13 ミミナの過去3
「失礼ながら考えてください! 今ここでシークベット公爵様の記憶がなくなったら、クルウスと私が処刑される可能性が高いことを……」
夜会の行為もそうだった。
シークベット公爵様がなにも言わなかったから今の私たちが無事である。
だが、今回はまるで違う。
記憶を失い残されたシークベット公爵様をそのまま返したら確実に調査が入って関係者である私たちが問い詰められ……そして処刑になる。
記憶を奪った犯人として。
貴族社会はそんなものだ。
どんなに真っ当な意見を述べても、最終的には身分が低い人間に責任転換される。
裏で大きなお金が動いてもみ消されることもある。
とはいえ、クルウスが助かるすべは、話を聞いていた感じではもうこれしかない。
だが、やはりちょっと待ってほしいと思ってしまった。
クルウスを守るために村を出て、王都からもっと遠い場所へ逃げるべきか?
いっそのことクルウスはシークベット公爵様の子でもあると公表して、クルウスだけでも無事王都に連れられて私は処刑になるべきか?
良い答えが見つからない。
「大丈夫だよ。もしもの際は護衛に渡してある遺伝子鑑定書を使ったうえ、ミミナとクルウスは私の意思で守ったと直筆のサインもしてある。これならば絶対にミミナたちが危険な状況になることはない」
「しかし……シークベット公爵様の記憶が……」
「一応賭けとして対策は考えているが、おそらく失敗するだろう。だが、記憶を失ったとしても構わないよ。そもそも私がもっと早くにミミナたちを発見できればよかった。伯爵を問い詰めても追放しただの違反しただのと戯言ばかり。行き先もわからず徹底的に探すのは苦労したよ……」
「そんなに探していたのですか……」
「ミミナのことを諦められるわけがない。まさか会いに行こうとしたらすでに追放され貴族でなくなっていたことには驚かされたが」
国中探してくれていたのだろう……。
国と言っても書類作業をひたすらにやっていた私であっても知らない場所が多すぎる。
おそらく王家の人間でも、王都以外における国中の情報を集めること自体が困難だ。
その労力を考えたらとんでもないことだ。
「こうして再びミミナに逢えて、話もできた。私は満足しているよ」
これ以上なにを言ったらいいのかわからなかった。
すでに私は大粒の涙をこぼしている。
それをシークベット公爵様が優しく拭いてくれる。
「たとえ記憶がなくなろうとも、また私のことを好きになってくれるかい?」
「あ……たりまえです! 本音としては、ずっとシークベット公爵様と一緒に暮らしたいです……家族三人で。私もデュール様のことを愛していますから!」
今まで言いたくても言えなかったことを素直に伝えた。
他人行儀でなく名前呼びでそう言った。
本来であれば、不敬罪になってもおかしくはない呼び方である。
だが、感情と心境が抑えられなかったし、もう二度とこの想いが伝わらないかもしれない。
そう思うと我慢ができなかった。
シークベット公爵様もといデュール様は、とても嬉しそうに微笑んでいる。
「ありがとうミミナ。これからもずっと名前で呼んでほしい」
「はい……」
「さて……では治しに行くとしよう」
「ま……待ってください!」
デュール様が動こうとするが、私は咄嗟に彼の服をつまんだ。
「不謹慎かもしれませんが……」
「なんだい?」
「夜会のときの記憶はほとんどありません。一度だけ……その……」
「いいのかい?」
それだけで意図は伝わったようだ。
クルウスの病は一秒でも早く治ってほしいとは思っているが、今は幸い元気そうだったし余命も残されている。
だが、デュール様との時間はもうこれっきりになる可能性が極めて高い。
そう思うと、せめて一度だけ彼との愛の記憶だけは残しておきたかった。
寝室に鍵をかけ、四年前のことを再現してもらう。
なんて幸せなのだろうか……。
もしもデュール様と再び一緒になれたとしたら、今度は私が伝えよう。
そう思いながら長い夜は過ぎていった。
何度も経験した直後に、デュール様は寝ているクルウスに口づけというよりも人工呼吸をしているようだった。
まるで父親が子を助けているかのように見える。
そして……話してくれていたようにデュール様はその場で倒れてしまった……。




