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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第一章 反逆の始まり

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一段落



――――甲板に向かいながら ブライト



「医務室に準備を急がせろ、ライデルの部隊は副官に指揮権を移して警戒と捕縛をさせろ。

 さっきも言ったがとにかく着陸だ、その際に多少船底が損傷しても構わない、とにかく急げ。

 旗艦はライデル達の後方に降ろせ、ライデルは回収次第医務室に……ああ、くそっ、救護艦も作るべきだったな」


 と、そんな指示を後ろから追いかけてくる分析官に出していると、廊下の先のドアが一つ開き、そこから頭を大きて下げてくぐるような形で一人のドルイドが顔を出す。


「伯爵様、けが人ですか、医療隊は準備万端、いつでも対応出来ます。

 ……ドルイド医学と伯爵様が名付けてくださった技の真髄お見せしましょう」


 そしてそう言って来て、白く長い髪をゆらゆらと揺らす壮年の男性、青目のドルイド族は、以前コーデリアが話してくれた優秀なドルイドの呪い師だ。


 コーデリアからの手紙が届くなりすぐさまこちらに来てくれて、我が家……というか俺が集めていた医学書全てを読み漁り、ドルイドの伝統的な薬学……前世で言う漢方薬に近いそれと王国の医学を合わせようと日々奮闘してくれている。


「ありがとうございます、ノアブア達も活躍してくれましたし、ドルイドの方々の参戦には深く感謝しております。

 コーデリアさんへの良い土産話も出来ました、事態が落ち着きましたらまたこれからの展望について話し合いましょう」


 と、俺がそう返すと呪い師……ルムルアさんはなんとも不器用な、引きつった笑顔を見せてから医療室へと引っ込み、ドアを閉める。


 ……コーデリアさん曰く、あれが彼なりの満面の笑みらしい、コミュニケーション関連は少しだけ不器用な人のようだ。

 

 問診をする医者がそれで良いのかは、なんとも言えないが……意欲もあるし優秀であることは確かなので問題はないだろう。


 と、今度は廊下の向こうから伝令が走ってきて、報告をし始める。


「ブライト様、一部の賊が逃亡を図りましたが、アレス男爵の部隊によって制圧されました。

 西の部隊は北のアレス男爵の部隊に合流し、降伏した残りの賊の捕縛や制圧のために移動を開始しています」


「……そうか、一応は役に立ってくれたか、先陣を希望していたけど流石になぁ、要所は任せられなかったな。

 で、男爵はどうだった? 優秀か?」


「あっという間の決着だったためにはっきりとは言い切れませんが、ライデルさんよりは格上かと。

 ……もしかしたらですがドルイド族にも迫るかもしれません」


「……え? マジで? そこまで?? 器を読み違えたなぁ。

 まー……それでも信頼出来るライデルやドルイド族の方が良いとは思うが、今後何かあれば挽回の機会を与えよう。

 お前達も活躍しそうな場があったら報告を上げてくれ。

 私は甲板にて英雄達を出迎える、後のことは余程の緊急でなければ分析室の判断で進めろ」


 そう言ってから俺は居住まいを整え、山高帽をしっかり被り直してから甲板への階段を上がっていく。


 貴族らしく功労者を労うために……なんとも偉そうで個人的には好みではないけど、貴族にそうされることは騎士にとって涙が出る程に嬉しいことらしい。


 労って報酬を約束して、望む者にはハグをしてやって……スーツが汚れても必要経費、それよりも命を賭して戦った英雄を称えてやる方が大事で……甲板に出たなら着陸の衝撃を待つ。


 飛空艇の発着駅には、当然専用の着陸設備がある、飛空艇それ自体にも着陸のための機構があるが、それを展開するのは結構な時間がかかってしまう。


 そういう訳なので今回は半端な展開……最低限の展開だけにしての緊急着陸で、速度を優先する。


 そうして少しの後に衝撃があって着陸が無事に成功し……それから大騒ぎとなっての、戦後処理が始まるのだった。




 結果、ライデルに骨折などの重傷は無かったが、筋などを痛めたようでしばらくはベッドに押し込むことが決定。


 他に目立った負傷者はなし、鎧を激しく動かした際のアザがある程度で……それくらいならば無傷と言って良いレベルだった。


 ドルイド族も全員無事、こちらはアザすらないのだからもう驚くしかなかった。


 ライデルの鎧は無茶が祟ってあちこちが破損しているので解体が決定……解体し使える部品は使いまわし、装甲材などは可能な限りリサイクルされる。


 この国は鎧関連の資源が豊富で、リサイクルを提案した際には予算と手間をかけてまでリサイクルする必要はないでしょう、なんてことも言われたが……いつまでも豊富とは限らないし、リサイクル技術を今のうちから研究しておくのは悪くないはず、ということで赤字覚悟でやらせている。


