吸血種物語
―――喉が、乾く…
水分補給のためじゃない、普通の“喉が渇いた”という表現とは、また違った乾き―――
(……天気予報に書いてあったじゃないか……)
本来夜空を照らすはずの月は、光らない向きを地球に向けていて……この付近には街灯というものが少ないので、ほぼ完全に闇夜になっている。
(――どれだけ俺の精神力が持つ、か…)
尋常ではない喉の渇きのせいで、意識を保つのがやっと…という体に鞭を打って少しずつ歩みを進める。
「――なんだ、せっかく来てみたのに、何をやっているの?“吸血種”さん」
「!?」
はるか向こうにあるポツンと佇む街灯に照らされている場所に、ぼんやりとしか見えないが、声から察するに女の子が立っている。
(――ダメだ、ここにいちゃ、危ない……ん?あの子…今……?)
――俺の事を、“吸血種”って言ったか…?
「――君の能力は、こんなやわじゃないんだよ?…今度会ったら、君の本気を見せてね…」
そう言い残して、女の子が俺の視界から消えてしまった。
* *
自分自身、どうやって自宅に戻ったのか記憶がない。
ただ、気が付いていたら自室のフローリングの上に雑魚寝していた。
(――…なにが…?)
状況確認をしようと上体を起こした時――
ピン、ポーン……
…来客を告げるインターホンが鳴った。
「修くーん、おはよ――!」
…美羽か?……って、ちょっと待てよ…美羽が来るってことは、もう…朝なのか?!
……
…
2分で着替えて玄関へ向かうと、セーラー服に身を包んだ幼馴染、小鳥遊美羽が鞄を手に立っていた。
「悪い、美羽…」
「ううん、大丈夫だよ
―――はい、お弁当♪」
そう言って美羽は鞄から弁当箱を取り出して手渡してきた。
「サンキュ」