出しながら、龍の頭がグラグラ揺れる。
なんだこいつ、ツンデレ属性まで持ってるのか?
「何よ……ずっと呼ばなかったくせに急に呼びつけて、しかも女の子まで連れてるなんて……また戦争が起きてもジッと待ってた私がバカみたいじゃない……」
……急にしおらしくなられるとすんげぇ申し訳ないことしてる気持ちになるな……いや実際五年も放置しちまってんから申し訳ない気持ちはあるけれど
「それはすまなかったと思ってる。お詫びにしてほしいことがあったら言ってみろよ。出来る範囲でな」
「え!? ほんと!?」
今度は嬉しそうな声をだしながら頭が揺れる。
さっきからルリの頭がガックンガックンしてるからそろそろ抑えてくれ
「ちゃんと考えとけよ? いきなりじゃ思いつかねぇだろうからな」
「もう考え始めてるわ!! ほんとなんでもいいのよね!?」
「ああ……出来る範囲でな」
どうしようと悩んでる龍の頭を見るのは中々に面白いものがあった。だがそこまで喜ぶことか? 海神様(笑)になってんぞ?
「すごいですねセツさん……ほんと何者なんですか?」
「別にただのしがない冒険者だぜ、ちょっと知り合いは多いがな」
その知り合いがヤバい奴らなのだが、それを知った時のルリの反応が楽しみなため黙っておく。
そういえば俺は魔王城に行く予定だが、ルリは何処へ向かうのだろう? まずは彼女の目的地へと向かう予定なため、先に聞いておかないと
「ルリは魔族大陸についたらまず何処へ向かうんだ?」
そう聞くと、ルリは思いがけない答えを返してくる。
「えっと……イビルバロウですね」
「イビルバロウって……」
イビルバロウとは言ってしまえば魔王城のことである。正確にはその周辺の城下街も含んでいるのだが、基本的には魔王城を呼ぶときの名前だ。
「お前……魔王城に用があるのか?」
「はい! このブローチの依頼主さんがそこに住んでるらしいんです」
そう言って彼女がポケットから出してきたのは、黒い宝石で装飾された美しいブローチ
……俺はなんとなくそれに見覚えがあった
「……ちょっとそれ見せてくれないか?」
「大事に扱ってくださいね?」
「ああ」
それを受け取り、裏面を見てみる。
俺の知っているものなら、ここにあることが書いてあるはずだ。
(まじかよ……)
結論から言えば、これは俺の知っているブローチで間違いない。持ち主のことももちろん知っている。
驚いたのは、ルリがその持ち主を知らないでいることだ。
「……お前、これ誰のブローチか知らないで届けんの?」
「へ? ああ……おじいちゃんが住所しか教えてくれなかったので詳しくは……」
おじいちゃん……ちゃんと教えてやれよ……
ブローチの裏に書いてあったもの、それは名前であった
〈デザストル・セレーノ〉
それは魔王城イビルバロウの玉座に座り、あらゆる魔族を引き連れ従える女の名前
「お前これ……魔王デザストルのもんだぞ?」
「へ…………魔王?」
――――――その後、本日三回目のルリの叫びが海に響いた。
セツたちが海を移動している頃、彼らの目的地である魔王城では、魔王であるデザストルと、上品な身なりをした長身の人間族の男が王の間で向かい合っていた。
玉座に座る魔王は、あらゆる男を惹きつけるであろう美貌を持っていた。決して肉肉しいわけではなく、ほどよい肉付きをしている足、クッキリとしたくびれ、そして身にまとった赤いドレスの胸元をはち切れんばかりに押し上げる自己主張の激しい胸……顔は恐ろしく整っており、綺麗に流れる赤い髪を腰まで伸ばしている。魔族の特徴である青白い肌が相まってミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
「―――――魔王デザストル様、返事は決まりましたでしょうか?」
男は整った顔をいやらしく歪めて魔王である彼女に聞く。
「……本当に、お主の要求を聞き入れれば……〈テラン商会〉の力で妾の願いを叶えてくれるのか?」
「約束しましょう……私こと〈テラン・スニーター〉率いる商会の力があれば、あなたの願いを叶えて差し上げます」
男の笑みはとんでもなく怪しいもので、デザストルは考えを改めようと思いかけるが、自分の願いを叶えるためだと踏みとどまる。
