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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第六章 芸術の羊飼い

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社交界


 

「……こいつは参った」


 ポーラ嬢とケランを保護してから数日が経って、様々な方向から入ってきた情報を整理し、何度も何度も確認し、間違いであってくれと再確認をしての結論はそんな言葉だった。


 まずポーラ嬢とケランの言葉は全て真実のようだ、王太子との関係については確証を得ることは難しいが、周辺の証言や動きから捏造ということは無さそうだ。


 ここまでは問題ないというか、捏造の可能性は低いだろうと考えていたから予想の範疇だった。


 王太子は我慢が出来ない男だ、だから俺にもあれこれと手を出してきた、それが思春期となれば当然そっちでも我慢が出来ないのだろう……そのためなら嘘でもなんでも使ってみせるのだろう。


 ……そんな王太子からほとんどの令嬢が距離を取って、あるいは嘘を見抜いていたようだが、そうではない令嬢も当然いる訳で……被害者はそれなりの数がいそうな気配だ。


 これはとんでもない騒ぎになるぞと、この時点でもう勘弁してくれって感じだったのだが、ここからがもっとヤバかった。


 ……ケア施設にポーラ嬢が到着したと同時期に王城では暗殺騒動が起こっていた。


 タイミングからして恐らくは男爵家の仕掛けたもので結果は失敗……現行犯はその場で王太子に斬り殺されたようだ。


 殺されたのは男爵家に仕えていた騎士達で、失敗直後に失敗を悟った男爵家は失踪。


 ……失敗の可能性を考えてのことか、そもそもダメ元だったのか、それなりの準備はしていたようで一応は逃げ延びているようだ。


 当然王家側としてはそんな男爵家を許してはおけず、追討軍を放ち……王都周辺では苛烈な捜索が行われているようだ。


 となると当然ポーラ嬢とケランにも追っ手が放たれている訳で……いずれはここにやってくるんだろうなぁ。


 ……どう対応したもんだかなぁ、その追討軍は。


 執務室でそんなことを考えて頭を抱えていると、いつものように本棚に背中を預けたフィリップが声をかけてくる。


「選択肢としては追い返すか、ぶちのめすか、だよね?」


「まぁ、そうなるかな……。

 ポーラ嬢を差し出すという選択肢もあるにはあるが、それを選ぶくらいならやり合った方がマシだろう。

 ……で何事もなく追い返せるのならそれが一番穏当ではあるが、今回ばかりは向こうも簡単には引き下がらないだろう、追い返すための何かが必要になる。

 そしてぶちのめすのも可能は可能だろうが、暗殺犯をかばってのそれとなると宣戦布告と同義、そのまま王家との全面戦争を覚悟する必要があるだろう」


「……今王家とやり合うのはまずい? 勝てない?」


「まずいと言えばまずい、勝てるかどうかで言えば勝てる。

 ただ俺の望む勝ち方ではなくなるだろうし、国内も相応に荒れるだろう。

 ……王太子の次々にやらかしてくれるのはありがたいばかりだと思っていたんだが、やらかされ過ぎて困ることになるとは思ってもいなかった。

 特に今回はなぁ……既にあちこちに情報も流れているだろうから、各貴族が動き出しているのがなぁ、なんとも困ったもんだ。

 ポーラ嬢の動きから俺が保護したと勘付いている者もいることだろう。

 そこから王家対我が家の戦争を予測してしまっている、王家に思い入れがなくても、ここで恩を売っておけば大きな利があると見て既に王家側についてしまった貴族も多い……こうなると奇襲も何もない、お互いに被害が大きくなることは確実だろうな」


「……つまり今はその時じゃない?」


「出来れば今はやり合いたくはないな……意固地になってまで避けるつもりはないが、もう少し先送りしたいのが本音だ。

 ……だからと言って黙ったまま何もしないと言うのも問題だ、男爵家を始めとした被害に遭った貴族家を仲間に引き入れるためには、それなりの態度を示す必要もある。

 ……だから理想は、追討軍を正当な理由ありでボコボコにしてやりたい、責任問題にならない形で、向こうに非がある形で今までの連中のように倒してしまうのがベストだろうな」


