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砂漠の国で

後半を投稿した際にダブってしまい、ダブり分を削除したつもりが前半もろとも消えてしまいました(泣

仕方ないので加筆・訂正して再投稿です。

前回のを御覧になっている方はどう変わっているのかを探すと言うマニアックな楽しみ方も可能です(W

そんな方がおられるのかどうかは不明ですが。



宜しければご意見・ご感想をお寄せ下さい。

 暑い。とにかく暑い。当然だ。ココはエジプト。夏に入った今は当然の様に連日30℃後半だ。湿度はそれほどでも無い様な気がするが、半袖よりも長袖で肌を隠した方がいいと思える程の、本当に焼けつく程の日差し。そんな中で、巨大なピラミッドとスフィンクスが並んでいる。


 抜けるような青い空と眩しい太陽の下で、大勢の観光客がクフ王のピラミッドに登って行くのが見える。その中から僕を呼ぶ声が聞こえた。


「明君ー! 早く来なさいよー! 」


 張りのある元気な声。昨日から「山本美沙」になった僕の妻。やや小柄だが学生時代から続けているテニスのおかげだろう、引き締まった体つきだ。ソバージュのかかった髪は少し長めで良く似合っている。タレ目じゃあるが、ソレが優しい印象を与えていて僕の好みだ。 彼女の声に応じて僕もピラミッド登りの列に加わる。斜面中程だろうか、かつてアラブの太守アル・マムーンが爆破した(無茶しやがる)個所が入り口だ。やや窪んだ辺りにゴミが吹き溜まっているのが見える。世の中善人ばかりじゃ無いと言う証拠だ。上に正式な入り口があるが、観光客は盗掘用の穴から入る事になっている。いい気はしないが仕方ない。


 この新婚旅行は美沙が計画した。古代史が好きな彼女は「生きている間に一度でいいから行きたい場所」としてエジプトを選んだのだ。僕も歴史ミステリーが好きな方だし、何よりも彼女が喜んでくれるなら・・・と思ってOKしたのだが、正直この暑さはしんどい。屋外スポーツであるテニスをやっている美沙はまだしも、僕は屋内競技である剣道をずっとやっているのだ。直射日光を浴びる頻度は・・・正直低い。僕自身も意識した事は無かったが意外な弱点だ。

 ピラミッド内部へ入れば多少は暑さと、何よりも日差しを凌げるだろうと思っていたのだけど・・・甘かった。内部へ入った途端、湿った空気に全身を舐められたのだ。


「この湿気は中に入った人の汗らしいわよ? 」

「うぇっ、マジかよ・・・」


 剣道家の僕は人よりも汗には慣れている。なにしろ汗の染み込んだ面を被って稽古&試合をするワケだし。そんな僕でも見ず知らずの他人の汗は・・やはりキツイ。仕方ない、コレこそが「ファラオの呪い」として諦めよう。

 いや、むしろ目の前を行く美沙の汗と思えば・・・そんな事を考えていると美沙が急に屈み形のいいヒップラインが目の前に突き出された。「それ」を見ながら進んでいるとガツン!と天井に頭をぶつけてしまった。急に天井が低くなっているのだ。だからこそ美沙が屈んだのだが、どうも「目の前」に気を取られすぎたようだ。


「痛ってぇ~」

「ちゃんと前を見なさいよ、前を」

「いや見てたよ。目の前を。目の前過ぎたってだけで」

「何ワケの分かんない事言ってるのよ。行くわよ」


 頭を押さえていた手を見ると少し出血していた。天井にも血が付いている。こんな所に自分の血を残していくのは気持ち悪いので、持っていたハンカチで綺麗にふき取っておこう。

 僕よりもピラミッドの方が優先の彼女はさっさと進んでいくので追いかけなければ。


 順次「王の間」から何から見て回り、南側の特別博物館の「太陽の船」も見物する。そしてスフィンクスを見ねばと移動。正直僕はしんどいが美沙はまだまだ元気一杯だ。さすが意気込みが違う。道すがら美沙がエジプト神話を語ってくれたのだが、中には神様が出て来ない話もあり、そんなの神話に入れていいのか?と疑問も沸いたがまぁいい。

