再評価区画のルール
少女は、私の返事を待たずに話し始めた。
「ここにはね、ちゃんとルールがあるの」
椅子に腰かけ直し、足をぶらぶらさせる。その仕草だけ見れば、普通の同級生みたいだった。
「第一。
能力は、許可なく使っていい」
私は目を見開いた。
「え……?」
「意外でしょ。でも本当。
だってさ、もう抑制する意味がないんだもん」
少女は、壁の隅に設置された黒い球体を指さした。
「全部、見てるから」
監視装置。
実験室よりずっと近い。逃げ場がない距離。
「第二。
ここで作ったものは、全部“記録”される」
「記録……?」
「そう。
出来栄え、感情の混入率、再現度、危険性。
あとね――」
少女は、少し声を落とす。
「作った理由」
理由。
そんなもの、今まで聞かれたことがなかった。
「第三。
人に使った能力は、減点じゃなくて“決定打”」
胸が、きゅっと縮む。
「治しても、助けても、同じ。
“物として扱えなかった”って判断される」
少女は、あっさりと言った。
「それで終わり。
再評価、終了」
「……終了って」
「廃棄。
もしくは――」
一瞬、言葉を探すように間を置く。
「部品化」
私は、さっき見た“腕”を思い出していた。
「第四。
ここにいる間、嘘は禁止」
「嘘……?」
「感情を誤魔化す嘘。
作りたくないのに作った、とか
作りたいのに作らなかった、とか」
少女は私を真っ直ぐ見た。
「ここはね、
“何を作れるか”じゃなくて
**“何を作りたいか”を見る場所だから」
「最後」
少女は立ち上がり、私のすぐそばまで来た。
「何も作らなかった場合」
息が、自然と止まる。
「それはそれで、評価される」
「……生きられるの?」
私の声は、ほとんど祈りだった。
少女は、少しだけ困った顔をしてから、首を横に振った。
「分かんない。
でも少なくとも――」
彼女は、笑った。
「“道具として優秀”とは、もう言われない」
少女は、ベッドの脇に置かれていた金属片を手に取った。
ひどく歪んだ、小さな部品。
「ねえ、霧島澪」
名前を呼ばれる。
「ここで初めて、
作らないって選択も、能力なんだよ」
私は、その金属片から目を逸らせなかった。
壊れている。
直せる。
でも――直したいかどうかは、分からない。
再評価区画は、静かだった。
壊れた物が、たくさんある場所なのに。
叫ぶものは、何ひとつなかった。




