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使者


 この国は王政だが、絶対王政ではない。


 同じ文化圏、同じ言語圏で一致団結、他国に好き勝手やられてしまうからと寄り集まって国となった同盟のような成り立ちの国で、王はその寄り集まりの主……同盟のリーダーでしかない。


 もっと分かりやすく言うのなら町内会の会長くらいのノリだ。


 会長から頼み事をされたなら普段面倒なことをしてもらっているから、ちょっとくらいは手伝ってやるか……くらいのノリで協力をし、町内会費として税を支払う。


 前世で多くの人達がやっていた、当たり前のことを貴族達が当たり前のこととしてやっていると、そんな感じになる。


 だがその命令や権力は絶対ではなく、王側が舐めたことをしてきたなら反乱も起こすし、独立もする、町民は町内会長の奴隷ではないのだ。


 島国ということもあって、比較的緩やかに出来上がり、それから相応の歴史を刻んできていて……まぁまぁの伝統はありはするが、どの地の領主も貴族も、王族への忠誠心なんてものはほとんど持っていない。


 そんな状況を王族達は良く思っていないようで……特に最近になって、他国を見習って絶対王政にすべきだとか、そんなことを言い出した。


 結果各地で不満が続出、王族を支持しないとの声が次々に上がり……そんな状況を打破するため、王族は国のために何かをし、功績を残そうと躍起になり始めた。


 ……まだまだ幼かった頃の俺は、そんな状況も知らずに、とにかく家族と領地のために持てる知識を使って色々なことを成そうと必死になって動いていた。


 そんな若くて未熟で、前世の知識に引っ張られすぎた結果、貴族としての常識や覚悟を持てていなかった俺は、王族にとって良いカモだったのだろう。


 あれこれと罠を張り、難癖をつけて、最悪な手段を使ってまで俺が進めていた全てのものを奪い取りやがった。


 奪い取ってさも自分達が考えたと披露して功績を上げて……絶対王政への道を進もうとしている。


「……一人残らずぶっ殺してぇ」


 我が家の倉庫には、子供だった頃の俺が作ろうとしていたあれやこれやの残骸が残っていて、そんな物を見るとついつい独り言が漏れてしまう。


 もう役にも立たないのだから捨ててしまいたいのだが……父親が息子の頑張りを残しておきたいと言い張ったがために、未だに倉庫の肥やしになっている。


 この世界での父親は……何と言ったら良いのか、息子のことを異常なレベルで溺愛してくれていた。


 兄も俺も、とにかく溺愛し全てを肯定してくれて……それでいて厳しくもあり、俺達が貴族としてやっていけるように様々な教育を施してくれもした。


 兄はそんな溺愛に応えようと必死に頑張り、俺は過去の経験なんかで多少のズルをしながら頑張り……そうやって俺達が良い結果を残すと、父親はますます俺達のことを溺愛するようになった。


 前世の記憶があることで少しだけ両親に対する気後れがあった俺だったが、前世の家族以上に愛してくれるそんな父親のことを、いつしか本当の家族だと……前世の家族以上の存在だと思うようになっていった。


 ……それが災いして、戦地に行かされることになってしまった訳だが……。


 それもこれも全て王族のせいで……そしてその使いが今関所にやってきている。


 前回の使者はあと一歩と言う所で逃げられてしまい、殺し損ねてしまったが、今度こそ殺してその首を塩漬けにし、王城に送りつけてやるぞと、鼻息荒く装備を身に着けていく。


 ……まずは胸部を守る形のプロテクターのようなものをスーツの上から。


 色は真鍮色、よく手入れされているので曇り一つなく煌めいていて、中央には我が家の紋章、力強く飛び上がる鷹が描かれている。


 貴族が全身鎧を装備するのは『軟弱』という、よく分からない価値観がある世界なので、そんな胸当てと同じく真鍮色の篭手くらいしか用意はしていない。


 そして武器は突撃槍のような形をした、白銀の大槍一本。


 それを手にしたなら倉庫を後にし……バトラーの差配で忙しく邸内を駆け回る使用人達に「駅に向かう」と、声をかけてから屋敷を後にする。


 するとバトラーが駆けてきて、俺が忘れていた帽子を手渡してくれる。


 今の流行りの帽子はシルクハットのような帽子なのだけども、それがどうにも好きになれない俺の帽子は山高帽だ。


 丈長スーツに山高帽、真鍮色に煌めく胸当てに篭手に、大きな突撃槍。


 一体どんな仮装パーティだと思うような格好で、屋敷を出たなら、屋敷からまっすぐに伸びる石畳の道を駅に向かって歩いていく。


 我が屋敷からまっすぐに伸びる、街灯が立ち並ぶ大通りから左右に広がるように領民達の住まう、西洋風のレンガや石造りの家々があり、大通りの先には馬車駅、鉄道駅、飛空艇駅が並んでいる。


 関所までの距離を考えると馬車で行くようなものではなく、コスパを考えるなら鉄道なのだが……とにかく一秒でも早く使いの野郎を殺したいので飛空艇駅へと足を向ける。


 すると……そこに俺が雇っているというか、養ってやっている騎士の一人が駆け寄ってくる。


 全身鎧と言っても、西洋鎧とかそういう感じではない、全身を覆う寸胴かつ力強さを感じる鉄の塊、いかついロボットのような……パワーアーマーのような、着るのではなく『乗り込む』類の鎧を着た兵士のことを、この世界では騎士と呼んでいる。


