第6章 登場人物紹介(ベアトリーチェとの対話)
エレンシア嬢に詰問されているマスターを見捨て、わたしはこっそりと部屋を後にすると、あらためてこの孤児院の構造を把握するべく【因子観測装置】による走査を開始しました。
この作業は何も特別なことではなく、マスターが訪れる場所全てにおいて、常にわたしが実施しているものです。初めて訪れた場所(異世界)でマスターが安全かつ快適に過ごせるよう、情報収集を行うことはナビゲーターの基本なのですから。
まだ寝るには早いこの時間、わたしが何気なく廊下を歩いていると、向かい側から修道服に身を包んだシスターが歩いてくるのが見えました。
「あ、えっと……ヒイロさん、でしたよね? 何かお探しですか?」
わずかに癖のある金髪を首の後ろでまとめた彼女は、優しげな口調で問いかけてきます。しかし、心を許しているという印象はなく、どこか警戒心を持って、こちらの動向を確認しようとしているようです。
「いえ、こういう場所に来たのは初めてでしたので珍しくて。もし、どこか行ってはいけない場所があるようなら、教えてください。近づかないようにしますから」
わたしがそう返すと、彼女は少し考えるそぶりをした後、首を振って言いました。
「大丈夫です。子供たちが過ごす孤児院ですから。危ないものがあるような場所はありませんので。ただ、日も落ちていますので、外にはあまり出られない方がよろしいかと」
「そうですか。ありがとうございます」
彼女の後姿を見送った後、わたしは小さく息を吐きました。
わたしのかまかけに対する反応を見る限り、どうやらこの孤児院には近づいてほしくない場所があるようです。そしてそれは、『地下室』ということになりそうです。
わたしの走査の結果でも、この屋敷に一見してわかりづらい地下室が作られていることは確認できました。
そこに何があるかはわかりませんが、潜在的な危険の有無は確認する必要がありそうです。巧妙に隠された地下への入り口も、わたしの【因子観測装置】にかかれば、丸裸も同然でした。
ところが……
「おお、ヒイロ。こんなところで何をしておる?」
わたしが入り口が隠されていると睨んだ調理場の隅へと近づこうとしたその時、背後からいきなり、声を掛けられました。
「……ベアトリーチェさん」
「くふふ。忘れたか? わらわの『世界を観測する者』には、自身を観測するものを観測する力がある。屋敷中に観測の目を向けるお前のことに気付かぬはずもなかろう」
振り向いた先に立っていたのは、言わずと知れた聖女ベアトリーチェです。淡く揺らめくランプの光に照らされて、彼女の銀髪は黄金色にも似た輝きを放っています。
「ええ、わかっていました」
「くふふ。食えない女子じゃな。そのうえで、わらわの反応を試そうとしたわけか」
「この下には、何があるのですか?」
「子供たちに秘密にすると約束するなら、教えてやる」
「ええ、問題ありません」
わたしが二つ返事で約束すると、彼女は少し面白そうな顔をした後、その表情を急変させました。
「この下にはな。人がおる。かつて、この屋敷の主だった男がな」
「なるほど。確かに微弱なものも含め、複数の『生命反応』があるようです。」
「微弱……か。まあ、そうじゃろうな。アレには、考えうる限りの『ありとあらゆる拷問』を行い続けておる。今は……何だったかの? 針だったか、火だったか……はたまた毒じゃったか……久しぶりなだけによく覚えておらんわい」
壮絶な邪気に顔を染め、常人であれば見ただけで背筋が凍るような笑みを浮かべるベアトリーチェ。彼女の様子の端々から、ここの地下に存在する『闇』の深さが窺い知れるようでした。
「どうしてそんなことを?」
「そこでそう聞くか? くふふ。この話を聞いてそこまで平然とした顔をしていられたのは、わらわの『妹』たるクリスとジェニファーの二人以来じゃ。まあ、あの二人は、わらわに心から絶対の忠誠を誓ってくれておるからな。当然じゃが」
クリス、というのはおそらく、ここに来る途中で出会ったシスターのことでしょう。もう一人のジェニファーともども、『アカシャの使徒』の魔法使いだとのことでした。
