駄菓子日和
今時珍しいその駄菓子屋さんを見つけたとき、私は思わず辺りをキョロキョロと確認してしまった。
昔に戻ってしまったのかと思って。
懐かしい。10円や20円の小さなお菓子。
体に悪そうな色をした水あめ、チューブゼリー、歯でかじって開けるジュース。
当たりのついたラーメン、ラムネ、色とりどりのグミ。
当たったことのないチョコレート。
笛ラムネ、輪っかチョコ、タマゴボーロ。
おまけのカードが一枚入っているスナック菓子。
狭い店内を見渡すと、古い思い出が蘇ってくる。
たぶん。夏。
どうして小さい頃の近所の駄菓子屋を思い出す時、決まって季節は夏なのだろう。
分からないけど、蝉が鳴いてたような気がする。夏。
小学校に上がる時、引っ越してきた家の近くに小さな駄菓子屋があった。
お母さんもお父さんも懐かしがってたまに訪れていたその店は、小さいおばあさんがいつも大きな音でテレビをを見ているようなお店だった。
透明なプラスチックケースの中にはキラキラ輝いて見えるグミが沢山詰まっていて、小さい私は箱ごと欲しくて堪らなかった。
大人にしてみてみれば、箱ごと買っても大した額ではなかったのだと思う。
だけど、お母さんとお父さんは、いつも二つや三つずつ色んな種類の駄菓子を取ってはおばあさんを呼んで買っていた。
特にあたりつきと書いてあるグミを開けるとき、私以上に二人は楽しそうだった。
そのグミは五個に一個は当たって、私はその度に急いで駄菓子屋に走った。
小学校に通っていても友達が全然出来なかった私は、その駄菓子屋で友達を作った。
最初は親に貰ったお小遣いで、満足していた。
週200円のお小遣いでは少ししか駄菓子を買えなかったけど、全然良かった。
でも友達が増えて、そうして遊ぶうちにお小遣いが足りないと思うようになった。
友達といつも「お金ないね」と言って公園のブランコやシーソーに乗った。
お菓子があったらもっと楽しくなるのに。と思いながら。
学校の帰りに、駄菓子屋さんの前を通るたびに、お金とお菓子の事を思った。
そうして、誰かが言い出した「万引き」に憧れるようになったのだ。
「上級生は万引きしてるんだって」
誰かが言い出してからは、私達はいけない事と思いつつも憧れるようになった。
「バレないって。オバちゃんいつもテレビ見てるから」
大きな音でテレビを見ている駄菓子屋のおばあちゃんを盗み見ては、盗んでも大丈夫そうだと納得した。
「ねえ、夏休みになったら、やってみようよ」
そう、誰かが言った。
万引き決行日は八月生まれの私の誕生日になった。
小学校に上がってから初めての誕生日。
一気に大人になった気がした。
いつも一緒に遊んでいる、アッコちゃんとリッちゃんには内緒。
あの二人は二年生だけど、大人に言いつけるから。
「大丈夫だよ。みんなやってるって」
キラキラしたグミを両手いっぱいに掴んだとき、私は一瞬頭に冷水を浴びたように感じた。
駄菓子屋さんに入る前、グミを目の前にした時までは高揚感で火照っていた頬が、頭が、一瞬で氷のように冷たく重く感じた。
「あ……」
私は言葉にならない悲鳴を上げ、走った。
皆が「待って」と私を追いかけるのを背中に感じた。
待って 待たない 待ってよ ヤダ 待ってったら 来ないで!!
学校の校庭まで走って、両手に何も持っていないことに気がついた。
駄菓子屋を出たときは両手に溢れるほどグミを持っていたはずなのに。
いつもは子供達であふれている校庭には誰もいなかった。
もしかしたら、記憶が違うのかもしれない。
上級生が、サッカーゴールやドッチボールのコートを陣取っていつも下級生は校庭で遊べなかったのに、どうしてこの日は誰もいなかったのだろう。
思い返すとやっぱり可笑しな事ばかりだ。
私を追いかけていたはずの友達もいない、一人ぼっちの校庭。
ポツンとサッカーボールが転がっていて、私は拾って抱きしめた。
そして、泣いた。
「どうしたの?」
夕日に彩られていた校庭の真ん中で、私が泣いていると、上級生に声を掛けられた。
顔は逆光で分からなかったけど、背が高くて、優しい声をした男の子。
私は泣きながらその子の手を握った。
(いつの間にか、サッカーボールは無くなっていた)
後になって、その子は近所に住んでいる6年生の男の子だと分かったが、その時はただ寂しくて、心細くて、男の子が側にいるだけで、私は安心しきっていた。
駄菓子屋さんのおばあさんに事情を説明して謝った。
男の子はずっと一緒にいてくれた。
おばあさんは謝りにきた私を「偉いねえ」と褒めてくれた。
私の誕生日はそうして終わった。
たぶん毎年恒例のケーキやプレゼントもあったと思うが、私にはその年、親とどうやって誕生日を過ごしたのか覚えていない。
覚えているのは、後日友達と会ったとき、友達が私が落としたグミを友達同士で全て食べてしまっていたことが分かり、とても怒ったこと。
でもいつの間にか仲直りしていたこと(卒業アルバムにはしっかりと友達と私で仲良く写っている)
そして、男の子は私立の中学校へ通うことになり、会えなくなってしまったこと。
私の初恋だったのかもしれない。
今でも男の子の事を思い出しては、甘酸っぱいような気持ちになるのだから。
「わぁ! 青い!!」
狭い店内を出ると外は雲ひとつ無い青空だった。
風は冷たく耳が痛いほどだったが、日の光が暖かかった。
あの駄菓子屋のおばあちゃんは元気かな。
あの男の子はどうしているだろう。
そう思いながら、私は懐かしい駄菓子屋さんを後にする。
もちろん、沢山の駄菓子を手に持って。
読んでくださってありがとうございます。
駄菓子大好き。
最近、映画を観るついでに駄菓子屋さんに行きました。
デパートの中の駄菓子屋さん。
懐かしかったので、駄菓子に関するお話書けないかなと思って書いてみました。
すもものような甘酸っぱい思い出。
皆さんにはありますか。
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