1 4年前、ミミナが追放されるまで
シークレットベイビー企画に参加させていただきました。
ベイビー登場は3話から目になりますが、どうぞよろしくお願いいたします。
「ミミナはレイバグ家から追放だ!」
お父様ことブザン=レイバグ伯爵は冷酷な視線で睨みつけてくる。
珍しくレイバグ家本邸に呼び出されてからのいきなりの追放宣言で、なにがなんだかわからなかった。
わたし、ミミナ=レイバグが十八歳の大人になったから……?
「つい……ほう?」
「私と今は亡き平民との間に産まれたのがミミナだ。まさか産むだなんて考えもしなかったよ。そのせいで、どれだけ私が苦しめられたと思っている?」
周りの使用人たちも、黙ってうんうんと頷いていた。
苦しませていただなんて、衝撃だった。
わたしたちが住んでいる国では、魔法による遺伝子鑑定技術が優れている。
学力がなかったために年齢は覚えていないが小さいころに母親が亡くなり、わたしはひとりぼっちになった。住むところも食べるものもなく路上で拾われたのだが、国の遺伝子鑑定によってブザン伯爵の子であると判明しここに引き取られた。
今までの伯爵家の立場というものもあり、わたしは一人納屋で生活をさせられていた。
とは言っても、待遇はとてつもなく良い。
形状は貴族の子という扱いになり、いきなりの貴族教育……というよりも仕事で使うための知識教育。
色々と覚えられたことは感謝しているし、その結果お父様の仕事をほとんど任せてもらえて、寝る暇もなく働ける毎日。
どんどん国のことや貴族のことが覚えられて嬉しかった。
食事だって供給されていた。
主に両親と義兄様が食べた残り物の残飯処理。
骨にくっついた肉なんて滅多に食べられるものではない。
冷たいスープも硬いパンも、わたしの空腹を満たしてくれるご馳走である。
だが、義母様とお父様による指導がどうしても耐えられなかった。
通常では見えない場所を狙って毎日殴られたり蹴られたり。
どうして痛い思いをしなければならないかというと、これにも理由があった。
「魔法が使えない貴族などありえない。やはり平民の血が流れている弊害だ」
「申し訳ございません……」
なんとかして魔法を開花させようと必死だったんだと思う。
それに対してわたしはというと、『痛いです』『怖いです』と反論ばかりしてしまう。
期待に応えられず、申し訳ないという気持ちはあるが、日に日にエスカレートしていく指導。訓練とはいえ痛いのが耐えられない……。
「ミミナに押しつけていた仕事に関しても、息子の嫁が引き受けてくれることになった。ゆえにお前はもうここにいる理由がなにもない」
「な、なんでもしますからどうかここにいさせて欲しいのです……」
「ならん!! どんなに仕打ちをしても喜ぶようなバカならば、どこででも生きていられるであろう」
仕打ち? ああ……訓練に耐えてきた忍耐力のことかな。だが喜んでなどいない。
当主の命令には絶対に逆らえないのである。わたしはしょぼんと頭を落とすものの、とあることを思い出す。
「せめて明後日に追放ではいけませんか?」
「なぜだ?」
「明日の夜会の招待状をわたし宛にいただいておりました。今まで一度も行ったことがありませんでしたし、すでにお返事もしております」
普段だったら必ずお父様に確認をしていた。
しかし、この時は初めてのことだったため、つい浮かれてしまっていたのだ。しかも、急いでいるからと返事を急かされていた。
受け取った招待状の手紙をその場で記載し、届けてくれた御者に渡してしまった。
その直後に義母様からのキツイ指導があったのである。この日は背中が溶けるようなほど深傷を負ったしまい、そのまま気絶したのだ。
そのことも今ここでしっかりと説明して謝罪をした。
お父様は苛立ちながらもそわそわとしている。
「勝手なことを……。承認してしまったものを断るのは我がレイバグ伯爵家の汚名にも繋がりかねん……」
渋々ながらも承諾を得ることに成功した。
「せいぜい大恥をかいてくるがよい」
「はい?」
「もしも、夜会で伯爵以上の者から求婚を得られたならば、追放の件は白紙とする」
「本当ですか!?」
絶対無理だといわんばかりの頷きを見せてきたが、そんなことは行ってみないとわからないではないか。
「ああ。だがミミナが平民との子であることは誰もが知っている。無駄だ」
「頑張ります!」
夜会だなんて右も左もわからないが、とにかく行ってみないと始まらない。
そう思っていた。
♢
初めての夜会に参加させてもらったが、お父様の言っていたとおり婚約は難しいかもしれない。
「さすが平民風情の令嬢ですこと。ドレスコードも知らないのでしょうか」
「おそらくはブザン伯爵があえてそうさせたのでしょう。最近になって書類処理がしっかりとなされるようになったからって、調子に乗っているのでしょうね」
「ブザン伯爵の不貞もあり得ないですが、その子もあんなんじゃあり得ないですね」
わたしのことを侮辱されるならいいのだが、お父様の悪口を聞かれるのが辛かった。
わたしのために仕事をやらせてくれていたし、残り物のごはんだって与えてくれる。
今日のためにと用意してくれた初めてのドレスだって優しさを感じている。
どうしてもサイズがなかったからと、膝上二十センチくらいまでの丈しかないドレスなため、生足を披露してしまっている。
このことを指摘されているのだとは思うが、急だったために仕方がないことだ。
そうとも知らずに悪口ばかり言ってくる人たちが辛い。
二人がペアになってダンスを楽しんでいるが、わたしはひとりきり。
だが、今になって楽しくなってきた。
たくさんの料理が並べられていて、どれも取り放題食べ放題だからだ。
こんな高待遇は経験したことがない。
求婚されなければ追放されてしまうため、今のうちに食べられるだけ食べた。
そして、おなかが満たされた後はジュースも飲めるだけ飲んだ。
見たこともないグラスが用意されていて、それを手にして一気に飲む。
妙な味ではあるが、とにかくたくさん飲む。
すると、徐々に身体がフラフラとしてきて、まともに歩けるような状況ではなくなった。
もはや羞恥心がどうのこうのと言っていられるような状況でもない。
下着があらわになろうが直したり隠したりする余裕すらないのだ。
意識が遠のいていくところで、誰かがわたしを担いでどこかへ連れられていくような感覚に襲われた。
幻覚? ユメ?
目の前には絵画でしか見たことのないような国宝級と言ってもいいほどのカッコいい美男子にお姫様抱っこをしてもらっている気がした。
見ただけで興奮してしまうほどの美しい美男子を見てしまったこと。今日はなぜか感情任せな気持ち。そしてユメで間違いないと思ったため、感情が大爆発してしまったのである。
「王子様〜、わたひを抱いてくだしゃい」
「ん?」
「家から追放されちゃうんです〜。せめていい思い出作りたいんでしゅ」
『ユメの中だけでも』という言葉をつけ忘れたが、まあ些細なことだろう。
美男子はニコリと微笑んだ。
幸せすぎてもはや制御ができない。
ギュッと抱きしめてもう離れないとアピールする。
「ようやく見つけた。やはりキミだったんだね」
「んはい?」
「キミにそんなことを言われたら、我慢できなくなってしまいそうだよ」
なにを言っているのかわからなかったが、美男子の声一文字一文字がどれもカッコいい。
ユメの中だというのに、意識が遠のいていった。




