表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第五章 七聖剣編
102/127

101 想い人

「んー、まいったな」


 冬真は木の陰に隠れながら、広場の中心に佇む女を睨みつけた。


「隠れても無駄よ!」


「うわっ!」


 色欲剣アスモデウスは、冬真の隠れている場所へ手を伸ばした。

 すると、冬真が背にしていた木の下の土が盛り上がり、根が地面に露出する。

 根がブチブチと音をたてて切れ、木が浮かび上がった。

 そしてそのままアスモデウスの方へと、高速で飛んでいく。

 木の後ろに隠れていた冬真も、当然浮かび上がり、アスモデウス目がけて飛び始めた。


「こなくそ!」


 冬真は聖剣を地面に突き立て、何とか止まる。

 ただ体は浮いており、冬真の履いていた靴が両方とも脱げて、アスモデウスの方へ飛んでいく。

 いや、正確に言うならば、「吸い込まれた」。

 アスモデウスの身体に当たった靴が、その場で消滅する。

 先ほど冬真が隠れていた木も、とっくに消滅させられいた。


「私の無差別なる誘惑(ラスト・ホール)は法則無視の能力よ。あなたたがいくら抵抗しようと、この引力からは逃れられない!」


「うわぁぁ!」


 ついに、剣が地面から抜け、冬真の身体はアスモデウスのもとへ一直線に引き寄せられた。

 

「これで終わりよ!」


 アスモデウスは、眼前まで迫ってきた冬真を、手持ちの剣で切り裂いた。

 確かな手応えが伝わり、アスモデウスは勝利を確信する。

 しかし――――。


「いやー、ほんとに面白い能力だね」


「っ!?」


 アスモデウスは振り返る。

 そこには、冬真が立っていた。

 その隣には、先ほど切られた冬真が横たわっている。

 

「二人」、いるのだ。


「結構簡単な手にも引っかかるんだね、やっぱり魔力が感知出来ないって言う仮説は正しかったんだ」


 冬真がそう言った直後、倒れている方の冬真が光の粒子になって消える。

 

「ぶ、分身……」


「せいかーい。本物の僕はもっと遠くにいたんだよ。君の能力を探るためにね」


 聖剣を手で弄びながら、冬真は話し出す。


「まず、君の能力は一カ所、それも近場しか引き寄せられない。多分手を向けた場所だけなんだろうね。全方向のものも引き寄せられるにしても、吸引力が低下する系の能力と見た」


「……」


 アスモデウスは何も返さない。

 ただ表情は強ばっており、冬真の発現の信憑性を高める。


「あと、生きてるものは引き寄せることしか出来ない。木や靴、意識のないものが君に触れれば、おそらく粒子レベルに分解されるんだろう。もし人間も消滅させられるなら、僕の分身をわざわざ斬る必要はないしね」

 

 そこで冬真は言葉を区切り、あざ笑うような表情をアスモデウスに向けた。


「つまり、君の能力は大したことない(・・・・・・・)ってことさ」


「言わせておけば!」


 アスモデウスが、冬真に手を向ける。 

 しかし、その瞬間にはもう冬真は視界から消えていた。


「っ!?」


「こうして高速で動けば、簡単には捕まらないよね」


 後ろから声がした。

 アスモデウスはとっさに前へ跳んだ。

 しかし、背中を浅く切りつけられ、血が宙を舞う。

 

「ここでやられとけばすぐ済んだのにー」


「ほざいてなさい!」


 アスモデウスはすぐに冬真に手を向ける。

 今度は、確かに冬真を捕らえた感触がした。

 

「捕まえたわ!」


「――無駄だって」


 冬真は、その引力に身体を任せた。

 凄まじい速さで引き寄せられるが、冬真は動じない。

 そればかりか、聖剣を前に突き出し、鋭い眼光をアスモデウスに向けた。


「君たち聖剣を生きているものとするなら、僕のこいつだって生きてるってことだよね! ならこのまま君を刺せる!」


「……っ!」


 止めるのはもう遅い。

 冬真はそのままアスモデウスに吸い込まれ、聖剣は勢いよく彼女を貫いた。

 

「……一撃くらいもらってあげるわよ」


「は?」


 冬真は、何が何だか分からないという表情で、アスモデウスを見る。

 確かに聖剣はアスモデウスを貫いていた。

 ダメージもあるだろう。

 しかし、彼女の両手は、冬真の肩に添えられていた。


「私のこの能力は、真の能力が発動する射程まで対象を引きずり込むためのもの。そして、ここがその能力の射程範囲内よ」


「っ! 離せ!」


 冬真がもがくが、時すでに遅し。

 アスモデウスの手は動かず、冬真は距離を取ることが出来ない。

 

