成果
改めて調べてみると何人かの不届き者が領内に侵入していたようだ。
もちろん関所も頑張ってそれを防いでくれていたが、完璧とはいかずそれなりの人数となっているらしい。
そんな風にやってきて何をしでかすのかと警戒していたが……特に動きはなし。
件の侵入者の同類なのかどうなのかと悩んでいる所に、フィリップやビフ、ボガーが何人かの不届き者を捕らえ情報を引き出したという報告を届けてくれて、ようやく色々なことが見えてきた。
敵はやはり組織であるらしい、そしてそのリーダーは二人。
リーダーの指示で領内に侵入したは良いものの、次にどうするかという指示がないために待機中。
この組織の面々はどうやらリーダーに心酔しきっているようで、どう考えても無謀な動きであっても素直に従い、目的が見えないままでも静かに待機し続けるという覚悟を持っている。
ただの金稼ぎが目的なら王都で好き勝手やっていれば良い訳で、それがどうしてこっちに来たのか? それだけの忠誠心を作り出せる信念は何なのか? の答えはどうやら反貴族主義にあるらしい。
大雑把に分類するのなら大陸の革命派になるのだろうけど、連中よりはもう少し現実的ではあるらしい。
革命だとか戦争だとか、そういった多くを苦しめる選択を良しとはしていないようだ、規模からするとそれなりの動乱を起こせたはずだが、そういう手を使う気はないらしい。
組織を作り様々なスキルを鍛えて、何なら結構な財産を手に入れても贅沢をせずぐっと耐えて……内部から国を良くしようと考えている。
そこまでのことが出来る原動力は、悪徳貴族に苦しめられたから。
大切なものを理不尽に奪われ殺され、だというのに相手は貴族というそれだけで許され、強い不満を抱いて行動を始めた。
……それならそのやらかした貴族のとこ行けよと、なんでこっちに来るんだよと言いたくなるが、連中の大義にとって『善良貴族』というのは存在してはいけない訳で、最近世間を騒がせながらも善良な貴族という評判が立っている俺を調査に来た、ということらしい。
更に連中は遺跡にも興味を持っているようで……まずは俺の素行調査をしその結果次第では俺を攻撃し、なんらかの成果を出しながら遺跡の盗掘まで行ってしまおうと戦力を集めていたらしい。
こうやって報告をまとめると「馬鹿なのかな?」の一言なのだけど、平民の子供がそれだけの組織を作って上手く運用して一定の成果を上げているという事実は目を見張るものがある。
環境のことを言うと俺はかなり恵まれていたからなぁ……かなりの領地を抱える貴族で家族には深く愛されていて、王族が絡んでくるまでは本当に恵まれていて、そのおかげで今があると言っても過言ではない。
王族にやり返そうとしている俺としては彼らの目的は他人事ではなく……一理あるとも思っている。
革命やらの道を選ばなかったことも凄いことだと素直に思う、相当の憎しみがあっただろうに、それをしっかりと抑え込んでいる。
そうしたことを踏まえて評価するとつまり、
「若いんだろうなぁ……数年か十年もあれば大物になっていたかもな」
いつもの執務室で報告書の束を手にしながらそんな声を上げると、半目となったライデルが言葉を返してくる。
「ブライト様がそれを言いますか?」
「俺はまぁ……幼い頃から色々な経験をさせられたからな、他より濃厚な人生を送って40歳分の経験を積んだんだよ、うん」
「……何言ってんですか、妙な説得力はありますけど……。
……で、コイツらはどうします? やはり捕縛で?」
「差し迫った状況でやむを得ず、でなければ捕縛だな。
