修道院
中年男から聞き出した修道院の場所は、エリアン公爵領の北西部の岬に建てられていた。
厳しい修行のために人里から離れた場所に、というのはお題目で、その実は中で起きている騒ぎを知られたくないというものなのだろう。
実際、人里から続く道の途中……まだまだ修道院が見えない位置に門があって、関係者以外はそれ以上入ってくるな、なんて配置になっていたりして……その先を進むとようやく修道院が見えてくる。
手前に門があったからか門などはなく、道の先にはいきなり庭があって噴水などもある。
庭はしっかり手入れがされていることから最低でも庭師がここで暮らしているのだろう……こうやって維持をしているということは今もなんらかの形で使っているのだろうなぁ。
屋敷は石造りの三階建て、我が家程ではないが中々立派で、どう見ても修道院ではない。
まぁ、関係者でもないのに偽修道院を建てたとなったらまた別の罪になるからなぁ、名前だけなのだろう。
飛空艇の上から望遠鏡を通してそうした情報を仕入れた俺は、ライデルとフィリップ達による突入と制圧を決意する。
まずはライデル達が突入をする。
室内戦に鎧は向いていないのでライデル達は防具と魔法石短槍という装備で、二人の騎士だけが鎧で同行するが、室内には入らず出入り口を確保するだけの形となる。
それからフィリップ達回収班が続く。
持ってきた木箱とともに屋敷に入り、ありったけの書類やらを箱に詰めて飛空艇に詰め込む。
それが本当に彼らに関連するものなのかといった精査は一切せずに手当たり次第だ。
今回のこれは当然犯罪行為であるので、装備は量産品を使い、突入班全員が変装をしての突入となる。
鎧ももちろん量産品、最新型を使えないのは厳しいが、あれを使ったら我が家の犯行とバレてしまうので仕方ない。
「ライデル、突入の際の心得を忘れないように」
「は、お任せください。
常に動き、常に仲間同士お互いを援護、油断せず全てを拘束、全ての部屋の安全確認を欠かさない。
全員に守らせます」
「よし、行って来い」
と、そんな会話をしてから飛空艇の高度を下げさせ、着陸ではなくロープを垂らしての懸垂下降……映画とかだとラペリングとか呼ばれていた降下を行わせる。
ライデル率いる七人が突入班で……鎧二人は懸垂下降は不可能なので、出来るだけ高度を下げての直接降下。
それが終わったらフィリップ達がまずロープで数珠つなぎにした空の木箱を降下させてから、自分達の懸垂降下を行う。
ライデル率いる七人のうち三人が玄関からの突入を行い、残り四人は二人一組で左右に分かれて、ぐるっと屋敷の外周確認をしながら裏口へ。
フィリップ達は木箱をまず屋敷の玄関近くに運んで……それから室内へ。
こちらには聞こえてきていないが、しっかりとした安全確認と声での連絡が出来ているはずで、問題なく進んでいるはず、誰も怪我はしていないはず。
心配しながらもライデル達を信じることにして……俺達は屋敷ではなく反対側へと意識を向ける。
かなり迅速に行動が出来ている、中年男の捕縛に気付いて連中が行動を起こしたとしても、まだまだ時間がかかるはず。
敵対勢力の戦力がやってくることなどないはず……なのだが、それでも念の為に相応の人員を配置しての警戒を続けるのだった。
――――屋敷の中で ライデル
「動け動け動け! 相手に思考の隙を与えるな!
何者か発見したら全て拘束、女子供例外なく拘束し、油断はするな!
