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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第六章 芸術の羊飼い

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苦手



――――少し未来の話 自領の屋敷で ハミルトン大公ブルース



「少しくらいは相談して欲しかったなぁ」


 自領の屋敷の自室で、暖炉前の揺り椅子に腰掛けながら新聞を読んでいたブルースは、そんな独り言を口にした。


「もう親戚なんだけどねぇ」


 そう呟き頬を緩ませ、良い笑顔を作り出す、痛快だとそう言いたげな笑顔でもう一度記事を眺め……静かにため息を吐き出す。


 今回行われた反撃方法に関しては褒められたものではなかった、危うい一線を踏み越えつつあると、それがブルースの抱いた感想だった。


 しかしその後の記者会見が見事だった。なるほど、新聞記者とはこう対応したら良いのかと思わせる部分があり、また会見場の詳細も記事からは好意的な反応ばかりで相当な工夫がされていることが感じられた。


 多くの貴族が自分に近い感想を抱くだろうとブルースは確信していた、つまりはここまで織り込み済みだったという訳だ。


 過激な反撃を行い、その直後の史上初の記者会見でもって印象回復。


 良い前例となってくれたと思う貴族は感謝するだろうし、よく考えたものだと感心する貴族もいるだろう。


 被害が出たのは王族だけ、ウィルバートフォース伯の目標は明確で、王族以外に余計な被害を出さないよう気を使う冷静さも持っているので、無関係な貴族としては安心して成り行きを見守ることが出来る。


 ……つまりは今回の件を理由にわざわざ敵対するような貴族はいないだろうということをブルースは感じ取っていた。


 王族派と呼べるような貴族達も、最近の王太子のやりようには眉をひそめている。むしろこれでウィルバートフォース伯の溜飲が下がったと考えて安堵している者もいることだろう。


「……つまりはちょうど良い具合の妥協できるラインを自ら作り出したと、そういう訳かな、見事なものだ」


 更に独り言、それからブルースは心底楽しそうに椅子を揺らす。


 ウィルバートフォース伯と手紙で繋がっている貴族は多いが、直接顔を合わせた貴族は少ない、更に婚姻関係を結んでいるとなると自分の他には存在しない。


 大陸領土欲しさに掴んだ縁だったが、まさかそれがこんなにも貴重な縁になるとは全くの予想外だった。


「全く痛快だね、この上大陸領土も得られるとはなぁ……。

 大陸に派遣した連中からの報告はどれもこれも心弾むものばかり、無税宣言には困ってしまったものだが、それもあくまであちらの家の宣言だからね、こちらはこちらで上手くやらせてもらうとしよう」


 そう言ってブルースは新聞記事の束を抱きしめる。


 どこか愛おしそうに我が子をそうするように、力いっぱい抱きしめたならそっと側のテーブルにそれを置き、それからブルースは別の新聞を手に取る。


 それは王族を批判した内容の三流とされる新聞だった、三流だからこそ怖いもの無しで、あることないこと書き殴っているが、確かな事実も紛れているがために市民からは信じられていてウケも良く売上を伸ばしていると言う。


 良くない流れだとは思うがそれを止める事はできない、そもそも原因を作ったのは王族なのだから、大公であるブルースでさえ仕方のないことだろうと思ってしまっている。


 更に言うのであれば王兄騒動、あちらの方が大問題でくすぶっている火種で……ここで下手に騒げばそちらが燃え上がる可能性まであって、下手に騒げないというのもある。


 だから王家はまともに対応出来ずにいる、恐る恐るでしか動けないでいる、しかもウィルバートフォース伯が証拠を握っている可能性まであるのだから、動けるはずがなかった。


 むしろその件でウィルバートフォース伯は何故攻めてこないのかと不思議に思うばかりだったが、そこまでの騒ぎを起こすつもりはないという伯の配慮なのだとすると更に評価を上げる理由になり、切り札を確保したまま使わないというのはなんとも上手いものだと感心させられる。


 危険な一線を越えながらもそこまで出来るのなら安心だ、むしろ貴族としては大人しい方だと言えるだろう。


「つまりは一安心ということだ、将来安泰とも言える、マリアンネの未来は明るいね。

 ……孫も期待出来るだろうし、その頃にはハミルトン家は大陸の大貴族、かな」


 そう言葉にすると嬉しくなってしまう、大きな声で笑いたくなってしまう。


 しかしそんなことをしてしまえば家人を驚かせてしまうのでブルースは静かに……声を殺しながらの笑い声を上げるのだった。



――――更に未来の話 大陸のある川のほとりで ジェラール・ウィルバートフォース



「大陸を貫く大河に比べれば可愛らしいものだが、それでも中々悪くないものだ」


 とある川のほとりに整備された遊歩道に、日光浴用のサマーベッドを置いて、日光浴だと言うのにしっかりと全身を包む服を着込んで寝転がるジェラールがそう声を上げると、隣のサマーベッドのマリアンネが声を返す。


