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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第六章 芸術の羊飼い

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思惑



 しっかしとんでもないことをしてくれたよなぁ。


 せっかくの記者会見の空気が冷え切ってしまった。


 こういう時には空気を読まない人に任せるのが良いというのが定番で、資料の説明を軽くしたなら博士に登場してもらい……我が領での投資実態とか、今回は失敗したけどこんな成果も上げているんですよアピールをしてから、博士に説明をぶん投げる。


 博士は外面がそこそこ良い、しかも自分が主人公の舞台をぶち壊す程馬鹿でもない。


 なのでまともな風を装っての質疑応答をしてくれるはずで……その間に俺は一旦休憩ということで裏に引っ込み、水分補給やらトイレやらを済ませてしまう。


 それから控室として使っている貴賓室に向かい、本来ならそろそろ出番だったコーデリアさんのフォローをするために、緊張した様子で待機し続けているコーデリアさんに声をかける。


「お待たせして申し訳ありません、何しろ予想外の事態が起きてしまいまして……。

 あのまま紹介するよりも博士に場を温めてもらってからの出番が良いかと思いましたので、もう少しだけ待機をお願いします」


 すると緊張した様子でソファに腰掛けた、薄青色の卸したてドレス姿コーデリアさんはこくりと頷いて、それから口を開く。


「あの、先程の騒ぎが聞こえてきていたのですが……また王太子なのですか?」


 ああ、やっぱり聞こえてきていたのかと頷き、一応護衛として側にいるシアイアに視線での確認をし、バッチリ全部聞こえていましたとの仕草が帰ってきたのを受けて、俺はならば正直に話すかと言葉を返す。


「かもしれませんが、断定は出来ませんね。

 あの記者が王太子と口走っただけで、本当にそうなのかはなんとも言えませんから。

 記者の言うことをいちいち真に受けていると馬鹿をみます……ああいう風にかまして、こちらの反応を見るというのも記者の仕事なんですよ」


「……わざと怒らせようとしているということですか?」


「ええ、それで失言を引き出せれば儲けもの、あとは好き勝手に書き殴って売ったもの勝ちという感じですね。

 ……それと可能性は低いのかもしれませんが、他の貴族の工作も疑っています。

 王太子は確かに馬鹿ですが、ここまで面倒なことをしてくるかが疑問なのと、記者なんかを使わなくてももっと良い手駒がいるというのと、これをやって何を得ようとしているのかが見えないというのもありますね。

 ……王太子はこう、馬鹿に直線的なので金なり名誉なり女性なり、何かを得るために動くことはあるんですが、今回のこれは……らしくないとは思っています」


「そう言えばバーバラ様にもご執心だったとか?

 ……え、そこからですか? 婚姻騒動から既に誰かの工作だったと?」


「分かりません、王太子がただただ馬鹿だった、方針を変えた、部下に任せたなどもありえますから、情報不足の中では想像することしか出来ず結論を出すのは難しいかと思います。

 ……ただ他の貴族の介入の可能性は常に疑っていきたいですね。

 私がすぐに復讐に出ないのも、威嚇飛行なんて遠回しな手段に出たのも、その介入を嫌ってのことです。

 私が我を忘れて暴走して王太子を排除したとして、他の貴族は黙っていないでしょう、相応の介入をしてくることでしょう。

 私に対する相応の処罰を求めるでしょうし、危険人物として権限や爵位の剥奪、あるいは私への討伐令を発してくる可能性もあります。

 そうやって私を遠ざけておいて、後は自分たちの好きなようにする……それは私が逆の立場であってもすることで、私と王太子の対立が始まってからずっと、彼らはその機会を伺っていることでしょう」


 まぁ、俺が逆の立場でもそうする。


 王太子がやばいことやらかして被害者が切れて、一触即発となったらそれを利用して漁夫の利を得ようとする、貴族としては当たり前の判断だ。


「……なるほど。ロブル国の王宮ではあまりそういう事態はありませんでしたね……」


 と、コーデリアさん。


 ドルイド族は良くも悪くも純粋だからなぁ……そういう駆け引きよりも決闘とか力比べとか、そちらの方を好んでやっていそうだ。


「こちらではそれが普通と言いますか、よりえげつないことをしている人達もいますからねぇ。

 私なんかでは想像も出来ないような面倒で回りくどくて、それでいて邪悪なやりとりなんかも存在しているのでしょう。

 そんな彼らにとって私は恐らく、イライラさせられる存在なのでしょうね。

 さっさと暴走して欲しいのにしてくれない、機会を伺い続けているのにその機会がやってこない。

 ……だからちょっとした工作をして蜂の巣をつついてやろうというのは、あり得ることだと考えています。

 あの記者がわざとらしく王太子の名前を出さなければ、そこまでの疑いはかけなかったんですけど……あの言い方は少し引っかかりますね」


「……まぁ、確かに?

