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感染狂心メトロポリス  作者: 南雲 楼
一章 感染者
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1 何でも屋・鳶

 カーテンの隙間から光が差し込む。喰頼(くらい)は布団から手だけを出して当たりを探る。指先に硬い物が触れた。つるりとした長方形の物。タッチパネル式の携帯電話。それを布団に引きずりこんで数秒。布団は跳ね上げられ、ベッドから落ちた。


「クソ、寝すぎた」


 呟きながら布団から降りる。バタバタと足音を立てながら洗面所に駆け込んだ。冷水と傍に置いておいた洗顔料で顔を洗う。目が覚めた。


 鏡に目をやると自分の姿が映っていた。特別目つきが悪いわけではないが、眉間にシワを寄せる癖があるせいか不機嫌に見える。紺色がかった短い髪は寝癖でぼさぼさとしていた。


 髪を梳かし、整髪料で整えると歯磨きを済ませてダイニングへ向かった。



 テーブルの上には目玉焼きやサラダといった手軽な朝食が並んでいる。パンを焼く匂いがした。


「喰頼、おはよ」


 四つの椅子の一つに座っていた灰色の髪の少女が顔を向ける。凪木(なぎ)だ。昨夜の営みを思い返す。思い返す匂い、味。

 朝から昨晩の続きを行うのは咎めるため、喰頼は角を挟んだ隣の椅子に座る。


「おう、おはよう」


 凪木を見ると顔は少し腫れていて、擦り傷は大分小さくなっていた。折った右腕は固定されているがこれも治るのは時間の問題だろう。

 医者の治療を受ければ骨折等数日で治ってしまう。受けなくても一週間から十日で完治する。凪木の再生力は尋常ではない。


 昨晩の行為が終わった後、凪木を連れて行った近所の医者に『もう! いくら凪木ちゃんの怪我がすぐ治るって言っても喰頼はやりすぎなのよ!』等と説教を食らってしまったことを思い出す。


 愛故に、だから仕方ないのだ。



 喰頼が自分の前に置かれていたコーヒーに口をつけた時、凪木の視線に気づいた。大きく、生気の感じられない目はぼんやりと喰頼を見ている。その視線に怒りや悲しみ等存在しない。どれだけ暴力を振おうとも、凪木が抵抗することはなかった。


「ん? どうした?」


「今日、学校行かない。休む」


 凪木はいつもこうだった。目に生気は無く、何を考えているか分からない。話す言葉は訥々としたもので、長い言葉は滅多に離さない。

 彼女は現在十七歳だ。住まいの近くの学校に通っている。だが、喰頼の愛がぶつけられた翌日はほとんどこうだ。学校になど行ける身体ではない。


 凪木の体は百五十センチより少し大きい程度と、同年代の少女と比べても小さい。体重も軽いため、顔付きや生気のない目のせいでちょっとしたことで壊れそうな印象を受ける。

 それでも喰頼の暴力を受けても死なないのはひとえに彼女の“病魔”のおかげだ。


 昨晩よりも少し伸びた凪木の灰色の短い髪を見ていると、ドンという音と共に目の前に焼いたパンが置かれた。


「まったく……何で起こしてすぐに起きないのよアンタは」



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