10 シークベット公爵再び
「また逢えて嬉しいよ」
日も暮れようとしているタイミングでシークベット公爵様が家に訪れてきた。
実のところ三日ほど前から、クルウスの体調が非常に悪い。
そして突然のことだったため、私は大慌てだ。
「本当に来てくださったのですね!」
「もちろんだよ。今回は大事な用事もあってなのだけれどね」
「よろしければお上がりください」
言った手前、これはまずいんじゃないかと思ってしまった。
村民の皆様にはいつもの流れで家に上げている。
しかし、王族の公爵様を家に上げてしまってもいいのだろうか。
少なくとも、レイバグ伯爵家にいた頃は簡単には上げていなかった気がする。来る前日はとてつもなく徹底した大掃除をさせられていた。そして当日は納屋から一歩も出るなと命じられていたのである。
そう思い発言を撤回しようかと思ったが、シークベット公爵様は嬉しそうにしている。
「ではお邪魔するよ」
「は、は、はい。どうぞ。飲み物は飲まれますか? 毒味役は私自ら行えば大丈夫でしょうか?」
王家の人間はたとえどのような場所であっても、必ず毒味役を通してから食べ物や飲み物を口にする。
それを知っているからこそ、先にその旨も伝えておいた。
奥に止まっている馬車に護衛や毒味役もいるようだけれど、家には入らないのだろうか。
「ははは。気遣いしなくともいいのだよ。前回会った時と同様に王家のルールは気にしなくともよい。ミミナが用意してくれたものはありがたくいただこう」
「ありがとうございます……!」
いつのまにか名前を呼び捨てになっていた。これは嬉しい。
会話はともかくとして、飲食ともなると話は変わってくる。
よほど信用してくれなければ言えないような発言をしてくれて、とても嬉しかった。
せっかくだから手に入れたばかりの茶葉を使ってみよう。
ところが用意のために移動しようとすると、急に体温の温もりを感じた。
シークベット公爵様が私をギュッと後ろから抱きしめてきたのである。
「シ……シークベット公爵様?」
「本当に……会いたかった……! すまない、勝手なことを」
どういうわけかシークベット公爵様の声が震えていた。
比べてしまうのは失礼ながら、まるでクルウスがグズって我慢できないときの雰囲気と似ている。
そんなことを言われたら、私も我慢できなくなってしまうではないか。
毎日毎日シークベット公爵様に逢いたい、逢いたいと思っていたことが。
「私も同じ気持ちでした……」
そのままギュッとされたまましばらく動かなかった。
♢
ひとまず落ち着いたところで、予定どおりに飲み物を用意した。
「この紅茶……今まで口にしたことがないほどおいしい」
とても気に入ってくれたのか、熱いのを我慢しながらもハイペースで飲んでくれている。
時折『あつっ!』といった仕草をされているところも失礼ながら可愛い。
「この村で長年農家をやっている方が収穫してくださって、今日ちょうどいただいたところなのですよ」
「そうか。お世辞抜きで本当においしい! しかもミミナが淹れてくれたのだろう。なおさらだ」
「あの……護衛さんや御者さんは中に入らなくてよろしいのですか?」
落ち着いてきたところで、ずっと気になっていたことを尋ねた。
それに外は暗くなってきている。
おそらく村に泊まるのだろうけれど、ここは王都のように観光地としては全く利用されていないため、宿などが全くない。
外部の者が泊まれるところと言ったら商人用の寝泊り用の家が一軒と、領主様専用の大きな家が一軒あるだけだ。
「ここへ来る前、村長さんのところへ行っててね。今日はそこで泊めさせてもらうことになったよ」
「それならよかったです」
「私は……ここで寝たらさすがにまずいだろうか」
「へい!?」
しまった。言い間違えた。『はい?』というつもりだったが、突然訪れたチャンスによって変な言い方になってしまった。
「クルウスとも少しだけで構わないから会っておきたくてね……」
「そうでしたか……。実はクルウスが三日前から寝込んでしまっていて……」
「なんだって!?」
驚くのはともかくとしても、極端すぎだ。
顔が真っ青になっていくシークベット公爵様。
まだまともに会話したこともない状況ではあるが、すでに大事にしてくれていることが伝わってくる。
ひとまず安心させないとと思い、状況を詳しく話した。




