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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第二章 その日のために

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報告



 お祖父様に療養していただくための準備を進める中で、お祖父様より先に、遠出をしていたフィリップが帰ってきた。


 何故か女装をして外套で身を包み、孤児仲間なのだろう外套姿の青年二人を引き連れて。


 ……宰相にしてやられたと知ったフィリップは、自らの至らなさを恥じて修行の旅に出ると言い出した。


 父上の下に向かう物資運搬飛空艇に乗って大陸へ、そして大陸から王都へ。


 大陸は東にあり、王都もこの国の東側にあり……大陸から王都への移動は手段さえ用意出来れば簡単なもの。


 父上や兄上の様子、大陸の様子を確認しつつ、王都の様子をその目で見て色々と学びたかった……そうだ。


 修行の旅と言うよりは偵察の旅、密偵として至極普通の仕事でしかなかったのだが、フィリップなりに色々と学び鍛える機会にするつもりだったのだろうなぁ。


 一緒に連れていった青年達も、密偵として鍛えるために連れていったのだろうし……とにかく強行軍だったに違いない三人を労うために食堂に席を用意し、料理人に腕をふるってもらっての会食が始まった。


「よくやってくれた、無事で何よりだ。

 今日は作法などは気にせず、自由に振る舞ってくれ」


 と、長テーブルの最奥の席に腰掛けた俺がそう言うと、左右に別れる形で腰掛けた三人は頷き、それぞれ自由な形で目の前の料理にフォークを伸ばす。


 焼き立てのミルクパン、ポトフのようなたっぷり野菜と腸詰めのスープ、魚のフライ、生野菜はあまり好まれないのでフルーツサラダ、牛ステーキと焼きチーズ、そしてワイン。


 フィリップ達の好みそうなものを揃えてみたが……間違いはなかったようで、物凄い勢いで食べてくれる。


 食べて食べて飲んで飲んで、バスケットの中に積み上げてあったミルクパンもあっという間になくなっていく。


 そして……人心地ついたのだろう、ある程度食べ進み、ゴクリとワインを飲んだフィリップが口を開く。


「……はぁ、やっぱり食事はウィルバートフォース領が一番だねぇ。

 大陸も酷かったけど王都も酷くて……ようやくちゃんとした食事が出来たって感じだよ。

 ……えぇっと、兄貴、まず大陸の報告からで良い?」


 健康のためにワインをなるべく飲まないようにしているので、ワインではなく果実水を一口飲み「頼む」と返して報告を受ける。


「先代様もお兄様も元気だったよ、病気や怪我もなし、十分な食料とルムルアさんのドルイド薬が届いているから問題ないってさ。

 戦況は……有利って言って良いのか悪いのか、なんとも言えない感じだね」


 と、まずは戦況の話から。


 父上達は王都に近い一帯ではなく、そこから少し南の、我が領からの海路の先にある半島から上陸、そこからじわじわと戦線を広げて……最初は苦戦していたが、今は連戦連勝でどうにか拠点を構築することに成功。


 そこから拠点を増やし連携させ、あちらの農地や農村を飲み込んで、そしてある城壁都市を占領し奪い取った。


 そこは城壁に覆われた織工都市で、我が国から羊の毛を輸入し加工、大陸中に売って結構な儲けを出している都市だったようだ。


 輸入の関係で我が国との付き合いがあり、文化などへの理解も深く、父上と面識のある商人もいる……と、色々と便利だったのもあって、そこを中心とした領土を構築しようとしたそうなのだが……それが良くなかったらしい。


 それなりの経済規模を誇るそこを取られてたまるものかと、大陸の王党派、革命派両方が必死になって奪還へと迫ってきて、両方と同時に戦うことになり、防衛には成功しているが、領土構築までは上手くいかず苦戦している……とのことだった。


 ……果たしてそれは苦戦なのだろうか? 織工という欠かすことの出来ない産業都市を奪い取って維持しているだけでもとんでもない大戦果なのだと思うけども……?


