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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第五章 七聖剣編
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107 10秒

「結界が……」


「消えたようだね。みんなよくやってくれた」


 グレインは鋭い眼光で、クレアシルがいるであろう神殿を睨みつける。


「ティア、ある程度回復したようだけど……」


「大丈夫、私も行く」


 ティアの魔力もだいぶ回復したようで、顔色も元通りになっていた。

 

「他の人は待たない?」


「それも考えたけど、ここでクレアシルに逃げられてしまったら面倒なことになる。多分逃げないだろうけど……僕たちでクレアシルを消耗させよう。そこからは――――耐久戦だ」


「了解」


 二人は神殿の中へ足を踏み入れる。

 最後の戦いが、始まろうとしていた。



◆◆◆

「ほれ、そろそろ行くぞ。クレアシルの気配がかなり濃い。今いる位置から動かれたら面倒じゃ」


「――――ああ」


 身体に巻き付いていた鎖を引きちぎり、男が一人、祠の中から姿を現す。

 黒い装束をまとっている男は、無表情で空を仰ぐ。


「久々だな、外は」


「3ヶ月――――までは行ってないか、長い期間そこに居たからのう。身体は鈍っていないか?」


「散々訓練させといて、鈍ってるわけないだろうが。行くぞ、無駄口はもう十分だ」


「連れない男じゃ。まあ同意じゃが」


 黒い少女が笑う。

 二人は並んで歩き出した。

 その先に……。


「ギヒャヒャ! 何か妙な気配がすると思ったら、強そうなやつがいるじゃねぇの! 当たりだぜ!」


「……誰だお前」


 そこにいたのは、細身の男。

 奇抜な格好であり、気配が明らかに人間ではない。


「俺は強欲剣マモン! てめぇの命がほしい!」


「おーおー、おあつらえ向きなのが来たじゃないか。セツ、ちょいと実力を試してみたらどうじゃ?」


「試す――――ね」


 セツはマモンと向き合う。

 

「欲望解放! お前のすべてをぉぉぉ!」


「やかましい」


「ガッ!?」


 叫んでいるマモンに一瞬で近づいたセツは、彼の頭を鷲掴む。

 驚異的な握力が、マモンを襲った。

 自分の頭蓋骨に指が食い込んでくる感覚がする。

 マモンは声にならない叫びを上げた。


「ぎぃ……あ……」


「この程度の相手で試すなんて、無理だろ」


 セツの手が、一瞬輝く。

 

「〈消失(バニッシュ)〉――――」


 光が収まると、そこには上半身が消し飛んだマモンの姿があった。

 残ったマモンの足は、その場で哀れに倒れる。

 

「全部消せなかったな……どうも神技は苦手だ」


「お前は人だったからな、馴染まないのは仕方ないだろう。クレアシルとの戦いでは過信するなよ」


「分かってるっつーの」


 セツはマモンの足を蹴り飛ばし、開けた場所を作り出す。

 デストロイアはその後ろに並んだ。


「〈転移門〉――――開門」


 二人の目の前に、巨大な門が出現する。

 ドラゴンが丸ごと通れるほどの大きさをほこり、それは地響きするような音を出しながら開いていく。

 中からは光が溢れていた。

 

「――――待ってろクレアシル。お前は俺が殺す」


 二人は門の中に消えていく。

 やがて門は閉じ、下から消失していった。

 

 ここに残ったものは、何もない。



◆◆◆

(何だ……この威圧感は……!)


 グレインとティアは、神殿の階段を登っていた。

 一段登るたびに、足に重りをつけられているような感覚が、二人に襲いかかる。

 

 そして、ついに最後の段に足をかけた。


「人間が、我と同じ高さに立つか」


「「ッ!?」」


 閃光、衝撃。

 何が何だか分からないままに、二人は地面を転がっていた。


「ティア! 助かった!」


「危なかった。とりあえず逃げる」


「分かってる!」


 二人の身体を、透明な薄い膜が覆っていた。

 それは、ティアの発動させた魔衝壁である。

 衝撃を限りなく0にするもので、これによって二人の命は守られた。


 この、神殿の崩壊から。


 瓦礫が雨のように降ってくる中、二人は走り抜けて何とか雨の中から逃れる。

 振り返ると、はじけ飛んだ神殿の上に、人影が見えた。


「クレアシル……ッ!」


「その位置だ。人間と神の立場はこの距離でなければならない」


 宙に浮きつつ、クレアシルは二人を見下す。

 その眼には、何の感情もなく、ただただ無機物を見ているようだ。


「なぜ、我の創りだした聖剣どもが消え、貴様らが我の前にいる?」


「お前の作り上げた聖剣たちが不良品だったんじゃないかな?」


「ふむ……なるほど」


 グレインは、クレアシルとの会話に何とも咬み合わない違和感を覚える。

 それが、否が応でも格の違いに繋がり、グレインは自分が冷や汗を流していることに気づいた。

 二人は初めてクレアシルに出会ってから、鍛錬を重ねたため実力はかなり上がっている。

 だからこそ、分かることがあった。

 

 クレアシルが、すでに完全体の存在になっていることだ。


 彼女からは、相変わらず何の力も感じない。

 しかし、魔力や殺気は感じないはずなのだが、絶望的なまでの威圧感を感じる。


「つまり、もう少しレベルの高い聖剣を創り出せばいいわけだ」


「何っ!?」


 クレアシルが手を下に向けると、手から地面にぽとりぽとりと雫が落ちる。

 地面に雫が落ちると、土の上に波紋が広がった。

 そして、その波紋の中から、2つに人影が現れる。


「七聖剣よりも強い聖剣だ。貴様らがどう足掻くか見ものだな」


「……興味もないくせに」


「ほう、分かっているじゃないか。屑が何をしようが、我は意に介さん。だから――――これは死にゆく屑への、ささやかなの冗談だ」


 無表情の男女、新たに創られた聖剣二人は、グレインとティアに向かって駆け出す。

 そして――――。


「「邪魔!」」


 グレインは一太刀で男の聖剣の首を切り飛ばし、ティアの魔法が女の聖剣の頭を貫いた。

 一瞬にして二体の聖剣を片付けた二人は、クレアシルを睨みつける。

 

「あまり人間を舐めないほうがいいぞ、神様」


「この程度なら、何体来ても負ける気がしない」


「ほう……」


 自分の生み出した聖剣を瞬殺したことで、クレアシルは二人に少しばかりの関心を抱いたようだ。

 ゆっくりと、下へ降りてくる。

 まだ地面に足はつけていない。


「我の脅威とはまだ成り得ないが……面白い、少し遊んでやろう」


「ようやく戦う気に――――」


「ほれ、これで終わりだ」


 直後、グレインの隣から血飛沫が上がる。

 驚く間もなく、グレインは自分の胸部に違和感を覚えた。

 

「な……なんだこれは……」


 グレインは口から流れ出る血に気づく。 

 恐る恐る自分の身体を見下ろすと、胸からこぼれ出す大量の血液が目に入った。

 そして、胸の中から、こぶし大の石が一つ顔を出す。


「貴様らのために10秒も時間をくれてやった、感謝するがよい」


 血だまりの中に倒れ伏す二人を見下しながら、クレアシルはつまらなそうにそう言った。

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この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
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