「―――――わかった、お主の要求を聞き入れよう」
「ありがとうございます、デザストル様――――――いや、我が妻となるのだから、デザスと呼ぶべきかな?」
テランは彼女のまで行き、横に立ってその肩に手を回す。
「私の妻になるという要求を聞いていただけましたからね、私もしっかりとあなたの願いを叶えてさしあげましょう」
デザストルはその男のいやらしい笑みに歯を食いしばって耐える。
「そうですねぇ……あなたの願いを叶えるのは結婚式の後で構いませんよね?」
「ああ……それでいい」
「ありがとうございます……では、式の準備がありますのでそろそろお暇しましょう。
――――――四日後の朝に迎えに来ますので」
「わかった……」
テランは名残惜しそうにデザストルの肩を数回撫で回したあと、王の間から出て行く。
それと入れ違いに、漆黒のローブを着た細身の男が入ってきた。
ローブの男は入れ違いざまにテランを睨みつけ、睨まれたテランはやれやれといった具合に肩を竦め、退室した。
「魔王様……」
「ブラッドか」
ブラッドと呼ばれたローブの男は、長い黒髪を後ろで縛っており、目つきが鋭い。血の色をした一本角がその頭から生えていた。
「どうしてあんな男の要求を受け入れたのですか……ッ!あなたにはあの男がいるではありませんか――――――」
「その男のためだ」
彼女は悔しげな表情でそう言った。
さきほどは我慢していたのだろうが、テランが触った肩を必要に払っている。内心破り捨てたいのかもしれない。
だがそれだけはできなかった。このドレスは、デザストルの愛する者が似合ってると言ってくれたのだから――――――
(まさかこのドレスが嫌いになってしまうとはな……)
払っても払っても嫌悪感が取れないせいで、デザストルの顔に諦めが混ざった。
「俺は認めません……ッ! 絶対に!!」
「ブラッド……」
ブラッドはひどく腹を立てた様子で部屋の出入り口へ向かう。
王の間の無骨な扉に手をかけた彼は、最後に振り返って言った。
「俺だって……彼にもう一度会えるならば会いたい……けれどその為にあなたに身を捧げて欲しくないんです……」
彼の顔は悲痛な表情で歪んでいた。
デザストルの気持ちが分かってしまうのも辛かったし、そしてどうにもできない自分が悔しいのだ
彼女はそんなブラッドに何も言えなかった。
彼が失礼しましたと部屋を出て行くまで、顔を上げることができないでいた。
(仕方がないんだ……あいつに……セツに再び会うにはこうするしかないんだ……)
デザストルは思い出す、領土などの為に戦争をしていた自分の目を覚ましてくれた男との出会いと、
そして人間の国に脅威とみなされ元の世界に送り返された彼との別れを
ずっとこの世界にいるものだと思っていた。それが何も言わず消えてしまった。
泣くなどという話ではなかった。だからこうして報復の戦争に乗り出した。
(あいつを最後に一目でも見たい……そのためなら)
セツという男は死んだのではなく、人間国に転移させられたと教えてくれたのはさきほどのテランだった。それを伝えてきた彼は、こう提案してきたのだ
――――――自分の妻になっていただけるのであれば、みなさんの勇者であるセツと呼ばれている男を、再び召喚してみせましょう――――――と
魔王デザストルは、そんな信用ならない男の話を信じてしまったのだ。
藁にも縋る思い――――――それほどまでに、彼女はセツを求めてしまっている。
例え自分が他の男のものとなってしまったとしても、もう見ることができないはずだった彼に会えるならば……と
――――――彼女は当然知らない、自分が再会を望んでやまない男が、もうこの世界に戻ってきていることを
そして、この魔族大陸に向かっていることを
セツがこのことを知ったとき、それはテランという汚い笑みを浮かべる男の夢のような時間が、脆くも崩れ去る時である。
白身魚のフライおいしいですからね、仕方ないですね
女を取り返す話も王道ですからね、仕方ないですね
次回はテラン商会についての話と上陸するところから始まります。
早く魔王との関係もちゃんと書かねば……