「詳細は話すつもりもないが、簡単に言えば復讐じゃよ。この下にあるアレは、父の死後、わらわの母様を騙して家を乗っ取り、母様のことを心が壊れるまで弄んだ挙句、わらわにまで手を出そうとした愚かな家宰の末路じゃ」
「なるほど。それだけ聞けば十分です。しかし、『アカシャの使徒』の力があれば、そんな状態になる前にその男をどうにかできたのではないのですか?」
「……知りたいか?」
「まあ、ほどほどには」
「くふふ。正直じゃの。わらわの『力』が発現したのは、あの男に犯されそうになった時のことなのじゃ」
「……『使徒』は皆、生まれつきのはずでは?」
「うむ。恐らくは、わらわのような後天的な『使徒』など、世界でも唯一じゃろうな。ゆえにこそ、あり得ない『八番目の天使』の力を有しておるのかもしれぬ」
「……そうでしたか。だとしたら、ベアトリーチェさんの存在には、何か特別な意味があるのかもしれませんね」
「……いかんな。その言い方はいただけん」
途端に不機嫌そうな顔になるベアトリーチェ。
「特別、という言葉はお嫌いですか?」
「いいや、そうではない。前から思っておったのじゃが、ヒイロよ。その『ベアトリーチェさん』という呼び名はどうにかならんか?」
「では、何とお呼びすれば?」
わたしが尋ねると、ベアトリーチェは胸を張って言いました。
「『お姉さま』じゃ」
「却下です」
間髪入れずに即答するわたし。
「つれないのう。何も妹になれと言うておるのではない。呼び名を変えれば心理的に近しくもなれるではないか。それともヒイロは、わらわと親しくなどなりたくないか?」
傷ついたような顔で、こちらに上目遣いを向けてくる聖女様。
「い、いえ、そんなことは……」
「ならば、良いではないか。ヒイロがそう呼んでくれるなら、わらわは何でもしてやるぞ」
わたしの罪の意識をえぐるやり口はある意味、マスターにそっくりです。それはさておき、彼女の『何でもやる』という言葉は、上手く使えるかもしれません。
「それでは、『個体情報登録』をお願いしてもよろしいですか?」
「なに? なんじゃ、それは?」
わたしが事情を説明すると、ベアトリーチェは当然ながら渋い顔になりました。
「つまり、わらわの能力のすべてが丸裸にされるというわけじゃな?」
「はい。ですが、それも今後仲間として行動するにあたっての、効率的な連携のためです。むろん、他言は致しません」
「……ふむ。わらわがヒイロに丸裸にされるのか」
「なぜ、わざわざ卑猥な言い方を……」
「よかろう。それこそわらわの望むところじゃ!」
「……はあ、まったく、どこまでもマスターと似た者同士ですね。あなたは」
「よさぬか。あんな変態と一緒にされては困るぞ」
『人それを、同族嫌悪と言う』といったところでしょうか。
「ああ、そうじゃ。まさかどさくさに紛れて誤魔化すつもりではなかろうが、条件はヒイロがわらわを『お姉さま』と呼ぶことじゃからな?」
「……ちっ!」
「……今、舌打ちをしなかったか?」
「なんのことでしょう?」
満面の笑みで返すわたし。
「……いや、なんでもない。まったく、あの主人にしてこの従者あり、じゃな」
聖女様が顔を引きつらせて何かを言っているようですが、気にしないでおきましょう。
「それではさっそく、始めましょう。ついでに、これは登録した方々全員に同じことをしているのでいまさらですが、他の皆さんの能力も把握しておいてください」
「なに? 良いのか? そこまでわらわのことを信頼して」
「わたしの信頼は、貴女を信用したマスターに対するものです。決して貴女個人に向けたものではありません」
「素直じゃないのう。まあ、そんなところも可愛いのじゃが」
……どこまでも減らず口を言い続ける彼女を無視して、わたしは早速手元に生成した表示板に情報を映し出しました。
○来栖 鏡也 (クルス・キョウヤ) 年齢:16歳
ヒイロのマスター。狂える鏡。この世界の真実を探求する異世界人。人形のように整った外見そのままに『人形の子供』として育てられ、人の心の形を求める少年。
□所有スキル等
・ベーシックスキル(ヒイロによる基礎設定)
『言葉は友情の始まり』
