決断
――――???? ???
彼は大きな決断をした。
本当ならそんなことしたくはなかったのだが、しなければならなかった、何故ならば地図の西が赤く染まったからだ、本来染まるはずのない色に。
結局奴は悪役なのだ、だから自然と正義の力が奴に向く、彼が意図しなくても誰かが攻撃をしてしまう、反撃を受けてやられてしまい何もかも奪われ利用されてしまうというのにそれでも勝手に攻撃してしまう、奴が生まれついての悪役であるためにその流れを断つことが出来ない。
そのことに気付いた彼は動かざるを得なかった、最早受け身ではいられない。
悪役に向かう力をコントロールし流れを支配し、自分に有利な世界を作るしかないのだとそう考えてみると……これが目が覚めた思いだった、新しい道が開けたようだった。
そうして彼は危険な手に出た、国宝という一つの切り札を切ることで悪役と同じくらいに厄介な連中を誘導し動かすことにした。
その連中は将来の敵だった、いつかは立ち向かい乗り越えなければならない存在だったが……彼はそれを利用することにした。
その二人の敵は厄介極まる存在だ。
どちらも間違いなく天才、歴史に残る才を有していながら根っからの悪人で、その才能でもって悪事を行う厄介な天才。
しかしまだ彼らは自分のその才能に気付いていない、彼らがそれに気付き天才となって活動し、組織を作り上げ……悪役を超えた悪役となって大暴れをするのは未来の話。
今はまだ今の悪役を超える力は持っていないかもしれないが、それでもそれをぶつけたなら今の悪役にダメージを与えることは出来るはず。
もしかしたら未来よりも大きく成長して悪役を呑み込んでくれるかもしれない、または相打ちとなってくれるかもしれない、仮に悪役に倒されたのだとしても、未来の脅威がそうして消えてくれるのなら悪い話ではなく、彼にとっては損のない計画だった。
今の悪役に未来の悪役を。
ラスボスに続編のラスボスを。
彼のそんな企みは見事に成功し、王都で活動しているはずの彼らは悪役の下へと向かった。
そろそろぶつかっている頃だろうか……?
未来の悪役は二人、特別な力を持った二人、創造神に愛された二人の特別扱いは尋常ではなく、今の悪役とは格が違う存在のはず。
倒してくれるだろうか? せめて傷をつけてくれるだろうか? 一体どうなってくれるのだろうか?
そんなことを考えて彼……王太子は、一人自分の部屋でなんとも聞き苦しい高笑いを上げるのだった。
――――廃屋の中で ジェミィ
どうにか逃げてその先で見つけた廃屋に隠れ潜むことに成功したジェミィとロックは、ウィルバートフォース領内に入り込んでいた仲間にどうにか連絡をし、戦力をかき集めようとしていた。
こうなってしまっては想定外ではあるが行動を開始するしかない、逆にこれを良いチャンスと思ってこれまで練り上げてきた計画を実行するしかない。
そう考えて領外にも手紙を送り、国内中の仲間を集めようとした……のだが、これが良くなかった。
ウィルバートフォース領の騎士達の連携を甘く見ていた、運用が始まりつつある電信という連絡法を知らなかった。
領民達の士気の高さも全くの計算外で、変に仲間を動かしてしまったことにより、彼らが作り上げつつあった組織が半壊することになってしまった。
迂闊だった、余計なことをしたために戦力を失ってしまった、未知の技術で動く相手を読み切れというのは無理な話だったかもしれないが、それでも二人が本気になっていればここまでの被害は防げたはずで、その後悔が彼らの心を強くしていた。
侮りと甘さを捨てろと、後悔するばかりではなく先を見据えろと、もっと成長し敵を乗り越えろと、そう囁いてきているようで……暗闇の中でジェミィとロックはその目を輝かせ鋭くしていった。
そうやって成長する中で、どう動くべきか、敵の動きにどう対応すべきかを練り上げていく。
他の貴族や騎士のように怠慢や規律の低さを突くことは難しい。
買収なども通用しないだろう、降伏からの交渉は認めてくれるかもしれないが、そんな真似をしてしまえば彼らの信念に関わる問題が発生してしまう。
組織としては未熟、資金力はあると言えばあるがそれが通用する状況ではなく、戦力もどんどん削られている。
「……一旦逃げるべきなんだろうね」
と、ジェミィ。