 大槍は修理でなんとかなり、他の騎士達の鎧はほぼ無傷……が、ドルイド達の鎧は廃棄寸前レベルに破損していて、ドルイド族の身体能力と荒っぽい使い方についていけなかったようだ。

 

 ……これは早急に改善する必要がありそうだ、ただでさえ他よりも大きくコストがかかるのに、毎回廃棄ではやってられない。


 捕虜は1人、元騎士団長のみ、鎧は破損したものを含めて全て回収したが、旧式過ぎるので解体して素材扱いだろう。


 ……団長以外にも生存者はいたはずだが、俺が合流する頃には何故か全員死亡が確認されていた。


 ……賊の処刑は領主の仕事、場合によっては領主自らが処刑用の儀式剣を振るう必要がある。


 処刑人に任せる所も多いようだが、貴族としての責任を果たすべく自ら手を下す者も相応に多い。


 今回も当然、自分で手を下す覚悟だったのだが……それを気遣ったか、我が領自慢の騎士達がやらかしたようだ。


 ……まぁー、うん、相手は盗賊だもんなぁ。


 関所を通っていないが、関所を避けて通るのも立派な関所破り、挙げ句に無辜の民が暮らす村を襲撃したのだから死んで当然……婚約成立を理由に恩赦を出したとしても死刑を避けられないレベルの重罪だから、仕方ない仕方ない。


 元騎士団長……もとい、やけに立派な風体の一見して盗賊には見えない盗賊の頭領は、捕虜として収監、様々な情報を聞き出すための尋問が行われることになっている。


 こちらは流石に専門家に任せることになっている……拷問官? いやいや、そんな残酷な職をうちは認めていない、ちゃんとしたお医者様による尋問だ。


 ちょっとだけ好奇心旺盛で色々と経験豊富な、お医者様に任せることになっている。


 そうした報告を受けながら戦場に出た全員を労い……もちろんアレス男爵も労い、諸々の事後処理を終えてから屋敷に帰還した頃には、日が沈みかけで……屋敷の門の前には、夕日に煌めく白いドレスを身にまとったコーデリアさんの姿が。


 急遽仕立てたもので質素な造りだが、布は上等なものを使っていて……淑やかに全身を包んでいるロングスカートがなんともコーデリアさんらしいと思う。


 ……まさか今日一日ああやって待っていたのだろうか? そんなことはないはずだが……と、そんなことを考えているとこちらを見つけたコーデリアさんが駆け寄ってくる。


 それを受けて俺はすぐさま自分の状態を確認する。


 功労者達とのハグを終えた後にちゃんと着替えてはいるし、手洗いなどもしてあるが……それでも汚れが残っている可能性はある、問題ないかなども何度も確認し、そうこうしているうちに猛烈な刈り取りタックルを受けることになる。


 タックルの勢いのまま抱き上げられ、頬ずり。


「無事で良かったです! 本当に無事で良かったです! 勝利したとの報告は聞きましたが、無事で良かったです。

 ……おかえりなさいませ、旦那様……ご苦労さまでした」


 それからそう声をかけられ、頬ずりされながら言葉を返す。


「俺はただ旗艦から指示を出していただけですから、無事で当然ですよ。

 ……あとでライデル達を労ってやってください、未来の伯爵夫人の言葉なら彼らも喜びます。

 それと……ドルイド族も皆無事です、戦功を上げ医学で活躍し、その価値を十分に示してくれました。

 きっと領内の皆も、頼りになる新しい仲間のことを歓迎してくれることでしょう」


 聞こえているのか聞こえていないのか、そこからコーデリアさんは頬ずりをやめてただ俺のことを抱きしめる。

 

