失敗
首元が、焼けるように熱くなった。
遅れて、音が来る。
高すぎて、もう音と呼んでいいのか分からない振動が、頭の内側を直接揺らした。
――あ、これは。
そう思った瞬間、膝が折れた。
床に落ちる感触はなかった。
代わりに、身体の輪郭がほどけていく。手も足も、自分のものではなくなる。
「抑制装置、強制起動!」
「レベル三、対象霧島澪!」
「意識遮断、急げ!」
声が重なって、遠ざかる。
視界の赤が、白に滲む。
最後に見えたのは、床に横たわる“それ”だった。
途中まで、作り直されかけたもの。
人の形を、思い出そうとして――止まった物。
――ごめんなさい。
声にはならなかった。
次の瞬間、世界が裏返る。
*
目を覚ましたとき、私は天井を見ていた。
白。
でも、実験室の白とは違う。
照明がなく、影がない。まるで最初から「見ること」を想定していない空間だった。
身体が、動かない。
手首、足首、腰。
柔らかい素材で固定されているのが分かる。拘束というより、保護に近い感触。
首元が、異様に軽かった。
――抑制装置が、ない。
遅れて、怖さが来る。
能力が使える状態で、ここにいる。
それが意味することを、私は知っていた。
「起きてる?」
横から声がした。
視線だけ動かすと、ベッドの脇に椅子が置かれていて、そこに少女が座っていた。
私と同じくらいの年。短く切られた髪。囚人服。
目が、妙に生きている。
「やっぱり。目がそうだと思った」
少女は立ち上がり、こちらを覗き込む。
「ここ、再評価区画。
簡単に言うとね――」
少し間を置いて、笑った。
「まだ廃棄するか、決めかねてる人の置き場」
私は、喉を動かそうとして、声が出ないことに気づく。
少女はそれを見て、肩をすくめた。
「あー、大丈夫。最初はみんなそう。
そのうち慣れるよ。
感情も、恐怖も、ここじゃ全部――素材だから」
素材。
その言葉が、胸の奥で引っかかる。
「ねえ」
少女は、私の固定された手に視線を落とした。
「あなたでしょ。
作る人」
否定しようとして、できなかった。
少女は、少しだけ真剣な顔になる。
「だったらさ。
今度は、ちゃんと最後まで作ってよ」
「……何を?」
やっと出た声は、自分のものじゃないみたいに掠れていた。
少女は、にやりと笑う。
「決まってるでしょ」
彼女は、自分の胸を指さした。
「――ここを、壊したもの」