 そしてスフィンクスに到着し、前から後ろから眺める。やはり何とも言えない雰囲気がある。最古のピラミッドであるクフ王の物よりも古いそうだが、一体何の為に作られたのだろう?当然の疑問が沸いて来た。と言うよりもピラミッドそのものも結局墓では無いらしいし。歴史が古すぎるのも困りものだ。


「ねぇ明君。エドガー・ケイシーって人知ってる? 」

「聞いた事がある様な気はするけど」

「予言者だか超能力者だからしいんだけどね、その人がこのスフィンクスの下に地下室か何かがあって、そこにアトランティスの記録みたいな物があるって言ってるんだって」

「それはそれは・・・。まずはアトランティスの方を証明しないといけない話だよな」

「アハハハ!! そりゃそうよね」


 そりゃピラミッドからスフィンクスから謎だらけじゃあるにしても、飛躍が過ぎると言う物だ。確か日本の大学が調査した時に地下空洞か何かを見つけたと言うニュースを見た気がするが、いずれハッキリする事だ。オカルト雑誌ならどんな話でも作るんだろうけど。

 そんな事を話しながらスフィンクスの周りを巡っていると、妙な男がこっちを見ているのに気が付いた。暗緑色の僧衣を纏った男だ。フードを目深に被っているので顔は見えないが、こちらをじっと見ているのは分かる。いい気はしないが新婚旅行でトラブルを起こすのも御免だ。無視して通り過ぎようとした時、その男が話しかけて来た。


「旅のお方。スフィンクスの地下室に興味がおありですかな・・・」


 いかにも怪しい。係わったらロクな事にならないと直感が警報を鳴らす。


「いや別に。さぁ向こうでラクダに・・・」

「じゃぁ本当にあるんですか!? 」


 イカン。美沙が食いついてしまった。彼女のお人好しも今回はマイナスに働いてしまった。人を疑わない性格は美点じゃあるが、世の中善人ばかりじゃ無いのだ。


「御座いますとも。お望みならばご案内致しますが・・・」


 妙にゆったりとした喋り方。低い声。この男が喋ると周りが薄暗くなる気がする。時間の流れも遅くなる様な錯覚さえしてくる。詐欺師にピッタリな特性なんじゃないか?


「お願いします! 」


 美沙が即答する。おいおい。


「いや待て、アンタどう見ても観光案内人じゃないよな?そんな簡単に信用できないな。何が目的なんだ?」


 当然の疑問をぶつけた。美沙は心配顔だが、用心に越した事は無い。


「私は然るべき時に然るべき方を案内する様命じられておりましてな・・・。それを忠実に果たすだけで御座います・・・」


「然るべき時っていつだよ?然るべき方ってのは?」


「時は新月の夜。真夜中。丁度今夜で御座いますな。そして私を見つけ会話が出来る方。それが条件で御座います・・・」


「抽象的過ぎるな。それで信用しろと? 」


「左様に御座います・・・。古代の真実を知ろうとお思いならば、今夜ここにお越し下さいまし。ご案内致します故・・・」


「待ちぼうけになると思うよ。砂漠の夜は冷えるんだろう?無理はしない方がいい」


 会話を打ち切ってホテルへと美沙を引っ張って行った。彼女はまだ心残りの様子だったが構っていられない。これ以上は係わるなと頭の中の警報が最大音量で鳴り響いていたのだ。空を見上げるといつの間にか夕暮れが近づいていた。


 ホテルへ戻って一休みした後レストランで夕食をとる。エジプトの夕食は夜9時ぐらいが普通らしいが、僕達はそうもいかない。本来なら楽しいハズの新婚旅行での夕食だが、二人とも何となく無口になっていた。原因はハッキリしている。あの男だ。二人とも妙にあの話が引っ掛かっているのだ。全くロクでも無い奴に引っ掛かってしまったものだ。チクショウ。食後のワインを飲みながら美沙が思いつめた表情で言ってきた。