ヒイロの無限データベースに蓄積された言語の中から、対象が話す言葉と類似したものを自動で検索し、それを元に対象言語を解析・翻訳する。
『早口は三億の得+』 ※進化
どこにいても、どれだけ離れていても、ヒイロとの間で言葉を介さず高速で思考の伝達を行うことが可能。
『虫の居所の知らせ』
どこにいても、どれだけ離れていても、ヒイロの居場所やヒイロまでの距離を感知する。
「なんじゃこれは、ヒイロといつでもどこでも繋がれる能力など、あの男にはもったいないわい。この能力、わらわにもくれんか?」
「残念ですが、マスター以外にベーシックを付与することはできません。……しかし、不思議ですね。ベーシックスキルが進化するなんて、今まででは考えられないことです」
・通常スキル(個人の適性の高さに依存)
『真理を語る愚神礼賛』※ランクS(EX)ランクAから進化
『病原体』耐性スキル。任意に発動可。自身の体内で『女神の愚盲』と『愚者の隻眼』を融和させる【暗黒因子】を生成する。
「……なんじゃこれは。両者を融和? これではまるで『完全体』のようではないか」
「どうやら、【因子干渉】による進化もあったようですね。【暗黒因子】がどんなものなのかはわかりませんが……マスターのスキルに常識を求めてはいけないのでしょう」
『痛い痛いも隙のうちS』※ランクS(EX)ランクAから進化
環境耐性スキルの派生形。任意に発動可能。自分や自分が直接触れている知性体の痛覚を自在に操作する。相手に対しては触れている間のみ。
『空気を読む肉体+』 ※ランクS(EX)
活動能力スキル(身体強化型)の派生形。常に発動。あらゆる身体能力を半径五十メートル以内に存在する『知性体』が持つ能力の平均値まで変化させる。ただし、スキル発動前の自分より弱い対象は算定基礎に含まない。
『他人の努力は蜜の味+』※ランクS(EX)
活動能力スキル(感覚強化型)の派生形。『法術器』に触れた時に発動。その『法術器』の作成者が割り当てた『知識枠』に匹敵するだけの『知識』を習得するほか、その『法術器』の詳細な仕組みに関する情報を瞬時に獲得する。
『わがままな女神の夢』※ランクA(EX)
環境耐性スキル兼活動能力スキル(感覚強化型)の派生形。常に発動。世界全体の『集合的無意識』を掌握することで、以下の効果を得る。
1)自身に対する魔力感知の無効化。
2)自分が触れている『知性体』の精神的な未来予知(行動の先読み)。
3)器物に宿る記憶の想起。
『動かぬ魔王の長い腕+』※ランクA(EX)ランクBから進化
活動能力スキル(感覚強化型)の派生形。任意に発動可。周囲の魔力を従属させ、最長五十メートルの『見えない腕』を生み出す。この『腕』には本物と同様の感覚・腕力・接触判定がある。ただし、使用中は本物の腕が動かせない。
・特殊スキル(個人の性質に依存)
『世界で一番醜い貴方』
殺意のある攻撃を受けた場合のみ発動。受けた攻撃を『鏡』に飲み込み、増幅して『その時自分が殺意を向けている対象』に反射する。
『世界で一番綺麗な私』
『知性体』を殺害した時にのみ発動。自身の新たな特殊スキルを生成する。スキルの生成には、対象の人数や性質によって加算されるポイントが必要。『世界で一番醜い貴方』による殺害は対象外。
『鏡の中の間違い探し』
自分が殺害した『知性体』に対し、任意で発動可能。致命傷を含むすべての傷を治癒し、蘇生する。ただし、蘇生された対象は、それ以前と比べて『何か』が間違っている。
『鏡の国の遍歴の騎士』
自分が視界に入れた『知性体』に対し、任意で発動可。対象に『倒すべき敵』と『守るべき仲間』を誤認させる。対象人数は最大五人。効果時間は五分間。同じ対象への連続使用は不可。
『規則違反の女王入城』
過去に一定時間(約5分間)以上の会話をしたことがある『知性体』に対し、任意に発動可。対象と自分の傷を入れ替える。対象を視認する必要はなく、対象との距離も問わない。
『白馬の王子の口映し』
自分に好意を抱く異性の『知性体』とのキスにより発動。相手の魔法が使用可能となる。ただし、その魔法効果は『反転』する。効果時間は24時間。この効果は複数同時に重複する。
『目に見えない万華鏡』
