16 消えた魔法
「あれー? あれれー?」
「申し訳ございません」
デュール様が帰られてから一ヶ月。
それまでは今までどおりの日常になっていたが、久々にクルウスの回復魔法が必要なときがきたのである。
村長のギックリ腰を治そうとしたのだが、なぜか魔法が発動しなかった。
「いやいや、謝ることではないですよって……あいたたたたた!」
尊重が手を左右に振りながらそういうものだから、とても痛そうだ。
治せないことにクルウスがとても不思議そうにしている。
「歩けるようになってから、回復魔法って使った?」
「んーん。ない」
「つまり……」
クルウスの病にかかってから初めての発動……。
てっきり何度か使っているものだと思っていた。
おそらく、クルウスはもう回復魔法が使えなくなってしまったのかもしれない。
そのことを村長に説明した。
もちろんデュール様のことは伏せながら。
「そうですかい」
「回復関係では、お力になれないかと……」
村長はゆっくりと動こうとするが痛くてそれができそうにない。
一番近くにいるクルウスになにかしようとしている雰囲気だったため、村長の手の届く範囲へ誘導させる。
すると村長はそっと頭を撫でた。
「今までありがとうな。クルウス君とミミナさんがこの村に来てくれてから、ガラリと活気がでたよ。本当に感謝しているよ」
多分クルウスはどういうことなのか理解はしていないと思う。
だが撫でてもらったことがとても嬉しかったようで、きゃっきゃっと飛び跳ねている。
「ちょっと私は今動けないから、ミミナさんや……そこの棚に今月の給金が入っているから取ってくれますかい?」
「は、はい。ありがとうございます」
あ、いつもの封を発見!
私は村長に確認してから中身も確認した。
なぜか二ヶ月分入っている。
「先に言っておきますが、領主様からの報酬ですよ。ミミナさんの書類が完璧すぎて領主様も非常に助かっていると。書類処理をした者に渡すよう言われております。つまり全額をミミナさんへ」
「よろしいのですか!?」
「ミミナさん一人でやってますから当然のことです。せっかくですからその金で商人から質のいいドレスでも買ってみては? ミミナさんなら貴族と言われても不思議ではない」
一瞬ドキリとした。
四年経っても貴族令嬢だったということはバレていない。
デュール様がいらしたときも、クルウスと回復魔法の共通点があることで仲良くなっているということになっていた。
このままクルウスの父親がデュール様であることがバレることはなさそうだ。
♢
「やあ、久しぶり」
「デュール様!?」
こうして村でお会いするのは三度目になるが、一番驚いてしまった。
まず服装が今までとまるで違う。
今までは少々ラフな着こなしはしていたものの、貴族王族が着用するようなものだった。
しかし、今日の服装はカジュアルな雰囲気でとても爽やかなイメージである。とても馴染みやすい。
ふと外を見ると、馬車もいつものとは違う。
私が初めてこの村へきたときと同じ?
あれ?
御者も見覚えがあるような……。
「どうだろう。こういう格好ならばこの村に馴染めるだろうか?」
村のために合わせてくれているようだ。
正直なところ、堅い格好よりも今日着こなしている服装の方が私好みでもある。
そのとおりに伝えると、ニコリと微笑んだ。
「よかった。この村に滞在するつもりなのでね」
「ということは……これからは一緒に」
「ああ。どうしてもミミナとクルウスと一緒にいたくて」
こんなに嬉しいことがあっていいのだろうか。
公爵という立場だと結婚は難しいとは思うが、形式上がどうであっても一緒にいられることがなによりも嬉しい。
「心配だったのだが、クルウスは大丈夫か?」
「それが……元気ではありますが、どうやら魔法が使えなくなってしまったようです」
「やはりそうか。実は私もそうなのだよ」
もしかしたらデュール様はそれが原因でこの村へ……?
だとしたら王都の貴族社会に怒りを感じてしまう。
「ミミナならなんとなく想像がつくかもしれないが、事実上のお飾り公爵になれたよ」
「な……れた?」
「どうやったら正式にこの村を中心に生活できるか考えていた。そんなとき急に回復魔法が使えなくなってね。国の連中は私の魔法にしか興味がなかったから、魔法適性がなくなった鑑定書と一緒に報告したらあっさりだったよ」
公爵という立場や元々住んでいた屋敷は一応そのままになっているそうだが、今は完全なお飾り公爵なんだそう。
今後任務もなければ給金すら発生しないらしい。
最低限の屋敷維持の使用人を残し、残り全員に違約金と生涯生活に苦労しない程度の退職金を払ったそうだ。
こちらで一緒に暮らせるようになったのは本当に嬉しい。
だが、私は貴族に対してものすごく怒っている。
「多くの方は見る目がないのですね! デュール様の回復魔法以外のすごいところをわかっていない……!」
「そっくりそのまま言葉を返すよ。ミミナに対してだってそうだったろう? 血筋がどうこうだけで雑に扱う者たち。さすがにレイバグ伯爵らは異常だったが」
ここのところ毎日が充実しすぎていて、家族だった人たちのことをすっかり忘れてしまっていた。
お父様は牢に入っていて、義母様は……たしか逃げていたとか。
義兄様は伯爵としての書類関係を自分で頑張っているようなことを聞いていた。
だが、今はもう過去のことよりもデュール様のことで頭がいっぱいだ。
「魔法が使えなくなってしまったのは、クルウスを治してくださったから……?」
「可能性はあるかもしれないが、ミミナが責任を感じることはないよ。むしろなくなってよかったとすら思っているから」
「はい!?」
デュール様が本当ににこやかにそういうものだから、驚いてしまった。




