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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第七章 更に盛り上げて

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作戦開始



――――王都のとある倉庫で ロック


 

「―――ってな訳で、王族殺しのための仕事だ」


 かつての仲間達を秘密基地として使っていた倉庫に集めて、大体のことを説明すると、集まった仲間達はそれぞれの反応を示す。


 薄汚れたシャツにズボン、革靴はひび割れていて、帽子は薄汚れていて……顔も髪も煤で汚れて元が何色だったかも分からない。


「おいおい、あのロックが何処へ行ったのかと思えば貴族に媚びてたなんて―――」


 その中で気の強い一人がそう声を上げると、ロックは無言で持ってきた木箱を開けて中から小さな箱を一つ取り出し、その中身を仲間に見せる。


 金貨と紙幣。


 どちらも高額で、見るだけで喉が鳴る代物で、それを十分に見せつけてからロックは声を上げる。


「これは前金だ。成功報酬はこの3倍。

 ジェミィと一緒に貴族のとこで働いてるのは事実だけど、媚びてなんていないぞ。

 利用できる相手だと思ったからそうしているだけで……しかもそのお貴族様は利用しているのを分かった上で良しとしてくれる人だ。

 平民孤児外国生まれ、そんなの関係なく人間は対等でお互い利用し合っているくらいが健全って考え方みたいなんだよ。

 その証拠に側近が孤児院出身だしなぁ、しかもその側近は今度王族にしてもらえるんだそうだ、外国のだけどな」


 集まった誰もが訳が分からないという顔をするしかないが、ロックが細かい説明を始めるとそれにのめり込んでいく。


 貴族も王族も所詮は人間……そもそも最初の王族も貴族も元々はただの人間でしかなく、大事を成したから相応しい地位を手に入れたというだけのこと。


 そのことをよく分かっているブライトは、どんな人間にもチャンスを与えてくれていて、頑張りには過剰な報酬で報いてくれる。


 実際にジェミィ達と一緒に捕らえられた仲間の多くがチャンスを得て報酬を得て、ウィルバートフォース領で真っ当な暮らしを送っている。


 過剰に報酬を支払っても、巡り巡って自分の懐に戻ってくると確信があるからそこに躊躇はなく、その上で成果を上げていけば心からの信頼もしてくれていて、商売相手としてはこれ以上ない存在だ……と、大体そんな説明だ。


