反撃
――――屋敷の裏手で プルミア
屋敷の裏手に用意されたプルミアのための場、自由に物を置いて良く建物を建てて良く、アーサーやランスといった可愛らしい家族を放し飼いにしても良い場で、プルミアは専属バトラーということになっているジェミィとロックからの報告を受けていた。
「とまぁ、そんな手紙が届いたようです」
「ブライト様がすぐに動くと決めたようですから、問題なく解決するかと思いますよ」
ハンチング帽にシャツにオーバーオールという、貴族令嬢とはとても思えない格好でアーサーとランスを撫で回していたプルミアはしばらくの間考え込んでから、言葉を返す。
「ジェミィとロックって貴族制をなくしたくて貴族達を殺そうとしてたんだよね?」
それはなんともストレートな物言いで、一瞬困惑したジェミィ達だったが、否定する意味もないかと頷き、ジェミィが言葉を返す。
「正確なことを言うのなら、様々な犯罪に貴族を巻き込もうと考えていました。
被害者にしたり加害者にしたり……そうやって貴族の名誉を貶めて貴族制というものがいかに愚かなものなのか、この国に知らしめようと思っていたんです。
オレ達がやってたのはそのための下地作りみたいなもので、組織のようなものを作り上げている途中でした」
「その思いって今でも変わらないの? お兄様もそうしたいの?」
「まさか、あの方と敵対するのはもうごめんですよ。
それに良い貴族も世の中にはいるんだっていうのを、これでもかと見せつけられましたからね……今はもうそんなことしようなんて思ってもいませんよ。
ブライト様が目指しているものが形になれば目標の大体は達成出来たようなもんですし、オレ達なりに手伝いながら成長して……今目指しているのは議員になることですね。
本を好きなように読ませてくれて、望めば好きなことを学ばせてくれて、ブライト様が作るっていう研究所にまで通って良いそうですから、その時までに学んで学んで、議会で貴族を負かしてやるつもりです」
と、ジェミィ。
「あ、こっちは違いますよ、もうちょっと大人しい夢を持ってます。
貴族のバトラーから市民の議員へ。そんな感じでまずは当選、それからは貴族と市民の橋渡しとして活躍していくつもりです。
仲間達も全員保護してくれて仕事の世話をしてくれて……その家族まで面倒見てもらえるとなったらもう、逆らう意味も意思もないですよ」
と、ロック。
「じゃぁ、悪い貴族がいたら、見逃すの? それともやっつけてくれる?」
それは真剣な表情での言葉だった、真摯な想いが込められていて、どこか縋っているようでもある。
プルミアは目の前の二人のバトラーを、愛犬であるアーサーとランスと同じくらいに信頼していて……だからこそ今助けて欲しいと縋っていると、二人にはそう見えた。
「お嬢様がお望みなら」
「お嬢様のためならば躊躇なく」
そしてまたジェミィとロックもプルミアを信頼していた、敬愛していた、幼いながらも自分なりの考えを持って新しい貴族令嬢としての在り方を模索している彼女を崇拝していた。
幼い身でありながら敵地で姉を守り続け、折れることなく戦い続け、最愛で最強で最恐の兄に庇護されて、何もしなくて良い立場となった今でもその戦いを止めることはない、そんな姿に『お嬢様』という言葉の意味を初めて理解出来ていた。
敬愛する素敵なレディ、そのためなら命も惜しくないと、居住まいを正してバトラーらしい一礼を見せた二人の目は力強く輝いていて……それに応えてプルミアが命令を発する。
「お姉様を守って、そして不埒者達を誅して」
それを受けてジェミィとロックは改めての一礼をし……それからどう動くか、どう対処するかを、プルミアを巻き込んだ三人でもって話し合っていくのだった。
――――対策について話し合った翌日、執務室で ブライト
これからやってくるだろう勘違い貴族の一団、ダルデスパン家。
それにどう対応すべきか、どういう対策を打つべきかと話し合い……結局は関所で対応するという形で話し合いは落ち着くことになった。
何しろ情報が無さ過ぎて、状況的にもこちらから先手という訳にはいかないし、とにかく相手の動きを待つ、これが結論となった。
お祖父様からは少し消極的過ぎるというお説教を受けることになったが、かと言って他にどうしろという話でもあるからなぁ。
ダルデスパン家が何者かについては、司教様の下に向かったビフとボガー。
それと情報収集に出てくれたフィリップが何かを掴むことを期待するしかないだろう。
それと同時に大陸にいる兄上への対応も進めていくことになった。
いきなり婚約者候補を送りつけて、はいおしまいでは話にならないので、アフターフォローと言うか、今後についてもしっかりと話し合っていく必要があるだろう。
兄上がもしマリアンネ嬢を気に入ったなら、最低でも婚約は成立、婚姻についての話し合いや、両家の今後の付き合い、兄上の今後の方針にも影響が出て来る話でもあるので、そちらの話し合いも進めていく必要があるはずだ。
今の所、兄上との連絡は飛空艇乗り達に任せている状況だが、兄上達の勢力がそこまで大きくなってきたとなると、専任の誰かを用意する必要があるかもしれない。
大陸交渉窓口と言うか大陸情勢対応係というか、そんな感じの役職に誰かを付けたい所だ。