『知性体』と十秒以上目を合わせ、恐怖を与えた場合にのみ発動可。発動後、対象が世界に与える影響は、すべてが『無』になる。なお、この効果は絶対に解除できず、対象の生死を問わず永続する。
『全てを知る裸の王様』
任意に発動可。ただし、下記3)は1日に1度まで。
1)自分を視界に入れたすべての『知性体』の記憶に、自分の姿を永遠に刻み込む。
2)記憶を刻まれた『知性体』が他者にその記憶について語った時、その記憶は伝染する。
3)相手との距離を問わず、記憶の中の姿を利用して複数同時に対象と視線を合わせ、語り掛けることができる。
『貧者と富豪の運命論』
常に発動。『知性体』を何らかの不幸に陥れた時、その不幸の十分の一に相当する幸運(都合のよい確率の積み重ね)を手に入れる。この効果は重複する。
『明白な道化師の所在』
自分の半径10キロメートル以内の『知性体』に殺意ある攻撃がなされた場合に発動可。その殺意と攻撃の対象を自分にすり替える。
『眠れない夜の姿見』
任意に発動可。『自分の姿』と向かい合う『知性体』の背後に、実体を伴う自身の鏡像を出現させる。鏡像は自分本体と鏡映しで同じ行動をとる。互いの向きがずれた場合、鏡像は消滅する。
『鏡の中のお前は誰だ』
『知性体』の肉体の一部(髪の毛など)を入手した場合のみ発動可。対象の姿を自身の存在に写し取り、互いの肉体感覚を自由に共有する。効果時間は最大で24時間。スキル使用後、入手した肉体の一部は消滅する。
『ありふれた硝子の靴』
世界で唯一の価値がある物に触れた場合のみ、発動可。その性質を反転させた同価値の物を複製する。同じ物に一度のみ使用可。再複製は不可。生物には使用不可。
『いびつに歪む線条痕』
自分及び自分と接触している『知性体』がスキルを発動する際に発動可。そのスキルが世界に影響を及ぼす際に、その効果の一部を歪ませる。ただし、そのスキルの根本を変えることはできない。
『台本にない登場人物』
任意に発動可。物理法則・魔法効果・スキル効果などによって自分が強制させられている『法則性』をひとつだけ指定し、自分をその例外とする。ただし、その法則性の内容を理解していなければ使用できない。
「なんじゃこの、能力の数々は……。あの男、異常にも程があるぞ」
「これもまた、マスターの【因子感受性】の高さと『世界で一番綺麗な私』のおかげですね」
「殺人で能力が増える能力……か。ならばますます、あの男に《女神の天秤》が効かなかったことが不思議じゃな」
「そうですね。それはさておき、マスターは今回、出国の際にニルヴァーナたちを事実上『殺害』していますので、さらにスキルが増えているようですよ」
『合わせ鏡の一兵卒』(新規追加)
任意に発動可。視界に存在する鏡に映った対象の『存在』を劣化させる。劣化の程度は映る鏡の枚数・面積が多ければ多いほど激しくなる。ただし、生体そのものには無効。
『悪手ばかりの千日手』(新規追加)
『知性体』と握手をし、特定の行動を宣告した際に発動可。以後千日間、対象はその行動について、自身が『正しい』と考える選択肢を選ぶことができない。ただし、その選択によって自身の命に別状がある場合は除く。
『未完成スキル16』
特殊スキル『世界で一番綺麗な私』の効果により発生。現在、1820ポイント。次のスキル完成まで残り15680ポイント。
・その他、装備品
『マルチレンジ・ナイフ』
ヒイロの【因子演算式】が組み込まれた携帯型万能兵装。形態モードとして《ナイフ》《ソード》《ランス》の三種類がある。攻性モードとして、不可視の熱光線を放つ《レーザー》、刀身に熱を発生させる《ヒート》、電撃の《スタン》、発光の《フラッシュ》、音波の《ノイズ》などがある。
『リアクティブ・クロス』
ヒイロの【因子演算式】が組み込まれた外的脅威反応型防護服。外部からの脅威を感知するセンサーがあり、必要に応じて様々な力場や反発衝撃波による防御が可能。
『ヴァーチャル・レーダー』
ヒイロの【因子演算式】が組み込まれた生体埋込型索敵警戒装置。視界に擬似的なレーダー画面を表示し、脅威となるエネルギー反応などを発生と同時に感知、視覚的にわかりやすく示す。周囲360度を確認可能なミニマップもオプション表示可。
