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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第四章 未来に向けて

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缶詰



「あんまりいじめてやるなよ」


 逃げ出す博士を見送って俺がそう言うと、フィリップ達はそれぞれの反応を見せてくる。


 なんとも嫌そうな、しかし俺が言うなら渋々といった態度で……博士、嫌われているようだなぁ。


 まぁ、確かに色々とアレな部分がある人だが有能なのは間違いないし、役にも立ってくれている。


 問題がある部分は助手や護衛達が上手くフォローしてくれているだろうし、今後も役に立ってくれるはずだ。


「まだ誰もやったことがない海底敷設なんかを前のめりでやってくれるのは博士くらいのものだからな。

 何度失敗してもめげない根性もある……多少の無礼は許してやれ」


 そう俺が言葉を続けるとそれぞれまた反応を示し、フィリップが代表する形で言葉を返してくる。


「まぁ、確かにおいらじゃ出来ないし、どうやったら良いかも分かんないけどね、海底どうこうは特に。

 博士に任せるのが一番なんだろうねー……失敗が前提となると尚更かぁ。

 しっかし貴族の兄貴を相手にあの態度だもんなぁ、あんなのを雇う貴族は兄貴だけだと思うよ。

 飛空艇の博士のほうがまだマシだもんねぇ」


「い、いや、どうだろうなぁ……あっちはあっちで問題があると思うが」


 我が領には何人か博士と呼ばれる人物がいて、その一人が飛空艇の開発や改良の中心となっている人物だ。


 とにかく探究心が強く、先程の博士よりは博士らしいと言うか、名誉とか金銭とか俗物的なことには一切興味がなく、より良い飛空艇を作ることだけに心血を注いでいる。


 ……と、そこだけを聞けばまともな人物に思えるが、飛空艇開発以外のことには関心がない上に価値を見出さない人物で、実験の過程で死者が出たとしても一切意に介さない危険人物だった。


 何ヶ月前だったか、新型の飛空艇を作ると言い出し、前世で言う飛行機に近いプロペラを前面につけて常に動き回りながら浮力を得るという飛空艇を開発し、こちらに報告することなく実験を開始。


 見事飛行には成功したものの、着地のことを一切考慮していないというか、軽く考えていたために着地に失敗するという大事故が発生、死者が出てしまったがその博士は満面の笑みで、


『良い実験でした! 次も頑張りましょう!』


 と、そんなことを周囲の人物に言ったらしい。


 流石に問題があると報告が上がり、俺もいくらなんでもそれはと謹慎を命じることになった。


 開発に一切関われない謹慎命令は博士にとって致命的だったようで、数日で音を上げて号泣謝罪をしてきたのと、実験に使った人員が死刑確実の犯罪者だったので許しはしたが……再びやらかさないようにと何人かの見張りをつけることになった。


 するとその見張りから報告があり、博士の自宅の地下に数人の実験要員が閉じ込められているとのことで……当然それも問題となった。


 いずれも死刑確実の犯罪者、自ら傭兵を雇って捕まえて実験用に閉じ込めていたとかなんとか。


『どうせ殺すんですから有効活用しましょう!』


 そのことに関して報告を求めた際の言葉がこれで、頭を抱えることになったものだ。


 前世でよく言われていたゲテモノや毒のある食べ物を指して『アレを初めて食べようとした人は凄い』みたいな話、実際には自分で食べるのではなく誰かに食べさせて試していたのだろう。


 奴隷階級や死刑囚などで無理矢理食わせての人体実験をしていて……それは食べ物以外のあらゆる面で行われていたに違いない。


 医療やら何やら……人体実験をしてしまえば簡単というか、効率的にデータが集められるのは確かなのだけども、それを気軽にやるというのは様々な問題がある。


 それでもやらなければならない時はあるのだろうし、領主としてそういう決断をする時も来るのだろうけども、ラインをあっさり踏み越えてばかりだと別の問題が発生してくるもので、常に倫理について問う心やら自制心やらを持つ必要があると思っているし、あくまでそれを決断するのは領主の仕事であって、博士の仕事ではない。