そうなると大陸出身のバルトロが適任のように思えるが、バルトロはあまり大陸の状況に興味がない様子なんだよなぁ……。
……まぁ、後で相談してみるとしよう、バルトロ本人にやる気がないのだとしても、誰か適任を知っているかもしれないし、相談役としては適切なはずだ。
と、そんな事を考えながら散歩を終えての昼前の政務、手紙に励んでいるとノックがあって……ライデルが入室してくる。
ライデル相手ならばペンを止める必要もないかと作業を続け、そうしながら表情と仕草で話せと促すと、ライデルは背筋を伸ばしてから力強い声を上げてくる。
「一晩考えてみたことがあります。
今回の件は、家臣一同としてもとても許せることではありません。
あまりに舐められ過ぎている、ウィルバートフォース伯爵家を軽んじすぎている、このまま放置では筋が通りません。
……反撃をすべきと愚考します」
と、そう言ってライデルは一旦話を止めて……手紙を書きながらだったので少しだけ理解が遅れた俺は、頭の中でライデルの言葉を読み上げて、その意味をしっかり理解してから言葉を返す。
「具体的には?」
「今回の黒幕は王太子でしょう、以前から王太子が黒幕と思われる騒動が続いています。
こうも野放図に繰り返されているのは、王太子にこれといった痛手がないからではないでしょうか。
こちらに手出しをしても懐が痛まないから平気で繰り返す……これに歯止めをかけるべきではないでしょうか」
「……しかし王太子はまだ討てんぞ。
いや、強引にやれないことはないが、反動に何を失うかが予測もつかない。
特に今は兄上にとって大事な時期だ、あまり迂闊な真似は出来ないだろうな」
簡単には流せない話題だと理解した俺が、ペンを止めてインクを拭きながらそう返すと、ライデルは地図を俺の机の上に広げて、その一部をトントンと指先で叩きながら言葉を続ける。
「王家には直轄領があります、そしてその中には王太子直轄領も存在しています。
そちらを攻撃すべきではないでしょうか?」
「……王太子を直接討つよりはマシだがなぁ、それでも反動があるし、何より無辜の民を苦しめることは本意ではないぞ」
「侵略や略奪をという話ではありません、攻撃です。
たとえば王太子の別荘、これから向かうはずのそこを徹底的に破壊するという手もあるでしょう。
他にも王太子の工場、王太子は直轄地にも工場を作り何かを生産させています、こちらを破壊する手も悪くないはずです。
あるいは賠償という形でそれらの中にある品を接収するという手もあります。
以前、修道院騒動があった際のような突入と制圧、そして回収……もう一度やれと言われれば我らは完璧に遂行してみせるでしょう」
「目にものを見せてやるという訳か。
……確かにな、なんらかの反撃はすべきだろう。
やってくる連中に対応するだけでなく、それ以上か……。
どうあれ王太子とは敵対していくんだ、手段を選んでいる場合ではない、か。
……よし、分かった。
そちらについてはライデルに任せる、詳細を練り上げてくれ」
俺がそう言うとライデルは嬉しそうに、本当に嬉しそうに瞳を輝かせてからの一礼を見せてくる。
それを見て俺は一息間を空けてから、言うべきことは言っておこうと言葉を続ける。
「ただし実行は少し待て、どうあれ攻撃は攻撃、いきなりやったでは世論の反発を招く可能性がある。
だからその前に打てるだけの手は打っておく。
司教様、カーター子爵、マーカス卿、など根回しすべき人物に根回しをし、それから新聞を使って王太子の所業を世間に広めて、我が家がどれだけの怒りを溜め込んでいるかを周知する。
その上で俺がインタビューに答えて次に何かをやれば反撃に出ると、そう宣言もしておこう。
それだけやったならある程度の筋は通るだろう。
あとはまぁ……出来るだけ我が家の仕業とはバレないよう工作もするように。
法廷闘争になったとしてもある程度戦える自信はあるが、わざわざ相手に反撃のチャンスを与えるというのも面白くない。
完璧は無理でも可能な限りの隠蔽は行うように」
「了解いたしました。
その辺りもしっかりと考慮した上で作戦立案をさせていただきます。
博士の発明やルムルア殿の薬なども活用させていただきたいと思います。
いずれは王家とやり合うことになるはず……今回の作戦はその良い小手調べとなることでしょう」
「……小手調べなんだから本気になりすぎないようにな。
味方の被害も少なく頼むぞ」
なんだかライデルがやる気になりすぎているというか、妙に気合が入りすぎているような気がして、一応釘を刺しておくと、ライデルは胸を張って元気いっぱい。
「お任せを!!」
なんて声を張り上げる。
……いや、本当に大丈夫か、これ?
なんて不安を俺が抱く中、ライデルは早速とばかりに早足で執務室を出ていって……それを無言で見送った俺は、不安に思いながらも任せた以上は結果を待つしかないと思考を切り替えて、ペンを握り直し手紙へと視線を落とし、作業を再開させるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
改めて今章終了です
次回はキャラ一覧
次次回に新章開始となります