『ミュールズダインの盾』
赤銅色に輝く魔法の金属『ミュールズダイン』で作られた盾。製作者はメンフィス。かざした方向に電撃を防ぐ力場を展開できる。《値の護符》と組み合わせることで、一時的に極めて高い硬度と魔法耐性を備えた『オリハルコンの盾』に変性する。
《値の護符》
リズが作った『法術器』。使用者・着用者ともにキョウヤ。自身が身に着ける鉱物の組成を調整する効果がある。(ヒイロの【因子演算式】との組み合わせで効果を発揮)
《メイドさんのご奉仕》
リズが作った『汎用型法術器』。使用者はリズ。着用者はキョウヤ。首元に巻くスカーフの形状をしている。着用者の状況や着用者が新たに割り当てた『知識枠』の量に応じ、疲労防止、体力回復、身体能力向上、思考速度・反射神経向上、治癒力強化などのあらゆる効能を発揮する。
《訪問の笛》
古代の偉大な『法術士』が作成した《召喚の笛》をスキル『ありふれた硝子の靴』で反転複製した『法術器』。視認した相手の傍に空間転移することができる。
『パンデミック・ブレイド』(新規追加)
歪な形をした細身の剣。鏡のように黒く輝く未定義物質【ダークマター】でできており、切った知性体や知性体の使用した魔法に『未定義の状態』を感染させる力がある。
○ヒイロ 試験運用期間:10年(その後、7年間は自主的な放浪)
異世界ナビゲーション・システム搭載型の人工知性体。流れるような緋色の髪と同色の瞳をした少女。その素体は常に女性としての理想的な体型や髪・肌の色艶を維持している。マスターの要望により、依然として彼の通っていた学園の制服を身に着けている。
□所有スキル等
・【因子観測装置】
世界の根源的情報素子【因子】を観測し、操作することにより、あらゆる情報を解析し、様々な事象を引き起こすことを可能とする超科学文明の産物。
・【因子演算式】
周囲の【因子】を観測し、変数としてヒイロの無限データベースに蓄積された様々な【式】に代入・展開することにより、世界に望みの事象を顕在化させる機能。
・【因子干渉】
対象者に特殊な【因子】を注ぎ込むことで、活動能力や環境耐性を強化するためのスキルを発現させることが可能。発現するスキルは、対象者の性質や【因子感受性】に依存する。
○アンジェリカ・フレア・ドラグニール 年齢:15歳(あくまで自己申告)
世界における最強の魔法使いである『王魔』の一種、ニルヴァーナの少女。ドラグーン王国の王女。長めの金髪をツーサイドアップにまとめ、銀の刺繍や赤い飾り布が散りばめられた黒のドレスを身に着けている。夜になると、まさに炎熱の女王の名にふさわしい威厳と共に瞳が青から金に変わり、背中にはかっこいいドラゴンの羽根が生える。
□所有スキル等
・通常スキル(個人の適性の高さに依存)
『傲慢なる高嶺の花』 ※ランクS(EX)
環境耐性スキルの派生形。究極の熱耐性スキル。炎や雷撃といった一定以上の『熱』を伴う事象が接触した場合に発動。その事象が有するエネルギーを無効化し、その分を自身の『養分』に変換して吸収する。
『身体の隅まで女王様』 ※ランクA(EX)
活動能力スキル(身体強化型)の派生形。髪の毛や爪、血液など、自分の身体の一部を切り離した際に発動可能。切り離した部位を鞭へと変化させることができる。生み出された鞭の性能は、切り離した部位に依存する。
・特殊スキル(個人の性質に依存)
『禁じられた魔の遊戯』
対象者に『遊び』を提案し、承諾があった場合に発動。特殊空間に自分と相手を閉じ込める。この空間には、以下の性質がある。
1)空間内には、死は存在せず、致命傷を受けても死なない。
2)解除条件は、『遊び』の決着。
3)『遊び』の決着方法は、相手に『致命傷』を与えるか、降参させること。
4)参加者は各人一つずつ、戦闘に『禁止事項』を設定できる。
5)『禁止事項』は絶対。相反するものがある場合は、当事者の調整で合意が必要。
6)敗者は勝者の要求を一つだけ、絶対に受け入れなければならない。ただし、死を求めることは不可。永続する要求もできず、その場合は最大で一年間のみとなる。