 とにかく父上達はそんな状況で、目的達成は遠いが差し迫った危機はなく……そしてフィリップから俺が今どうしているかを聞いて、喉が枯れるまで爆笑する程にはお元気のようだ。


 王家との対決姿勢にも笑い、コーデリアさんのことも笑い……お祖父様のおかげで母上達が無事に帰還したと聞いても笑ったようだが、そちらは安堵の意味が強かったようだ。


 そして来訪者達とのあれこれにも笑い……宰相とやり合う予定であることを聞いてまた笑い。


「―――先代様は安心したって言ってたよ、腹の底から笑える程安心したって。

 若い兄貴に領地を押し付けて良かったのかって不安に思う部分があったけども飛空艇のことや今回のことで間違ってなかったって安心したんだってさ。

 ……だからこそどうにかしてあそこら一帯を支配するって言ってたよ。

 支配が出来たら、遠征伯だけでなく海外辺境伯も名乗って、そこに家を興してお兄様に継がせるから心配するなってさ。

 ああ、あと氷を届けてくれって言ってたよ、よく分からないけど防衛に使うんだって。

 出来るだけ大きいのをたくさん、小さいのはいらないってさ」


「ん? んん? 氷を防衛に……? ま、まぁ分かった。

 父上も兄上も無事で何より……家を興すっていうのは驚きで、何と言ったら良いか分からないが……まぁ、父上達の好きにさせるとしよう。

 ……フィリップの目から見ても必要なものはなかったか? 父上達が気付いていないことに気付いたりはしなかったか?」


「んー……なかったかな。

 先代様と兄貴は考え方が違うみたいで、おいらにはよく分からない部分もあったしねぇ。

 ……ただアレかな、向こうでは羊の加工品の人気が落ちているから、羊の毛だけじゃなくて綿も送ってあげた方が良いかもね。

 最近はほら、こっちでも綿の服の方が人気だし」


 あぁー……なるほど。


 羊の毛は防寒には良いんだけど普段使いにはなぁ……洗濯を失敗するとすぐ縮むし、綿の方が汚れがすぐに落ちてくれるから、清潔って意味でも綿の方が良いんだよな。

 

 織工都市がそんな状態では大変だろうし……綿とそれに関する道具を輸送させるか。


「分かった、対策をしておこう。

 ……それで王都はどうだった?」


 と、そう言って本題に入るよう促すと、フィリップは少し暗い表情となって報告をし始める。


「まずは街の様子から……。

 何て言うか、よくない形で熱狂してたね……王太子の働きで景気がよくなって、更に人を集めるためにって王都だけの特別に税が少なくなるらしくてさ、それで住民は大騒ぎって訳さ。

 それだけじゃなく王太子が色々な料理とかお菓子とか発明してて、それを食べるために行列を作ったり、荒稼ぎをしようとしたり……こっちとは全然違った雰囲気だね。

 どんな料理なのかって試しに食べてみたんだけど……確かに美味しい料理もあるにはあったんだけど、おいらとしてはこっちの……こういう料理で十分かな」


 フィリップの意見に強く同調する形で、同行者達も声を上げる。


「オレもそう思います、人生の中で最高の料理です」

「ボクも故郷の味が良い……王都は特に揚げ物がひどかった」


 今まではずっと黙っていたというのに急な発言で……余程思う所があったらしい。


「確かに向こうの揚げ物はよくなかったねぇ、無駄に量が多いしさ。

 ……向こうは揚げ物が大人気で、チップスとかいう芋を薄切りにしたやつを揚げたり、フライとはまた違うやつで包んだものを揚げたり、鶏肉を揚げたのも人気だったかな。

 料理に罪はないっていうかどれも美味しい料理なんだろうけどねぇ、油の質が悪いのかなぁ、使いまわしなんかもしているみたいで、ちょっとね。

 他にも新しいソースとか、ウナギの料理とかも流行ってたみたいだけど、そっちは食中毒も起きてて食べる気にはならなかったかなぁ。

 ああ、あと砂糖ね、砂糖まみれ、なんでもかんでも甘くしてさ、あんなに砂糖いらないと思うんだけどねぇ……ワインにまで砂糖を入れてる人がいたくらいだよ。

 それとトバッコを吸う人とかがそこら中にいて、何をやってるのか出来たばかりの工場もたくさんあって煙突だらけで……空気が悪いって言うのかな、そんな感じだから何を食べても美味しくなかったんだよねぇ。

 ……こっちにも工場があるのに、あんまりそういうのないよね? 兄貴が何かやってたりする??」


「ん? ああ、まぁ……出来る限りのことはしているな」


 トバッコという単語が少し気になったが……そうか、タバコのことか。


 貴族の中にも好んで吸う者がいるらしいが……そちらも俺は健康のために触れないようにしていて、部下にもなるべく避けるようにと伝えている関係で、こちらで見ることは確かに少ない。


 そしてそれが王都で大流行……王太子がそうさせたのか、自然な流れでそうなったのか、何か理由があったりするのだろうか?