 女の子が人形をそうするように、だけども力加減はちゃんとして俺に痛みを与えることはなく。


「兄貴、無事で何より、こっちも無事終わったよ」


 と、そこにフィリップが現れる、フィリップ以外にも報告書なのか紙束を抱えた学者と……布で包まれた大槍と思われる大きな物を抱えた騎士達の姿もある。


 それが一体何なのか問いかけたかったが……フィリップがここではまずいという顔をしているので、コーデリアさんをどうにか宥めて屋敷の中へと全員で移動する。


 それから俺はフィリップ達を待たせて申し訳ないが、それでも貴族としてはしない訳にはいかないので湯浴みをし、体を綺麗にして着替え、それからフィリップ達を待たせている執務室へと足を運ぶ。


「兄貴、早速だけど簡単な報告をさせてもらうよ。

 詳細な……学問がどーだって話は後で学者のせんせーに聞いてよ。

 で、結論、遺跡にはそれぞれ隠し部屋があるみたい、なんだかよく分からない変な……仕掛けっていうの? そういうのがあって、兄貴が子供の頃に作ろうとしたっていうパズルだっけ? ああいう玩具に似たやつが隠してあったんだよね。

 で、それを解くと隠し部屋にいけて……中にはどういう訳か、武器や防具、鎧の部品なんかがあったんだよ、今の騎士に合わせた最新型のやつが。

 ……それを見つけた時の学者のせんせーの混乱っぷりったら、正気に戻すまでが一苦労だったんだよ。

 遺跡やその部屋は古くて古代の物、なのにしまってある武器は劣化していない最新の物……。

 仮に古代にも同じ武器があったとして、なんだって最新のものより強力なんだか、訳わかんなーい! ってさ」


 そんな報告を受けた俺は椅子に深く腰掛けながら目頭に指を当て、夢でも見ているのか自分はと軽く混乱しながら、それでもどうにか冷静さを維持し……頭の中でどうにか可能性を考える。


「可能性としてはフィリップ達よりも先に誰かがその隠し部屋に入って武器を置いた、というのが一番あり得るだろう。

 何者がそれをやったのか、答えは武器開発者か武器商人、それを裏取引という形で王太子に渡そうとし、渡すための場を遺跡の隠し部屋にし、王太子はそれを受け取ろうと遺跡に行きたがっていた……だ。

 まぁ、これは無理矢理有り得そうな話をこじつけただけだからな、当たっているかはなんとも言えないな。

 他の可能性としては、遺跡を残した古代の文明が我々の先を行く文明だったという可能性、つまりその武器もまた古代のもので、なんらかの劣化防止措置が施されていたために、最新のものと勘違いしてしまった、という感じだな。

 確か歴史の学説の一つに、この世界は何度か文明が滅んでいて、今の文明は三度の滅びを経た後の文明だ、というのがあっただろう? それが本当ならなんとかあり得る話だろう。

 他にも古代文明の装置などが今も生きていて、それが最新技術を学んで製造した、とかもありえなくはないし……色々考える事はできる。

 出来るが……証明には何年もかかるだろうから、今は深く考えない方が良い、強力な武器や防具があって、それを手に入れられた、そのことを素直に喜ぼう」


 俺のそんな言葉に、フィリップは俺がそう言うのならと納得し、学者はそんな考え方もあるのかと感心し、騎士達もまた俺がそう言うのならそれで良いと納得した顔を見せてくれる。


「んじゃーこれ、どうする? 試しに何度か使わせたけど、騎士達の武器よりかなーり強力みたいだよ。

 ドルイドの皆に使わせる? あの強さが更にやばくなってくれそうだよ??」


 納得し騎士達が抱える大槍をバシバシと叩きながらそんなことを言ってくるフィリップ。


 俺もまた大槍に近付き布を剥ぎ取って顔を近付けて、どんな槍なのかを観察しながら言葉を返す。


「いや、工房に送って分解させ解析させる。

 たった一つの強い武器よりも、技術の発展の方が何倍も大事だ、これが未知の技術で作られた物であるなら、それを解析することで技術を得て、それでもって騎士達の武器全てを強化した方が良いだろう。

