宴会
―――領主屋敷周辺の街中で ルイス
「なー、領主様って今、隣国に行ってるんだろ? 隣国ってやっぱ、コーデリア様みたいな美人ばっかりなのかな?」
街中をスタスタと歩く少年の一人がそんな声を上げる。
「……どうだろうね、ノアブアさんみたいな人ばかりかもよ?」
もう一人の少年、ルイスがそう答え……それを受けて少年の一団は「うへぇ」という顔となる。
「……隣国かぁ、ごちそうとか食べてるのかな? 領主様って普段はあんまり良いもん食べてないんだろ? こんな時くらいはごちそう食べて欲しいよな」
更に別の少年がそう声を上げて……一同は領主様の事情を知るルイスへと視線を向ける。
「まぁ、そうだね、領主様は毎日茹でた野菜と黒パンばっかりだね。
ハムとチーズは少しだけ、ワインは飲まずミルクはよく飲むかな……多分オレ達の方が美味い飯食えてるよ。
心配して地主の人達とかが色々持ってくんだけど、あんまり受け取ってもらえないらしい。
贅沢は毒だからあんまりしたくないんだってさ、たまーに贅沢をしたとしてもリンゴを食べるかアップルパイを食べるかのどっちかかな」
「……なんだそりゃ!? 貴族様ってのは贅沢のために生きてるもんだと思ってたんだけどなぁ……。
大人になるとそういう感じになるのかな?」
また違う少年の声にルイスは半目を向けてから口を開く。
「何言ってんの、領主様は14歳だよ、オレらとそんな変わんない子供だよ。
それが領主になって問題を全部片付けてオレ達を助けてくれたんだ。
……だからさ、領主様を舐めてる連中が湧いてくるんだよ、子供だからって甘く見てなんとでも出来ると思ってるんだ。
……だからオレ達が動く必要があるんだ、特に今は領主様が遠出してるから、やらかすバカが出てくるに決まっているんだから」
「え!? 14!? ……えっと領主様になったのは何年も前だから、弟達みたいな歳で一人で皆のために働いてきたの?
んで成功して変な貴族蹴散らして、王様にも喧嘩売って勝とうとしてる??
……すっげ」
「そうだよ、凄いよ、でもどんなに凄くても領主様も人間だから助けてやる必要があるんだよ。
それがオレ達の仕事……命を救われたんだからさ、相応の働きをしないとね。
領主様が殺されたり領主の椅子奪われたりしたら、前に逆戻り、孤児院もまた貧乏になるんだからね」
ルイスがそう言うと、一団の目が一斉に鋭くなる。
革靴にズボン、緑色の煤除けコートにサイズの合わない帽子、同じような格好をした一団は自警団を自称して街中を見て回り……そして領主に敵対するようなことを言ったりしたりしている連中に制裁を加えていた。
孤児の集団がそんなことをしでかせば、普通はすぐさま騎士か役人達に捕まってしまうものだが、周囲の大人達も騎士達も役人達も領主のために動いていることを知っているので何も言わない、何もしない。
今、このウィルバートフォース領内で領主に感謝していない者はいない、いるとするなら以前のように悪事を行えなくなったアウトロー達だけだ。
それを抑え込んでくれるのなら、多少のヤンチャにも目を瞑るし応援もする。
実際自警団が動き始めてから街の治安はどんどん良くなっていて……特にやることがなければ街や煙突の清掃をしてくれるのだから、文句などあるはずがない。
緑の兄弟達と名乗るその集団は、街の人々にとっては最早欠かせない存在となっていて……それを上手く使っている領主にも相応の敬意を抱くようになっていた。
「さ、今日もしっかり仕事をこなすよ。
真面目に頑張ればフィリップの兄貴のように認められて、もっと良い給金と将来を約束してもらえるんだ。
フィリップの兄貴は将来、代官にしてもらえるんだってさ、代官になれば街の誰よりも偉くなれるんだ。
領主様の次に偉いのが代官……孤児っていうか平民にとっての成り上がりの頂点がそこだ。
……皆もそのつもりで頑張らないとね」
更にそうルイスが続けると、一同は覚悟を決めた表情となって……そうしてルイス達は裏通りに入り、本来はそこにないはずの道を進み……昼間から騒がしい、営業許可の出ていない違法酒場へと乗り込んでいくのだった。