「いつかはそちらの大河も手中に収めてくださいませ。

 ワタクシ、いつか川下りの旅をするのが夢でしたの、一月ほどをかけてゆっくりと……きっと優雅な旅になりますわ」


「相変わらず生意気な女だ、このオレの欲をどこまでも刺激してきやがって。

 ……しかしそれは相当先のことになるだろう、オレとて時流は読める、今は焦る時ではない。

 ハミルトン大公への手土産も完璧な仕上がりにしなければならないしな……今はそんなことにまで手を回す余裕はない」


「……領地をくださいと言われて、完璧な状態にしてから寄越すなんて、それこそ生意気ではありませんの?

 開発の余地が全くないではお父様が少しだけ可哀想になりますわ」


「そういった配慮も欠かすつもりはないから安心するが良い。

 だが同時にウィルバートフォース家として恥ずかしくない程度には仕上げなければならん。

 結婚前から婚約者に恥をかかせているようでは先が思いやられる」


「……こちらとしてはありがたいばかりですから、文句は言いませんけども、本当にこちらに来てから驚くことばかりですわ」


「さて、それはどうかな。

 先日届いたあちらの新聞によると、またも弟が面白いことをやらかしてくれたようだ。

 ……部屋に戻ったら読んでみるが良い、このオレの戦功など話題にもなってないからな、それなりに悲しくなれるぞ。

 弟とそれに連なる者達の話題ばかり……しかし相変わらずの文句のつけようのない鮮やかさ、この歳となってもまだまだ弟に教わってばかりだ」


「それなら読みましたわ。

 あまり優雅とは言えないご様子でしたが……確かに驚かされました。

 しかしそれも年齢を思えば仕方のないこと、これからの成長が楽しみな方ですわね」


「……大して年の差のない君がそれを言うのかね、本当に生意気だ」


 本来生意気という言葉は褒め言葉ではないのだが、マリアンネは褒め言葉と受け取っていた。


 下手に出るでもなく、ただただ従うでもなく、しっかり意見を言って向かい合って、対等であろうとする態度をそう褒めてくれているのだと受け止めていた。


 それがまたジェラールにとっては生意気に思えて……その生意気さが彼女の魅力なのだとも理解していた。


 生意気で可愛らしく、そして美しい。


 生来の美しさではなく内面から溢れ出る美しさ、自信満々で生意気で、だからこそ所作が自信に満ちあふれて洗練されて、化粧や服もその内面が現れている。


 何があっても誰に何を言われても俯かず堂々とし、背筋を伸ばして常に表情を維持し、努力もあってその美しさはこれ以上なく洗練されていた。


 彼女にとっての最高の形、理想の姿を一切の不安を抱くことなく完成させていて……その様子がジェラールをこれ以上なく魅了していた。


 貴族の婚姻なのだから本気で愛する必要はないのだが、今日までの短い付き合いで愛は確実に芽生えていて……この美しさを前にしたら他の花など愛でられるはずがない。


「弟の仲睦まじさは新聞から十分過ぎる程に伝わってくる、オレ達も負けてはいられないな」


 今まで空を見上げていたジェラールだったが、横を向き腕を柱に置いて、格好つけるために足を組み、その歯を煌めかせながらそんなセリフを口にする。


 するとマリアンネもまた横を向き、ジェラール程やんちゃな構えではなかったが、それでもスカートをわざと張り付けた足を組み、艶めかしい自分なりのポーズで応じる。


「生意気が過ぎる」


「あら、嬉しいお言葉で」


 そう言い合って見つめ合って……二人だけの時間を過ごす。


 まだ婚約の身、見つめ合うくらいが限度だが、しかし二人にはこれで十分で……二人が頬を緩ませる時間が過ぎていく。


 そうしてジェラールとマリアンネは二人きりの時間を存分に……従者達の抗議と注意の視線を受けながらこれでもかと堪能するのだった。


 

――――会見の数日後、執務室で ブライト



 何かをやらかせば当然忙しくなる、誰かがやらかせばその後始末がある、それがいくつも重なれば当然忙しくなる。


 更に新聞で絶賛されたことでテンションを上げて暴れまわる者がいたりすると余計に忙しくなる、それに対抗心を抱いて審理中なのに張り切ろうとする者がいたりすると尚の事忙しくなる。