「そうだな、仕切り直すべきだ、最初から逃げてれば違ったんだろうけどなぁ。
……まぁ、ここであれこれ言っても始まらない、逃げる手段で最も確実なのは港に向かっての船だ、それなら仲間と脱出が出来る。
船賃は……まぁ、宝を切り売りしたらなんとかなるだろう。
船員までが貴族に忠誠を誓っているようなら、最悪船を奪うことになるだろうけど、海の男ってのは海賊モドキみたいなのも多いから、どこかに隙はあるはずだ」
と、ロック。
「……それか飛空艇を奪うか。
貴族に少しでもダメージを与えたいというのなら苦労してでもこっちかな、自分達で運用出来れば今後の活動のために役にも立つし、危険でも挑む価値がある。
……飛空艇の動かし方は、正直知らないことばかりだけど、でも全く訳の分からない作りにはしていないだろうし、実物を見ながら学ぶことでなんとか出来るはずだ」
そうジェミィが返すとロックの表情が明るくなり、二人の会話はどんどん弾んでいく。
「……なるほど、そういう手もあるか。
操船法は私と君の推理力でなんとでもなるだろうが……。
後は飛空艇なんてものをどう手に入れるかだなぁ、どこかに転がってやしないものか」
「何を馬鹿なことを……ロックでもそんなことを言うんだね。
ウィルバートフォース伯は相当な数の飛空艇を揃えているそうだが、領地と領民をここまで徹底管理している男だ、飛空艇の管理だって厳しいに違いない。
……だとしても、その厳しさを乗り越えれば見返りは大きい、挑戦する価値はあるかもしれないね」
「定番は人質を取って交渉し、身代金として飛空艇を手に入れるという手段だが……」
「やめろ馬鹿ロック。
末娘ですらあの有り様だぞ、ドルイド族を妻にしたと聞いて驚かされたものだけど、アレを見て分かった、明らかに王都の貴族と価値観が違うんだ。
蛮族的価値観に染まっているのは明らかだよ、そりゃぁ王族と反りが合わない訳だよ。
……とりあえず飛空艇関連の施設を皆に探らせて、それから判断しよう。
買収でもなんでもやって……それと遺跡にも行っておかないと。
ここに来た理由の半分はそれだったのを忘れてはいけないよ」
「……ああ、遺跡ね、初代王の遺産があるんだったか。
そのための鍵があの金貨……というのは本当なのだろうか?
あんな金貨、どこかに軽くぶつけた瞬間形が変わってしまうと思うのだけどね……。
まぁ、調査する価値はあるだろう、考古学的な意味でも興味がある。
早速明日向かってみるとしようか」
ジェミィがそう言うことで話し合いは終わりとなる。
ここは廃屋、埃積もった家具しかないがそれも二人にとっては日常であり慣れたもので……話し合いが終わったならと二人は体力を回復させるために目をつむり、眠り始めるのだった。
――――執務室で ブライト
あれから数日が経ってアドルフォ・フリーニとバーナード・アダムソンの二人が到着した。
そして挨拶を終えるなりすぐに地方法院に送り出した。
……いや、自分でも薄情だとは思うが、二人がもうやる気満々、今すぐにでも行きたいといった様子だったので仕方ないことだったと思う。
まぁ彼らにとっては望外の大出世だったろうからなぁ、それも当然なのだろう。
ぐずぐずして話が流れたり妨害が入ったりしたら台無しだから、さっさと席を埋めて手続きをしてしまうつもりなのだろう。
地方法院は法治における重大な機関なので、一度就任してしまうと簡単には解任出来なくなる。
だから何もかも迅速に済ませてしまうつもりらしい。
挨拶の際に深い感謝と重い忠誠を感じたので、まだまだ繋がりは薄いが役に立ってくれるに違いない。
「……それで今日はどんな報告だ? 侵入者達の足取りが掴めたか?」
いつもの執務室、いつもの椅子、いつもの思考。
そしていつも通りにフィリップに声をかけると今日は変化球、客用のソファの背もたれに器用に座ったフィリップが言葉を返してくる。
「ああ、うん、ほら、領内の遺跡の調査、あれが完璧に終わったからその報告かな」
「……うん? まだ調査をしていたのか? 以前の報告で終わりかと思っていたが」
「大雑把な調査の報告としては以前のもので終わりだけど、それから先生達が詳細な調査をしてたんだよね。
壁や床の模様や石材一つ一つの丁寧な調査とか、文字の調査とか……流石にそんなのの逐一報告はいらないでしょ?
