序 二度目の異世界
2020/12/19
新作でラブコメを書いてみました。応援していただけると嬉しいです。
大人気アイドルなクラスメイトに懐かれた、一生働きたくない俺
https://ncode.syosetu.com/n2496gr/
「よく来てくださいました!!勇者様方!!」
ああ、このセリフを聞いたのは二回目だ。
一回目もこの城の王室で、同じ王女から同じセリフを吐かれた。
だが一回目と違うのは、前回は俺の隣にいるのが見知らぬ男、今回は40名ほどのクラスメイトという点。
俺のクラスメイトたちは少なからず動揺し、中には怯える表情を浮かべる女子もいる。
そんな中俺は二回目とあって余裕があった。
それに、この展開は長らく俺が‘‘望んだものだったのだから’’余裕がないわけがない。
この世界の名前は〈エクレール〉。かつて人間と魔族と獣人の戦争が激化し、荒れ放題だった世界。
そして――――――一度俺が救った世界でもある。
この世界のことを詳しく話す前に、この俺、須崎 雪のことから話そうと思う。
時は召喚される数十分前
「――――――オラッ!焼きそばパンかってこいよネクラユキよぉ!!」
高校の昼休み――――――俺は突然背中を蹴られ教室の外に出される。
そうしたのは確か遠藤とかいうやつだ。最近面倒くさくて一々人の名前を覚えていられない。
「俺クリームパンなー!」
「カレーパン頼むぜぇ! ネクラユキ!」
ッチ面倒くせぇ…もうほとんど名前が思い出せない奴らからも頼まれちまった。遠藤取り巻き①、②でいいか。
ここで楯突いてもいいが、クラスの中心よりでいじめっ子気質のある奴らは「生意気」とか言って放課後呼び出してくるに違いない。俺にとってはそれが一番面倒くさくて嫌だ。
無言で財布を持ち、購買へと向かうことにした。
ちなみにネクラユキってのは俺のあだ名らしい。伸ばしっぱの髪は目を隠し、背も低いっぽい。見るからにオタクっぽくてネクラなんて呼ばれるのは本人の俺も納得だ。
んで、ユキの方は…
「ユキくん! 何してるの?」
購買から駆け足で寄ってくるのは茶髪で少し広がりがついたボブカットの女子、俺の家のお隣さんで幼馴染で、クラスメイトの花柱 夕陽。背は俺より少し低く、出るところは出てて引っ込んでるところは引っ込んでるスタイルのいい可愛い子だ。
「ん、夕陽か。購買へ行くとこだけど……相変わらずユキって呼ぶのはやめてくれないんだな」
「だってユキくんはユキくんだもん!」
気づいたかもしれないが、ネクラユキのユキの部分は、こいつが俺をセツではなくユキと呼ぶところから来ている。夕陽は最初にユキと読んだせいでセツと呼べなくなったらしいが、遠藤やその取り巻きからすると、クラスのアイドル的な存在がネクラ男とあだ名で呼び合う関係に見えるんだろうな…変な嫉妬から俺はいじめ的なものを受けている。
クラスの目も心なしか痛いものがある。男子は嫉妬、女子は気味悪さ…ってとこか?興味ないけどな。
そんな俺のあだ名の原因となっているとは知らない夕陽に、後ろから男女が声をかける
「ユウ、何してんだ行くぞ?」
「早く行こ! お腹ペコペコだよ~」
「ミツキは相変わらずだな」
会話に割り込んできた男女の声、こいつらはクラスでも目立つ存在だからか俺にも分かる。
最初のが所謂ツーブロックというヘアスタイルで、ワイルドな顔立ちのイケメン、近藤 次郎。名前は渋いが見た目は今時だ。
二番目がツインテールの夕陽よりも小さい女子、朝倉 美月。活発な性格で、運動神経がいいとかなんだとか……けど頭はそこまでよくないという愚痴を夕陽から聞かされたことがある。
最後のが長めの茶髪で優男のイメージを持たせるイケメン。春崎 光真
所謂完璧超人、モテまくりのリア充というやつだ。
こいつらは全員クラスメイトで、夕陽の仲間だ。いつも四人でクラスの中心にいる。ちなみにユウというのはこいつらの夕陽の呼び方な。
「あ、うん!じゃあねユキくん!」
手を振って教室へ戻るであろう夕陽を見送る。
そんな俺と彼女の間に、夕陽を守るように三人が入り込んだ。心なしか三人とも俺を睨んだ気がする。
随分嫌われたなと思いつつ俺は購買へ向かう。
――――――ねえなんであんなネクラっぽい人とユウは一緒にいるの?