報告書を見る限り危険とは思えないし、味方に出来ないのだとしても会話が通じる相手ではあるだろうと思う。
議会を作った際にこういうのが市民の代表者になってくれるとありがたいからな、なるべく殺したくはないな」
「……なるほど、実力があって話が通じる相手であれば、確かに議会の本旨に沿う相手となってくれそうですね」
「その頃にはそれなりに経験も積んでいるだろうしなぁ、対立するのだとしてもこういうのなら対立のしがいがある」
「なるほど……」
「そういう訳で今後の動きだが……当分は情報収集をしながら可能ならば捕縛を進める。十分な情報が集まったらその時点で制圧を開始。
その前に相手が目立った行動を開始したらそれまでに集めた情報を元に一気に制圧を。
電信を使い領民と連携し、上手く包囲していくのが理想だな。
相手がどんなに賢く隠れたとしても、物資は必要になるはずだから商人と連携して物の流れを追うのもありかもしれないな」
「既に商人達との連携は進めているので、より強化するよう指示をだします」
「ああ、それと捕縛した者の親戚、関係者が領内にいるならその家も調査をするように。
また自主的に情報を吐いたやつには十分な報奨金を出してやれ、他の者にはそれを教えた上で報奨金には限界があると教えてやって早いもの勝ちだぞと煽れ。
大義のためにと頑なな者には無理強いはしないように、それよりも欲を刺激して自分から話すように仕向けるんだ、その方が情報の確度が上がるだろう。
協力してくれた領民にも報奨金を出してやれば自分達も貰えるのだろうと信憑性もあがるはずだ。
それと牢の中にフィリップの仲間を潜ませておけ、同じ大義を抱く仲間として接する形で口を割らせるんだ」
「……わ、分かりました。そのように手配します」
そう言ってどこか怯んだ様子を見せるライデルに頷いてやると、咳払いをして居住まいを正したライデルが言葉を続けてくる。
「……それとこちらからも別件の報告なのですが、博士が暴走しているそうです」
と、どこか呆れたような表情で言ってくるライデルに、俺は小さなため息を吐き出してから手を振って続きを促すと、ライデルは懐から取り出した紙の束を読み上げながらの報告をしてくる。
「電信の発明成功に対する報酬で人員を雇いまくって、どんどん色々なものを作らせているようです。
詳細はこれから届くとのことですがこの動きにより『蓄音機』『風景記録機』『発電機』『蓄電機』『新製鋼法』『新型紡績機』『魔法石灯』『自動縫い機』『自動筆記機』が完成間近とのことです。
また魔法石の連射機構や魔法石の簡易装填機構も開発中とのことです。
博士によると……正気を疑いたくなるような話ですが、電信の成功とルムルア殿から習った薬学の知識が合わさることで、神々の召喚に成功し神々が頭の中に舞い降りてきたかと思ったら頭の中で炸裂したそうです。
炸裂した破片からアイデアが溢れてきて溢れてきてしょうがないとかで、三日程徹夜でそれを書き留めながら部下に指示を出し続けているとのことです。
そのため無線の開発は当分遅れるけど許してください、なんて伝言も届いています」
「……まずは薬を使ってでも良いから寝かせろ、そのまま放置したら死ぬぞ。
それでアイデアが失われたとしても問題ない、既に十分なものが生まれている。
博士に死なれた方が損失となる、一眠りさせた後には念の為何人か医者を向かわせて診察を受けさせろ」
……やっぱりあの博士、とんでもねぇなぁ。
名前だけじゃ判断しきれないけど、どれもこれも思い当たるものばかりだ。
風景記録は恐らくカメラ、自動縫い機は電動ミシン、自動筆記機は……タイプライターかな?
