表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

漆黒の地下室

やっと後篇UPです。

お待たせ(誰か待ってくれてるのか?)しました。

 中に入ると意外に広い事に驚く。幅は2m近いだろうか。美沙と手を繋いでー用心しておかなければー横並びでいても十分な余裕がある。高さも同程度だろうか、身長175cmの僕でも問題無い。


 入り口から1mぐらいの所から下り階段になっていた。男に付いて行きながら周囲を観察する。階段・壁・天井の全てが黒一色だった。まるで黒曜石を磨きぬいた様に艶やかな表面。手で触れると、冷たくしっとりとした感触が伝わって来る。そしてよく見ると何mも、いや軽く20mは続く壁や天井に継ぎ目が全く無い事に気付いた。一体どれだけ巨大な石を加工したのだろう? 古代の絶対権力者とは、こんな無茶苦茶な事を実現させる程の力を持っていたという事なのだろうか。それとも継ぎ目が分からないような加工技術でもあったのだろうか。そう思ってLEDライトを壁に近付けた時だ。こんなピカピカに磨かれ、艶やかな表面にライトの光が全く反射していないと言う事実に気が付いた。こんなに艶のある石に――いや例えプラスチックでもだ――ライトの光を向けて反射しないハズが無い。どうなっているんだ? まるで星の光さえ届かない宇宙の果てを思わせる底なしの暗闇の様な黒。


 思い切ってライトを消してみた。無論美沙にそうすると伝えてからだ。そして……全く何も変わらない事に愕然とした。何も変わらないのだ。普通に見えているのだ。照明など何処にも無いのに。入り口からも光など入って来ていない。入り口は開いたままだが、新月だし街の明かりもずっと遠くて問題にならないレベルだ。


 一体どういう事なのだろう?頭が混乱しそうだ。美沙も不安を隠せない様子だが、それでも「行きましょう」と僕の目を見ながら言う。男である僕がここで逃げるワケにはいかない。彼女の手を強く握り階段を下って行く。確かに不思議な事が続いているが、「危険」なワケでは無いのも事実だ。ここはまだ進む手だろう。

前を――つまり下方向を――見ると僧衣の男はそれほど離れてはいなかった。僕達を待ってくれていたのだろう。意外に相手に対して気を使うタイプなのかも知れない。そう思うと少しだけ気が楽になり、無難な質問を投げかけてみた。


「ああ……スマナイが……一つ聞きたいんだ。この階段はどのぐらいあるんだ?」


「この階段で御座いますか……なに、ほんの15段で」


「はぁ? いやちょっと待ってくれ。幾らなんでもソレは冗談が過ぎるだろう?」


「いえ、本当に『階段自体』は15段でして。ただ……」


「ただ何だよ?」


 さすがに僕も多少腹が立っていたせいか、武道家特有の下腹に力を込めた気迫のこもった声を出していた。コレで怒鳴り上げるとヤンキー達も大人しくなる。ただ粗暴なだけの奴らと、心身ともに鍛えた者とでは格が違うのだ。だがこの僧衣の男は相変わらず淡々とした声で返して来た。


「ただこの階段は『果てしなき15段』と名付けられておりまして……。御客人がこの先に相応しい精神状態になるまで『階段を下りている記憶』を繰り返す様に出来ております……」


「記憶を繰り返す? どういう事だ?」


「論より証拠。それ、御主人の腕時計を御覧下され……」


 言われるがままに左腕のGナントカを見た。一昨年のクリスマスに美沙がプレゼントしてくれた物だ。それ以来肌身離さず身に付けている。僕にとっては縁起物と言ってもイイ物だが、今日だけは恐怖を――いや、驚愕か――をもたらした。

 何なんだこの日付は。この時刻は。いや覚えているが何故?これはこの時計を貰って身に付けたその時の……。


「お分かり頂けましたかな? 今お二人はその時計に関する最も強い記憶を御覧になっておられるのですよ……。ココに入ってからその時計を御覧になっておられれば、その時の記憶を御覧になっておられたでしょうな……。事によるとお二人が御覧になっておられる時刻はそれぞれ違うかも知れません……」


 その言葉を検証する気力は僕達には無かった。ただ顔を見合わせて互いの感情を確かめ合い、男に続いて階段を下りて行くだけだった。美沙の手を握った左手だけが僕の心を支えているのを実感する。もしも一人だったらこの原初的な恐怖――何も頼る物の無い絶対の孤独から来る神話的な恐怖――に耐えられる自信は無い。

 その後どれだけ階段を下りたのだろう。もう時間も何も考えなくなっていた頃、ようやく壁全体を占有する青銅の扉に行き着いた。緑青をふき、見た事も無い複雑な模様で縁取られた重厚な扉だ。それの前に僧衣の男が立ち、僕達に告げる。


「心の準備は宜しいですかな……? この扉を潜ったその時、お二人の運命は決まってしまう事でしょう……」


「ココまで来てソレは無いわ。開けて頂戴」


 美沙がハッキリと答えた。こう言う時女は強い。いや――そうじゃない。不思議な事に、僕の中にもこの扉を潜る事に対する抵抗感が無かったのだ。もしかすると、コレが『この先に相応しい精神状態』とやらなのか? そんな疑問も、地下空洞を圧する扉が開くと共に吹き飛んでしまった。

