防衛戦
フィリップの報告によると、本当に叔父上が来ているらしい、敵の指揮官として。
そしてその叔父上はキャロラインとシャーロットにかなりやられたようだった。
どちらも直接的な攻撃はしなかったものの、間接的にかなりの妨害行為を仕掛けていて、それは無事に成功……あれから数日しか経ってないが、結構な数の離脱者が出てしまっているらしい。
士気も最低レベル、しかし叔父上はそのことを一切気にしていないようで……余程に良い策や勝算を抱えているようだ。
それが戦車なのか、はたまた別の何かなのかは読みきれない。
こちらを嫌っているというか、警戒している感は手紙からもにじみ出ていて、その辺りの感情はしっかりと読めるんだけどなぁ。
叔父上はまず間違いなくオレよりも賢く物覚えも良い、部下への指示の出し方や戦闘指揮も心得ていて、恐らくは現場経験もそれなりに豊富。
王城周辺での揉め事で、それなりに活躍していなければ、いくら人材が不足していても指揮官を任される……なんてことはないはずだ。
戦闘能力や指揮能力に疑うような点はないし、恐らくは初めて目にする戦車であっても上手く運用するに違いない。
……さて、その戦車はどんなものか。
前世からイメージする戦車そのものだとしたら、その走破性と装甲はそれなりに怖いが、砲が作れないからなぁ……。
武器なしでどこまで戦えるものなんだろうか、あるいは全く新しい武器を作って見せたのだろうか?
果たして王太子はどんな答えに至ったのか……見せてもらおうかと関所の歩廊の上で腕を組んで堂々と仁王立ちで構えて、一団の来訪を待ち続ける。
そうこうしていると街道の向こうにキュルキュルガリゴチと激しい音をさせながらこちらに向かってくる鉄色で大型のいかにも戦車でございますって姿が視界に入り込む。
「……なるほど、そう来たか」
形は完全に前世でテレビなどで見た戦車、キャタピラに分厚い装甲、天井部ハッチ、そして主砲といかにも金がかかっていますってな作りになっている。
そして主砲は……砲ではなかった、超大型の槍だった。
騎士が使っている大槍、その強化版といった気配で、恐らくはそれでもって攻撃をするつもりなのだろう……んで、すげぇ馬鹿の発想だなぁ。
そりゃぁまぁ、そう言う使い方も考えなかったではない、可能といえば可能で……可能なのに作らせなかったのは、予算が無駄にかかるからだ。
大型にしたならした分だけ燃費が悪くなる、魔法石が必要になる、槍そのもののメンテナンスだって一大事だ、しかも射程距離は超近距離、遠距離戦闘には全く向いていない。
そんな感じでとにかくコスパが良くない、それなら普通の槍を使うか、他の兵器を使おうかとなる。
しかしまぁ、ああやって完璧に安全な車内からコントロールするのであれば、リモコン
とかで細かい操作での主砲の運用が可能ならば試す価値はあるのかもしれない。
そんな大槍は戦車の後部にある動力炉? に何本ものコードを使いながら直結がしてあり、油圧シリンダーのようなものが槍の下部には張り付けてあって、槍の石突……底の部分は戦車上部にある台座に軸のようなもので固定がされている。
シリンダーと台座の形状を見るに自由自在な目標変更が可能とは全く思えず、ただ上下に動かすことしかできないのだろう、後は車体そのものを動かして狙いをつける仕組みになっているようだ。
そんな戦車はじわりじわりとこちらに向かってきていて……それを見て俺は、思わず感想を口にする。
「つまり動力で走る破城槌、か?
