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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第三章 幸福への道

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軍務伯



 結婚してはい終わり、とはいかないのが貴族の大変な所だ。


 まずは挨拶、来賓全員に丁寧な挨拶をし、帰宅するという方には引き出物のような土産のような、そんな品を渡した上でお見送り。


 領内観光をしたいという人には案内係を紹介し……それが終わったなら今度は領民へのお裾分け。


 まずは恩赦、犯罪者の中でしっかり反省をしていて、かつ軽微な罪の者には減刑をしてやって、そうでない者にもいつもより豪華な食事を提供させる。


 これが結構効果があるとかで、減刑したことで自由の身になったものは感謝からか更生しやすくなり再犯率が低下するそうで、他にも犯罪者よりも領主の立場が圧倒的に上なのだと知らしめるだとか、色々な利点があるそうだ。


 次に祝宴、領民にも祝わせるという名目で俺の予算で豪勢な料理を用意してやって、領民達に振る舞う。


 具体的には肉料理、普段は中々食べられないだろう牛ステーキや丸焼き、ビーフシチューなんかを無料で好きなだけ。


 そうすることで貴族社会のことをよく分かっていない領民達にも、相応の出来事があったのだと知らせて……改めて領主が誰なのか、ウィルバートフォース家がどういう家なのかを知らしめる。


 そうした雑務が終わったなら今度は重要な来賓との会談が始まる。


 気を使ってか軍務伯は最後で良いと言ってくれているので、まずはそれ以外の方々と顔合わせ。


 普段手紙のやり取りをしている相手ならば、手紙をしっかり読み込んでどういう方なのかを思い出しながら、あちらの風土や名産に関する話題を振って、しっかりそちらを知っていますと、友好アピール。


 それとまぁ、結婚が上手くいったとか、夫婦仲が良いですアピールもする必要があるらしいのだけども、これに関してはコーデリアさんのおかげでわざわざする必要はなくなった。


 俺が腰を痛めて、コーデリアさんがそれを恥じて自室に引きこもっている。


 この事実だけで十分過ぎる程に仲の良さが伝わったようで……皆様からはなんとも生暖かい視線を送られることになった。


 本来であればこういった会談には夫人であるコーデリアさんもいなければならないのだけど不在でも一切問題なし、文句が出るようなことはなく……むしろウィルバートフォース家の将来は安泰だと、そんな言葉までもらうことになった。


 ……まぁ、うん、隣国のお姫様を射止めたことを褒めてくれるのだと、そういう解釈をしておこう。


 そうした会談などで一日を費やすことになり、翌日。


 ようやくの本番、軍務伯との会談が行われることになった。


 場所は破損している屋敷ではなくシティハウスの一室、絵画や調度品、一級品の家具などで迎賓室のように仕上げたそこで、机を挟んでソファに座っての対面。


 まずは参列のお礼、改めての自己紹介、それからコーデリアさんが不在なことに関するお詫びを口にすると、軍務伯は小さく「フッ」と笑ってから言葉を返してくる。


「そこまで愛が深いというのは羨ましいことだ、ユーモア以上に笑いを誘ってもくれるしな。

 ……さて、早速かつシンプルに本題に行こう、和解したまえよ」


 笑みを浮かべたまま淡々と、何の抑揚もなくそう告げてくる。


 あまりのストレート速球に驚くが、そちらがそう来るならとシンプルに返す。


「お断りします」


「……条件を問わないのかね?」


「どうせ呑まないでしょう?」


「それは条件次第だよ」


「では王太子の首の塩漬けを」


「……それは条件とは言うまいよ、結果、結論だ」


「では王朝交代と王権の廃止を」


 俺のそんな言葉に軍務伯はこめかみの辺りを押さえて顔を傾ける。どうやらそうやって思考をしているらしい。


「……王権を廃止して、その後は?」


「市民、教会、貴族による議会制を。

 象徴として王族が残るのは承知しますが、一切の権限を与えません。

 もう独裁の時代でもないでしょう」


「……独裁とはまた、大陸の連中のようなことを言う。

 革命の時代だとでも?」


「いえ、国民の時代です。

 いつまでも教育を普及しないでは国力が育ちません、教育が行き渡って国力が育てば民は王を許さないでしょう。

 自らで考え決めていく、そのための議会です」


「……それでは貴族の時代も終わるのかね?」


「終わるかどうかは貴族次第です。

 特権などなしに堂々と国民と市場に向き合い、生き残れるのなら貴族として何代先でも敬われることでしょう。

 ただ貴族であるからと威張り散らすだけの者は、誰にとっても害にしかならないかと。

 ……我らがグズグズしているうちに各国が変革し国民が育ち、国力差が開いてから焦っても手遅れですよ」


「……なるほど。

 まぁ、確かにね……大陸の連中よりは紳士的だね、貴族らしい考え方でもある。

 言ってしまうと私も王族にそこまでの忠誠心も恩もなく、廃しても構わないとは思う側だが……しかし性急に過ぎる気もする」


「そうやって手をこまねいていれば、待っているのは王太子の暴走と各国の台頭ですよ」


「……なるほど、なるほど。

 つまり貴殿の父上と兄上は楔か、大陸の連中が台頭しないための……そのための楔を打って、自らは内側からの変革を促す。

 ……一体何歳の頃からこの絵図を描いていたのやら、全ては貴殿の手の平の上か」


「まさか……そこまでの器ではないですよ。

 父上と兄上のことも未だ業腹で、受け入れてはおりません」


「謙遜はよしたまえ、貴族同士の場にあってそれは害悪だよ」


 ……うん? いやいや、謙遜じゃなくてガチ目の本心なんだけどな。


 割と話が通じる相手だと思って胸襟を開いての本音トークをしたつもりなんだけど……何か勘違いされていないか?