 ……と、その辺りのことを説明したのだが、その博士はただただきょとんとするばかりで、最終的には、


『領主様って結構馬鹿なんですか?』


 との言葉を頂戴した。


 ……確かに天才と呼ばれるような頭はないし馬鹿な部分があるのも認めるが、彼に言われるのだけは納得がいかずに改めての謹慎命令を下すことになった。


 二度目の謹慎命令は号泣されても短縮せずに満了させたが、それでも博士は反省することなく我が道を行き続けている。


 個人的にはそちらの方がヤバい、まだ名声や名誉にこだわるだけの彼の方がマシに思えるのだが……まぁ、どっちもどっちか。


 そういう人物であっても結果は出してくれるからと活用していて……まぁ、そんな貴族は確かに俺だけなのかもしれない。


「えっと……旦那様はあんな人ばかり雇ってらっしゃるのですか?」


 あれこれと考えていると、コーデリアさんがなんとも不安そうな声を上げてくる。


「いえ、あれは特例中の特例と言う感じで、そう何人もいる訳ではありませんよ。

 それに今回のようなことがない限りはコーデリアさんが関わることもないと思いますので、気に病む必要はありません。

 もしであれば博士達と顔を合わせなくて済むように配慮もしますよ」


「い、いえ、大丈夫です! 頑張ります!」


 俺の言葉にそう返してコーデリアさんは拳を握り、何故だかジャブのような動作をする。


 ……何を頑張るつもりなんだろう? なんてことを思いながらコホンと咳払いをし、話を立て直す。


「とりあえずだ、電話機がこうして完成したからには普及を急ぐ。

 そのために電信柱を始め様々な開発を進めるが……その前に領民への周知を頼む。

 開発の妨害などは俺への反逆と見なすとも伝えて、とにかく邪魔が入らないようにしておいてくれ。

 それでも邪魔をしたり変に近付いてきたりする者は、スパイと見なして逮捕で良いだろう。

 まぁ、多分そんな輩はいないと思うが、一応な」


「うん、了解。

 まぁ、兄貴のすることなら皆も反対や邪魔はしないでしょ、今までそのおかげで生活が楽になってきたんだし。

 ついでにしばらくは足元を固めるって方針も伝えておくよ」


 そうフィリップが返し、これで今日すべきことは終了、これで解散か……という所でノックがあり、バトラーがドアへと向かって誰が来たのかの確認を行う。


 するとノックしたのはドルイド族のノアブアで、練習したのか中々悪くない一礼をしてから執務室に入ってきて、俺の机の前に立ち俺とコーデリアさんに改めての一礼をしてから報告の声を上げてくる。


「ロブル国より情報が入りました。

 今年は潮の流れがよく、ロブル周囲の海で豊漁が続いているそうで、例年通りであればこれからこちらにも魚が入ってくるのではないか、とのことです。

 北の領地が荒れている今、その魚をこちらで加工してしまうのも悪くないかと愚考します。

 塩魚というのは保存が利きますし需要も安定しているはず……今のうちに手を打つべきでしょう」


「ああ、報告感謝する。

 ……そうか、豊漁か、ニシンでもなんでも港が賑わうのはありがたいな。

 なら塩魚と……そろそろ缶詰も一般販売しても良い頃合いかもいれない。

 ……ライデル、どうだ? 工場は対応出来そうか?」


 騎士のライデルにそう問いかけたのには理由があり、現状缶詰は軍事物資として軍糧としての運用が主になっている。


 俺が転生する前から普及していた缶詰だったが、とにかく重く大きくノミとハンマーで開封するなんて代物で、保存は利くけども持ち歩くには不便で、生産コストもあって簡単に扱えるものではなかった。


 それをどうにか改良してもらって、今では前世程ではないにせよ、それなりに扱いやすいものとなっている……が、改良の結果、大量生産が不可能となってしまっている。


 何しろ機械生産ではなく職人による手作業生産だからなぁ、軽量化やら品質の均一化やら、そういった部分に関わるとどうしても手間がかかってしまうことになる。


 そういう訳で一般販売はせずに軍事物資……主に父上や兄上に送るための運用をしていたのだが、父上達が拠点を手に入れたことで缶詰の必要性は低下しつつあり、そこら辺を一般販売に回せたならと考えた訳だ。


 そして軍事物資なので管理は騎士達が行っていて、その代表がライデルで、缶詰工場の実質的な管理者はライデルだったりする。


「は、対応は可能かと思います。

 特に缶詰の魚は、塩魚よりも味がよく扱いやすいと好評なので、平民家庭でも受け入れられると思います。 

 ……ただし魚が豊漁でタダ同然で手に入るとしても、生産コストは変わりませんので、価格はそこまで下げられないかと……。

 そうなると高級品扱いとなり……高級品として売れるような工夫が必要そうです。

 塩茹で以外にもブライト様から提案のあったオイル漬けや、ガーリック風味の味付けも騎士達には好評で、それらを使った料理レシピなども料理人達から提案されていますので、レシピブックなどを一緒に販売し、何ならレストランなどにも卸してしまいましょう。

 各レストランで新しい食べ方やレシピが考案されたなら、普及も一気に進むはずです。

 後は豊漁なうちに保存用も増やしておきましょう、いつ何が起きるか分からない国内状況ですから、今のうちに備えは万全にしておきましょう」


 と、ライデル。


 予想以上と言うか、想像もしていなかった答えが返ってきて俺は目を丸くすると同時に嬉しくなる。


 いつの間にやら成長してくれていたようで……その上で色々と考えてくれていたようだ。


 今パッと思いついたにしては出来が良すぎるので、普段からあれこれと考えてくれていたのだろう。


 そういうことならば……、


「分かった、ならその通りに頼む。

 多少の予算がかかっても構わないから好きにやってくれ。

 今回は唐突な話ではあるから、成功しても失敗しても構わないから気楽にな、成功にせよ失敗にせよ、後で詳細な報告を頼む」


 と、俺がそう言うとライデルはなんとも嬉しそうに頬を染めながらも真顔はそのまま崩すことなく……なんとも丁寧な一礼でもって頭を下げて、俺の言葉に応えてくれるのだった。



お読みいただきありがとうございました。


キリが良いので本日は少し短め

次回は姉上関連になる予定です

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― 新着の感想 ―
なんというか、死刑囚だからいいじゃんはさすがに頭が悪いのは博士だと言いたいなあ。 それ(囚人に与える刑罰)を決めるのはお前じゃなかろうし、 手法に問題があったらいくら進歩的なものが生まれたとしても 称…
死刑囚の有効活用… 倫理観の問題は脇に置いても、実際に使用するまでの過程が面倒+コストも掛かるのに、この博士個人でやってんのヤベェ。 捕縛は人を使ったらしいけど、バレてなかったって事はちゃんと管理も出…
電話の方の博士は王都で式典するよ、勲章あげるよって王子に言われたらホイホイ着いていく行きそうだから扱いが難しいだろうなぁ…
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