『悪魔は嘘を吐かない』
自分だけを騙す『嘘』により、自身の状態をその『嘘』のままに現実のものとする。この能力を使用した翌日は、朝から夕方まで眠りについたまま、目覚めることができない。
・その他、装備品
『魔剣イグニスブレード』
炎をかたどった真紅の短剣。永遠に熱を生み出す魔剣であり、普段は赤い宝石の形をしている。『王魔』の一種、『サンサーラ』が生み出した魔法の道具。
『魔装シャドウドレス』
着用者の意志に応じて形を変えるドレス。汚れや水をはじく性質がある。耐刃性能に優れ、一部を切り離して盾のように使用することも可能。上記の魔剣同様、『ヴァリアント』とも呼ばれるメンフィスならではの『形を変える魔法の道具』。
○リザベル・エルセリア(通称リズ) 年齢:19歳
ヴィッセンフリート家の令嬢、エレンシアの専属メイド。栗色の髪を後頭部で綺麗に結っており、大人の魅力を感じさせる女性。童顔で可愛らしい顔立ちをしており、その胸の大きさは、いたって普通の女性のそれである。
□所有スキル等
・通常スキル(個人の適性の高さに依存)
『眠りは最良の教師』※ランクC(EX)
活動能力スキルの派生形。睡眠時に発動。就寝前の一定時間に習得した知識については、決して忘れなくなる。
・特殊スキル(個人の性質に依存)
『陰に咲く可憐なる花』
常に発動。心に決めた相手に対する支援行動に関してのみ、自身の不可能を可能にする。可能にできる不可能の程度は、相手に対する愛情の深さに依存する。
○エレンシア・ヴィッセンフリート 年齢:17歳
ヴィッセンフリート家の元令嬢。新緑の髪に翡翠の瞳を持つ美少女。花模様をあしらった薄紅色のドレスを身に着けているが、意外と着やせするらしい。植物に愛され過ぎた彼女は、『王魔ユグドラシル』となった。髪の毛を『動く茨』に変えて操るほか、傷を受けても瞬時に再生する生命力がある。
□所有スキル等
・通常スキル(個人の適性の高さに依存)
『世界に一つだけの花』 ※ランクS(EX)
活動能力スキル(感覚強化型)の派生形。任意に発動可。全世界に存在する植物を自身の目・耳・鼻として使役し、そこから得られた情報を我がものとできる力。
『身体の芯までお嬢様』※ランクS
環境耐性スキル。純粋にして究極の精神耐性スキル。洗脳や幻覚と言った精神干渉系のスキル・魔法をすべて無効化する。
・特殊スキル(個人の性質に依存)
『開かれた愛の箱庭』
任意に発動可能。半径約十キロメートル以内に存在するすべての植物に、次の効果を持つ『芳香』を発生させる。効果の強さは、自分が対象に抱く感情の強弱に左右される。
1)自分が殺意を抱く相手の体内に致死毒を生み出す。
2)自分が敵と認識する者の体内に麻痺毒を生み出す。
3)自分が味方と認識する者の体内に思考速度・反射神経を強化する薬を生み出す。
4)自分が恋愛感情を抱く相手の体内にあらゆる環境耐性を強化する薬を生み出す。
『閉じられた植物連鎖』
任意に発動可能。自分の半径五十メートル以内に、次の効果を持つ特殊空間を設定する。
1)空間内で新たに生まれた植物は、燃やせず、千切れず、腐らない。
2)空間内で新たに死滅した植物は、火を放ち、刃となり、触れたものを腐らせる。
○メルティ・ヴァリアント・ウロボロス 年齢:18歳
ドラグーン王国の宰相、メンフィスの一人娘。『王魔(サンサーラ)』であり『愚者』でもあるという特異な存在。額に縦長に開く『愚かなる隻眼』があるほか、身体の各所にも合計6つもの『隻眼』らしき紅い金属板を有する。黒く艶やかな髪と白く抜けるような肌の持ち主で、男女を問わず見る者を魅了する驚異的な美少女。
□所有スキル等
・通常スキル(個人の適性の高さに依存)
『精神は肉体の奴隷』 ※ランクS
活動能力スキル(身体・感覚強化型)。任意に発動可。純粋にして究極の身体強化型スキル。視覚・聴覚などの感覚を含めた、あらゆる身体機能を爆発的に強化する。
『皆仲良く万病息災』 ※ランクS(EX)
環境耐性スキル。相反するものを体内に取り入れても、拒絶反応を起こさない。病原体と抗体の区別を持たず、すべてを体内で等しく共存させる。