 記者さんって記事を書けるだけの教養がある方な訳ですから、そんなことはしない……のかも?

 ……仮に工作だとしたらどこの誰がやってきていそうとか、目星はついているのですか?」


「さて……誰でもあり得ることでしょう。

 リュード軍務伯はそこまでのことはしないかもしれませんが、それが国防のためとなったらやる時はやるでしょう。

 お祖父様が爵位を譲ったばかりのグレイ侯爵家は一番可能性が高いです、お祖父様という縁があるとは言え、新侯爵になってからの交流はほぼなく、露骨に関係を絶ってきていますから何らかの思惑はあるはずです。

 仲が良い相手だからと油断は出来ません、カーター子爵は清廉かつ友好的な方ですが、だからと言って絶対にやってこないとは言い切れません、自らの立場と領地のためなら遠慮はしてこないでしょう。

 他にも……この国には名ばかりを含めれば100近い貴族家があります、そのどこがやってきてもおかしくない状況ではありますね」


 俺が失脚したら後継者はなく、爵位が失われるとなったら誰にとっても大きなチャンスとなるだろう。


 なんだかんだと管理している領地は広く、分割したなら5か6か、そのくらいの貴族家が生きていけるだけの領地となるはずで、むしろ狙わない方がどうかしている。


 ……特にグレイ侯爵家はなぁ、手紙のやり取りをしている方々が警戒するくらいには野心をむき出しにしているらしい。


 お祖父様の長男、つまりは俺にとって伯父であるジョージ・グレイ侯爵はそうでもなかったようだが、その子供……つまりは俺にとって従兄弟となる現侯爵クラークはかなりの人物であるようだ。


 曰く俺よりも早熟で、俺よりも野心的、お祖父様は我欲がないと評していたが、実際に会った方々によるとそうでもないらしい。


 ……ある方はクラークをこう見たようだ。


 虫を見かけたらとりあえず踏み潰してその死に様を鑑賞して楽しもうとする男。


 お祖父様はそんな訳がないと言っていたが、お祖父様は孫に甘すぎるからなぁ……正直その判断を信じ切ることは出来ない。


 そしてその方の評が正しいとしたならば、俺か王太子を虫と見なして介入してきている可能性は十分にある。


 ……今回の威嚇飛行にはその辺りの確認の意図も、ちょっとだけあったりする。


 今回威嚇飛行を行った王太子領は、グレイ侯爵領のすぐ側で……グレイ侯爵領にもそれなりの影響があったはすだ。


 飛空艇編隊は確実に確認したはず、なんらかの思う所があったはず、だから手紙でも送ってくるものと思っていたが一切なく、そこにあの記者の暴走。


 ……まぁ、グレイ侯爵家ならもっとマシな手段で来そうな気はするけども、王太子のレベルに合わせたという可能性もある訳で、否定はしきれない。


 ……この辺りの思惑は誰にも話していないし、話すつもりはない。


 何しろお祖父様が側にいるからなぁ……お祖父様にバレた場合、クラークにも伝わってしまう可能性がある。


 お祖父様は俺を溺愛してくれていて味方として今も……よく分からない工作を頑張ってくれている。


 だけどもクラークも俺と同じ孫であり……うん、それなりに溺愛している可能性もあるからなぁ。


 お祖父様はなんだかんだと言ってはいたが、だからといって油断してしまう訳にもいかないだろうなあ。


「……貴族とは色々とあるものなのですね。

 ……するとあの記者はどこかの貴族家の使い捨ての駒だったと」


「恐らくは……。

 その辺りの調査はまた追々にし、それが真実であった場合は相応の報復も考える必要があるでしょう。

 もちろん王太子のやらかしであったのなら更なる反撃も考えなければなりません」


「……なるほど、分かりました。

 えっと、あの記者の方はどうなるのでしょうか? 司教様なら酷いことはなさらないとは思いますが……」


 と、どこか不安げなコーデリアさん。

 