「……王家との全面戦争は避けられる形で、追討軍だけをボコボコにしたいってこと?」


「そうだ、それと男爵家の保護もしたいが……今どこにいるのかが分からないし、各地で追討軍が動いている中に捜索要員を出すのは危険過ぎるな」


「……男爵家の保護なんかしちゃったら逆に向こうに戦争の理由を与えちゃわないかな?」


「我が家で、この領で保護したらその通りだが、ロブル国や兄上の下に送ってしまえばそこは他国、俺の責任の及ぶことではないからな、なんとでも言い訳は出来るだろう」


「あ~~~……なるほどね。

 ならきっと男爵家も、それを期待してこっちに来ようと必死に逃げ回っているんだろうねぇ」


「そうなるだろうなぁ……少なくとも俺ならそうする。

 他の被害を受けた貴族家と連携するか、助けてもらうかしながらこっそりと……。

 ただまぁ、王都生まれ王都育ちの貴族にどこまでやれるかっていうのは疑問ではあるな」


「あぁー……普通に街中で生きていくだけでも苦労するだろうね、しかも逃避行かぁ。

 男爵家だとお金もそんなに持ってないんだろうしなぁ」


 そう言ってフィリップはため息を吐き出し、俺も釣られてため息を吐き出す。


 それから二人で黙り込んでいると、フィリップが気を使ったのか別の話題を振ってくる。


「そう言えばポーラ嬢の様子はどうなの? 不眠とか色々大変だったんでしょ? ケアは上手くいってるの?」


「ああ、ルムルアのハーブの御香がよく効いたらしい。

 一度安眠が出来たなら精神も体も落ち着いて、今は穏やかに暮らしているようだ。

 特にアニマルセラピーが効果的だったようで、犬や馬の世話なんかを楽しんでいるようだ」


「それは何よりだね、そして兄貴が言ってたアレって効果があったんだ。

 動物なんてそこら中にいるのになぁ……まぁ、おいらも猫は好きだけどさ」


「何が効くかは人によるからなぁ……王都暮らしなら動物と触れ合うことも少ないだろうから、特に効いたんだろうな」


 と、そんな会話をしていると 荒々しいノック。


 それを受けて俺とフィリップは同時に眉を曲げて訝しがる。


 我が家にそんなノックをする者はいないはずだがと警戒し、フィリップと俺が警戒感を高めて護身用の短剣へと手を伸ばそうとしているとドアが開かれ、姿を見せた母上が荒々しい態度で、スカートを激しく揺らしながらこちらへとやってきて声を張り上げる。


「許しがたい話を聞きました!」


「……ポーラ嬢のことでしょうか」


 俺がそう返す間、流石にヤバいと空気を察したのだろう、普段は動かないフィリップが自ら動いてソファを用意して、母上に座るよう仕草で促す。


 それに母上が座っているとメイド達が母上を追いかけてやってきたのかドアから顔を見せてきて、俺が手を振って放っておくようにと示すと、静かにドアを締めてあえて足音を上げながらどこかへと去っていく。


 盗み聞きをしませんとわざわざそうやってアピールしているようだ。


「えぇ、ポーラ嬢のことです。

 王太子殿下のなさりようはどうやらあの時から悪化しているようで、あんまりにもあんまりな話を聞きました。

 王族に呼ばれた貴族令嬢は、当然そういったことも覚悟はします、時にはそれを利用して身を立てることもあるでしょう。

 しかし望まぬ妊娠を強制されるなど言語道断、あってはならないことです。

 仮にあったとしても、相応の責任を取ってもらわなければ、体はもちろん心も砕かれることでしょう。

 ……一人の母としても決して許せることではありません」


「……はい、当然のことかと思います。

 ですから今、ポーラ嬢には十分なケアを―――」


「ええ、聞きました、アナタのそういう心遣いはとても立派だと思っています。

 他にも様々な施設を作り、様々な人を救っている……とても立派なことです。

 しかしそれだけで済む話ではありません、ここで何もしないでいれば被害者が更に増える可能性すらあります。

 ……声だけでも上げることは出来ませんか」


 俺の声を力強く遮って……しかし語尾は弱々しくそういう母上。


 母ではあるものの当主である俺にあれこれ言うことにそれなりの後ろめたさみたいなものはあるらしい。

 

