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ただの`日常`

壊れた物は、静かだ。

 人みたいに叫ばないし、助けも求めない。ただ、そこに在り続ける。

 実験室の白い机の上に、ひしゃげた金属片が置かれていた。元は通信端末の一部だったらしい。焼け焦げた跡があり、内部の回路は露出している。

 私は椅子に座り、両手を膝の上に揃えたまま、それを見下ろしていた。

「開始して」

 ガラス越しに、実験官の声が落ちる。朝倉先生だった。抑揚のない声。毎日聞く声。

 私は立ち上がり、金属片に触れる。冷たい。

 その瞬間、胸の奥に薄い膜が張られる感覚がした。

 ――直したい、と思わない。

 それでも指先は勝手に動く。

 金属が軋み、形を思い出すようにゆっくりと戻っていく。折れた角が滑らかにつながり、焼けた跡が薄れていく。音はしない。ただ、静かに、元の姿へ。

「再構成、完了」

 私はそう報告した。

 机の上には、正常に機能する端末部品が置かれていた。新品ではない。どこか歪で、鈍い光を放っている。

 ガラスの向こうで誰かがメモを取る音がした。

「情動反応、低。混入率、許容範囲」

 数字として処理される私の感情を聞きながら、首元に埋め込まれた抑制装置が、微かに熱を持つ。

 作れる。

 私は物を作れる。

 でもそれは、壊れたものを元に戻しているだけだ。

 失われた時間も、壊した理由も、選ばれなかった未来も――何ひとつ、作り直せない。

 私は机の上の部品から手を離し、そっと目を伏せた。

 壊れた物は、静かだ。

 だから私は、今日も安心して触れられる。


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