――――――えー?ユキくんはネクラじゃないよ?
最後にそんな会話が聞こえてきた。
自腹で頼まれていたパンもすべて購入。これもあとで一々時間を取られないためだ。
ついでに飲み物を買おうと、外にある自販機に向かう。
お気に入りの甘いコーヒー?カフェオレ?を購入して教室に戻る。
ふと、校庭の方へ視線を向けると、そこでは上級生がサッカーをしていた。サッカー部が混ざっているみたいで、めちゃくちゃ上手い奴がディフェンスを抜き、シュート体制に入っていた。
気合の掛け声とともに蹴り出されたボールは、真っ直ぐゴールネットへ向か……わず、その上を通り、綺麗な弧を描いて俺へと飛んできた。
対して俺はパンと飲み物で両手が塞がり、手で止められない。
「はぁ……ついてね」
だが目の前まで迫り来るボールは、悪態をつく俺の正面で突然勢いを失い、地面で跳ねる。
さて、さっさとパン届けないとな
昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
不幸中の幸いで遠藤たちの機嫌を損ねることはなかった。だから俺は安心していつものように授業中にスマホの電源をつける。教科書で先生からの目線を遮断し、俺はインターネットでネット小説のサイトを開いた。
目当ての物は――――――異世界転移、召喚系の小説。
……俺は十数年前、異世界に召喚され、世界を救ったことがある。信じてもらえるわけがないから誰にも話してないけどな。
十数年前…世界を救った俺は、なぜか召喚した人間国にその世界から追い出された。
おそらく殺したかったんだと思うが、勇者として成長し、不死の領域まで到達していた俺は、一筋縄では死なず、泣く泣く送還魔法だなんだかで弾き出されたんだと思う。
……なぜか現代に戻ると別の人間に転生したのはさすがに驚いたが……
今思えば、王様は俺のことが邪魔になったんだろう。王様の地位をとられるとでも考えたのかもしれない…
まあ突然のことだったため向こうに残してきたものが多すぎる。
だから幼い頃から帰る方法を必死こいて探した。書物を読みあさってネットを泳ぎまくった。
勇者時代の力が全部受け継がれていたことが幸いし、ほとんど休みを挟まず暇があれば書物を読みあさっている。相変わらず力が残っていた原因も謎だ。ネット小説曰く、そういうのをご都合主義というらしい。便利な言葉だ。
それでも帰り方は見つかっていない。こっちの世界での人生、学校生活を棒に振っているっていうのに、何一つ手がかりはない。
でも諦めきれるわけがない。だからこうしてネットに潜る。ネット小説が今のところ一番の頼みの綱だ。このまま学校でも検索を続け、放課後も家のPCで検索し続ける。放課後を邪魔されたくないのもこのためだ。
先生の授業をほどほどに聞き流し、文字列を追う。
違和感を感じたのはこの辺り
(……魔力の流れ?)
久しく感じていなかった魔力の流れを、なぜか突然感知する。
魔力というのは異世界でなければ目覚めず、現代で使う存在に出会ったことは一度もない。だがそんな魔力の流れを教室で感じる…それも足元で
(まさかっ!?)
「うわぁ!? なんだこれ!!」
一人の男子生徒が飛び跳ねる。
それに連鎖し、次々と教室中から声が上がる。
俺たちの足元には光る巨大な魔法陣が…
図らずともそれは初めて俺が召喚された時と同じもの――――――
(世界はまだ俺を見放してはいなかった……ッ!!)
こうして教室は光に包まれ、俺は今世のクラスメイトとともに再び異世界召喚されることになる――――――