 そしてチップスかぁ、前世でもこれくらいの時代の頃に開発された……んだったか?


 よくは覚えていないが、まぁ芋があるのだから既に広まっていてもおかしくはないか。


 そして工場の排煙か。


 我が領では排煙だけでなく排水にもできる限りの気を使っている。


 これらの問題は工業化を進めるにあたって避けられないことだが、だからといって公害病の蔓延なんてのはごめんで、従業員に健康被害が出るというのもよろしくない。


 という訳で……技術者に頼んで工場のあちこちに集塵装置のようなものを作ったり、フィルターのようなものを作ったりして出来るだけ外に漏れないようにしてもらったり、従業員にはマスクをしてもらったり、煙突にも似た仕組みを作れないか色々と試してもらっている。


 フィルターには多分、化学繊維を使うはず……という訳で基本役立たずとされている化石燃料から繊維を作れないかと、そこら辺も技術者やら学者に頼んである。


 ……詳細は知らない、どうやるのが正解なのかもよく分からない、そういうものがあれば多少は防げるはずという概念しか知らないので、案だけ出して丸投げという形だ。


 排水に関しても同じ、ヤバそうな薬品はそのまま流すのを禁止し、出来るだけフィルターなどで綺麗にするか、綺麗に出来るようになるまでは使わないように頼んである。


 あとは工場を密集させないとか民間の工場建設は許可制にしているとか、そんな工夫もしているが……現状、そこまでする必要はないだろうというのが、関わった技術者や学者の意見だった。


 そこまで排煙は多くないし粉塵も問題にならないレベル、排水もヤバい薬品を工業に使うという発想がそもそもなかったようで、なんでそんな心配をするのか? と不思議がられたりもした。


 そういう訳で、手間暇と資金をかけてまでこんなことをする必要はないと反対意見が出たりもしているのだが……今は良くてもいつかはそういう時代がやってくる。


 その時のために準備をしておいて欲しいと頼み、相応の予算を押し付けた上で対策を続けてもらっている。


 王都の工場は、そういった対策をしていない上に密集していて……その結果の大気汚染か。


 公害とかを知らないとは言え、空気が汚れれば洗濯物なんかも汚れる訳で、すぐに問題に気付きそうなものだが……。


 ……ああ、もしかしたらこちらの工場とは全く別の品を作っているのかもしれないな、先進的な何か……新しい何か。


 税を下げて人を集めて先進的な工場を増やしてそこで働かせて……汚染などの弊害を無視して一気に何かをしようとしている……という訳なのか、うぅむ、意図が読めない。


 ……読めないが、それだけの工場があるのなら、飛空艇の量産くらいならなんとかしてしまいそうだなぁ。


 飛空艇が量産出来たなら氷商売にも絡んできそうで……今のうちに警戒をしておくべきなのだろうなぁ。


「それで……王太子と宰相はどうだ? 流石に王城には入れなかっただろうが、情報は集めてきたんだろう?」


 あれこれと考えてからそう問いかけると、フィリップはなんとも言えない顔でワインを一口飲んで、報告を続けてくる。


「まず宰相は調査中で、今のところは胸張って報告出来るような情報はないかな。

 市民と触れ合うのは王族で、成果は王族のもので、何かあれば前に出てくるのは全部王族……宰相が表に出てくることがないんだよね。

 王城内では色々やっているんだろうけど、街中にまではそこら辺の情報が届くことはないみたいで……多分だけど宰相が上手く情報を操作しているみたいだね。

 せいぜい家族とか休日に何をしているのかーとか、真偽不明の領地で何かやってるらしいって噂とか、そんな情報しか手に入らなかったよ。一応報告書は作ってあるから、後で渡すね。

 ただそれで終わるつもりはないし、色々手を打って情報を集めてはいるから、もう少し待ってね。

 ……王太子は、なんだろ……賛否両論かなぁ」


 熱狂される程の人気なのは確か、しかし悪い噂もしっかりと広がっている。


 お祖父様が姉上達の救出の際に、色々と噂をばらまいたのもあったし、実際に色々とやらかしているようなのでそこから生まれた噂もある。


 あっちこっちの貴族令嬢に手を出そうとしたとか、平民や孤児にまで手を出そうとしたとか。


 嫌がって泣き叫ぶ女性の肩を掴んでどうしてそんな反応をするのかと、大勢の前で問い詰めたりもしていたそうだ。


 そうした動きが、それでも周囲に残っていた女性達を遠ざけることになり、王太子はますます焦りを募らせる。


 そのうち俺が婚約したという噂が届き、より焦りを加速させる。


 そろそろ伝わってもおかしくないのだが、まだその婚約相手がドルイド族だということは伝わっていないようで……王太子はそれが誰かを気にして調べさせようともしているとか。