だから省略してたんだけど、昨日完全に調査が完了したんだって。
んで最後の最後にどうしても解けなかった仕掛けを強引に突破したらしくてさ、その報告も届いたんだよ」
「……具体的にどう突破したんだ?」
「えっと、よく分からない仕掛けがあって多分鍵のような何かが必要で、でもそれが何か全然分からないし、ヒントになるような情報もなかったから壁を壊して突破したようだね。
まぁ、壊したって言っても復元を前提にした最低限のものにしたとかで、調査が終わった今は復元作業を進めているらしいよ。
で、壁の向こうには以前見つけたような装備より更にヤバそうな装備がたくさんあってね、それの調査もこれから行ってくれるようだよ。
……その中には使い方が全く分からないような形や、兄貴が話していたまだ誰も作れていないはずの物もあって先生達は混乱してたんだけど、二度目だからか早めに回復してたよ。
あれの研究が済んだら騎士用の遠距離武器が出来るかもって、先生達が言ってたよ」
と、そう言ってからフィリップは、遺跡とそれらの装備の報告書を提出してくれる。
とりあえず遺跡に関する報告書は読み飛ばして、妙に気になることを言われた装備の報告書を確認しいていく。
不思議な仕掛けの奥にあった装備は確かにこれまで発見されたものとは別次元の代物であるらしい。
今まで発見された品々でも十分過ぎる程に先進的だったが、今回見つかったものは更にその先にあるようだ。
まず魔法石を使っていると思われるクロスボウ? のように見える武器。
同じく魔法石を込めるチェンバーのあるチェーンハンマーと言ったら良いのか、棘付きの鉄球にチェーンをつけたものを射出するように見える装置。
何度見ても用途が分からない大きな円形の何か、車輪に近い形でチャクラムのようなものかとも思ったが、大きすぎてそうではないようだし何度見ても用途が不明、チェンバーはしっかりあるから魔法石は使うらしい。
そしてトゲのついた板。
……いや、これはもうそうとしか表現しようがない、中央が凹んだような形の歪んだ横長の鉄板にたくさんトゲがついている。
全く訳が分からない、板の裏側にある軸? のようなものにチェンバーがあるのもまた意味が分からない、あそこに魔法石を込めてどうすると言うのか、トゲから槍のように攻撃を発射するのだろうか?
他にもまだまだ発掘された武器? の報告がされていて、本当に意味が分からない。
「……こりゃまた訳の分からないものばかり見つかったものだなぁ。
確かに研究が進めば色々出来そうではあるが……まぁ、無理はしないようにと伝えてくれ。
仮に結果が出なかったとしても元がこれではそれも仕方ない、特に責任追求などはしないつもりだ。
そちらではなく新たな部屋を発掘出来たことに対して褒美を出すとしよう。
今後の発掘の際には良い先例となるはずだ。
……ああ、それとその部屋にあったという仕掛け自体も回収して研究をしておけば、今後楽が出来るかも知れない、その旨も伝えてやってくれ」
と、俺がそう言うとフィリップは「りょうかーい!」と、そう言ってひらひらと手を振り、ソファから飛び降りていつものように去っていく。
それを見送った俺は、それから改めて遺跡に関する報告書に目を通していく。
解読しきれない文字に意図が不明の模様……そして不可解な仕掛け。
……どの時代のどの文明がこんなものを作ったやらなぁ。
そもそもとして歴史書には『古代』の記録があり『古代言語』は今でも貴族の間で使われている言語だ。
だと言うのに解読不能とは一体……?
……うぅむ、前世の知識に引っ張られてしまっているのか何なのか、ロクな考えが浮かんでこないなぁ。
まぁ、うん、この辺りのことはプロに任せるのが一番だろう。
そう考えて俺は報告書を机の引き出しに押し込み……日に日に増えていっている政務へと取り掛かるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は決断の影響やら何やらです