今の市井の技術を考えるとどれもこれも既にあってもおかしくない品だが、不思議と生まれてきていなかった品々だ。
物理法則とかの違いのせいかと思いこんでいたが、こちらの世界でも作ろうと思えば作れるものであったらしい。
そして博士はそういった遅れを一人でなんとかしようとしてしまっているようだなぁ。
博士の発明のヒントとなるように前々から色々とアイデアを教えてやってはいたが、今回の暴走はそれを超えてきたように思う、自分で色々な物を生み出せる段階に入ったというか……もう俺には手に負えない感じになってきたなぁ。
後はもう好きにさせるしかないのだろう……が、徹夜は看過出来ない、しかも三日って、今すぐにでも倒れて死んでしまってもおかしくない状況だろうに、報告を聞くにまだまだ動き続けるつもりらしい。
「了解しました、すぐに手配させます。
気が合うのかルムルア殿と仲が良いようなので、協力をお願いしておきます」
と、そう言って頭を下げたライデルは執務室を後にする。
俺は再び報告書に視線を下ろし……一応念の為にと領内の地図の写しを取り出して、そこに上がった報告の箇所を書き込んでいく。
どこで目撃されたのか捕縛されたのか……連中の動きの全てが見えてきたなら、自然とその狙いもハッキリとしてくるはず。
我が家への侵入と遺跡の盗掘だけで終わってくれるのならそれで良いが、他にもまだまだやらかす可能性はある訳で……情報の全てを書き込んだなら、それを普段は手紙をまとめているボードに貼り付けてみる。
現状ではまだまだ情報が足りていない、だがこれからもっと情報が集まってきたなら見えてくるものもあるはず……。
俺には見えなくてもこの地図を見た誰かが何かを思いついてくれるかもしれないし、当分はこの地図はこのままにしておくとしよう。
そうして俺の執務室はこの日から、侵入者達への対策会議室のような様相を呈することになった。
改めて専用のボードを作り、そこに地図を張った上で集まった情報などを張り付けていって……どこに誰がいたのか、どう動いていたのかといった人の流れも書き込んでいく。
「……ここに遺跡はなかったはず、何が目的で留まっているのか確かめた方が良いと思います」
姉上。
「……多分これ狩猟をしていますね、食料確保が目的でしょうか、向こうの狩人もこういう動きをしていました」
コーデリアさん。
「昨日ここで見ました! ここここ! また皆で追い回します!」
プルミア。
「……儂ならここに隠れるだろうな」
お祖父様。
と、こんな感じで家族も協力してくれて、どんどん情報が整理されて相手が追い詰められていくことになった。
また電信の有用性も今回の件でハッキリと証明されることになり、包囲作戦と同時に騎士達による敷設も進んでいった。
包囲のために必要な場所を優先して、更にその成果に目をつけた商人達からの希望もあって私的な敷設注文もどんどん入り込んだ。
流石にこれは後回しになるが……一度そういう流れが出来上がるとあっという間で、このまま行くと飛空艇にも負けない産業になりそうだなぁ。
そしてそこまでになると敷設より先に交換台が必須になるはずで、そのための建物建設が始められることになった。
重要インフラなので防衛力や今回のような襲撃に備えての作りにもして……交換台第一号には博士の名前を付けることにもなった。
そうでもしないと博士の名誉欲による暴走が止まりそうにないからで……新聞社にも協力してもらって博士特集なんかも組んでもらうつもりだ。
そうなったらそうなったで引き抜きなどなどが来る危険性もあるが、このまま博士を放置して暴走死されるよりはマシと考えるしかない。
そういう訳で数日後、博士特集が掲載された新聞の発売日。
博士がどういうリアクションをしてくれるんだろうなーと、政務に励みながら楽しみにしていると、ライデルが報告を届けてくれた。
「……ルムルア殿から報告です、新聞を読んだ博士が立ったまま気絶したとのことです。
疲労でそうなったのではなく、喜びの絶頂のあまりにそうなったとのことで……良い機会だから当分はその新聞を利用して博士を休ませるようです。
……そういう訳で出来れば他の新聞社にも協力してもらえないか、とのことです。
複数の新聞記事に囲まれたら博士はきっとその記事を読むことに夢中になって研究を忘れるはずだ、とか」
「……無理矢理一面での大特集をさせたから、結構予算がかかったんだが……。
まぁ、うん、博士の命には代えられないだろうから他にも頼むことにしよう。
しかしまさかそんなに効いてしまうとはなぁ……もっと早くやっておけばよかった。
今後は博士をコントロールするために、その名誉欲を刺激する策をいくつか用意しておくとしよう。
新聞だけではすぐに慣れきってしまうだろうから、何か他の手法も……。
……ああ、そうだ、科学賞でも創設するか。
世界を変えるような、世界に貢献するような成果を上げた者に対して大金を贈るというものだ。
領内に限らず世界中の科学者を対象にし……その第一号を博士にしてやれば、歴史に名が残ることは間違いないし、博士も大喜びするはずだ」
「……確かに。
大喜びはするでしょうが、よろしいのですか? 予算ももちろんですが、相応の面倒にも繋がりそうですが」
「構わない、博士の発明がどれだけ時代を前に進めるのか、ライデルも今までのことで実感しているだろう?
その一助になったとなれば我が家の名誉にもなる……貴族としてやる価値はあるだろう」
と、俺がそう言うとライデルは満面の笑みを浮かべて……何を思っているのか何度も何度も力強く頷いてみせるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はじわじわ追い詰められる彼らです