 特に父上と兄上が楔とか、流石にそこまでの権限はないし、あれは王族からの強制だっただろうに。


 確かに今父上と兄上は大陸で拠点を得て、橋頭堡を築きつつあるけども、それはたまたま上手くいっただけという話。


 俺からの支援がなかったらそうはなってなかっただろうし、俺からの支援だってたまたま氷商売が上手くいったから出来たこと……そこが出来ていなかったらどんな悲劇が待っていたことやら。


「聞けば、世界各地でも拠点作りをしているそうだね?

 氷どうこうを理由に飛空挺の発着所を作り、そこから各地に影響を与えようとしている訳だ。

 そして氷を売ると同時に各国王族との顔繋ぎをし情報を収集し……見たことも聞いたこともないような地の技術などが入り込んでくる……と。

 貴殿だけでどれだけの国益となっているのか分かったものではないね。

 その言葉を安易に否定することは出来ないが……しかし王族がこれまで積み重ねてきたものも否定することは出来まいよ」


 軍務伯はそう言葉を続けてきてから、こちらに視線を送ってくる。


 何かを期待しているような……しかし何を期待しているかまでは読み切れず、仕方無しに俺はただただ本音を返す。


「歴史を否定するつもりはありません、また王族全てを否定するつもりもありません。

 王権を廃止したとしても、王族や王城は残しても良いと思っています。

 むしろ王権を廃止してからが王族としての本番、国民国家の象徴として様々な場にて活躍していただくことになるでしょう。

 ……しかし王族だけの思いつきで国や政治を動かされるのはごめんです。

 将来の王族の正気を誰が保証するというのですか」


「……王太子の掲げる絶対王政の危険性か。

 確かにね、周囲が支えてやれば問題ないと言う者もいるかもしれないが、ならばその周囲が最初から旗を振れば良い話。

 ……そして最近の王太子のやらかしと貴殿に対する態度。

 反論が難しくなってしまうね……改めて聞くが和解はないと?」


「こちらの条件を呑んでいただけるならいつでも和解しますよ。

 それと王太子の首を重い条件と捉えていらっしゃるようですが、それは譲歩しての最低限の条件でしかありません。

 それ程のことをやられていますし、被害も出ています、結婚式に父と兄に参列していただくことも叶いませんでした。

 何故王族王都はそういった部分を軽く考えておられるのか、不思議でなりません」


「……なるほど、貴殿の言い分はよく分かった。

 とりあえず一旦預かろう、王都に戻り関係する方々と話し合い、王族とも話し合おう。

 その後また話をしたいと思うが、如何かな?」


「分かりました、こちらも簡単に結論を出せる話とは思っていません。

 リュード軍務伯にはご足労頂いた上に、そこまで気を配って頂いて感謝の言葉しかありません。

 軍務伯のお言葉であればいつでも耳を傾けるとお約束させていただきます。

 また後日改めてお礼もさせていただきたいと思います。

 ……結論が出るその日までやり取りが続くことを願うばかりです」


「……ああ、分かった。

 言葉が通じる相手との会談は実にスムーズで良いものだ。

 この茶は外国製の一級品、茶菓子にしても初めての風味がある。

 それだけ国外と繋がり、未知の物を手に入れていると伝えてきている……その若さでそれが出来て、この会談。

 ……王太子には出来ないことだろうね」


 と、そう言って軍務伯はスーツのボタンを留めてから立ち上がり、控えさせていた家臣……恐らく軍務伯のバトラーに預けていた帽子を受け取って被り直してから握手を求めてくる。


 とりあえずの妥協、一旦の話し合いの終了を記念してのものと思われるそれに応じると……良い笑顔を見せてくれてから、洗練された所作で立ち去っていく。


 少しだけ足早なのは、これ以上の言葉や見送りはいらないと示しているのだろうか、それでも一応見送りに出て可能な限りの礼儀を尽くす。


 ……そうして一通りの予定を片付けることに成功した俺がほっとため息を吐き出していると、慌ただしくフィリップがどこからか駆けてくる。


「……る、ルイス達がやらかした!!」


 実に分かりやすく簡潔な報告に頭を抱える。


 何を、とは聞かない、フィリップがそこまで慌てているのだから大体のことは察しがつく。


 部屋に引きこもりっぱなしのコーデリアさんのことも気にかかるし、そちらのフォローをしたかったのだけども仕方ない、まずはこちらから対処するかと決めてシティハウスを後にした俺は、詳細な報告を受けるために屋敷へと足を向けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はその後のあれこれとか、事後処理のあれこれとか

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― 新着の感想 ―
ハーレム云々の件では大変失礼致しました。 読み落としておりました。 ---------------------------- 令嬢達の話を見るに、この世界、女性の立場はなかなか微妙なようですね。 軍事…
まぁ証拠をつかまれてないならギリギリセーフって事でw 元より相手は表立って理不尽な事やってきてるんだからノーカンノーカンって事で一つw
やっぱり無断で攻撃したら駄目だよなあ。 後始末が面倒なことになったりとか、相手に交渉材料を与えたりしたら逆効果だもんねえ。 事前に知っていてそれらを織り込み済みならともかくとして。
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