結納
西の島、ロブル国は蛮族の住まう島とされているが……蛮族と言う言葉から想像される程、文明が遅れている訳ではない。
当たり前の話だけども、どういう関係であれ交流がある以上は影響がある訳で……こちらの街とそんなに変わらない街並みが広がっている。
あえて違いを上げるのなら鉄道などの整備がまだで、木造建築が多めという所だろうか。
ドルイド族にはオークの木やリンゴの木に対する信仰と言ったら良いのか特別な感情があるらしく、それらの木で作られた家やらベンチやらが多めで……家や屋根の色も緑色が多めという点も違いになるかもしれない。
そういったことから独特の色合いが広がっていて……落ち着いたその光景はこれはこれで悪くないと楽しむことが出来るものだった。
そんなロブル国の首都は島の中央にあるのだが、実質的な首都は島の東端にある。
……文化的、歴史的には自分達で定めた中央が首都なんだけども、実質的、経済的には港がある東端が首都……という感じだ。
迫害してくる相手でありながら、唯一取引をしてくれる相手でもあった我が国との繋がりはそれ程に大事だったようで……俺が領主となってからは更にその東端の街が賑わい、発展していて……まだまだ不十分な作りではあるけども、飛空挺の発着所も整備されている。
そこまで飛空挺で乗り付け、階段を展開していると以前使者としてやってきたドルイド族の男性、ゴウケアが何人かの男性を引き連れながら姿を見せる。
以前よりも豪華になったサークレットに付け角、服装も銀糸交じりの豪華なものとなっている。
率いる男性の数は10人……当たり前だけどいずれもドルイド族で、2m近いマッチョが並ぶその光景は中々の威圧感だった。
階段の展開が終わると、まず護衛ということでまずライデル、次にアレス男爵が降りていく。
そしてライデルの部下が続き……それから俺とコーデリアさん。そしてまた護衛。
そうやって俺達が降り立つとドルイド族の礼なのだろうか、深々と頭を下げてからゴウケアが声を上げる。
「お久しぶりです、ウィルバートフォース伯。
こうして再会出来たこと嬉しく思います……そしてわざわざのご足労ありがとうございます。
我が一族は今日というめでたい日を迎えられたことをこれ以上なく喜び、嬉しく思っております」
「ああ、久しぶりだ。
私も今日という日を嬉しく思っている、コーデリアさんとの婚姻のためにこうして挨拶に来られたということは我が人生において最も幸せな瞬間だと言えるだろう。
結納の品も用意させてもらったが、それらは船で運んでいるため到着が少し遅れる……問題はないだろうか?」
俺がそう返すとゴウケアは、にっかりとした笑みを浮かべてくる。
「はい、結納の場では目録さえあれば問題はありません。
……ちなみに、どんな品かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「そうだな、まずはドルイド族用に仕上げた最新の鎧をいくつか、それと小型になるが飛空挺を一隻。
名産品となる家畜を数十頭、後は職人に作らせた金細工と銀細工がいくつか。
……コーデリアさんとの縁の素晴らしさを思えば、大した価値のない品々かもしれないが、どうか受け取って欲しい」
にっかりとした笑みが凍りつく、予想外だったようで……まぁ、予想より多かったんだろうなぁ。
とは言え、ここでケチれば伯爵家としての名が傷つく、このくらいは用意させてもらわないとなぁ。
鎧と飛空挺は最新型、細工は最高級品、家畜も一番質の良い羊と牛を用意したし……とりあえず名誉は守れるラインには出来たと思う。
もっと用意しようと思えば出来るが、あまり多すぎると迷惑かと思って自重したのだが……この反応を見るに正解だったようだ。
「で、では結納の場までご案内します。
馬車を用意しておりますのでそちらですぐの所で、コーデリア様のご家族がお待ちです」
そう言われて移動開始となって……俺はコーデリアさんと手を繋ぐ。
本来なら腕を組むのが正しいのだけども、どうしても身長差がなぁ……無理をしたら組めなくもないが不格好になってしまうので、こういう形でのエスコートになる。
