100 半獣化
サタンと夕陽の戦い。
それはまさに、一方的という言葉が相応しかった。
「まさか……この俺が!」
「うるさい」
「がぁぁぁぁ!」
サタンの身体に、黒い炎が直撃する。
すでに全身焼け焦げていたサタンの身体は、危険信号を発し始めた。
「しぶといよ、もう死んで?」
「ふざけるなぁ!」
黒炎を振り払い、サタンは手に持つ赤い剣を一振り。
放たれた赤い斬撃が、夕陽に向かう。
「その程度?」
夕陽は、その斬撃を黒炎を纏った拳で打ち払った。
空中で霧散した斬撃が、その場で粒子となって消える。
「な……に……?」
「次はこっちの番だね」
手を広げた夕陽を見て、サタンの本能が刺激される。
避けなければ、まずい――――と。
「〈夕闇の庭〉」
それは、一瞬のことであった。
サタンを中心にした地面が、一瞬にして炎上する。
辺りを支配する強烈な熱気。
それに反して、底冷えするような黒い色が、恐怖を抱かせる。
「ぐおっ」
サタンは、とっさに飛び上がった。
焼け野原になる前に、回避できた……はずだったが。
「っ!」
飛び上がる際に蹴った右足の、膝から下がない。
断面で、黒い炎がちろちろと燃えている。
サタンは慌ててその残り火を払った。
「ふざけんじゃね――――」
「喋るな、もう」
「ごっ」
夕陽は、サタンの意識が足に向いた瞬間に距離を詰めていた。
無防備な状態のサタンの胴体に、夕陽の黒炎を纏った跳び蹴りが突き刺さる。
酸素をすべて吐き出し、サタンは猛烈な推進力を受けて吹き飛んだ。
地面で数回跳ね、やがて止まる。
「死んでよ、邪魔なんだよ」
「ぐ……ははは……」
サタンは、震えながら立ち上がる。
その顔は笑っていた。
ただし、青筋はしっかりと立てて。
「あー、もう完全にあったま来たわ……お前絶対殺す」
サタンの身体から、赤黒いオーラが立ちこめる。
そのオーラは失った片足の元に集まると、新たな足を形成した。
さらに全身に回ると、その身体を癒し始める。
「俺の憤怒の能力は、『理不尽なる怒気』。俺の感じた怒りを、そのまま力に変換する能力だ」
「……」
夕陽は追撃をしなかった。
否――――出来なかった。
サタンを取り巻く力が、先ほどとは天と地ほどの差がある。
今飛び込んでいれば、夕陽は一撃で沈められていたかもしれない。
「さあ、死ねよ」
赤黒いオーラが集まった剣を、サタンは振りかぶった。
◆◆◆
「腹減ったぁぁぁ!」
「ミネコ、避けるです」
「はい!」
触手のように動き回る腕を、二人は軽やかにかわす。
しかし、ベルゼブブは二人の動きにしっかりついてきた。
「くっ、この!」
「触るのは危険です」
「え? うわっ!」
ミネコは、腕を蹴り飛ばそうとした足をとっさに引っ込めた。
ベルゼブブの腕、ミネコが蹴ろうとした部分にも、口が出現している。
無論、手のひらの口は消えていない。
「避けるです!」
「はい!」
足を引っ込めてしまったせいで、腕はそのままミネコに襲いかかる。
それでも、捕まるような柔な少女ではない。
素早く距離を取り、十分に離れたあと、再び構えなおした。
「うー、もうちょっと」
「ふー……」
腕が戻っていく。
どうやらベルゼブブ自身も、これ以上の追撃は無駄だと判断したらしい。
ただ、腕がベルゼブブに戻ってしまっているため、シロネコたちも攻めることが難しくなってしまった。
「ミネコ、温まってきたです?」
「……はい、そろそろ」
二人は少し身体をほぐすと、全身に意識を集中する。
すると、四肢は猫の物に変化し、頬に猫の髭が現れた。
両腕を地面につき、二人は四足歩行の形に移行する。
「〈半獣化〉――――」
地を蹴ったシロネコは、神速で移動する。
瞬く間に距離を詰めたシロネコは、眼で追い切れてないベルゼブブの背後に回り込み、爪を振り下ろした――――。