 そしてなるほど、抗議の声か……まぁ、道理ではあるか。


 抗議の声を上げて、それを上手く利用して追討軍を煽ることが出来れば、もしかしたら都合良い展開になってくれるかもしれないな。


 しかしこの状況で俺が声を上げて、それがどれだけ効果を発揮するかという話でもあるんだよなぁ。


 もう俺と王家の対立は常識レベルまで浸透している、そこで声を上げても、ああまたか、例の軋轢かと流されるような気も……。


 しかしまぁ、だからと言って何も言わないというのも道理に悖る、追討軍に手を出す前に筋を通すという意味でもやっておくべきか。


「分かりました、我が家としても許容出来ないことですし、姉上とのこともあります。

 正式に抗議声明を作り、新聞社や親戚筋を通して王家に―――」


「ブライトだけには任せておけません。

 わたくしも動きましょう、すぐさま社交界に乗り込み、夫人達を動かすつもりです。

 ……男達に良い様にされて腹に据えかねている婦人達は多いのですよ、敵対している家であっても協力してくれる可能性があります。

 わたくしに任せなさい、上手くやります……王都で耐えたのも全てはこの時のためだったと、分かったのです。 

 あの時どれだけ怖かったか、一歩間違えばバーバラやプルミアもこうなっていたのだと思うと動かずにはいられません。

 そして今もそんな恐怖がばらまかれているかもしれないとなったら……黙っていられる訳がありません」


 またも声を遮って母上、冷静さを装ってはいるが、かなりの興奮状態にあるようだ。


 ……社交界か、そこら辺の経験は俺にはないんだよなぁ、弱点とも言える。


 そこに母上だけを放り込んでも良いものか……かと言って姉上に頼るという訳にもいかないよなぁ。


 ……そうなると、社交界の経験があるかは分からないが、いざという時の護衛にもなるタニア嬢に頼ることになるかな。


 アレス男爵の娘……決闘の邪魔をしてくれたあの無謀さも、こういう時には頼りになりそうだ。


 ……後はコーデリアさんの侍女であるシアイアにも頼ろうか、彼女がいれば追討軍なんかが手出しをしようと来たとしてもなんとかしてくれるだろう。


 ……しかし武力方面ばかり揃えても仕方ない、社交方面で頼りになるのは……エリザベス嬢くらいか。


 いや、ほんと、こうやって冷静に考えるとまともな伝手がないなぁ……もうちょっとコネを作るべきだろうか。


 いや、そこらは後で考えよう、今は母上だ。


「分かりました、暴走しすぎない限りは母上がそういった活動をすることを当主として許可します。

 ですが護衛としてタニア嬢とシアイア、それとカーター子爵令嬢のエリザベス嬢と一緒に行動するようにしてください。

 エリザベス嬢が協力してくれるかは未知数ですが、事情を説明した上で協力を乞えば可能性はあるはずです。

 すぐに手紙を送りますので、その返事が来るまでは屋敷で大人しく―――」


「分かりました!

 早速お会いしてきます! わたくしとしてもその器を確かめる必要がありますから!

 ブライト、飛空艇の準備をお願いします、準備が出来次第に出立するので手早くお願いしますよ!」


 またも遮り母上は、そう言って立ち上がって自分の部屋へと戻っていってしまう。


 それを呆然と見送った俺は……大慌てで紙を用意しペンを握って、エリザベス嬢に事情を知らせると同時に詫びるための手紙を書き始める。


「えっと、発着所への連絡はおいらがやっておくね」


 と、フィリップがそう言って動き始めてくれて、俺はそれに軽く手を振ってからペンを走らせる。


 貴族への手紙は気を使いまくるから、ゆっくり集中して書きたいのに、こんなに急かされるとか何の地獄だと、そんなことを思いながら必死に書いて書いて、書き殴って……最後に、急ぎしたためた乱文なので読後焼却するようにとお願いもしておく。


 ……多分燃やしてはもらえないんだろうなぁ。


 なんて予感がしながらも仕方ない、余計なインクを拭き取り、軽く振って乾燥させて封筒に入れて封蝋をして……そうして俺は書き上げた手紙を手に、母上の部屋へと足を向けるのだった。


 

お読みいただきありがとうございました。


次回は社交界とか追討軍とか

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