「ねぇ明君。私・・・行ってみようと思うの。スフィンクスに。あの男の言うように」

「ちょっと待てよ。幾らなんでも止めておこうよ。怪し過ぎるって」

「でもさ、丸っきりの嘘だったらあんな突拍子も無い話なんてしないわよ。それに気になる点があるのよ」

「何だい、ソレは」

「あの男・・・何語で喋ってた? 私達は何語で返してた? 」

「何語って・・・アレ? 」


 思い出せなかった。エジプトの公用語はアラビア語だが、観光地はご多分に漏れず英語は通じる。だがあの男は何語だった?僕達はアラビア語はサッパリ分からないから会話自体成立するハズが無い。英語なら母国語じゃ無いんだから印象に残るハズだ。なのにサッパリ思い出せない。いや、僕はあの時「日本語」で返していなかったか?英語が決して得意ではない僕があんな台詞を咄嗟に英語で言えるのか?


「確かに・・・おかしいな。」

「でしょ? このままじゃ気持ち悪いわ。」

「でも危険過ぎるよ。ここは日本じゃないんだ。何があるか分からないよ。」

「大丈夫よ。剣道有段者の明君がいれば。」

「ここには竹刀も木刀も無いよ。それに相手が飛び道具を持っていたらお手上げだ。」


 何年か前にカイロで観光バスが爆破されたテロ事件を思い出しながら何度も説得を試みた。だが彼女は頑として聞き入れはしなかった。仕方ない。


「分かった。けど、とにかく少しでも危険を感じたらすぐに逃げる。いいね? 」

「分かった。頼りにしてます旦那さま♪ 」


 取りあえずあの男以外に誰かが来たら、すぐに逃げる事を内心決めておいた。美沙の安全は僕が保証しなければならない。

 食後から夜が更けるまでの間は「大人の時間」を過ごし、PM11:00を回った頃に動き易い服装に着替え、LEDライトを手にスフィンクスに向かって出かけた。エジプトは皆夜更かしだと聞いている。店は夜中の2時3時まで平気でやっていて、夜の10時に待ち合わせなどザラだそうだ・・・が、外に出て驚いた。真っ暗だ。人っ子一人居やしない。どうした事だ?事前に調べた情報が違っていたのだろうか?


 立ち尽くしているワケにもいかないので、LEDライトの光を頼りに歩き出す。真っ暗闇のせいだろうか、昼間よりも道のりが遠く感じる。とにかく周囲を警戒しながらーLEDライトの光はいいカモにされかねないー足早に進む。幸い何事も無くスフィンクスに辿り着いた。

 あの男はどこだろう?周囲を見回して探そうとしたその時。


「ようこそお越し下さいました・・・」


「うぉ!! 」


 いきなりあの男の声が僕の左肩口――右手にLEDライト、左手に美沙の右手を握っているから僕と美沙の間――から聞こえたのだ。驚いて後ずさってしまった。美沙に至っては声も出ない有様だ。しかし信じられない。長年武道をやって来た僕は人の気配に人一倍敏感なはずだ。しかも周囲を警戒していたというのに、こんなに近づかれるまで全く気付かないとは。


「あ、アンタ一体いつの間に? 」


「私は先刻から此処におりましたよ。さぁご案内致しましょう・・・」


 相変わらずの口調だ。こっちの警戒心が空回りしている様な気になって来る。まぁいい、周囲に人影も見当たらないし、この男だけなら何とでもなりそうだ。飛び道具さえ無ければ。

 男がスフィンクスの右前脚の前に立ち、右手で軽くノックするとどうした事だろう。いきなりスフィンクスの右前脚の側面にポッカリと黒い穴が現れた。ざっと縦1m横1mぐらいの正方形だ。


「何かのマジックかしら・・・」

「そりゃそうだろう・・・」


「さぁ参りましょう。中は階段になっておりますのでお気を付け下さいませ・・・」


 男が先導する様に先に入って行く。こんなトリックに騙されてたまるものか。腹を括って僕達も続いた。





続く。










初の2部構成です。

宜しければ続きをどうぞ。

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