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追放された元貴族令嬢は隠し子を幸せにするために平穏な村で仲良く子育てしています 〜追放した貴族たちは仲悪く破滅していきます〜  作者: よどら文鳥


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12 ミミナの過去2

「私が六歳のときだった。幼いながらも将来のために王都の視察でミミナ当時住んでいたであろう近辺を護衛と共に巡回していたときのことだよ」


 シークベット公爵様は私よりひとつ年上だったはず。つまり私が五歳のときになる。

 記憶がない時期と一致していた。


「急に歩けなくなってね。すさまじい吐き気も伴って道端で泥のように寝込んでしまったのだよ。護衛も必死になってくれていたが、私の場合とにかく吐き気が酷かった。動かさないよう頼み込みその場でしばらく様子見だったよ」

「クルウスが歩けなくなった初日と同じです……」


 ということはシークベット公爵様自身の魔法でも治せなかったのだろう。


「宮廷魔術師を呼んでくれてね。そのとき私の現状を知ることができた。もう助からないと。だが、父上にも母上にも心配だけはかけたくなくて、余命のことは言わなかった。それは宮廷魔術師や護衛にも喋らないように伝えていたよ」


 余命宣告の辛さは今私が一番理解している。

 家族がいざそうなってしまうと、どうしようもなく辛い苦しみに襲われてしまっているからだ。

 先ほどまでは謎の病と思っていたときの方が、心配はしていたものの精神的にも安定していた。


「当時の私はワガママだったからね。最期に恋だけはしてみたかった。おそらくミミナも引くと思うが」

「いいえ。どんな発言であっても受け入れます」

「貴族同士で恋はできない。平民と貴族との婚約もできない。そう教えられていたから、あえて二度と会うことのないであろう平民と恋がしてみたかった。仮に両想いになってしまっても、諦めがつくと思っていてね……。もちろん当時の考えであって、今はそのような非道な考えは持っていないよ」


 幼少期の考えを今も反映していたらキリがない。

 クルウスも成長してくれたら今の危険な思考や発言もしなくなると願っている。

 過去はあくまで過去であって、むしろ当時はこうだったんだよと素直に話してくれているほうが嬉しい。

 ますますシークベット公爵様のことが好きになっている。


「その相手がミミナだった。歩けなくなってしまった私相手でも気にせずに仲良くしてくれたのだよ」

「過去の私がうらやましい……」

「ミミナと話して何日かしてからだった。一緒に遊んでいるときに突然吐き気が伴って、ミミナに対して盛大に吐いてしまった……。当然ながらミミナの服も顔も汚してしまったよ」


 そんなの洗えばどうにでもなる。

 それよりも当時のシークベット公爵様は、さぞ辛かったのだろう……。


「だがミミナは嫌な顔ひとつせず、背中を摩ってくれた。これがどれほど申し訳なくて、どれほどありがたかったか……」

「それで治ったのですか?」

「いや、大事なのはその直後だよ。ミミナはこう言ったんだ。『わたし、回復魔法が使えるから治すね』と」

「え!? 私が……ですか!?」


 魔力適性のない私。さすがにそれは違うだろうとつい聞いてしまう。


「そうだよ。だが、回復魔法をかけてくれたのだろうが効かなかった」

「つまり……シークベット公爵様の回復魔法でもクルウスは治せないということですか……」

「いや、そうではない。当時のミミナはさらにもう一度かけてくれたのだよ。その……くちづけで」

「はいいっ!?」


 衝撃的なことを聞いて大きな声を出してしまった。

 だが思い当たる節もある。

 好きになった相手にだったらちゅーしたいだとか平気で考えてしまうところがある。

 しかも抑制のない幼少期であれば、どんな手を使っても治したいと思っていたかもしれない。


「護衛もさすがに慌てていたようだが、私はなにがあってもミミナを止めることはしないように伝えていた。ゆえに口づけは続いたよ」

「当時の私、うらやま……なんと失礼な……」

「まるで口移しでミミナの回復魔法……いや、魔力そのものが流れてきたのだろうな。私はそれまでの吐き気や歩けなかったのがなかったことのように完治した」

「よかった……」

「いや、よくなかった」


 なぜですか? とすぐに聞く。

 なぜかシークベット公爵様が謝ってきた。


「ミミナはその直後に倒れ、目覚めるまではキミの家で看病をさせてもらったよ。幸いにもミミナのお母様とは仲良くなれていたからね……」

「つまり……起きたときには?」

「記憶喪失になっていた……。私と遊んでくれた記憶も、家族のこともなにもかもだ……。そしてミミナの回復魔法も使えなくなっていた。いや、魔力適性そのものが全て失ったのだと思う」

「……………………」


 そんなことがあっただなんて知らなかった。

 だが、目覚めたときの記憶も私には残っていない。

 どうなってしまったのだろう。


「宮廷魔術師にはことの成り行きを話したが、ひどく怒られたよ。その平民を連れてこいと。実験材料にするなどと言うものだから、嘘をついて魔力を失ってショックで死んでしまったと言っておいた」

「このときも助けてくださっていたのですね……。ありがとうございます」

「私はミミナのことを諦めきれなかった。だが、存在が知られればきっと危険な目に遭ってしまう。そう思っていたが、年々我慢ができなくなってしまってね。その結果、誰とも恋はしなくなり縁談話や子孫作りもできず」


 記憶に残っていないことが、とても残念だ。

 知っていたら、もっと早くシークベット公爵様と再会することができたのかもしれない。


「四年前……あの夜会では本当に驚いた。成長しているうえに泥酔状態だったとはいえ、ミミナだというのはすぐに理解できたよ」

「泥酔はお恥ずかしい……」

「だがチャンスだと思った。もう当時のことを知っている宮廷魔術師はいなかったし、話したかった。たとえ当時の記憶が残ってなくとも」


 再びシークベット公爵様は頭を下げて謝ってきた。

 腰が低すぎる。きっと昔のシークベット公爵様もそんな感じだったのだろうなあと想像した。

 たぶん、昔の私もそんな彼のことが好きになっていたのだと思う。


「私はあのとき、回復魔法と口づけでミミナに返すつもりだった。とは言っても、なにも知らないミミナからすればただの卑猥行為になるが……」

「泥酔していなかったらそう思っていたかもしれませんね……」

「だがなにものかに襲われ、例の如く……私も我慢ができずそうなってしまった。本当に申し訳ないと思っている」

「もうそんなふうに思わなくて結構ですよ。クルウスが可愛いですし、村民にも好かれていますし幸せなんだと思います」


 強いて言えば、ちゃんと記憶がある状態でもう一度……などとは言えなかった。


「すまない……。結局ミミナには回復魔法適性も魔力も返すことができず、ただの卑劣魔になってしまったことを。だが、どうしてここまで今話したかわかるかい?」

「いえ……。全くわかりません」

「真実は覚えている間に伝え、しっかりと謝罪したかったからだよ」


 それを聞いてハッとした。

 いやいやちょっと待て!


 クルウスの病と余命は是が非でも治したい。

 だが、シークベット公爵様は己の記憶と魔力を犠牲にして意図的に救おうとしているのではないだろうか。

 そんなことをしたら……クルウスの未来が余計に心配になる。


「まさか……」

「ああ。クルウスに口づけをして私の回復魔法全て全身全霊をかけて治すよ」


 シークベット公爵様の目が本気だった。

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