 防具やパーツも同じように頼む、分解の際には希望する学者全てを同席させて、可能な限り記録を取り続けてもらえ。

 組み立て直す必要が出た際には、その記録が役に立つはずだ。

 ……ともあれフィリップも皆もご苦労だった、これだけの成果を上げたんだ、報酬は弾むぞ。

 直接金貨を渡すでも銀行への振込でも、債権でも好きな形で支払いをしよう、後で希望する形を届けてくれ」


 と、俺がそう言うとフィリップはウィンクで応え、学者と騎士達は何度も何度も礼の言葉を口にする。


 成果に対する報酬なのだから、礼の言葉は不要なのだが……まぁ、うん、それを受け取るのも貴族の仕事かと、好きにさせておく。


 ……と、その時、慌ただしくバトラーが執務室に駆け込んでくる。


「ブライト様! 侯爵領から伝令です! 何者かが侯爵様を襲撃、侯爵様は負傷し侯爵領に運ばれ治療中、負傷が命に関わるかは不明とのこと!」


 バトラーの言う侯爵とはお祖父様のことだろう、お祖父様が襲撃を受け負傷……もしかしたら死ぬかもしれない負傷。


 そう考えた瞬間、思わず自らの歯を噛み砕きそうになるが、すぐに側に控えてくれていたコーデリアさんがそっと手を握ってくれたことで冷静さを取り戻す。


「……やられた!! 宰相の野郎、これも狙いの一つだったな!

 兄貴と王太子、それと侯爵サマ! 全部同時に動いてやがった! 変な動きがあるってのは掴んでたのに狙いに気付けなかったぁ~……くっそぉぉ!!

 ……兄貴ごめん、対応しきれなかったよ……宰相にしてやられたみたいだ」


 と、顔色をひどく悪くし握った拳を震わせながらフィリップ。


 その言葉は証拠も何もない、ただの言葉ではあったが……あのフィリップがこういう場で口にするということは、相応の確信を得てのことなのだろう。


 味方だのなんだのも全てこのための布石だった……という訳か、やってくれたなぁ。


 フィリップのことは腕も内面も何もかもを信頼している、そのフィリップでさえ出し抜かれてしまった……。

 

 仮に宰相の動きに気付いていたとして俺達に何が出来たのだろうか……?

 

 もし騎士団がやってきていなかったら、もっと余裕があれば何か出来た可能性は……あるにはある……か。


 そしてそれを防ぐための今回の策略、宰相の仕掛けって訳だ。


 ……宰相は俺の味方ではない、王太子の味方かは……分からない。


 そしてこんな仕掛けを打ってきたからには少なくとも王族……王家の味方であると考えるべきだろう。


 いやもう、いっそ王族と同じ扱いで良んじゃないか? うん、良いだろう。


「……王族も宰相もぶっ殺す……!!」


 そう決意した俺はとりあえず、フィリップ達に自宅に戻るように促してから、お祖父様の安否を確かめるための使者を誰にするのか、その選定をするためにコーデリアさんと手を握り合いながら、頭を悩ませるのだった。



お読み頂きありがとうございました。


これにて第一章完


次回から第二章となるのですが、その前に第一章のキャラ表を一回挟みます


なので次回更新はキャラ表、その後に第二章一話


第二章一話の更新は大体いつも通りの時間です、その前に一つ挟む感じなので、よろしくお願いします


そして第二章予告


ついにやってきた先触れしてくれる来訪者

そしてお互い探り合う主人公と宰相

暴走を始める王太子

そして父上


第二章の裏サブタイトル、父上爆笑


第二章もよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
付記。 宰相が頭のいい悪党なら、全部織り込み済みで、騎士たちを盗賊に扮させたなども有り得そうです。 目的は、主人公に殺させ、宣伝に利用するためです。 この場合、騎士達の非常識な行動は、騎士達を殺すのが…
無辜の村を襲った盗賊なのだから全員処刑、は、それはそのとおりなのだけれど、今回は命令されてやって来た騎士達だと事前に知っていて迎撃態勢もバッチリ調えて迎え撃ったわけで。騎士達はその命令に逆らうのは大変…
盗賊を頭目を除いて全員処したのは「盗賊は即時処刑が当たり前」なら本来禍根にもならない。 宰相を始め王家の側から難癖をつけてきた瞬間に軍事的侵攻をしてきたという事実が成立してしまうので、その線も薄い。 …
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