 説明が終わったらいちいち意思確認などせずに、金貨と紙幣入りの箱を並べて、その上に『仕事』に関する指示書を乗せていく。


 それを手に取るかどうかは当人次第。


「ちなみに作戦を考えたのはジェミィと俺だ」


 その発言がトドメとなったのか、一斉に箱に群がり、それぞれ手にとって指示書を読み耽る。


 指示書の中身は危険が伴う内容だったり、過激な内容だったり……高額な報酬に見合った内容となっているのだが、躊躇するような様子は一切ない。


 報酬に目がくらんだ者、深くは考えていない者、自分も王族とまではいかなくとも貴族になれるかもと思う者、王族殺しに関わって名を挙げたいと野心漲らせている者。


 それぞれの思惑で動き始め、ロックは全ての箱が無くなったのを確認してから、その場を後にする。


 こうやって指示書をばらまけばそこから計画が露呈する可能性もあるが、それは想定済み。


 そろそろ王妃などに手紙が届く頃だろうし、手紙を盗み読んだ者達などから話が広がる頃合いだろう。


 ……そして様々な作戦が動き出す頃合いでもある。


 まずは新聞、各新聞が憶測まみれの記事をそろそろ出し始めることになっている。


 コプラン国で行った王太子の蛮行、それによって起きた悲劇、亡国の王子となったエドラン王子の物語、世界各国の反応……激怒し戦争の準備をしている国もあるとかないとか。


 そのほとんどが何の証拠もない記事なのだが、十分な効果が見込めるだろう。


 そこにあの扇動家を放り込む。十分な資金を与えた上で『好き勝手』してもらうことになっている。


 煽動家に下手に命令をしても無駄だろう、逆にこちらの邪魔をしてくる可能性すらある。


 それよりも十分な資金を与えて扇動したくなるような空気を作り出し、楽しく扇動出来る状況を作り出した方が、誰にとっても予測不能な混乱を引き起こしてくれるはずだ。


 更にはブライトが教会への働きかけを行っていて、破門だの罰だの過激なことは求めずにただただ『抗議』だけをしてもらうことになっている。


 抗議なんてものは本来であれば何の意味もない、ただの言葉でしかないのだが……新聞と煽動家が好き勝手やっているタイミングでそれは、十分過ぎる程の武器となってくれる。


 トドメとなるのはエドラン王子。


 悲劇の主人公、亡国の王子……物語の中心となる彼の名前を使って、ロックの仲間達が大暴れをしてくれることになっている。


 正当な報復としての破壊活動を行い、混乱を巻き起こし注意を引きつけて……王城から騎士団を引き離す。


 煽動家などへの対処でも忙しい所に、そんなことをされたなら王城の警備は確実に手薄となるだろう。


 そこに反王太子派や、ブライトや祖父が働きかけた貴族達による工作を重ねれば暗殺の隙は確実に出来上がるはずだ。


 潜入しての暗殺、それが難しいのであれば飛空艇を使っての降下襲撃まで計画をしていて、そのための装備も準備しているが……ロックの肌感覚ではそこまでは必要ないと思われる。


 それだけ王都の状況は荒れていた。

 

 工場の乱立、そのための労働者の増加、住居不足……結果として人々の生活は豊かにはなっているが荒んで、生き難さから王都を離れる人も増加しているという。


 工場を増やし続けているおかげか戦車とか言う兵器の数はかなりのものだ、王都での防衛戦を考えているのか、防壁の強化なども進んでいるようだ。


 財産や食料を王城に溜め込んで、遺跡で発掘したという品々で何かおかしなこともしているらしい。


 しかしそんなこと市民の誰も望んではおらず、日々の暮らしを楽にしてくれと悲鳴を上げているが、それが王太子の下に届くことはなく……王が立て直しに奔走しているが、人手が足りず全く効果を上げていない。


 王の側に忠臣の姿はなく、一部の文官が残ってはいるが、それらも疲労困憊……やる気があるのかないのか分からないような連中もいて、散々な状況だ。


 そうなったきっかけはブライトと王との会談。


 忠臣の多くはあの段階での解決を望んでいた、最低でも廃太子をしてもらわなければと考えていた。


 そのために王はブライトに会いに行ったのだと、誰もがそう思い込んでいたのだが、結果は全く違うもので、それどころかブライトの態度を頑なにさせる内容だったとの報道まであった。


 これにより忠臣達は王の側を離れた、この王朝に未来無しと新たな王朝を立てるための活動を始めた。


 末期としか言えない状況だが……王太子は全く意に介さず、止まることなく突き進んでいるという。


 諸問題の解決法があるからと、起死回生の一手はもうすぐそこに見えていると、そんな確信でもって突き進んでいる。


 だからまだ王太子の周囲に人の姿はある、王太子を利用しようとする者、その一手に期待する者……あえて破滅に導こうとする者、様々だが人の姿はある。


 どうするつもりなのか、どう動くのか、全く未知数の王妃と軍務伯と合わせて油断は出来ないが……ロックもジェミィも自分の作戦には自信があり、成功を確信していた。


 そもそもとしてウィルバートフォース家はブライトが考えている以上に大きくなっている。

  

 内政的、外交的、経済的、軍事的に問題なく、各トラブルに勝利して味方を増やして……ロブル国と大陸からの援軍まで来るという状況。


 正面からぶつかり合ったとしても負けるはずがない状況で、ブライトがそうしないのは被害と今後のことを考えてのこと。


 被害を少なく混乱を少なく……結局ブライトはお人好しなのだろうと、ロックはそんなことを考える。


 復讐心に染まりきっておらず、今回の決断も復讐心に突き動かされてよりも周囲の被害を考えてのこと。


 全く復讐に似合わない男だが……しかし復讐心がなければただのお人好しがあそこまで動くことはなかったはずで、結果としては王太子のおかげで今のブライトとウィルバートフォース領があるのだろう。