あれを戦車と呼ぶのは抵抗があるよなぁ……それよりもあの上に構えた大槍で先陣を切る形で壁や門に突撃してくる破城槌って方がしっくり来る。
……破城槌車か、自動衝車のどちらかで呼ぶべきって感じがするな。
……しかしそのためにあんなバカでかい物を作るくらいなら、相応の数の騎士を投入した方が良いように思えるがなぁ……」
一度そう言ってしまうと、もう破城槌にしか見えなくなる。
大砲などの火薬兵器という攻城兵器がないこの世界では中々悪くない兵器に思えるが、あそこまで大型だと使えない場面も増えてくるのだろうし、性能の良い鎧を与えた騎士を揃えた方が良いような気もするがなぁ……。
しかしこれを使って王太子の軍は周辺領主に対し連勝はしているのだから、まだ何か見えていない秘密があるのかもいれない。
「……破城槌車っていうのはしっくり来る名前だねぇ。
破城槌戦車でも良いかな、あれを前に構えて突撃、そこから魔法石の一撃をって訳かぁ。
それで城壁なり門なりが壊れたら良いと……なるほどなぁ」
そう返して来たのはフィリップで、ライデルもアレス男爵も他の者達も、戦場に出るための支度を整えているので、わざわざこっちにまではやってこないはずだ。
そのまま出撃なりの準備を始めるはずで……そんなフィリップの隣で仁王立ちになっていた俺は、まずは関所の門を閉じるように指示を出し、そんなライデル達にちゃんとしたタイミングで出撃指示が出来るように意識を集中させて、正面からやってくる一団へと視線をやる。
戦車が2、騎士はかなり多い、従卒の姿もある、食料などを運んでいるのか荷馬車も続いている、しかし足取りは重い。
士気の低下が深刻なのか、今にも逃げ出しそうな顔をしている騎士もいて、いよいよ末期だなという感じがしてくる。
しかしそれでもどうにかまとめ上げているのが先頭集団の中で乗馬をしている叔父上で、その顔には余裕の笑みが浮かんでいる。
……叔父上個人には特に思う所はない。ただ仕事をしているというだけで特に迷惑をかけられた訳でもないし、素直に帰ってくれさえしたらそれで良いのだが……どうなるかなぁ。
叔父上の性格からしてあれこれと論戦を挑まれると厄介なことになるんだが……。
なんてことを考えていると、戦車がそれなりの位置……まだまだ射程外だろうと思われる、どれだけ魔法石を使ったとしても攻撃が届かないだろう位置で動きを止めて、周囲の騎士や従卒達も足を止めて、それから叔父上だけが前に進み出てきて声を張り上げる。
「ウィルバートフォース伯、開門されたし!
我らは陛下直々の命で動く不届き者の追討軍である! 通されたし!」
……家族なんだから通せとか、実家に帰るだけだから通せとか、そういうことは言わずに、あくまで追討軍の指揮官と一領主という関係で話を進めたいらしい。
これはちょっと意外だったな、使えるコネは使う人だと思っていたが……。
「そういった用向きであるならば、わざわざのご足労をいただく必要はない!
我が領内に不届き者はいない! よって領内に入る必要はなく、門を開く必要もない!
こんな遠方までご苦労だった、王都に帰り疲れを癒やすと良い!
ここまでご足労いただいた感謝として、帰路の旅費は出させていただこう」
俺がそう返すと叔父上は目を細めて言葉を続けてくる。
「そんな言葉だけでは信用出来ん!!
証拠、あるいは証言……それかやはりオレ達による確認が必要だ、門を開けてくれ!」
「申し訳ないが、たかが追討軍の指揮官にそのような命令をされる筋合いはない!
しかし、貴方は仮にも叔父上だ、最低限の礼儀を尽くそうと思う。
……という訳で証人を用意しよう、その人が我が領内に君達が追討する人物が一人も存在しないことを保証してくれるはずだ!」
「はっはっはー! 信用が出来ない上に信頼もされていない証人の証言にどんな意味がある!」
「安心してくれたまえ! その方の証言であれば、陛下はもちろんのこと、そちらの民達もきっと納得してくれることだろう!
この方は国内外に名前を知られ多くの人に慕われ、たかが一貴族の命令に従うような方ではないことは誰もが知っている!
叔父上達もだ! そう否定をするためにまずは話に耳を貸してはどうだろうか!」
と、俺がそう声を張り上げると、話を聞いていたのだろう、セリーナ司教様が現れて、こちらに歩いてきて、堂々とした姿で歩廊に立つ。
「……そいつは卑怯だろ……」
怒る訳でもなく悲しむ訳でもなく淡々と吐き捨てるようでもなく、静かに何かを呟いたようだったが、流石に距離があるせいか細かい内容までは伝わってこない。
しかし表情からすると司教様がいらっしゃったことは完全な予想外だったようだ。
「マシュー殿、お久しぶりですね。
そしてこの神々に使える司教たるセリーナが保証いたします。この領内に正式追討を受けるような不届き者は一人もいません。
他にも護衛の聖騎士達にも、領内を見回らせておりますが、そういった気配があったという報告は一切上がっておりません。
ですから安心して帰路に付いていただければと思います、これも神々のお導きでしょう」
それは普通に考えれば終わりの一声、これ以上の抵抗は無駄だと諦めてしまうようなものだったが、叔父上は決して諦めずに硬直したまま頭を悩ませ……それから大きな声を張り上げる。
「……いや、やはり中に入れてもらおう! そこにいる女性が本当にセリーナ司教だという保証はどこにもない!