それでも少し不格好になるが仕方ない……コーデリアさんは嬉しそうだし、問題はないのだろう。
故郷への堂々の凱旋と言うか、発着所の周囲には多くのドルイド族達が集まっていて……その視線に応えるかのように笑顔を振りまいている。
野次馬のドルイド族の反応は様々だ、驚く者、興味津々な者、悔しそうな者、笑顔に笑顔で応える者。
しかし憎しみといった感情を向けられている気配はなく、ざわつきや黄色い声はあっても罵声はなく……迫害についてはそこまで恨んではいない様子だ。
まぁ、恨んでいるようなのは野次馬には来ないのかもしれないが、それでも思っていたよりも雰囲気が柔らかくて驚かされる。
俺達にだけでなくライデルやアレス男爵にも似たような視線が向けられていて……あれだけの迫害を受けていながらもこの態度は、凄いというか素直に尊敬してしまうなぁ。
そうやって到着した馬車はドルイドサイズの六頭引きの大型馬車、馬も大型でがっしりしていて……俺、コーデリアさん、ライデル、アレス男爵、更に護衛の騎士二人が乗って尚余裕がある。
作りとしてはこちらとそう変わらない、というかただ大きくしただけのように見える。
大きいドルイド族を乗せるからかクッションなどの柔らかさはかなりのものとなっていて……乗り心地は悪くない。
それに乗って数分、乗る必要があったのかというくらいの距離で到着、木造の建物が待っているものと思っていたのだが、そこにあったのは石造りの神殿のような建物で……横に広い平屋といった印象の、中々見栄えの良い外観となっていた。
真っ白な石に金箔での装飾、アーチ状を基本とした造りになっているようで、何本もの柱とアーチがあり……それらに支えられた屋根はかなりの大きさの石材を組み上げることで作られている。
どうやってあれだけの石を切り出したのやらと思ってしまうが……まぁ、そうだよね、ドルイドだもんね、このくらいの力仕事は簡単にこなしてしまう訳か。
ある意味でドルイドの力を見せつけるには最適と言えて……外交の場をそうするのは、中々悪くない考えだなぁと思う。
大きな門をくぐって奥へ、玄関は大きな石門、そこを過ぎると刺繍のされた絨毯が道を作っていて……素直にその通りに進み、大きな部屋の中へ。
大きめのダンスホールといった印象の広さだが、ドルイド族にとってはこのくらいが普通なのかもしれない、そんな広い空間には絨毯が何重にも敷かれていて……その最奥の中央に40か50歳くらいの男性が座布団のようなクッションの上に腰を下ろしていて、その男性の左右に神妙な様子の男性達が並んで立っている。
中央の男性の角は特に立派で、太く長く……どこかコーデリアさんに似ている気もする偉丈夫だ。
ドルイドらしいローブ姿だが、しっかりと筋肉が浮き出ていて……顔は彫りが深く頬がこけている。
金色の長い髪、白い目……そこら辺はあまりコーデリアさんには似ていないかな。
そちらへと足を進めると、左右に控えていた男達がクッションを持ってきて、父親の前に置く。
そこに俺とコーデリアさんが並んで座り……まずコーデリアさんが口を開く。
「お父様、お久しぶりです」
と、その男性に挨拶をするコーデリアさん、やはり父親だったか。
「……ああ、元気そうだな。
そしてウィルバートフォース伯、よくぞいらした。ロブルの王として歓迎いたす」
「ウィルバートフォース伯ブライトです、今日はコーデリアさんと婚約させて頂いたことの報告と結納のために足を運ばせていただきました」
……お互いに少しぎこちない。
仮にも一国の王、立場としてはあちらが上だが経済的な関係としては支援をしまくっているのでこちらが上、相手としては無闇に偉ぶる訳にはいかないが、かと言ってへりくだる訳にもいかず、しかし俺を怒らせたくはない。
……こちらとしても一国の王として一定の礼儀を払うべきだが、へりくだり過ぎて舐められる訳にはいかないし……お互いにまずは距離感を掴みたいのが本音。
という訳で探り探り、相手の目を見て仕草を見て、感情を探り合いながらの会話となる。
「我が愛娘ながら田舎者、それを温かく迎えてくれた伯には感謝しかない。
世界を駆ける伯との縁があれば、我が国も少しは先進的になれるだろう、この良き縁をいつまでも大事にしたいと思う」
