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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第三章 幸福への道

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子爵令嬢



 天候などの話から最近の王都の様子の話、そして件の修道院の噂について。


 修道院の話はお祖父様がバラまいたので当然のように隣領に届いていたようで……そこからエリアン公爵の話になる。


「―――エリアン公爵は最近になって動きを鈍らせているようです。

 今までは自信満々といった様子だったのですが、突然の変わり様で市井で話題となる程です。

 ここからは私の勝手な想像となりますが、王兄スティーブン様の死が影響しているのではないでしょうか」


 庭にパラソルのような日除けを立てて、そこの下にテーブルと椅子を置いて、俺とコーデリアさんは隣り合うように座り、そして向かい合うように座ったエリザベス嬢がそんな話を振ってくる。


 ふーむ……そうなるとエリアン公爵はスティーブンの関係者、ということになるのだろうなぁ。


 あの修道院があったのも公爵領だったし、あの修道院にはかなりの数の使用人がいた、誰かが雇って給料を支払っていたということを考えると……公爵が無関係ということはないだろうなぁ。


「残念ながら王兄から話を聞ける機会はなかったので、私からはなんとも言えませんね。

 何しろ何もかもが突然のことで、王兄も狂気に染まっていましたし」


 俺の想像でしかない話はあえて伏せてそう返すと、エリザベス嬢は少しだけ眉を動かす。


 何か引き出したい情報でもあったのだろうか? 素直に聞いてくれたなら答えることも出来るんだがなぁ。


「……確かにあれ程のことをしでかした訳ですから、尋常の様子ではなかったのでしょうね。

 よく被害らしい被害もなく収拾出来たと驚くばかりで……人的被害はなかったのですよね?」


「えぇ、怪我人は出ましたが、人命に関わるようなことはありませんでした。

 ただ自分のために特別に作らせた飛空挺と、盗賊騒動を受けて臨時で作らせた防衛塔のいくつかが完全に破壊されたので、被害がなかったとは言えませんね。

 特に飛空挺には色々な品も積んでいたので……王城がどう弁済してくれるのか、気になるばかりです」


「それはそれは……。

 王城も荒れていると聞きますし、簡単に決着する話ではないのでしょうね。

 そちらに関して面白い話が、なんでもリュード軍務伯が事態を収拾しようとしているとか」


 おっと……軍務伯が動いているのか。


 軍務伯はその言葉からイメージするような軍事関連の爵位ではなく、紋章の管理などを行う紋章院の総裁などを担当する爵位となっている。


 そこから関連して祭典や礼式の主催などを行う典礼大臣のような仕事も行っていて、軍事上の問題を取り扱う騎士法廷も軍務伯の管轄で、更には王城の警備も担当していて専用の騎士団を有してもいるし。


 ただしこれはあくまで『軍務伯の騎士団』であって王城、王家の騎士団ではない。


 そういったことから軍務伯の権力は公爵相当、あるいは公爵より上の権限を持っている。


 実質的には大臣職のトップ、宰相に匹敵するような地位で……もう一人の宰相みたいなものなのだろうなぁ。


 それと紋章に対するイメージも前世とは違っている、その家を司る意味以外にも勲章的な意味があり……ただ歴史や名誉を示すだけでなく、ちゃんとした効力を持っているのだ。


 たとえば一定以上のレベルの紋章があれば王城の入場の際にフリーパス。


 裁判を始めとした役所の手続きが無料、国営施設の利用が無料、役人が御用学者、騎士団の派遣を無料で要請出来る、一部の税が免除……などなど。


 外国人が我が国の紋章を持っていれば入国の際にかなりの優遇が得られるなんてこともあり……そんな力を持つ紋章の管理をしているのだから、その権限は相当なものだ。


「事態の収拾、ですか……。

 しかし軍務伯ではまともな仲介には期待出来そうにないですね。

 どうせ王族寄りの立場なんでしょうし……今更になって動き始めたのも王族の働きかけなのでしょうから」


「また厳しいお言葉ですね。

 ただその認識は少し間違っているかと……私が知る限りリュード軍務伯は、非常に厳格で実務的な方です。

 伝統を重んじ王家に敬意を示し、誰が相手でも平等かつ正義をもって接する。

 ……仮に親戚や友人であっても決して甘い顔はせず、ある事件を起こした親戚から全ての紋章を没収したというのも有名な話ですよ。

 まだそういう厳しさが知られていない頃のお話で、王族を含めた誰もが彼に任せておけば甘い処罰を下すものと思い込んでいたのですが……まさかの厳罰でしばらくの間、貴族社会が混乱したそうです」


「……なるほど、そういう方もいらっしゃるのですね」


 ふーむ……そういうことなら役に立ってくれる、か?


 いや、会ったこともない貴族に期待するなんてのは不確実過ぎる、厳格な態度でもってこちらを罰しようとしてくるかもしれないし、警戒をしておくべきだろうな。


 しかしまぁ、色々なことを教えてくれるなぁ、騒動のお見舞いに来たにしては、どんどん話を振ってくれるし、かと言って何かを求めているようでもない。


 本当に情報交換を求めているだけ……なのだろうか?