であれば、こちらでも調査を行うのが筋というものでしょう!
これは譲れない! 追討軍という形での命令を受け、軍の編成の権限を与えられ、それらを指揮する指揮官という立場を賜った以上は、それを貫かせていただく!
そちらが門を開けないと言うのであれば、押し通るのみ!!」
……これは意外だったな、叔父上はこういう清廉な言葉よりもヘラヘラとしながらのらりくらり、適当な言葉で煙に巻いてくると思っていたんだがなぁ。
それこそが叔父上の真骨頂、得意技、まさに俺が苦手としている部分なんだが……まさかこう来るとは、真っ直ぐに正面突破を狙ってくるとは予想外だった。
「教会に仕える者としてそのような暴挙、受け入れられません」
「領主としても論外です、それ以上の言葉は宣戦布告も同義……大人しく王都に帰還されたし!」
セリーナ司教様が声を上げ、俺がそれに続く。
しかし叔父上は一向に帰還に向けての準備はせずこちらを見上げるばかり、そうしながら何かを考えているようだったが、ほんの一瞬視線が破城槌車の方へ動いたのを見て察する。
……なるほど、時間稼ぎか、アレの修理だか魔石補充だかで時間が欲しいから時間稼ぎをしているのだろう。
……しかしそれならここに来る前に全部終わらせておけよって話になるし、なんらかの策のための時間稼ぎ、か?
それならこちらから動きたい所だが、今のところ特に無礼もないので動きにくい。
……あれこれと失言かましてくれる相手がどれだけありがたい存在だったのかと、今更ながらに思い知る、まともな相手って戦いにくいんだなぁ。
相手が追討軍である以上は、こちらから手を出す訳にはいかない、あくまで迎撃という体を保つ必要がある。
つまり一撃は相手の攻撃を受けなければならない訳で、それまではただ待つことしか出来ないのだろう。
セリーナ司教様にこれ以上の積極策を強要する訳にもいかず、ここで司教様の真贋どうこうの言い合いをしてもどうにもならず……素直に相手の攻撃を待つことにする。
と、同時にライデル達に向けた合図も出しておいて、いつでも出撃できるようにしておけとの念押しをする。
既にそれはしているはずなんだけども、一応念の為に行い……そうこうしていると戦車が動力炉を唸らせて前進をし始め、門へと向かってくる。
大槍の矛先をしっかり下げて門に向けて、キャタピラ唸らせ前進して……発射。
普通の槍よりも多くの魔法石を使っているのか、凄まじい光と衝撃音があって、それから関所が揺れたかのような錯覚があって……そして煙が門の辺りから吹き上がり、そちらに誰もが視線を向ける。
……思っていた以上に強力な一撃だった。
大砲にも負けていないだろう、超近距離でしか使えないという欠点はあるが、威力は確かで……これは門を破られたかなと冷や汗をかいていると、そこには一人の男が立っていて、鎧を身にまとい大盾を構えたアレス男爵の姿がそこにあった。
……門は閉じたままでどこから現れたと驚くが、どうやら門に張り付いた敵に向けて石などを落とすための、二階の大窓から飛び降りやがったようだ。
……よくもまぁ騎士鎧を身にまとった状態でそんな馬鹿な真似に成功したものだ。
兜で顔はハッキリとは見えないが、体格と鎧に刻まれた家紋がアレス男爵であることを示していて……どうやらアレス男爵は大盾で見事に破城槌車の一撃を防いでくれたらしい。
そしてアレス男爵は一撃を防いだその盾を振り上げ、まずは大槍に大盾を打ち付けて破壊、次に破城槌車そのものを盾での一撃で打ち砕こうとする。
そうして凄まじい衝突音が響き渡るが、それだけでは破壊出来ないのだろう、破城槌車は健在で更には追討軍の騎士のうちの何人かが、剣を抜き放って飛びかかる。
その鎧は旧式の……西洋の鎧と想像した時に浮かんでくるもの、武器は恐らくロングソード、その体はしっかりと鍛え上げられていて、鋭く強力な連撃がアレス男爵に向けて放たれる。
が、男爵も只者ではない訳で、重そうに構えていた盾をなんとも軽々振るってロングソードをいなし、叩き落し、時には折り砕いて攻撃を防いでいく。
……そうして一気に戦闘が始まって、関所の防衛戦が開始となるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は関所バトル!




