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感染狂心メトロポリス  作者: 南雲 楼
一章 感染者
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2

 喰頼の隣に目を引く水色の髪の女が立っていた。長い髪は結ばれ、髪飾りで邪魔にならないように留められている。目を吊り上げて喰頼を睨みつけているせいで綺麗な顔つきが台無しになってしまっていた。


「そんな怖い顔すんなって、せっかくの綺麗な顔が台無しだぜ」


「何よもう……」


「まあ圧倒的に凪木の方が可愛いけどな」


 まんざらでもないと言いたげに表情を緩めた彼女だったが、喰頼の余計な一言を言い放った瞬間、また怒りを滲ませた表情に戻った。

 最低! という言葉と共に喰頼の後頭部を持っていたトレーで叩くと厨房に戻って行った。


 水色の髪の彼女、水門(みなと)は喰頼の家の家事手伝いである。気が強いが家事の腕は確かで料理は美味く、掃除は塵ひとつ残さない。


 家事手伝いをしているが、本業ではない。喰頼と同じ職場で働いているのだが、家事全般が壊滅的な喰頼と凪木のため毎日早起きして家を訪ねてくれている。

 そのことに喰頼は感謝しているが、勝気すぎて何かにつけて怒鳴るのが玉に瑕だとも思っていた。



「ホントに気性荒いよなあいつ。鬼かよ」


「喰頼が、起きないから」


 寝付くのも起きるのも苦手だ。仕方ない。喰頼はため息をついて皿に盛られたパンに齧りついた。凪木もそれを窺うと上手(うわて)でフォークを握った。

 右腕は使えない。動く左腕は指先まで隠されている。左手で持ったフォークの先は少し震えていた。


 時計を確認すると予定より十分ほど遅い。普段から出勤は時間ギリギリである喰頼にとって致命的な遅れだ。半ば諦めながら目玉焼きを一気に口に押し込むと齧りかけのパンを持って席を立った。


「喰頼、野菜」


「いらん、時間がやばい」


 仕事に遅れそうだという理由だが、本当は野菜が苦手なだけである。喰頼は自室に戻ると口の中の目玉焼きを飲みこんだ。手に持ったパンを咥えると黒いスーツに着替える。

 安全ゴーグルで目を覆うと一気に朝食を終え、荷物を持って部屋を飛び出した。


 リビングに立ち寄り、食事中の凪木を背後から抱きしめていると水門にせっつかれた。名残惜しさを感じつつ、家を後にする。

 玄関付近にあるオートバイに飛び乗って仕事場に向かった。六月の日差しはかなり熱く、職場に行くのが億劫でならない。



 街は薄汚れている。建造物は真っ白だったようだが、今は黒ずんでしまっている。喰頼の家は住宅街の一角にあるが、道は入り組んでいて、付近に住居を構える物でなければ迷ってしまいそうだ。

 喰頼は迷うことなく道を進み、中心区へ向かう大通りに出た。


 メトロポリスと呼ばれるこの街の中心区。一つの都市のはずだが、中心部だけが都市を意味するメトロポリスという単語が呼称となっていた。

 それ以外の場所は辺境と呼ばれている。差別的なのは呼称だけではない。メトロポリスに住めるのは一定の基準を満たした人間だけなのだ。


 様々な技術で作られたビルが立ち並ぶメトロポリスに用事があるわけではない。暫く通りを進むと脇道に逸れた。


 脇道の先は住宅街とは違い、店や会社が立ち並ぶ区域だ。大通りよりも車両の減った道を飛ばし、一件の建物の駐車場に入った。

 “何でも屋 鳶”と殴り書きされた看板が掛けられている二階建ての建物。店というよりは事務所だ。


 喰頼は従業員用の駐車スペースにオートバイを入れると店の扉を開けた。



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