――――宴会場で ブライト
宴会のためにと案内された場は、屋外でのバーベキューパーティといった様子となっていた。
石組みの窯があってそこで野菜や肉、パン料理などを焼き上げていて……今日のために色々と準備してくれたのだろう、かなりの種類の肉があるだけでなく魚介もあって、周囲にはたまらない香りが漂っている。
味付けはシンプルに塩だけ……と、思いきやハーブや果物を煮詰めた甘めのソースなんかもしっかりあるようで、それをかけながら焼き上げた際に出る香りといったら、前世の料理にも負けないレベルとなっていた。
……そうかぁ、シンプルにバーベキューという手があったか。
転生して料理に関しては諦め半分の健康優先だったけども、これなら普通に楽しめそうだなぁ。
屋敷に戻ったらあちら流のバーベキューを模索しても良いのかもしれないな。
食事の形式としては立食で、皿とフォークを渡されての食事となり……コーデリアさんが隣でこちらの食べ方を教えてくれている。
と、言ってもまぁあちら程マナーにはうるさくなく、美味しく食べるためにはどうしたら良いか、程度のものだけども。
その間、こちらの人から話しかけられることはほとんどなかった。
……まぁ、王様であの調子だったからなぁ、貴族に対する接し方がいまいち分かっていないのだろう。
食事を用意している女性陣が好みとかを聞いてくるくらいのもので……まぁ騒がしいよりは楽で良い。
……そしてこの国での女性の立場もなんとなく見えてくるなぁ。
我が国よりも地位が低そうだ、ちょっとした仕草や態度などからそれが見えてくる。
コーデリアさんをほぼ単独でこちらに送り込んだ辺りで、大体察しているものはあったけども……まぁ、うん、他所の国のことだ、あれこれ言うものでもないだろう。
「……どうですか? このソース、あたしもよくこれを作ったんですよ」
と、コーデリアさん、故郷の味が懐かしく嬉しく、そして誇らしくもあるのだろう、そんな顔で声をかけてくる。
「凄く美味しいです、これなら我が領の料理にも私の好みにも合いそうですね。
こういったソースなら焼き料理にも良いでしょうが、揚げ料理にも合うと思いますよ、パン粉をまとわせて揚げた料理とかには特に」
俺がそう返すとコーデリアさんは、パッと笑顔を咲かせる。
「あ! お屋敷で食べさせてもらったやつですね、あれなら確かにこっちのソースの方が合いそうです!
お料理とかスープとかはお屋敷の方が美味しいんですけど、野菜やお肉、お魚はこっちが美味しいですから、上手く組み合わせたらどっちも美味しくなりそうですね」
「そうですね……そうなれば良いと思っています。
料理だけでなく、全てのことでお互いの良い所を出し合い支え合い、お互いが得する関係になれたらそれが理想です。
難しい道ですが……これから世界はどんどん広くなるでしょうから、その難しい道を行くしかないんだと思います」
飛空挺だけの話じゃなく、船もどんどん改良が進み、そのうちあっさりと世界一周を達成することだろう。
国と国の距離が縮まり、人々が認識する世界が広がっていく、皆が当たり前に知っている大陸、国だけの話ではなくなってくる。
……そうなったら世界を相手に勝負をしていかなければならない、近場で争っている場合ではない。
同じ言語、文化で繋がり合える相手とは手を取り合っていくべきだろう。
そんな意図の話がどれだけコーデリアさんに通じたかは分からないけども、仲良くしたいという本音は伝わったのだろう、その笑顔を輝かせてくれる。
と、その時だった、大柄なドルイドの中でも一際大柄なドルイド……コーデリアさんとよく似たメッシュ入りの髪を頭の上でまとめ上げた女性、タルのような女性が現れる。
ローブのようなドレスのような……大きく広がったスカートのようなそんな服を着ているのだろうけど、何しろ太っているものだから原型がよく分からず、なんとも言えない。
「婿殿、お初にお目にかかります、コーデリアの母、ミーアイアです。
どうぞよろしくお願いいたします」
と、そう言ってウィンク、濃い目の化粧でくっきりと描かれた顔が嬉しげに歪む。
