9 騎士の目的2
「ミミナ様の後継人として書類作業を任されたお方が、現当主の元妻ミンティラ様でした」
「でした?」
「旦那様が離婚および伯爵家追放を命じたのです……」
なにやらレイバグ伯爵家では大変な状況になっていたようだ。
もしもその場に居合わせていたとしても、私には発言権もなかったしどうすることもできなかっただろうけれど……。
「その後、レイバグ伯爵家の使用人に職務を任せてしまうという暴挙に出た結果、大臣ではなく国王陛下直々の公開説教及び処罰を受ける形になりました」
「こ、国王陛下が関与するって極めて稀ですよね!?」
「はい。過去の職務もブザン様や旦那様自らの作業という形で提出していたにも関わらず、別の人間に全てを任せていたことが明るみになったためです」
だから何度も私の名前を入れておいてくださいとお父様に言っていたのに……。
国王陛下が関与する罰は相当なものになると聞いたことがあった。
さすがに処刑ということはないとは思うが。どうなったのか恐れながらも聞いてみる。
「ブザン元伯爵はこれまでの罪や余罪を含め、現在も地下牢での監禁及び強制労働です。ブザン元伯爵の夫人エル様は今もなお逃亡中ですが、おそらく無事では済まないでしょう」
どういうわけか騎士がとても楽しそうに話しているように聞こえてくる。
まるでこうなることが嬉しそうにしている。
「旦那様はこれまでの罰を全てかぶるという形で、早朝から深夜まで休むことなく書類作業を行なっております。そのうえで給金も当面十分の一に減額。私や使用人らの手当は全て国から支給されていますが、それも旦那様のツケになるため、おそらくは給金がもとどおりになることはないでしょう」
「その状況で私が戻ってもなにも変わらない気がしますが……」
そんな絶望的状況なのに、どうして私に帰ってこいと言っているのかが理解できなかった。
今思えば私が邪魔だったから納屋で生活をさせられていたのだろうし、食事も経費節約のため。
魔法鍛錬や書類での学習に関してはとても感謝しているが、話を聞いている限りでは使われていたような気もしてくる。
追放されてから外の世界を知り、村での優しさに恵まれ過ぎているため、思う節がいくつも出てきてしまう……。
「ミミナ様の書類作業が完璧すぎたからだと愚考しております。おそらくは旦那様が懲りずにミミナ様を使おうとしているのではないかと」
お父様がいつも言ってきたことと話が違ってくる。
お父様からは『大臣の評価が甘すぎるから褒められているだけだ』と言われていた。きっと大臣の評価が厳しくなってきたのだろう。
つまり私が仮に戻って作業をしたとしても変わらないと思う。
「ここだけの話、後継人のミンティラ様自らが大臣に報告をしたことがキッカケでレイバグ伯爵家の闇が暴かれました。ゆえに今ミミナ様がお戻りになられるのは大変危険なことかと愚考しておりまして……」
「どちらにしても、私はもう王都へは戻れません。この村が大好きですし、村民のみなさんとお別れなんてできませんから……」
義兄様には申し訳ないが、こればかりは譲れない。
私一人での問題なら帰るかもしれないが、村民との絆を手放したり、クルウスをわざわざ危険な場所に連れていくことなんてできるわけがないのだ。
しっかりと意思を伝えると、騎士はなぜか喜んでいた。
「思ったとおりだ……。やはりミミナ様は噂で聞いていた人物とはまるで違う」
「うわさ?」
「平民の血が混じっているから出来損ないだの、追放されて当然の性格だっただの、傲慢なうえに露出狂などと貴族界隈では噂になっていました。おそらくこれもレイバグ家の方々が流したデマなのでしょうね」
露出狂……という部分は思い当たる節があるためなんとも言えない……。
四年前の夜会では無知とはいえ大胆なことをしてしまっていた。
黒歴史確定の行為である。
私は事実も一部含まれていますよと苦笑いをしながら伝えた。
「そのように話してくださるところも、噂とはまるで違いますからね。もしも噂どおりのお方であったら是が非でも連れ出すつもりでここへ来ました。しかしそうではなかった」
「どうされるのですか?」
「ミミナ様はとある場所にて幸せに過ごしておられるため、不可能でしたとお伝えします。仮に場所を聞かれたとしてもお答えできかねますと」
「ありがとうございます……」
ここのことをバラされないというのがなによりも救いである。
クルウスが幸せになってもらうためには大変ありがたいことだ。
「ところで、どうやってここに私が住んでいることを知ったのか教えていただけますか……?」
「それはデュール=シークベット公爵閣下のおかげです」
「はい?」
「あのお方は長い間ミミナ様をお探しになられていました。元々関わりのあるお方でもあるため、私もミミナ様に言付けがあり決して悪いようにはしないと断言したら、場所を守秘義務の下で教えてくださったのです。ですから旦那様にミミナ様の居場所を話すことは私の処刑を意味することにもなりますため喋りません」
どうして黙秘できるのかも教えてもらえてよりスッキリした。
シークベット公爵様は元気にしているかと聞くと、騎士はまたも喜んでいるようだった。
「ここへ来れてよかった……。これで私も心置きなく追放を望めます」
「はい?」
「ここまで伯爵家のことをベラベラと喋っていることに疑問を持ちませんでしたか?」
「そうですが……とある事情がありまして心にしまっておきました」
「私はそもそも旦那様に従えるほどの力量はありません。何度も疑問をぶつけましたが全て拒否と主人に従えの一点張りで……。騎士としてのプライドもあるため国王陛下に全てをお話するつもりでございます。もちろんミミナ様のことは伏せますが」
これでハッキリとわかった。
表向きには騎士と名乗っているが、おそらくは……。
「今後のご活躍、応援しています」
「ははは、さすがはミミナ様だ。察しているようですね」
彼は噂で聞いたことがあった騎士団長だ。
名前も明かしたことはないし、貴族界隈でも顔を知っている人がほとんどいない。
騎士という仕事をしながら数々の不正を暴き捌くための王宮直属のスパイ的存在だ。
「なお、当然ながらミミナ様は処罰の対象ではございませんのでご安心を。強引に仕事をさせ納屋で隔離させていたことも明らかになりました。その件の処罰も検討中とのことですから」
「納屋での生活も、お父様は処罰されてしまうのですか?」
「使用人らが白状しております。当然使用人らも罰則の対象になりますよ」
思っている以上に大変なことになっているようだ。
とは言っても追放された側ですでに平民。
貴族のことに対してどうすることもできないのが現状だ。
静かに結果を聞くことしかできない。
「ではこれにて失礼いたします。飲み物、大変おいしくいただきました」
「それはよかったです。もしも機会があればまたこの村にも立ち寄ってください」
「はい。ではどうか公爵とお幸せに!」
「へ?」
騎士はニコリと微笑みながら帰った。
最後のひとことはどういう意味だったのだろう……。
公爵といって思い当たるのはシークベット公爵様のことだ。
騎士団長という立場だから、クルウスのことも知っていたのかもしれない。
騎士団長としての仕事柄もあるだろうし、そこで深くは聞かないでおいた。
急にお幸せになどと言ってきたものだから、私は早くシークベット公爵様と会えないかなあなどと妄想が膨らんでムズムズするのだった。