 コーデリアさんにとって司教様は恩人だ、とても優しく温かく導いてくれている先生のような人でもある。


 だからそう思うのは当然なのだろうけども……しかしあの方は司教様、教会の立場を守るために冷酷にもなる相応のお立場の人なんだよなぁ。


「……まともな末路は待っていないでしょう。

 正直罰則棒を持ち出すというのは予想外でした、確かに無礼な発言ではありましたが、そこまではしないと思っていました。

 ……それでも持ち出したということは相応の理由があったはずです。

 これは勝手な憶測ですが、恐らく教会も報道という商いを持て余しているのでしょう。

 否定はしきれないが肯定もできず、利用したいがしきれない。

 教会独自の新聞なんかも発行していますが、教会の威厳を守るために伝統的かつお固い文章となっているせいで市民には不人気です。

 そんな状況での今回の報道騒動……教会も油断をしたならアレに巻き込まれかねないという警戒心があったのでしょう。

 教会上層部からそういう命令が出ていたのかもしれません、報道関係者が無礼を働くなら容赦をするなと。

 ……あの棒が出てきた時点で私に出来ることはありませんが……彼次第では救われることもあるでしょう」


「……それはどういう道なのでしょうか? それを彼に教えることは出来るのでしょうか?」


 と、コーデリアさん。


 一応コーデリアさんも侮辱されていたのだけど、気にしてもいないようだ。


 それどころか彼のことを気遣っているらしい。


「……分かりました、あくまで司教様の許可を得られたらという話ではありますが、その時は私からそれとなくそのことを伝えておきましょう。

 そして罰則棒を受けて助かる道は一つだけです、それは教会に所属し神々に尽くすこと。

 教会は苦行を推奨していませんが、苦行の道を完全に否定してはいません。

 ……つまり相応の苦行を受ければ許されることでしょう」


 つまりはやらかしたこと相応の罰を受けろということ。


 普通の刑罰と違うのは、それでも一生そのやらかしが付いて回る上に、教会に所属し続けなければならないことだろう。


 アウトロウであることは一生変わらず、教会の庇護によってギリギリ人権が保たれているという、そういう状態である限りは生きていくことが出来る。


「ありがとうございます、旦那様の折角の晴れ舞台であんな悲劇、悲しくなるだけですから、お手数と慈悲をかけてくださると嬉しいです。

 ……ところで会場の方はよろしいのですか? 博士に任せきりみたいですが……」


「あ、はい。確認してきます」


 確かに長話をしすぎてしまったなぁと慌てて会場に戻る。


 途中フィリップが駆け寄ってきて身だしなみを整える手伝いをしてくれて、しっかり居住まいを正して気合を入れ直して、後半戦に挑むために状況を整える。


 そうして会場に戻ると……うん、流石に博士でもちゃんとやってくれていたようだ。


 場は荒れていない、発明品の数々で多少ごちゃついているけどそれだけ、そこまで時間経ってないはずだけども記者が疲れ切っているように見えるのも多分気の所為だろう。


 俺が戻っても博士は喋り続けている、呼吸も忘れて言葉を吐き出し続けている。


 俺が席についても咳払いをしても続いている……テーブルの上に立ったまま独演会を続けている。


 ……さて、どう止めたもんかなコレと悩んでいると、ライデルとフィリップがやってきて、博士の足を引っ掴んで結構乱暴に引きずり下ろし、二人で抱えてそのまま裏へと引っ込んでいく。


「……あー、うん、休憩中に色々あったようだ、失礼した。

 何か苦情があれば後で頼む、博士が対応してくれることだろう」


 それを見送ってから俺がそう言うと、仕込みの記者までがウンザリとした顔を向けてきて……俺は咳払いをして姿勢を正し、改めて口を開く。


「さて、今回の報道においては私と妻であるコーデリアとの関係に疑念があるということが根底にあったように思う。

 関係が疑わしいからこそあれこれと邪推してしまっているような、そんなものを感じた。

 ゆえにここからはコーデリアの紹介とその仲についての話をしよう。

 話が終わればある程度の質問も許可するので、そのつもりで話を聞いて欲しい」


 このことに関しては記者達も興味津々であったのだろう、仕込みの記者までが目の色変えて前のめりとなる。


 それを受けて頷いた俺は腕を振り上げ、コーデリアさんに会場に入ってくるよう促し……コーデリアさんがすぐに姿を見せる。


 中にはドルイド族を初めて見る者もいるのだろう、すぐさまざわめきが広がって……そんな中で俺は立ち上がり、コーデリアさんの手を取り席へと案内し、その仕草でもって想いの深さを精一杯にアピールさせてもらうのだった。



お読みいただきありがとうございました。


次回はイチャラブ会見ですが、そこらは短めに、他のキャラ視点などなどがある予定です

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― 新着の感想 ―
>ライデルとフィリップがやってきて、博士の足を引っ掴んで結構乱暴に引きずり下ろし、二人で抱えてそのまま裏へと引っ込んでいく そして、博士が人前に出ることはなかった……
>現公爵でありお祖父様の長男、つまりは俺にとって伯父であるジョージ・グレイ侯爵は 母上の報告では伯父をすっ飛ばしてクラークが次期侯爵になったとあったけどその後変更があったんだっけ?読み飛ばしたかな
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