3 クルウスとの幸せな村民生活
レイバグ伯爵家を追放されてから、四年の歳月が流れた。
仕事も簡単に見つかった。
その流れで住む場所もあっという間に決まり、順調に『二人』で生活している。
「まーま、ヒールは?」
無邪気に近づいてきて私がどこか怪我していないかを探そうとする。
三歳にしてはしっかりと言葉も話せるようになったし、魔法に関してはものすごい才能を持っているようだ。
それが私が育てている我が子、クルウスだ。
「大丈夫でちゅよ」
「ヒールしたいー」
「そうは言ってもねえ……」
我が子は回復魔法が使えるのだ。
大多数の人は魔力適性があるのだが、回復魔法や治癒魔法の類を使える人間は極めて少ない。
しかも、私に魔力の適性がないにも関わらず魔力適性持ちで産まれてくれたこと自体が奇跡に近いのだ。
「ぱーぱにヒールしたい」
「うーん……まだ帰ってこないかな……」
「たのしみー」
私はクルウスに対して嘘をついている。
実のところ父親が誰なのか私自身もわかっていない。
家から追放される直前での夜会で、私は間違えてワインの入ったアルコールを摂取し泥酔してしまったのだと後にわかった。
そのときにユメだと思っていた美男子……その子の可能性が高そうだ。
もしくは私が寝ている間に知らないうちにいつのまにか……なんてこともあるかもしれない……?
四年前までの納屋生活では、とにかく無知すぎたのだ。
そして、私自身もクルウスと似たような境遇で産まれたのかもしれないと思うようにもなっていた。
クルウスは私の大事な子。
大切に育てて元気に成長してもらいたい。
だが、父親のことをどう説明すればいいのかわからない。
今はまだなにも言えないのだ。
「クルウスのおかげでママは元気になったんだよ。村の人たちもね」
「ヒールたのしー。まほうたのしー」
元気で明るいところがクルウスのとてもいいところだ。
私も元気をたくさんもらっている。
村の人たちもクルウスの魔法によって元気になっているのだ。
そのおかげで、私も村人たちとはとても仲良く暮らせている。
「ママは今日はお休みだし、お散歩にでもでかけようか?」
「わーい」
小さな手を握って外へ出た。
王都とは違い、自然が豊かだ。
そこらへんに食べられる草が生えているし、山に少し登れば木の実もたくさん収穫できる。
流れている川で釣りをすれば釣れたての焼き魚も食べられる。
悠々自適なのんびりとした生活ができるのだから、追放されてよかったんじゃないかとすら思うことも時々あるほどだ。
「まーま。あれなーに?」
「ん? あれは馬車と言って……え……?」
私はピタリと立ち止まった。
見覚えがある馬車だ。
後ろの重い客室をしっかりと運ぶために、多数の馬が先頭に立っている時点で身分の高い人が使うためのものだということはすぐにわかった。
そして客室のデザインに見覚えがあり、あの馬車はおそらく王族が使っているものである。
ここに住み始めてから四年間、ここの領主様が視察に来る以外は誰も訪れたことがない。
私はクルウスを隠すように先頭に立ち、様子を伺った。
やがて客室から降りてきた人にも見覚えがある。
絵画でしか見たことのないような国宝級と言ってもいいほどのカッコいい美男子。
四年前は泥酔していたからしっかりとは見れていなかったが、長い黒髪にほんのりとウェーブがかかっていて、眉もキリッと整えられている。
足も長ければ高身長だし、まさに非の打ちどころがない。
すぐに見るのをやめて逃げるように去ろうとしたのだが……。
「待ちたまえ」
声にも聞き覚えがあるし、夜会で泥酔していた私を抱っこして運んでいた美男子で間違いないだろう。
内心心拍数がえげつないことになっている。
それは彼が美男子だからというわけではない。
クルウスが危険だからだ。
ここで走って逃げたとしてもすぐに捕まってしまうだろう。
なんとしてでもクルウスだけは守るつもりだが、どうすれば……。
そんなことを考えている間にも、美男子はどんどんと私たちに近づいてくる。
「警戒しなくともいい。キミと少々話をしたくてね」
「申し訳ございません。どちら様でしょうか……?」
嘘はついていない。
顔は知っているし、夜会にいたのだから貴族の人間であることは間違いない。
だが納屋生活をしていたため貴族の名前と顔が一致しない人が圧倒的に多いのだ。
美男子はくすくすといたずらに微笑む。
「そういえば名乗っていなかったね。私はデュール=シークベット」
そのお名前を聞き、とんでもない無礼なことをしてしまったのだと瞬時に判断した。
慌てて片膝を地面につけ、頭を下げた。
クルウスは立ったままだが、貴族教育なんてしていないし、至極当然のことだと思う。
だが、なんとかして頭を下げてもらいたい。
そのように慌てていると……。




