15 もう一度だけ
「デュール様!?」
これはユメなのか現実なのかわからない。
是が非でも現実であってほしい……。
「すまない。あまりにも疲れていそうな表情で寝ていたものだから声はかけないでいたよ」
そんなことはもはやどうでもよかった。
感情のままにデューク様に抱きつく。
「お目覚めに……なられたのですね……よかった!!」
「記憶も無事だよ。身体も特に異常はない」
「クルウスは……?」
「ああ、歩けるようになって嬉しかったのだろう。外へ出かけてしまったよ。だが、安心してくれ。護衛がしっかりと付き添っているから」
誰とでも仲良くできるクルウスだから、おそらく護衛に強請ってしまったのだろう。
なにもかもが嬉しすぎて、ただただデュール様とくっついていたい。
だが目覚めてくれたからこそ聞きたいことが山ほどある。
その前に……。
「おなかはすいていますか? なにか飲み物だけでも」
「ああ、ありがとう。それなら先日の紅茶が飲みたいかな」
「食事は? 丸一日以上寝たきりでしたしなにか食べられたほうが……」
「お気遣いありがとう。食欲はまだでてこないから、なにかサッパリとした軽いものがあれば」
「承知しました!」
紅茶を淹れながら、ありあわせのものを使って大急ぎで作った。
普段デュール様が食べているものと比べたらてんで大したものではない。
それでも、私が作ったものを食べてくださると言ってくれたことが嬉しい。
できる限りおいしくなるように作ってみたのだが……。
「やさしい味だね」
「ありがとうございます……!」
「なんというか……心込めてくれているような感じがする。スープが特にそう。脂身が全くないし、今の私にとってはとても飲みやすいよ」
喜んでくれているようでよかった。
護衛たちにも用意してあるため、皿に盛りつけて届けた。
すると、護衛たちもまたありがとうございますと言ってくれたことがとても嬉しい。
むしろ私の方が何百回でもお礼を告げたいくらいなのに。
食卓へ戻ると、デュール様がおいしそうにしながらのんびりと食べてくれている。
「こうしてミミナが作ってくれた食事を楽しめて幸せだよ」
「ありがとうございます。目覚めてくれただけでなく、記憶が残っててくれて本当に嬉しいです」
「うまくいってホッとしているよ」
「そういえばなにか対策をしたとおっしゃっていましたよね?」
「ああ。自分自身の脳に回復魔法をかけておいたんだ」
そんなことができるのか。
ということは、クルウスも今後あらかじめ脳に回復魔法をかけておけば、この病にも対抗できるようになるのかもしれない。
ただ……長い時間意識が飛んでしまうのはどうしても心配になってしまうが。
「では魔法の使いすぎで意識がなかなか戻らなかった……のですか?」
「いや、また助けられたようだ。ミミナとクルウスに。おいしかったよ、ごちそうさま」
「へ?」
そう言いながらデュール様がちょうど食べ終えたところ。食べた食器を片付けようとしてくれたが、そこは私がやるからと止めた。
それよりも助けた覚えが全くない。私の記憶、また飛んでいるとでも?
「護衛から聞いたよ。私が眠っている間、ずっと口が触れ合っていたようだね」
「はい!? あ……そういわれてみたら、眠ってしまう直前までデュール様と……」
唇を意図的に触れていた記憶はある。確か同時に一気に疲れて眠ってしまった。つまり、寝ながらもずっとずーっとデュール様と……。
考えただけで頭の上から湯気が出てきそうなくらい恥ずかしかった。
「クルウスも起きたときに私の頬にしてくれたようだよ。その直後に私は意識が戻ったのだとか」
「え? ではクルウスも昔の私と同じように魔法を?」
「そうかもしれない。真実はわからないけれど、私は二人がずっと触れてくれたからこそ意識を取り戻せたのだと思っているよ」
「はい?」
「もしかしたらここぞというときにミミナの回復魔法が発揮されたのかもね。二人がいなかったら私は意識が戻らなかったと思う」
そんな夢物語のような話を淡々と語る。真実はデュール様本人もわからない。
だが、あくまでも私とクルウスが助けたということにしようとしてくれるその気持ちが優しくて温かかった。
「さて……私は一度王都に帰らなければならないのだが……」
「やはり行ってしまうのですね」
「ああ。だがまたこの村に戻ってきてもいいかい?」
「もちろんです。いつまでも待っていますよ?」
デュール様がにこりと微笑んでくれた。
一時はもう会うことができないと思っていたお方とこうして会話ができる。
それだけでも嬉しいが、やはりまた会えたら会いたい。
だが帰る前にもう一度だけ……。
そう思い再び……。