「そう言っていただけて光栄です。
こちらとしても、コーデリアさんという素晴らしい女性との縁は何よりの宝、大切にしたいと考えています」
それからしばらくの間、探り探りの会話が続き……前に進んでいるのか後ろに下がっているのか、分からないまま時間が過ぎる。
そうして何分が過ぎたか……そろそろ頃合いと見たのかロブル王が結納のことを切り出しいてくる。
「ところで今日は結納のための来訪とのことだが、その品などは……?」
「こちらに目録を用意してあります」
と、そう言って懐から封筒を出して差し出すと、控えていた男性が手に取り、ロブル王の下へ。
それを開いて目を通した王は……面白いくらいに大口を開けて硬直する。
……人間って、あんなにも大きく口を開けられるんだなぁ、アゴが外れているのだとしてもかなりの大きさだ。
「こ、これはまた素晴らしいですな」
無理矢理開いた口を閉じて声を上げるロブル王、渋かった声が裏返り震えている。
……この人はコーデリアさんの父親だけあって、良い人なんだろうなぁという確信をそこで得ることになる。
「コーデリアさんとの縁の価値を思えば、全く釣り合っていない量ですが、どうかご容赦を。
この先、良い付き合いが続くことがあればまた、縁を紡ぐための贈り物をさせていただきます」
「……この良縁を与えてくださったこと、神に感謝しなければならんだろう。
……そしてこれだけの誠意を見せて頂いたのだから、こちらも誠意をお見せしよう。
実は貴殿からちょうだいした鎧に致命的な弱点を発見してな……それを突く武器を開発したので受け取って頂きたい」
今度はこっちも驚かされた。
弱点……弱点か、全く思いつかないでもないが、攻略する武器となると中々思いつけないな。
しかもこちらでも作れる武器となると先進的ではないのだろうし……一体どんな武器なのだろうか?
なんてことを考えていると、奥から男が大きな鉄塊を持ってくる。
……その鉄塊は何と言ったら良いのか、ハサミと言うかペンチのような形をしているように見える。
大きな鉄塊ペンチ、そして次に鎧が運ばれてくる、ドルイドの男二人が抱える形で。
そしてそれをどんと置いて、鉄塊を持っていた男がペンチの持ち手をしっかりと握ってペンチを開き……ペンチの挟み部分といったら良いのか、掴む部分でもって鎧の胴体部分を挟む。
まさかそのまま潰すつもりなのか? と、一瞬考えたが違った。
男は鎧の胴体を挟んだままペンチを引っ張り始め……男が青筋を立てて全身に力を込めると鎧の装甲が凄まじい破壊音を上げながら引き剥がされていく。
「こうして引き剥がせば後は無防備、槍でも弓でも簡単に決着出来るという訳だ。
胴を引き剥がすと鎧全体が動かなくなるのも問題、そうなれば棺桶のようなもの、致命的な弱点と言える。
構造を変えるべきかと……まぁ、我々は機能不全の鎧でも問題なく動かせるが、誰もがそういう訳ではないはず、具体的にどうすべきかは分からんが……」
「……い、いえ、よく分かりました。
ドルイド族の膂力だからこそ可能な鎧の攻略法という訳ですね。
対策を考え、進めたいと思います、ありがとうございます。
またこちらに来て頂いているドルイドの皆様にも新しい攻略法として周知させていただきます。
きっとその膂力でもって私達を助けてくださることでしょう。
胸襟を開いた配慮、改めてありがとうございます、どうぞこれからも縁ある者としてよろしくお願いいたします」
「……こちらこそ。
結納が終わり、後は式さえ挙げれば我らは縁者、共に未来を紡いでいくとしよう。
……さぁ、結納が終われば後は宴会をするのが通例。
馳走を用意したので楽しんでいくと良い」
と、そう言ってロブル王が手を叩いて合図を出すと、女性達が姿を見せて食事の場を整えていく。
そうして宴会のための準備が始まり……とりあえず結納が無事に済んだことに安堵した俺は、会場の隅に置かれた鉄塊ペンチを見やりながら、どうしたものかなぁと頭を悩ませるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回は宴会やらその後のあれこれやら




