99 傲慢
「ぐあっ!」
「ほら、どうした人間」
ルシファーが腕を一振りするたびに、光真の身体はボールのように左へ右へ転がる。
何気ない攻撃であるはずが、一撃で地面はめくりあがり、突風が巻き起こるのだ。
光真は勇者の再生能力を駆使して何とか立ち回っているが、一向に攻めることが出来る気配がない。
「威勢がないな、まあ、我を前にしている以上当然と言えるが」
「く、くそっ!」
「む?」
光真に、衝撃波が直撃する。
しかし、全身打撲を負いつつも、光真はとっさに飛剣を放った。
それは真っ直ぐルシファーへ向かっていく。
「ほう」
ルシファーは、それを眺めるだけでかわそうとしない。
なんとか体勢を整えて着地した光真は、驚愕の表情でそれを見る。
そのまま、飛剣はルシファーに直撃した――――。
――かに、思われた。
「いい反撃だが、我が受けるには値しないな」
「な、なに……?」
飛剣が、ルシファーの身体を通過した。
そのまま飛剣は遙か空まで飛んでいき、空中で霧散する。
確かに当たっていたはずの攻撃が当たらなかった。
光真の表情を歪めるには、十分な衝撃だ。
「いい表情だ、人間。どうだ? これが七聖剣、傲慢の能力である」
「くそっ!」
冷静さを欠いた光真は、ルシファーの言葉をろくに聞かず、もう一度飛剣を放った。
しかし、やはりルシファーは動かない。
「無駄であるぞ」
その飛剣も再びルシファーを通過し、後方に大きな傷跡をつけるだけで終わった。
「我の能力、不平なる審判は、我が認める攻撃以外を受け付けない力。人間、貴様の攻撃は我が受けることは、後生ないだろう」
「ふ、ふざけるな!」
激昂した光真は、連続して飛剣を放つ。
今までで最高威力の飛剣が、いくつもルシファーに向かう。
「無駄と言っている」
やはりそれらすべてはルシファーをすり抜け、後方の地面を傷つけるだけにとどまった。
「まだだ!」
光真は再び剣を振りかぶり、二回、剣を振る。
ルシファーはそれを見てため息をつく。
「バカの一つ覚えだな」
ルシファーは動かない。
このまま飛剣は彼を通過するはずだった。
しかし――――。
「!?」
「〈飛剣・光〉!」
その飛剣は、ルシファーの眼前で強烈な光りを発した。
「くっ」
ルシファーは思わず眼を覆う。
いくら攻撃が通過すると言っても、五感への影響まで回避することは出来ない。
「小癪な……」
徐々に視力が戻り、ルシファーは手を退ける。
しかし、眼も治り、隠してもいないのに、視界が開けない。
ルシファーの視界を隠しているのは、辺りにたちこめている土煙。
「なるほど、ニ撃目か」
光真は、飛剣・光を放った際に、もう一つ飛剣を放っていた。
しかし、ただの飛剣でこれほどの土煙はたたない。
そこで重要になるのが、光真が習得した新たな特技だ。
『属性付加』、飛剣に属性を付け、様々な効果を発揮させる技である。
初めにルシファーの視界を奪ったのは、光を付加し、飛剣が閃光を放つようにする「飛剣・光」。
そして砂埃をたて、現在進行形で視界を塞いでいるのは、「飛剣・風」。
光真は、これをルシファーの足下に撃ち、周囲に砂埃を巻き上げた。
自然発生した砂埃ではないため、ある程度までのコントロールを可能とし、ルシファーの周囲に漂わせておくことも容易。
しかし、いくら視界を奪っても、ルシファーには攻撃が通用しない。
そして、この程度の妨害では数秒しか稼ぐことが出来ない。
「人間はやはり小賢しい生物だ」
ルシファーが腕を振るう。
すると突風が巻き起こり、砂埃はあっという間に消し飛ばされた。
視界は開け、光真の姿も明らかになる。
「……何だ、その姿は」
「時間稼ぎにはなったな……このモードになるには、少し時間が必要だったんだ」
光真の姿が、変化していた。
白銀の鎧を纏い、片手に聖剣を持っている。
そして背中には、聖剣と同じ形をした剣が、円になって並んでいる。
さらにそのサークルと同じものが、周囲に二つ。
計三つの剣のサークルを携えた光真が、そこに立っていた。
「〈形態変化・聖刻の天輪〉」