「ところでウィルバートフォース伯、最近の王太子の動向をご存知でしょうか?

 何やら新しい兵器を開発しているとか……それだけでなく農政にもご興味を示されているとか……。

 そして伯はそれに懸念を示していらっしゃるとも聞きました。

 お話を聞かせていただくことはできますか?」


 ああ、なるほど、そこ関連だったか。


「……いえ、確かに色々と聞き及んではいますが、どこまで事実なのやら分かりませんし、こんな場で私の邪推を口にする訳にもいかないでしょう」


「あら、そちらの婚約者様をご紹介いただいた時から、お話しいただけるものと思っておりましたが」


 ん? ……あ、ああ、トラクター対策どうこうではなく、ドルイド族のことだったのか。


 西の島からの農作物輸入、そこと王太子の動きを絡めて紹介してきたのだから、その辺りを話せと。


 ……なるほどなぁ、そんな意図は全くなかったし、確かにドルイド族が関わってはいるがそこが対策の主軸ではないし……なんと返したら良いものか困ってしまう。


 ……が、敵対している訳ではないし、その様子もない、少しは友好的に話しても良いのかもしれない。


「ドルイド族と友好関係を結び、農作物の輸入をしようとしているのは確かです。

 工業化が進む国内の食を支えるためには必要なことだろうと。

 それと長年関係が悪かったドルイド族との関係を修復したいとも考えていて、そのために打てる手は打っています。

 ただそれをやり始めたのは、もっと前のことで……最近の王都の動きは関係ありませんね」


「……そうだったのですか。

 なるほど、そう聞けば納得出来ますね……そういう意図でしたか。

 その先見の明で動いていたものと思い込んでおりました」


「……まさか、自分のような若輩にそこまでの真似は出来ませんよ。

 若い頃から失敗ばかりで、最近はたまたま上手くいっていますが、それも運が良かったからというだけの話ですよ」


 全て本音だった。


 隠している思惑があるのもまた事実だけども、流石にそこまで開示する理由はないからなぁ。


 そしてエリザベス嬢は、まだまだ腹芸が得意ではないようだ、可能な限りポーカーフェイスを維持しようとしているが、所々で表情が変化してしまっている。


 何かを探ろうとしているが敵対しようとは考えていない、俺やコーデリアさんに対する敵対感情や嫌悪感情はない様子だ。


 ドルイド族に対する差別感情も恐らくない、とても素直で真っ直ぐで……まぁ、10代ならこんなものなんだろうなぁ。


「……運が良かった、ですか。

 羨ましいですね……運が良い伯爵から、この若輩に何か助言などあれば良いのですけど」


 と、エリザベス嬢はどこか期待に満ちた視線を送ってくる。


 ……なるほどなぁ、つまりエリザベス嬢は俺のように領主になろうとしているのだろうな。


 そして若くして領主となった俺の助言が欲しい……かな、多分。


 うーむ……俺が成功出来たのは運と前世と家族のおかげだからなぁ……まぁ、出来る限りの助言はすべきか。


「私の真似をしたからといって成功出来るというものではないでしょう。

 あくまで我が領だから成功出来たというだけの話ですから。

 ……それでもあえて助言をするなら、まずは領内を自分の足で歩き自分の目で見ることです。

 そして自分で考え、自分の責任において実行すること。

 ……そうして今の私があります、不安や不足があれば家族に頼ると良いでしょう。

 貴女を愛してくれる家族以上に頼れる存在はないはずです、私なんかよりも良い助言役になってくれるはずです」


 心からの助言だった、嘘偽りがない本音からの。


 これ以上は流石に踏み込みすぎというか、こちらの手札を晒す訳にもいかないからなぁ。


「……私は良い領主になれるでしょうか。結局私は女性なのですよ。

 父はかつての女王達の名を挙げますが……」


 まさかの吐露、ここで不安を見せてくるとは……。


 それからすぐに「しまった」という表情になっている辺り、言うつもりはなかったようだ。

 

 ……なるほどなぁ、若くしての領主というだけでなく女性というプレッシャーもある訳か。


 この国は女性君主や領主を認めてはいるが、それでも男を求める向きがあるのも確かだ。


 歴史に名を残す女性達はいずれも女傑ばかりで、そういう流れを実力や腕力で押し流すことで名前を残してきた。


 それ以上のことをしなければならない、そういう社会に挑まなければならないというのは、俺とは全く違う状況なのだろうなぁ。


「私はまだエリザベス嬢のことをよくは知らないので、なれるとまでは言えませんが、もしなれたのならその名は歴史に残ることでしょう。

 そしてそれに続く女性達の良い目標となるはずです、多くの試練が待っている道となるでしょうが、そこに挑む価値は十分にあるはずです」


 これは何もエリザベス嬢の話だけではない、これから男だらけの学会に挑むことになる姉上や、人種差別の残る社会に挑むことになるコーデリアさんも同じなのだろう。


 大変な選択だが、選ぶ価値は確かにあるはず……そんな言葉がエリザベス嬢に届いたのかどうかは知らないが、少しだけ不安そうな色を持っていたその表情が挑戦的なものに変わる。