コーデリアさんより身長が高い上に太っているものだから、凄く大柄に見える……しかし様子を見るに脂肪で太っているのではなく筋肉で太っている。
腕も足もしっかりと筋肉がついていて……思わず「すげぇ」なんて声を上げそうになるが、それをぐっと堪えて挨拶を返す。
「はじめまして、ウィルバートフォース伯ブライトです。
この度は娘さんとの縁を頂けたこと感謝しています、どうぞよろしくお願いします」
「……本当に良い縁をいただきました。
コーデリアがこんなに幸せそうに笑うなんて思ってもいませんでしたから。
この子は大人しすぎて中々意見を言えない子で……心配していたのですが、どうやらそちらの気風が合ったようですね。
……この子のこともよろしくお願いいたします」
「はい、私もコーデリアさんには助けられていますから、お互い支え合っての良い家庭を築けるものと思っています。
これからもこの先も、必ず幸せにすると神々に誓いましょう」
そう言うと何故かコーデリアさんが手を伸ばしてきて、俺の手の中にある食器を受け取ってくれる。
何故? と、思うと次の瞬間、その答えが分かる、ミーアイアさんの大きな両手が俺の手をがっしりと握る。
そうして引き寄せられて振り回されて……なんだか母娘だなぁと確信が出来てしまう。
目をよく見れば潤んでいて思っていた以上に感動してくれているようだ。
……もしかしたらもっと激しく喜びたいのかもしれない、あれこれと言葉を交わしたいのかもしれない。
母としてしたいことがいっぱいあるのかもしれないが……こういう場だからとぐっと堪えて、この程度に留めているのだろう。
母として王妃として許されるギリギリのライン……良い人なのだろうなぁということが伝わってくる。
……そして手がでけぇ、コーデリアさんよりでけぇ、指がゴツゴツとして相当鍛えているんだろうなぁということが分かる。
「そして人材交流の件もありがとうございます。
先進的なそちらの考えを学べたなら、こちらの流れが変わることもあるかもしれません。
……力だけではまた迫害される時代がやってくるだけ、わたくし達も変わる時が来たのでしょう。
わたくしの手の者も何名か送りますので、婿殿には特別目をかけて頂きたく、お願いできますでしょうか?」
そして縋るような声と表情でそう言ってきて……なるほどなぁと思いながらコクリと頷く。
「もちろんです、縁ある義母上の頼みを断るでは紳士ではありませんから、最大限の配慮をさせていただきます。
……しかしあくまで配慮です、後のことは当人達の努力次第ということをお忘れなく」
姉上もまた男社会に挑もうとしている一人、同じ志と思えば応援したい気持ちはあるけども他国の事情にそこまでは深入り出来ないしなぁ、釘を刺しておく必要はあるだろう。
それでもミーアイアさんには十分だったようで、コーデリアさんとよく似た表情で目を輝かせてくる。
うぅん、母娘だなぁ。
……と、そんなこともありつつ宴会は無事に終わり、それから俺達は帰るために飛空挺に戻った。
泊まっていって欲しいと引き止められたりもしたのだけども……領地をいつまでも空ける訳にはいかないと返すと納得してくれて、鉄塊ペンチと共に帰路につき……それから飛空挺の整備のために発着所に来ていた顔見知りの職人達に声をかける。
「……あちらで作られた鎧攻略用の武器をもらってきたんだが、見てみないか?」
すると職人達は興味津々、目を輝かせながらついてきてくれて……そうして飛空挺の倉庫でそれを見せて、コーデリアさんに持って構えてもらい、こう使うのだと実演のようなこともしてみせる。
すると職人達は異口同音に、
『それで殴った方が早いだろ!?』
という感想を口にし……しかしそれはそれとして隣国の鍛冶仕事には興味津々だったようで、コーデリアさんが鉄塊ペンチをそっと床に下ろすと駆け寄って、触ったり叩いたり持ち上げようとしてみたりとし、あれこれと調べ始めるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回……色々とフラグ回の予定です