『学習能力強化』 ※ランクD
活動能力スキル(感覚強化型)。学習時に発動可。新しいことを学ぼうとするときに、その事柄に対する理解力を向上させる。
・特殊スキル(個人の性質に依存)
『砂漠に咲く一輪の花』
1)生物を『強さ』で圧倒した時、対象を従属させる。この効果は永続する。
2)生物を『美しさ』で魅了した時、魅了の程度に応じて対象の身体能力を奪い、その分、自身の身体能力を強化する。この効果は対象との戦闘中のみ。
○ベアトリーチェ 年齢:二十二歳
『女神』の教会における七大司教の一人。聖女の異名を持つ清らかで神々しい銀髪の少女。白系統の服を好む。過度に男性を毛嫌いし、ためらいなく過激な拷問を行うことのできる狂気じみた精神性を有している。
「ふむ。歯に衣着せぬ紹介文じゃの?」
不満げな聖女様ですが、わたしとしては正しく的を射た解説文のつもりです。
□所有スキル等
・通常スキル(個人の適性の高さに依存)
『世界を観測する者』 ※ランクS(EX)
活動能力スキル(感覚強化型)の派生形。任意に発動可。高位の『アカシャの使徒』の共通スキル。自分を観測するものを観測し、目や耳に頼らず、世界の姿を捉え、世界の声を聞くことができる。
・特殊スキル(個人の性質に依存)
『神聖なる純白の雪花』
常時発動。皮膚の上に『肌を直接傷つける物』だけを弾く膜を生成する。その膜を超えて肌に触れた異性は、接触時間に応じた量の肉体が石化する。石化の効果時間は丸一日。
『侵食する禁断の領域』
自分を中心とした一定範囲内に特殊空間を生成する。この空間には、以下の作用がある。
1)空間内の音・衝撃・光・熱を外部から遮断する。
2)女神の魔法によるイメージを強化し、幻想の生物・器物を現実にする。
3)幻想の内容は、この世界での知名度が高く、『弱点』が存在するものほど実現させやすい。
『真実を告げる御使い』
任意に発動可。最高位の『アカシャの使徒』にのみ発現する、七種の特殊スキルの『八番目』。天使の力を得る。──八番目の御使いは、残酷な真実のみを突きつける。
「ちなみに最後のこの能力、具体的にはどんなものなのですか? 能力解説が抽象的すぎて、解析しきれないのですが」
「自分で書いておいてわからぬのか?」
「はい。恐らくはわたし自身がこの世界について理解していない情報があるせいでしょう。『解析』で読み取れる情報そのものが、抽象的になってしまっているのです」
「……ふむ。ではヒイロよ。さっそくわらわを『お姉さま』と呼ぶがよい」
うわ、このタイミングでそれを言い出しますか。
「……お姉さま」
「駄目じゃ。心を込めて、『お姉さま、教えて?』じゃ。語尾を上げるのがポイントじゃぞ」
随分と調子に乗っているようですが、ここはひとつ、大人しくするしかなさそうです。
「……お、お姉さま、教えて?」
「くふふふ。そうかそうか、そんなに知りたいか。ヒイロは良い子じゃのう。わかった、特別に教えてやろう。この能力はな……」
彼女の説明を聞いた結果、書き直したスキル解説がこちらです。
『真実を告げる御使い』
任意に発動可。最高位の『アカシャの使徒』にのみ発現する、七種の特殊スキルの『八番目』。神霊種アカシアとしての魔力と身体能力を取り戻す。──八番目の御使いは、残酷な真実のみを突きつける。
「書き直してもなお、肝心の部分が意味不明です……」
「まあ、そう言うな。基本的には魔力と身体能力の向上だと考えて支障はない。わらわはも少し前まで、それだけだと思っておったしな。だが……『賢者の石』に触れたことで、ようやく理解したことがある」
「理解した? 何をです?」
「わらわが『誰』に対して『残酷な真実』を教えてやらねばならないのか……ということをじゃ」
存在自体があり得ない『八番目』の天使。
わたしが彼女のこの言葉の意味を理解することができたのは、これからしばらく先のことでした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ここまでが第6章「完全物質と暗黒物質」となります。
次回、「第121話 人気者への道」から第7章「響く聖歌と心の在処」が始まります。