「あなたには、私を愛してもらうわ」


「ぐ……ああぁぁぁぁああぁあぁ!」


 全身に電流が走る感覚を、冬真は味わっていた。

 自分の中身が作り替えられていくような、酷い喪失感。

 そして、目の前の女性へと向けられた「愛情」が、創造されていく感触。

 アスモデウスの何もかもが魅力的に映り、すべてを自分のものにしたいと思うほどの、飢えを感じ始める。

 

「これでもう、あなたは私に逆らえない。なぜなら、あなたの愛情を捧げるべき対象は、私一人だけ。私を裏切る行為は、二度と出来ないのよ」


「あ……ああ……」


 冬真は、アスモデウスを見て涙を流す。 

 そして、頭を地面に押しつけ、謝り始めた。


「ごめんなさい! 今までの僕がどうかしてました! 数々の無礼、心から謝罪します!」


「ふふっ、いい姿ね!」


 アスモデウスは、冬真の頭を踏みつける。

 足を動かし、冬真の頭は徐々に地面に埋まっていった。

 冬真はそれでも、謝罪し続ける。

 

 ――――あなたに嫌われては耐えられないと。

 

 ――――あなた無しでは生きられないと。

  

「ど、どうすれば……許してもらえますか……?」


「そうね……」


 今度は、アスモデウスがあざ笑う番であった。

 嘲笑を浮かべながら、アスモデウスは無慈悲にも言い放つ。


「じゃあ――――自分の聖剣で腹を斬って自害しなさい」


 冬真の身体がビクンと震える。

 怯えた眼でアスモデウスを見上げると、冬真は身体を起こす。

 そして、落としていた聖剣を拾い、腕を長く突き出して先端を腹の前につけた。


「いい子ね。そうだ、最後にご褒美をあげるわ」


 アスモデウスは冬真の顎に手を当てて、上を向かせる。

 顔と顔を近づけると、冬真の顔が赤く染まった。


「死に逝くあなたに、最良の餞別を」


「あ……」


 アスモデウスの唇が、冬真の唇に近づいていく。

 ゆっくりとしたその動きの中で、冬真の頭の中は幸せに支配されていた。

 

 そして、唇が触れ合う――――。


「やっぱキスは無理」


「え」


 ことはなかった。


 唇が触れ合う直前、瞬時にため込んでいた魔力を解放し、冬真は渾身の力でアスモデウスを斜めに切り上げた。

 大量の血液をまき散らしながら、アスモデウスの二つに割れた身体が地面に落ちる。


「な、何で……」


「君のことは好きになったけど、やっぱり女は無理なんだよね、生理的に」


 冬真は立ち上がり、聖剣をアスモデウスの脳天に突きつける。


「僕には心に決めた男性(ヒト)がいる。元から君は、眼中にないってやつだね」


「私への愛……は?」


「お猪口一杯くらいかな」


 聖剣が、アスモデウスの脳天を貫く。

 その瞬間、辺りに破砕音が響き、アスモデウスの身体が崩れ始めた。


「へぇ、聖剣って面白い死に方するんだね」


「……私を殺したくらいじゃ、到底クレアシル様には届かないわよ」


 崩れていくアスモデウスは、最期の抵抗とばかりに、冬真をあざ笑う。


「七聖剣の中でも、怠惰剣ベルフェゴールは……格が違うわ。せいぜい足掻きなさい……絶望の中でね」


「……」


 最期に笑みを浮かべたまま、アスモデウスの身体は完全に消滅する。

 その場には、一振りの剣。

 先ほどまでアスモデウスが持っていたものだ。

 冬真は、その剣を踏み砕く。

 破砕音とともに、剣は砕け、灰になる。

 風に飛ばされていくその灰を眺めながら、冬真は自分の頭を掻いた。


「心配する方が馬鹿らしいんだよ。セツの仲間をさ」



◆◆◆

「――――おら、立てよ雑魚。いい加減いじめんのも飽きてんだ」


「はぁ……はぁ……な、なんで!」


 怠惰剣ベルフェゴールの頭を、ロアは蹴り飛ばす。

 地面を数回跳ねて止まったベルフェゴールは、息も絶え絶えに怯えた表情でロアを探した。

 すでに、目の前にいたのだが――――。


「ふん、つまんねぇやつ」


「がっ」


 ロアは、ベルフェゴールの頭を掴んで持ち上げる。

 ぎりぎりと締め付けられる頭部の痛みに、ベルフェゴールは苦悶の声をあげた。


「そろそろ寝る時間だぜ!」


 そのままベルフェゴールを地面にたたきつけると、轟音とともに地面が大きく陥没した。

 ベルフェゴールは痙攣することしかできない。


「獣王の娘を甘く見るなよな」


 巨大クレーターの中心。

 そこに唯一立っている少女は、汗一つかいていない顔でそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