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感染狂心メトロポリス  作者: 南雲 楼
一章 感染者
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6 感染者

 喰頼は蕪探偵事務所を飛び出すと、商店の並ぶ道を歩いていた。その手には返却していない四苑のタブレット端末。旧式の機械とはいえ、情報を持ち歩くことには役に立つ。

 平日昼前とあって人どおりの少ない道を、端末を操作しながらうろついていた。


「……次に現れる店と狙われる商品っつったら……」


 ぶつぶつと呟きながら画面に表示された犯行現場と被害物のリストを流していく。統計からの次の犯行場所の特定。

 どこに現れるかもわからない少年を捕まえるために闇雲に捜索していては埒が明かない。


「……犯行現場はE89地区の商店ね……盗るのは何でもって言われてるけど実際はほとんど金目の物か……時計に新型の機械……。それに飯もか」


 少ないとはいえ、人目はある。だが、喰頼はそれを憚らずに言葉を口にして考えに耽っていた。すでに癖となっていて、直そうとする努力もしていない。


 朽の犯行歴、盗品、周辺の地図。リストからの統計が脳内の周辺図と絡み合って一つの仮定が出来上がる。次の犯行はあそこだ。


 薄い笑みを浮かべ、端末をウエストポーチに押し込む。安全ゴーグルをかけなおし、足早に目的地へ向かった。



 小さなコンビニエンスストア。喰頼は冷房の風に当たってため息をついた。涼しい。

 店員に仕事の旨を伝え、許可をもらった。これで多少の戦闘は大目に見てもらえるだろう。店の店長も万引き少年、朽には困っていたようで、すんなりと了承してもらえた。


 朽の起こした窃盗の現場と盗られた物。基本的には金目の物が盗まれるのだが、時折食料を盗んでいる。おそらく、換金した金が尽きるのだろう。金が無くなれば、売れるものを盗んだ方がいい。


 だが、今日は火曜日。付近の商店に二つある時計屋と家電量販店は両方とも定休日だ。この地域を出れば店はいくらでもあるが、例の万引き少年はこの近辺でしか犯行を行わない。


 そして、食料を盗る際の店は順番を決めてローテーションで場所を選んでいるらしい。よって彼はここに来る。ほぼ確実に。



 少年が来るまでの時間潰し。窓際の雑誌コーナーで適当な物を立ち読みして時間を潰す。冷房が効いていても、スーツの上着を着ていては暑い。


 しかし、好きでこんなものを着ている訳ではない。都日のお達しだ。『うちの社員は真夏になるまでスーツ着用。もちろん上着もな。クールビズなんて古いことさせねえよ』等と言って従業員の殺意のこもった視線を浴びていた。


 クールビズなんて今では当たり前のことなのだが。ちなみにそのあと緋澄が熱中症で倒れたのだが、都日はその主張を取り下げていない。


 雑誌を数ページめくると、“今年は猛暑! 熱中症対策を!”と大きな見出しで書かれている。さっと目を通すと、薄着についても述べられている。


 内容は百年以上前から言われていたような事柄だが、これを推奨しないバカな事務所もある。女子が薄着になればあのスケベ社長も喜びそうなものなのだが。喰頼もちょっと嬉しい。



「俺はどうせなら凪木の薄着が見てえな……」


 呟くと、雑誌を棚に戻した。周りに人がいたら警察を呼ばれそうなものだが、幸い店内には喰頼しか客がいない。朽が来るとしたらそろそろだ。ポケットに手を突っ込み、商品を眺めてぶらぶらと歩く。


 その時、客の入店を告げる音と店員の挨拶が耳に飛び込んだ。商品を選ぶふりをして、入ってきた客に視線を向ける。野球帽の上からフードを被り、マスクで顔を隠した少年――朽だ。



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