 ロブル国行きを約束するとか、余計なことをうっかり言ってしまうとやっぱり忙しくなる。


 そういう訳で書類仕事に忙殺され、散歩や鍛錬も出来なくなって数日、コーデリアさんにも手伝ってもらいながらどうにかこうにかスケジュールを死守していると、更に忙しくなりそうな要因、聖職者の来訪を知らせる連絡が届く。


「教会のシャーロット様から来訪するとの連絡がございました。

 本日夕方、または明日昼頃に来訪したいとのことです」


 と、バトラー。


「み、ミス・シャーロットか……わ、分かった、いつ来てくれても構わないと伝えておいてくれ」


 シャーロットさんは俺が苦手とする女性の一人だ。


 一人がキャロラインで、もう一人がシャーロットさんで、この二人は本当に本当に苦手でしょうがない。


 嫌いではない、尊敬もしている、来訪を断ったりもしないのだが苦手で、なんとも言えない気分にさせられる。


 しかしシャーロットさんに借りがある。セリーナ司教様との縁を確かなものにしてくれたと言うか、露骨なまでに取り持ってくれたのが彼女だった。


 俺が領主になってすぐの頃に始めたことの一つに盗賊というかギャングというか、そんな連中の討伐がある。


 街のそこかしこに潜み、好き勝手を繰り返す連中を騎士達をほぼ総動員して調査をし、その報告を信じて決断、攻撃を指示して鎮圧からの厳し目の処罰……更に財産などを没収し、被害者に補填といった感じだ。


 その際に何人かの虜囚が保護されていて、シャーロットさんはその一人、気が強かったために特別厳しい扱いを受けていた女性だった。


 その厳しさは目を背けたくなる程のもので、未だに背中には深い傷跡が残っているのだろう。


 そんな彼女に対し俺はできるだけのケアをしてやろうと決めて、相応の予算を組んでケア施設を作り、前世のふんわりとした知識を総動員してなんとかそれらしく仕上げた。


 ……結果、彼女は何かに目覚め、俺のことを盲信するようになってしまった。


 盲信し時たま暴走し、教会に所属しながら様々な形で活動していて……俺のためを思ってかセリーナ司教様と会う機会を何度も何度も露骨な手段で作り出そうとしていた。


 悪意はないんだけども、それがまた厄介というか手に負えないというか……。


 結婚式にもこっそり参列してくれていて、何か言ってくるかと思ったけどもそんなこともなく、静かに笑みを浮かべながら見守るように。


 気は強いままだがそれを決して表には出さず、クールとかとはまた違う個性。


 淡々とした部分だけを表に出して、それでいて言葉の端々に俺への盲信が見え隠れするという、そんな人物になってしまった。


 裏で一体何を考えているやら、言葉からも表情からも全く読めないのがなんとも怖い。


 何しろ表情変わらないからなぁ、しかし無表情ではない、常に薄ら笑い。


 ケア施設では被害者に寄り添い親身にケアをしてくれる素晴らしい施設長であり、教会では敬虔な信徒であり、何人かの養子を引き取り懸命に育てている愛情深い母親でもある。


 しかし俺には薄ら笑い、そして淡々、一切感情を揺らさずの鉄仮面。


 ずーっとそのまま、何を言っても何を聞いても、何をしたとしても鉄仮面が崩れることはなかった。


 あまりに感情が読めなさ過ぎるし、会話が続かないので何を話したら良いか分からなくなるしで、本当に苦手な女性となっている。


 と、そんなことを考えているうちに時間が過ぎていって……執務室に修道服姿の女性が入ってくる。


 身長は高い方……175cmくらいだろうか、歳は30と少し、茶色がかった黒髪は長めで、力強い眉、つり上がった黒目、真っ直ぐな視線、しかし薄ら笑い。


「まぁ、ブライト様、相変わらずお可愛らしくていらっしゃる。

 このシャーロットの鏡はひび割れてばかりです」


 力強くそんなことを言ったりしてくるが、やはり淡々としていて、しすぎていて不気味に感じる。


「よ、よく来てくれた、とりあえず座ってくれ、話はそれからだ」


 と、俺がそう言ってソファへの着席を促すとシャーロットその通りにしてくれて、それからゆっくりと口を開き、ここに来た本当の目的を話し始めてくれるのだった。





お読みいただきありがとうございました。


次回はシャーロットのあれこれです


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― 新着の感想 ―
シャーロット姫、気軽に死の運命感じ過ぎでは? まぁ、とりあえずランスロットが悪い 微妙にケア施設のトップとはいえ職員ってのも怖いなー、ミス・マープル的なフラグっぽくて
姉上といいシャーロットさんといい 狂信者製造機?
博士達ぇ
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