 ……まぁ、そうだよね、女性領主として成功するってことはこちらとも相応にやり合うことになるってことだからね、先に領主になった俺に挑むということになるのだろう。


 妨害をするだとか戦争をしかけるだとか、そういう話ではなく領主として正々堂々、ぶつかり合って競い合って、より高みを目指していくことになるのだろう、お互いに。


 そんなことを考えて俺は無言で握手を求めて手を差し出す。


 するとエリザベス嬢は更に挑戦的な表情となって握手に応じてきて……痛いくらいに握りながら、口を開く。


「ありがとうございます、素敵な言葉を頂戴しました。

 ……お礼という訳ではありませんが、こちらからも助言を。

 王兄の件で貴殿と王家の敵対は決定的となり、またそれが周知されました。

 それを受けて動いている者がいます、軍務伯のように誇りある動機ではなく、貴殿を倒し成り上がるため、王家に媚びるため、商機を掴むためなど様々です。

 ……特にこれからは南風が激しくなるでしょうから、ご注意を」


 南と言うと……あの銭ゲバかぁ、あれならまぁなんとでも対処出来るかな。


 と、そんなことを考えているとエリザベス嬢は、話は終わりだと立ち上がり、華麗な一礼を見せてから踵を返して立ち去ろうとし……そうしながら言葉を投げかけてくる。


「コーデリア様はとても素敵な方ですね、大変お似合いだと思います。

 ……今度、私主催の茶会に招待させていただきましょう。

 そこでコーデリア様の紹介をさせていただきたいと思います。

 私が主催し管理する茶会ですから、多少の無礼は許されますし……良い経験となるはずです。

 これで少しでも借りを返せたなら幸いです」


 そう言って返事を待たず、待機させていた侍女や護衛と共に立ち去るエリザベス嬢。


 立ち上がってそれを見送ったなら……座り直して飲む間もなかった茶に口をつけて飲み干す。


「とても素敵な方でしたね」


 するとコーデリアさんがそう声をかけてくる、何故だか一瞬瞳が輝きを失っているようにも見えたが、気の所為だろう。


「素敵……ですか、まぁ、貴族らしい女性でした。

 同時に油断出来ぬ相手とも……今後も良い関係を維持出来るようにする必要がありそうです。

 ……お茶会に関してはコーデリアさんと母上にお任せします。

 無理をする必要はないので、母上とよく相談して決めてください」


「……はい、ありがとうございます」


 俺が言葉を返すとコーデリアさんはそう言って、今日一番というくらいの笑顔を見せてくる、目もいつも以上に輝いていて……やはり気の所為だったようだ。

 

 しかしあれだなぁ……しっかりと着飾っての笑顔は中々の破壊力で目を奪われてしまう。


 濃いめの化粧はあまり好きではないと思っていたのだけど、プロレベルの出来となると確かな魅力があって……チークとかアイシャドウとかも魅力の一つとして完成されている、これが化粧の本当の力なのかと驚かされる程だ。


「……ところで、南の風というのは、その大丈夫なのでしょうか?

 エリザベス様は心配そうにしていましたが……」


「あ、あぁ、大丈夫ですよ。

 南領の領主はただの財産を積み上げたいだけの、貴族かも疑わしくなるような人物ですので、どうとでも対応出来ます。

 何かを仕掛けてくるにしても財政や経済絡みのことでしょう。

 こう見えて我が家の財政は安定していますので……何をされても揺らぐことはないでしょう。

 やろうと思えば建設中の屋敷を純金と純銀だけで仕上げることも可能なのですよ、我が家は」


 突然の話題転換に驚きながらそう返すと、コーデリアさんは小さく笑って、


「旦那様はいつもユーモアに富んでいますね」


 と、返してくる。


「いえ、ジョークとかではなく、本当ですよ。

 流石に屋敷サイズの金塊を用意するのは難しいですが、金と銀を合わせてならば可能でしょうね。

 まぁ、そんな無意味なことは実際にはしませんが……こと財政においてコーデリアさんを不安にさせることはないでしょう」


 可能か不可能かで言えば多分可能、ただしそれをやった瞬間財政が一気に滅茶苦茶になるだろうなぁ。


 と、そんな話をするとコーデリアさんは目をぱちくりとさせて、どう返したら良いのかと悩んでいるのか、しばらくの間何も言えなくなってしまうのだった。


 


お読み頂きありがとうございました。


次回は南の話……ではなく、領内のあれこれについて、具体的にはアレス男爵とかの予定です

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オール貴金属の家は住みずらそう
貴金属の家は値段もそうだが、実用上の問題が多そうw
キルアん家の玄関ドア並みに重くなりそう ドルイド族しか開け閉めできんぞ 猟犬にミケとかおらんやろな
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