 そして遺跡探索。


 そもそもの発端である王太子も当然遺跡探索を進めているようだ、国内中で。

 

 だがこれがまた騒動を起こしているらしい。


 王家直轄領以外でも探索が行われ、そこで何かが発見されたなら当然それはその地の領主のもの。


 代々その地を受け継いできた歴史ある血にこそ、歴史を語る品の所有権がある。


 ……が、それを王太子が自分の物だから寄越せなんてことを言ってしまっているらしい。


 相応の対価で買い取るとかならまだ分かるのだが、何もなしで寄越せでは騒動となるのも仕方ないだろう。


 王家直轄領で見つかった物は王家の物となるのだが、そちらはそちらで王太子の物ではなく、国家……王の物。

 

 王太子の自由にはならず王城で飾られたり研究されたりで、これまた王太子の自由にはならなかった。


 王太子のおかげでとんでもない品が見つかったということ、それ自体は評価されているのだが、その態度はどうにもなぁ……。


 そうやって不満やらを募らせている王太子は、また何かをやろうとしているらしい。


 不満を覆す一手、全てを吹き飛ばす何か。


 それが何かは色々と噂されているが、信憑性のある情報は皆無だそうだ。


「……多分だけど、あの工場でなんかしてるとは思うんだけどねぇ。

 流石に入ったりは出来なかったな、働いている人に話を聞いてみたけど、当人達も何をしているのか分かっていない感じ。

 ただ国外から何か材料を集めているとかで……それで新しい武器か鎧でも作ってるんじゃない?

 ……王太子はとにかく焦っているっていうか、追い詰められているみたいだね、そんなに兄貴のことが怖いのかな?」


 と、フィリップ。


 ……今の段階の俺は色々準備はしているが、まだ行動らしい行動はおこしていない訳で、そんなに焦ることも警戒することもないとは思うんだがなぁ。


 ……新しい武器、武器か。


 駄目だ、考えても思いつかないなぁ、現状を打破するような武器……かぁ。


 これについては情報が入るまではどうにも出来ないな、あれこれ気にしてストレスを貯め込むよりは、自分に出来ることを着実にしていった方が良いだろう。


 まずは領内を整え、軍備を整え、それから外交……味方を増やし、敵を見極めていく。


 グレン侯爵領は味方と思って良いだろう、アレス・ディース男爵領は確実に味方、東のカーター子爵領は味方かはなんとも言えないが敵になることはないだろう。


 そして西のドルイド族も味方となったら……あとは北と南か。


 自領の周囲くらいはしっかり固めないと話にならないだろうなぁ……言ってしまうと北の領主はろくでなし、そして南の領主は極端な守銭奴。


 ……さて、どうしていくかな……なんてことを考えているとフィリップが言葉を続けてくる。


「あ、そうそう、またなんか何人かの貴族がこっちに来るみたいだよ。道中でそんな噂を聞いたし、泊まった宿からこっちに移動してる貴族の団体様を見かけたりもしたんだよね。

 王太子がそんな感じだから、兄貴の器を見極めたいんだろうね、先触れとかそういうの来るつもりでいたほうが良いよ」


 その言葉を受けて俺は……まだまだやることが山積みだなぁと、小さなため息を吐き出すのだった。



お読み頂きありがとうございました。


次回はお祖父様帰還直前にまた先触れが……?


となります



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― 新着の感想 ―
銃火器や火薬等を半端な知識でゴリ押ししてこちらの世界の物理法則だとできないということに気づかず大気汚染だけ進めてしまってる感じなのかなあ
以前飛空挺は戦力外的になっていましたが 炎で鎧の中は蒸し焼きにできるとの記載もあり ならば 焼夷弾一択なのでは?とか思ってます 兵站潰すのにも有効でしょうし 城塞も意味が無くなります 上空からの攻撃…
アホ王太子はゲームと言う感覚が抜けずに、中途半端な知識を使っている感じがするね。 それを行った為にどんな影響が出るのか全く考慮していない、
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