11 ミミナの過去
「風邪とは違うような雰囲気もあって……。ひとまず安静に寝かせつつ、食事も栄養のあるものを用意しています」
「いや、かなり危険かもしれない! 至急会わせてほしい!」
「感染症などだとシークベット公爵様も危険になってしまうかもしれませんよ?」
「構わん。それにその症状を私は痛いほど知っているし、解決策も知っている。確認をしたい」
言われてみたらシークベット公爵様は回復治癒魔法を使えるお方だった。
きっと魔法で治してくれるかもしれない。
そう思ってすぐにクルウス専用の部屋へ案内した。
寝たままのクルウスがその状態で挨拶をしてくる。
「まーま。えーと、でゅーる?」
「こらっ。ちゃんと『様』とつけるのです」
「まーまさま」
そうじゃない。内心かわいいと思いつつも、これはとんでもなくシークベット公爵様に対して失礼な行為である。
私がシークベット公爵様に謝るも、今はそんなことはどうでもいいし気にすることではないと言われた。
小さな子であっても王都でこんな発言をしたら、本来ならなにかしらの罰があるというのに。
「……言葉は喋れる。食事も摂れる。だが、起きれなくて歩けない状態なのだな?」
「そのとおりです」
「ほかになにか気がついたことはあるか?」
「そうですね……」
足に異常はないのに、なぜか歩けない。急に嘔吐することがある。クルウス自身の回復魔法で治せなかった。
思い当たる節を全て伝えると、ますます顔色が青くなっていく。
「このままではクルウスは死んでしまうかもしれない」
「えっ!?」
「私も一度この病にかかっている……。治してくれたのがミミナだよ……」
「え、そんな……覚えがないです」
さすがに人違いだと思った。
人違いのまま私のことを好きだったとなればこんなことは言いたくない。
だが、根っからに優しいシークベット公爵様のことを騙していくこともしたくなかった。
たとえ今後好きじゃなくなられたとしてもはっきりと言っておく。
しかし、シークベット公爵様は私が治したことに間違いないと言い張る。
「私がミミナのことをずっと好きで、なおかつ誰からの縁談も受け入れられなかった理由だ。ミミナはかつて私を救ってくれた」
「う、嘘ですよね」
「本当だよ。だが知らないのも無理はない。ミミナの記憶を失ってしまっているからなんだ」
「どうしてそのことを……」
実のところ、私は五歳くらいまでの記憶が全くない。
その少しあとに母親が亡くなり一人露頭に迷っていた。
まさか母親が亡くなってしまったこともなにか関係があるのだろうか……。
「先に言っておく。当時の宮廷魔術師の診断では、この病にかかったあとの余命は半年から一年。だから、今すぐに……ということはおそらくない。だからミミナには当時なにがあったのか、先に話しておきたい」
「は……はい」
いきなり余命宣告され、とてもじゃないが落ち着いていられない。
だが、シークベット公爵様が真剣そのものだし、なんらかの理由で治った。
つまり、シークベット公爵様が治せるのだと思い、感情を必死に押さえた。今は聞くことに専念する。
クルウスはまだ言葉を深くは知らないが、念のために部屋を移動した。
「これから話すことは、回復魔法や治癒魔法を使える人間が極端に少ない理由だ。もちろん既存の魔法学本にも参考書にも載っていない内容になる」
「……承知しました。黙秘を守ります」
「今クルウスがかかっているのは、回復治癒魔法特性がある人間にしかかかることがなく、放置すれば死に至る病だ」
必死に涙を堪えて話を聞くことだけに専念する。
一字たりとも聞き逃さないように集中した。
「これはまだ解明されていないことだが、人間には本来使うことができない特殊な力を連発することによって起こりやすくなる病だと聞かされていた」
「で……ではクルウスも回復魔法を使わないようにしていたら、こうはならなかったのですか……?」
「そうかもしれない。だが、私が前回来たときにはすでに村人たち全員に回復魔法を使っている状況だと聞いてしまった。すでに私が過去にやっていた回数よりも多い。だから頻繁に様子を見にこようと思っていたのだよ」
教えてくれなかったのも優しさなのかもしれない。
もしも前回会ったときにいきなり回復魔法を使わない方がいいと言われてもピンとこなかったと思う。
前回無理をするなと言っていた理由がこのことだったのだと初めて理解した。
「治す方法がたったひとつだけある。それがミミナから教わったことだよ」
「なんでもします! もしもシークベット公爵様の病も私が治したのだとしたら、クルウスを治したい……!」
「それは無理だ。今できるのは私だけになる」
「え……?」
言っていることがよくわからない。
だが、わからないなりにも治すすべを知りたい。
「やり方を話す前に、ミミナが記憶を失う前のことを伝えておきたい」
「は、はい……」
「本当に私にとって大事なことなんだ。これはミミナにはどうしても知っておいてもらいたい。もちろん疑っても構わない」
こんな状況で嘘を話すような人ではない。
だが、どうして今このタイミングで急に話すようになったのかが引っかかっていた。