 そのおかげで救われている孤児や平民達がいる訳で……しかも自分達が嫌っている貴族制も廃する方向で動いてくれている。


 そう考えると感謝しかない、生まれてきてくれてありがとうと、本心から思うことが出来るのだが……それはそれとして放置出来ない状況にあるのも事実だった。


 とっくに破綻しているはずの暴走具合、何故維持出来ているのか分からない程の王都の荒れ具合。


 ……冷静に集めた情報を精査すればする程、何者かの意思が王太子のことを支えているように見えてくる不思議。


 その意思が王太子を暴走させているのかもしれない、その意志が王太子に一定の成功を保障しているのかもしれない。


 まるで理不尽な存在が王太子を支えているかのようで……その理不尽が王太子を勝たせる前に、ブライトを潰す前になんとかしようという焦りもロックの中にはあった。


 ジェミィからは何を馬鹿なことをと、非現実的なことを言うなと笑われたが……ロックにはどうしてもそう思えて仕方なかった。


 そんなことを考えて襟元を正したロックは、倉庫から伸びる薄暗い裏路地をゆっくり進み、そうして空を見上げる。


 煙に覆われて暗い空、歪んだ石畳に、崩れかけの街並みに。


 ……何者かがいるとして、その目的は何なのか? 一体王太子の裏になにがあるのか?


 そうした疑問を抱えながらロックは、暗い街並みに溶け込んでいくのだった。



――――王城で オーザド伯



 王太子の忠臣であり、ブライトと直接対決をした人物であり、敗北しブライトの慈悲でもってどうにか生き残ったオーザド伯は、末期的な状況にあっても王太子の側を離れられずにいた。


 賠償で搾り取られ、名誉も傷つき、今更身を寄せる宛もなく、今の状況から逆転するには王太子に勝ってもらうしかない。


 ……だが、不安で不安で仕方ない。


 そもそも何をどうしたら王太子の勝ちだと言うのだろうか?


 ブライトをやり込めたら? 王位を継承したら? 戦争を引き起こしそれに勝利したら?


 どれを選んでもリスクが大きく、仮に成功したとしてもデメリットがあるはずで、明るい未来が見えてこない。


 しかし王太子本人は、


「……勝てば、アレを倒せば全て解決するんだ……」


 と、確かな希望を抱いて突き進んでいる。


「どんなに負債があっても不利な戦況があっても、勝ちさえすれば……エンディングに到達しさえすれば……―――が始まる頃には全て解決している……」


 言葉の意味は理解しきれないが、その自信は確固たるもので、その目標が見えてからの王太子は成功続きで、またあの頃の輝きを取り戻したようにも見える。


 ならば……未来に希望があるならば、その王太子に賭けるべきなのだろうと、オーザド伯は決心をし、王城で動き回っていた。


 王妃や軍務伯を牽制し、王を翻弄し、身分を問わぬ登用でどうにか人材不足を解決し……そうして王太子が警戒する何かに備え続ける。


 それが何かを王太子は教えてくれなかったが、恐らくはあのウィルバートフォース伯なのだろう。


 自分にとっても仇敵のあの若造……あれさえ倒せばきっと明るい未来が見えてくるのだろう。


 そう考えて自らの復讐心すら燃料に動き回っていたオーザド伯だったが……ある日を境に見えていたはずの未来が急に見えなくなってしまう。


 新聞、煽動家、亡国の王子、教会。


 次々に敵が現れこちらを攻撃してきて、それを受けた王太子が混乱の中で怒りに飲まれていく。


 しかし今更逃げる訳にはいかない、逃げ先などあるはずがない。


 そう考えてオーザド伯はどうにか対処をしていく。


 人材を使い倒し、戦力を吐き出し、全ての問題を解決して平穏を取り戻し、王太子の心を鎮めるために……。


 その全てが相手の狙い通りなのだと気付くことなくオーザド伯は、賢明に……未来を信じて駆け回り続けるのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。


次回はいよいよ、ブライト達の出撃です

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― 新着の感想 ―
あー、そういえば続編があるんでしたっけ、ゲーム
王太子に裏は無いけどもナニカはいるのか⋯そのナニカをどうにかする前に中ボス悪役のブライトを仕留めたい、と主人公(笑)は思ってらっしゃる?
ゲームの世界を現実化するにはでの現実とのすり合わせで 補正はあれどゲームほど主人公に優しくない ゲームに良く似たちょっと真面目にやればイージーな世界って感じよなあ
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