 地響きとも思える程の軋みをたてながら開いた扉を、僕達は何ら臆する事も無く潜って行った。


 周囲を見渡すと思っていたよりも遥かに広い事に驚いた。25mプールを二つ繋げたぐらいだろうか。高さは5mぐらいか。その部屋の真ん中に大きな水晶のクラスターがあった。中央の結晶は高さ3mはあろうかと言う巨大さだ。周りを囲む結晶も高さ1mぐらいか。そしてコレも黒一色だった。全くの直感だが相変わらず漆黒の周囲を映していると言うワケではなさそうだ。

 だが……コレだけなのか? 確かに意外だし驚きの物ではあるが、正直な話、途中の階段の方がよっぽど……。


「なぁ、これだけなのか? 他には何も無いのか?」


「これだけでして。そして……これが全てを教えてくれましょう……」


「どういう事だ?」


「おお、我が主ネフレン=カよ……暗黒のファラオよ……この無能者は御身から授かった命を遂に果たしましたぞ……。今こそ我に永久の安らぎを……。ネフレン=カ、真理の糸を織り上げん……」


 男の肩を掴もうとしたその瞬間。暗緑色の僧衣がパサっと床に落ち……空中に――それがあるべきと思しき辺りに――灰色の心臓が数瞬あった。人体構造で御馴染の形だ、間違うハズが無い。ソレが床に落ち、乾いた音を立てて砕け散った。

 僕達は夢でも見ていたのだろうか? いや、周囲を見れば、そして床で粉々になった心臓のなれの果てを見れば分かる。コレは紛れもない、その上最悪の現実だ。とは言え、いつまでもココに突っ立っているワケにもいかない。幸い扉は開いたままだし、さっさと帰ろう――そう言おうとした時だ。水晶のクラスターが青白い燐光を放ち、それが伸びて来て僕達に触れた。


 そして僕達は見た。イメージが直接頭に入り込んで来たのだ。


 遥かな宇宙空間。そこで繰り広げられる異形の怪物達と人間に似た神々のいつ果てるとも知れぬ、言葉では言い表せない人知を超えた戦い。幾つもの恒星が壊れ、星座がその形を変え、遂には怪物達が敗れる。異形の<旧支配者>と人間に似た<旧神>と呼ばれる存在達。ある<旧支配者>は遥か彼方の星に幽閉され、地球の太平洋に沈む海底神殿ルルイエにクトゥルーは幽閉される。そしてナイアーラトテップ、ヨグ=ソトース、ツァトゥグァ、ハスター、イタカ……数知れぬ邪神群である<旧支配者>達。それを崇める忌まわしき者達。そこまで理解した時、僕の理性――武道で鍛えた精神力の賜物だろうか――がフルパワーで自意識を蹴飛ばして我に返った。


「美沙、ココから逃げるぞ!」


 この際だ、問答無用で美沙を左脇に抱えて力づくで逃げ出す。ココから先はハッキリとは覚えていない。無我夢中だったのだ。これ程までに必死になった事は無いだろう。これまでも、そしてこれからもきっと。

 地上に出て来てからの事は覚えている。何しろ美沙が……。



 街の光を遠目に見た途端に力が抜けた。地面に倒れこみ砂が口に入るが、そんな事は気にしていられない。後ろを振り返り、入り口が消え去っている事に安堵する。仕組みは分からないがどうでもいい。


「美沙、助かったぞ!」


 彼女の顔を覗き込んだ瞬間、血が凍りついた気がした。優しさを湛えた眼差しは何の意思も感じさせず、力無く空を見つめているばかりだ。口元はだらしなく半開きになり唾液が顎まで伝っている。

 生きた心地がせず、半狂乱になって美沙を抱えてホテルに走る。フロントを叩き起こし――時間は見ていない。そんな余裕があるものか――病院に連絡させ美沙を運び込む。診察の結果は原因不明。当然だろう、一緒にいた僕も説明できない。あくまで推測だが、あの水晶が美沙の意識ー或いは魂か何かーを吸い取ってしまったのではないか。あの僧衣の男はきっと、奴が言っていた主「ネフレン=カ」とか言う奴に生贄の魂か何かを捧げる役だったのだろう。他に考え様が無い。

 いや、そんな事はどうでもいい。何故僕は美沙を止めなかったのだろう? 何故途中ででもいい、引き返さなかったのだろう? 絶対に彼女だけは守ると誓ったのに。美沙に付添いながら後悔と自己嫌悪を果てしなく繰り返した。


 そしてあの夜から二日目の朝。


 突然美沙が意識を取り戻したのだ。まだ弱弱しい状態だが、ハッキリと僕の名を呼び、自分の名前も両親の名前も言えた。これ程神に感謝した事は無い。嬉しい時にも涙が出る事を初めて知った瞬間でもあった。

 今僕は帰国の準備をしている。美沙が日本に帰る事を望んでいるのだ。荷物をまとめながら、僕自身もさっさとこの砂漠とオサラバしたいと切に願う。


 美沙の様子が少し変わっているのも仕方ない。あんな事があったのだから当然だ。だからと言って彼女への愛情がいささかも揺らぐものではない。むしろ以前よりも絆が強まったと言えるだろう。彼女が喋ると少し薄暗い感じがするのも、時間の流れが遅くなったように感じるのも、きっと気のせいだ……。



-------------------------------------------------------

いかがでしょうか?

正直「また後で書き直さないとなぁ」なんて思ってます。休日出勤の上に酒飲みながら書いてますし(ヲイ

設定としては美沙ちゃんはネフレン=カの呪いに取り込まれてしまったという話です。その後は知りません(W

後は野となれ山となれで。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