僕の彼女の遅刻理由が不憫で不明でたまらない
僕には彼女がいる。名前は泉ちゃん。
黒髪で、おとなしく……はないけれど、優しく……もないけど、とても思いやりのある子だ。
その子と今日で付き合って3ヶ月になるから、記念に映画を見にきたんだ。
でも……彼女が来ない。
集合は1時に駅だったのに、今は2時半だ。よく遅刻する子だけど、今回は長い。
彼女からの連絡が来るであろう携帯から眼をそむけ、ふと顔を上げる。するとそこには、少し眠そうな泉ちゃんが立っていた。
うん。今日もかわいいね。ワンピース似合ってるよ。
「よう、ごめんな。ちょっと道に迷っちまった」
と、目を背けながらウソをつく泉ちゃん。わかりやすいなぁ。
「ううん、いいよ。気にしてない」
少しバツが悪そうにする彼女。
「いつごろから待ってたんだ?」
「僕も今来たところだよ? だから早く映画行こうよ」
と、俺が言った途端ほっと安堵したような表情をする泉ちゃん。
「なぁんだ。だったらお前も遅刻してたのか。ならいいや」
「いやしてないよ? 一時間半待ったからね?」
「え? でも今来たところだって」
「ウソだよ? しっかり待ったよ?」
「紛らわしいウソつくな!」
「え? 僕が怒られるの?」
全くもう。でもまぁ泉ちゃんは素直なんだね。きっと純粋だからすぐ信じちゃうんだ。
「まあいいよ。さっさと行こうぜ映画」
と、僕の手を引く泉ちゃん。なんだかんだで僕との映画楽しみにしてくれているみたい。
☆
映画館に着いた。ここに来るまで終始手をつないだままだった。柔らかい感触がまだ僕の手の中にある。
「ほら、ついたぞ。何の映画見る?」
と、珍しく僕に聞いてくる。いつもなら泉ちゃんが最速で決めてしまうのに。
しかもこう見えて泉ちゃんはラブロマンスが大好きだ。だからいつも愛の映画を一緒に見ている。
「今日はかなり待たせちまったからな。だから特別に決めさせてやるよ」
やっぱり、泉ちゃんは優しいところもある。
よし! 今日はせっかく泉ちゃんが選ばせてくれるんだから、僕の好きなアクション映画でも見ようかな。
「ありがとう! それじゃあ、『ミッション・コンプリート2』なんてどう?」
「は?」
「じゃあ『デス・ゲーム』は?」
「は?」
「うーん、じゃあ『怨霊ゲーム』は?」
「は?」
「もう完全に選ばせる気ないよね?」
結局『愛の72時間』を見た。物語の途中でおいおい泣いてる泉ちゃんに一番目がひかれたな。周りは迷惑そうだったけど。
☆
夕方。公園のベンチに座る。夕日がきれいだ。
「今日は楽しかったね泉ちゃん」
「ん? あぁ、そうだな」
「それで、今日はなんで遅れたの?」
まぁ気にしてはいないが、なんとなく聞いてみる。
「列車が遅れて、駅で止まってんだよ」
「それにしては遅れすぎじゃない?」
「いや……子供が……」
「うん? 子供? それがどうしたの?」
「電車で置き去りにされてて……」
「え? それ本当? それはひどい話だね。親は何してたのさ?」
トイレにでも行ってたのだろうか。それにしても車内に子供を置きっぱなしは感心しないなぁ。
「電車の写真撮ってた」
「本当に鉄道オタクってタチ悪いね」
そしてその子供を保護してあげたのかなあ。やっぱりいい子だ。
「あとそれと! えっと……」
「どうしたの?」
突然を赤くして下を向く彼女。一体どうしたんだろう?
「これ受け取って!」
と言って差し出してきたのは、ボロボロの手編みのピンクの手袋だ。
ひょっとするとこれを夜中まで編んでいたのだろうか? だから来たとき眠そうだったのかな?
「ありがとう! 本当にうれしいよ! 大切にする!」
「あ、あたりまえだバカ! 大切に使わないと殴るからな!」
耳まで真っ赤にして言う泉ちゃん。彼女のこういう所が僕は本当に大好きなんだ。
でも泉ちゃん。この手袋ちっちゃすぎて手が入んないや。
読んでくれてありがとうございます。
なんとなくでもいいので点数や感想をつけていただけると助かります。
短編ばかり書くと、N.E.E.Tの冒険が全く進まなくなります。