 その鎧の背部には各部位の動作を制御している回路と、それらを動かすエネルギーを生み出すエンジン……のようなものが積まれていて、その燃料となるのが魔法石と呼ばれる石だった。


 この世界には化石燃料と火薬が……あるにはあるけども、役に立たない。


 化石燃料は燃えはするけども火力が弱く、火薬は爆発するにはするが、湿気っているのかと思うくらいに威力が弱い。


 何かが足りないというよりも、何かに妨害されているかのように力を発揮しないそれらの代わりに文明を支えているのが魔法石だった。


 鉄道を走る車も飛空艇にも魔法石が使われていて……各家庭の調理道具や掃除道具なんかにも使われている。


 そんな魔法石をエンジン……のような場所に装填すると鎧が起動し、内部の人間の動きをサポートする形で動いて……殴れば大岩を砕ける程度のパワーを発揮することが出来る。


 そんな鎧の兜部分を持ち上げて顔を出した……茶髪の中年男が足を進めながら声をかけてくる。


「わたくしが同行します、他の騎士達は鉄道にて急行予定。

 迎撃用の武器や塩壺も関所に運搬予定で、関所の者達には侯爵様の歓迎を優先、次に使者の迎撃だと伝えてあります」


 侯爵とはお祖父様のことだ、父方ではなく母方の祖父で……こことは別の領地の領主をやっていらっしゃる。


「ああ、それで良い。

 俺達は飛空艇だ、クソ野郎の手下を逃さないため、お祖父様の安全を確保するため、とにかく先を急ぐぞ」


 我が領の騎士の中で最高齢の三七歳、筆頭騎士のライデルに俺がそう返すと、ライデルは細長の顔をくしゃりと歪めて笑顔を作り、俺の先を……人払い露払いのような形で駆け進んでいく。


 そうして駅に到着すると、既に連絡を受けていたのだろう、駅……というか外観としてはほぼほぼ空港と言って良いそこでは飛空艇がプロペラを回しての離陸準備を整えていて、飛空艇の壁の一部が開いて出来上がる、タラップのような階段も既に降りているので、それを駆け上る。


 俺とライデルが乗り込んで甲板に立ったなら即離陸、船長も大体のことを心得ているので、余計なことは言わずに船員に指示を出し、まっすぐに関所へと向かってくれる。


 我が領地自慢の広大な畑や牧草地を飛び越え、広い低木林を越えたならまだまだ未開発の平原が広がり……その先には鋼鉄で作った城といった風体かつ、大規模な関所が構えている。


 いつか王の近衛を撃退するためにと作らせたそこには、ヘリポートのような駅……飛空艇のための着陸地点があり、そこに着陸したならすぐさま駆け出し、東側の……お祖父様と使いの姿が見えるだろう、歩廊へと駆けていく。


 関所から先、東側には隣領へと続く街道が真っ直ぐに伸びていて……こちらの領地の街道は石畳、あちらの街道は何も整備されていない土道となっていて、その土道を進む馬車の一団を見つけた俺は、その馬車が掲げるバナー……どこの馬車か示す紋章の描かれた縦長の旗を見て思わず声を張り上げる。


「大公じゃねぇか!?」


 大公、王族貴族、王の兄弟姉妹、継承権を持たない息子達を示す爵位。


 バナーの数は3つで、それぞれ大公であること、どこの領地を治めているか、どんな公務についているかをそれぞれが示していて……それらを読み解くに、あの馬車の主は王弟の一人であるらしかった。


 王の弟、王族というクソッタレ集団を構築する一人。


 前に来た使いが名前を覚える価値もない男爵だったことを思うと、何段階飛ばしだよって突っ込みたくなるくらいの大物がやってきた。


 一応目をこすって再度、自分の認識が間違っていないことを確認したなら……大槍の中程にあるチェンバーと呼ばれる部位の蓋を開き、ライデルが用意した魔法石を受け取り、装填……迎撃のための準備を整える。


 常識として王族だろうが何だろうが、使者をいきなり攻撃するなんてことは許されていない。


 こちらから手出しすることは、たとえどんな確執があっても許されないことだ。


 ……だが、あちらから手出ししてきたなら、無礼を働いてきたなら、それを『迎撃』することは正当な権利で……どうせまたふざけた要求をしてくるに違いないのだからと、迎撃の準備を進めていく。


 ライデルも武器の準備をし、関所務めの騎士達も準備をし……関所を通るために順番待ちをしていた商人達は、大体の事情を察してか関所から離れていく。


 そんな俺達の様子を見てなのか、それともあらかじめそこで停車するつもりだったのか……隣領からこちらの領地へと入り込み、石畳をある程度進み……まぁ会話が出来るくらいの距離となった所で止まった馬車の、俗に言う箱馬車のドアが開き、中からゆっくりと……バカみたいな格好をした青年が姿を見せる。


 俗に言う貴族服、下から靴先が無駄に尖った靴に白タイツ、半端の長さのズボンは腰の部分だけ無駄に膨らんでいる、金糸銀糸、宝石まで編み込まれたジャケットと、そんな格好は、少年ならまだしも大人がするとなんとも痛々しい。


 青い髪は長く、顔は間違いなく国内随一の出来の良さ……青目でこちらを見やってくる王弟の顔を見た俺は、どうにかこうにか殺意を抑えながら……嫌々仕方なく、一応それが礼儀だからと軽い会釈をしてから、渋々の挨拶をしてやるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回は大公の言い分とか、そんな感じで

一週間以内に更新予定です

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