そして室内全ての確認、隠れている敵を見逃すな!」
真っ青な髪のカツラを被り、派手すぎる程に派手な化粧をし、処分予定だったという古い貴族が好む服を着たライデルが、室内用の魔法石短槍を構えながら屋敷を駆け回り、同時にそんな声を上げる。
「確保!」「確保!」「問題なし!」「問題なし!」
するとそんな声が屋敷のどこからか返ってきて、それぞれが作戦が順調なことを教えてくれる。
いつのことだったか、こういう事態があった時に備えてということでブライトが考案した室内制圧戦術。
常に動き回り、仲間との連携を密にし、声を出せない状況ではハンドサインや相手の肩に触れることで合図を出し合い、安全かつ一方的な勝利を目指すというもの。
一室一室を丁寧に確認し、クローゼットや空き箱の中、大きな壺などの美術品の陰、カーテンの隙間など、人が隠れられそうな場所全てをしっかり目視確認することも義務とされていて……何もなければ「問題なし」と声を上げて仲間に知らせ、敵がいて確保出来たなら「確保」敵がいて戦闘中なら「接敵」など、様々な合図を出すことになっている。
この戦術は敵が室内に籠もり、家具の陰などからクロスボウなどの遠距離武器を構えていることを想定しているとかで、そういう敵が出てきた際の対策もしっかりと用意しているが……屋敷の中にいるのは老いた使用人ばかりで、その出番はなさそうだ。
老いた使用人達は怯えるばかりで脅威ではなさそうだが、それでも全て拘束することが義務となっていて、事前に拘束しやすいように結んであったロープでもって迅速に縛り上げ、縛り上げたなら部屋の中央に転がし、次の部屋へ。
そうやって一階の確認が終わったなら仲間から報告の声が飛び、そして最後にライデルが、
「一階安全確認よし!」
と、玄関に向かって声を張り上げる。
同時に同じく変装……というかピエロに仮装したフィリップ達が木箱を抱えて突入してきて、本棚の本、書類棚の書類、机の引き出しの中のメモ書きなど、ありとあらゆる物を木箱に放り投げていく。
使用人達の服のポケットまで確認し、ちょっとした仕事のメモまで回収。
フィリップ達の目敏さと容赦のなさはライデル達にはないもので、それを見てライデルは適材適所だなと、そんなことを思う。
フィリップ達の仕事が問題なく行われているのを確認したなら二階へ向かい、同じく制圧、三階も全く同じ流れで制圧が出来る。
それから一階に戻り、周囲を見回し……それからライデルはぽつりと言葉を漏らす。
「……サバトをしている修道院にしては普通の屋敷だったな。
もう何年も前のことで会場は処分した……のか?
うーむ……ワインなども置いてないようだしなぁ」
と、それとほぼ同時にフィリップの声が響く。
「こっちきてー! 地下への隠し階段あったー!」
それを受けてすぐにライデルは駆け出し、声の下へ。
するとフィリップが机とソファを移動させた上で分厚い絨毯をまくり上げていて……階段はその下に隠されていたようだ。
よくもまぁ見つけたものだと感心しながら、今はそのことについて話している時間はないと判断し、ライデルが先頭を切って地下へと突入していく。
先頭はライデル、次にフィリップ、そして部下達。
フィリップには上で待機して欲しかったが……ここを見つけたのはフィリップで、今後もその目が役に立つはず。
と、思った直後フィリップはどこからか失敬したらしいランプを灯してライデルや仲間達に渡し始めて役に立ってくれる。
石階段を降りるとじめっとした空気が漂い、次に感じるのは潮の匂い……渚にあるだけあってその地下には海水が染み付いているらしい。
階段を降りるとそこはまるで天然洞窟のようになっていて……三人程の人間が並んで歩ける程の広さの洞窟の奥からは風が流れてきていて、僅かな光も漏れてきている。
……誰かいるのか? と、ライデルが警戒感を強める中、フィリップはスタスタと歩いていって……そして光の元を見つけて声を上げてくる。
「誰もいないからだいじょーぶ」
それを受けてライデル達が足を進めると、フィリップの言葉の通り誰かがいる訳ではなく、壁が崩れて……いや、意図的に崩しているのだろう、大きな窓のような穴があってそこから外と繋がり、そこから太陽の光と海のしぶき、潮風が流れ込んできているようだ。
そこが洞窟の終着点ではなく、更に道は続いていて……本当に窓のような役目なのだろう、定期的に穴があり光が注ぎ込む道を進んでいくと、開けた場所へと出ることが出来る。
どれだけの手間をかけて作ったのか、ちょっとした酒場くらいの広さの空間があって、そこにはテーブルと椅子が並んでいて……踊り子のためなのか台のようなものが中央に置かれている。
更には酒場に面した個室なども整備されているようで、そこには随分と豪華な作りのベッドが置かれている。
「……ここは誰も入ってなかったみたいだねぇ、カビくさいや」
と、フィリップが言う通り机も椅子もベッドもカビていて、様々な家具や用途不明な道具はどれも破損、ベッドの上に投げ出されていたドレスなんかも原型をとどめていない。
何年くらい人の手が入っていないやら、恐らくは上の使用人達もここの存在は知らなかったのだろう。
「よいしょっと」
ライデルがあれこれと考えているとフィリップが突然、そんな声を上げてからしゃがんで、ベッドの下に手を伸ばし……そこから革表紙の手帳を引っ張り出す。
皮もページも湿気にやられてはいるが、まだまだ原型を保っていて……フィリップが慎重にページをめくると、どうにか中の文字を確認出来る状況ではあるようだ。
「他にも何かあるかもね……あとここ以前探索した遺跡にも雰囲気似てるからさ、変な仕掛けがないかも探してよ。
あと、誰か兄貴のとこ行かせて、時間がかかりそうだって連絡もいるかな。
仕掛けがあった場合結構時間かかっちゃうから、探索続けるか撤退するか、兄貴に判断してもらわないと」
と、そう言ってフィリップは慎重に扱う必要があるだろう、その手帳をライデルに押し付けてくる。
それを受け取ったライデルは、近くにいた部下に渡し、それを届けると同時に撤退かの判断をしてもらうようにと伝える。
それを受けて部下は手帳とライデルの言葉をブライトに届けるため、静かに駆けていくのだった。
――――飛空艇で ブライト
「思っていたより早かったなぁ……」
望遠鏡を覗き込みながら、そんなことを呟く。
飛空艇なしでよく間に合ったよなぁ、なんてことを思うが……近くまで飛空艇で移動してきた可能性もあるし、鉄道をフル活用したのかもしれない。
近場に戦力を待機させていた可能性もあるが……エリアン公爵は騎士を有していないはずなので、他所の戦力ということになるのだろう。
騎士が13騎……望遠鏡でざっと数えての数だが、まぁ間違ってはいないだろう。
いずれも旧式、屋敷の前で待機している2騎よりも古い型だがとにかく数が多い。
屋敷の前に待機している以外にも鎧は用意してある、念の為ということで5騎、待機している2騎と合わせれば7騎。
7対13、性能差を考えれば五分五分か有利まであるかもしれないが……その5騎は誰も装着していない状態で、それを動かすには誰かが装着する必要がある。
仕方ない……。
ライデル達が戻るまで時間を稼ぐ必要があるだろうと、鎧が置いてある甲板に向かおうとすると……フィリップの仲間の一人、小柄で細身、だけども筋肉質といった見た目の、灰髪を垂らして片目を隠している少年が物凄い力で腕を掴んでくる。
「いや、駄目でしょ、大将が何しようとしてんの」
「……いや、時間稼ぎが必要だろう?
フィリップに色々と言われて側にいてくれたんだろうが……今はあれの対応することが最優先だ、だから頼むよ」
少年は白シャツにスーツ用のズボンという格好なのだが、そのシャツを破らん勢いで筋肉を盛り上げていて……がっしりと掴んだ俺の腕を放す気はないようだ。
……平民の少年が相手なのだから貴族として命令したなら良い訳ではあるのだけど、フィリップの仲間にそれはしたくないという思いがあって「頼むよ」という言葉を使った訳だが……少年はかなり聡いのかそれに気付いたようで、素直に腕を離してくれる。
「……じゃぁこっちからもお願い、オレより前には出ないでよ」
と、少年。
俺が言葉を返すよりも早く駆け出して、甲板に向かってしまう。
そんな少年を追いかけて甲板に出たなら少年に続いて鎧に乗り込む。
すると船員達も乗り込んできて……なんだかんだと5騎が全て稼働状態となる。
少年も船員も騎士としての鍛錬はしていないはず……俺も完璧な鍛錬をしているとは言えないが、ある程度はライデルやアレス男爵に鍛えられている。
やはりここは俺が前に出なければと考えながら降下した飛空艇から飛び降り……着地したなら槍をしっかりと構え、前に進みながらの迎撃体制を取る。
……が、他の四人はあえて甲板に残っていて、俺が着地したのを確認してから飛空艇を移動させて俺の前へと着地し、並んで俺の前を塞ぐ。
「おぉぉぉい!? 敵の騎士が迫っているんだぞ!?」
との俺の声に反応することなく四人は前へと進み、前進も槍を構えることもしっかりとやってみせる。
……あれ、素人の動きじゃないな?
船員はまだしも孤児仲間がなんで鎧を使いこなしているんだ??
……えっと、このままじゃ俺が出撃した意味がなくなるな???
い、いや、相手の数は多い、出撃した意味は必ずあるはず、それに後方から指揮が出来るという利点はあるにはある。
そうして俺は大きく息を吸い込んで……視界を広く持ち、槍をしっかり構えて、鎧を着込んでの初めての実戦に向けて、前へ前へと足を進めていくのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回は鎧戦闘です
そしてお知らせです
皆様の応援のおかげで打診を頂き、書籍化作業が進行中となっています
レーベルとかはまた追々の発表になりますが、皆様に応援していただけるよう、頑張っていきたいと思います!
それに関連して、今後の更新についてもお知らせです
書籍化に伴う作業や、より多くの方に楽しんでいただけるよう今後のプロットを練り直す関係で、3章以降の更新ペースが落ちるかと思われます
2章いっぱいはこのままで、3章からは週1・2回か、それ以上になる可能性もありますが、今の毎日更新は続けられないと思います
皆様にはお待たせさせてしまう形となりますが、より面白い物語にするために必要な作業とご理解いただければと思います
完結まではしっかり書き上げますので、WEB版、書籍版、どちらも応援していただければと思います!




