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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第六章 芸術の羊飼い

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大事故



 さて、記者会見だがただやるでは芸がないので、可能な限り拘った上で利用もさせてもらうことにした。

 

 まず会場は我が領最新のホテル、関所近くの飛空艇発着所側、発着所から屋根付き通路で移動が可能なそこの大ホールで行うことにし、何箇所かの主要都市に最新型の飛空艇での迎えも出すことにした。


 飛空艇もホテルも無料で利用してもらい、記事を書けとまでは言わないがそれとなく仄めかし、宣伝に利用させてもらうことにする。


 ついでに博士の発明発表会見も行わせることにした。


 変態かつ変人のアーデル・トレイサー博士だが、その功績自体は素晴らしいもので……間違いなく天才であると同時に凄まじいまでの自惚れと自尊心と虚栄心を持っている。


 だから自分が目立つためならば、褒められるためならば、まともな人間として振る舞うことも一応は可能だ。


 その方が見栄えが良いとさえ言ってやれば、その天才性でもってなんとでも出来てしまう。


 いっそ俺よりも立派で覇気のある、貴族らしい振る舞いさえ出来るかもしれない。


 そんな博士のいくつかの発明をついでに発表させることで、同じく我が領で働く博士であるパスカル博士の汚名というか、やらかしを薄めようという狙いだ。


 問題のある博士を抱えることにもメリットがあると、人類の歴史をこれだけ前に進めるのだと見せてやれば、全員ではないにせよ何人かの記者はそちらに気を取られるだろう。


 それ程までに博士の功績は凄まじい……と、言うか本来ならこれくらいは文明が前に進んでいるはずなんだがなぁ。


 博士もアイデアさえ与えてやれば完成まではあっという間だった、必要な材料も技術も揃っていたからだ、だと言うのにどういう訳かその答えに誰もたどり着いていなかった。

 

 科学者というか人間の好奇心というのは、抑えられるようなものではなく、ある程度の条件さえ揃えば世界のどこかで誰かがやらかすものだと思うのだけど……何故だかそうはなっていなかった。


 まるで誰かが意図的に流れを止めていたような違和感……まぁ、そんなことを俺なんかが考えても答えなんて出てこない訳だが。


 という訳で記者会見本番。


 大ホール最奥にまず俺達が使う長テーブルを配置、そこに俺達用のソファを並べて……それに向かい合うように大量の机と椅子を配置、それを記者達用のものとする。


 大ホールの左右にはホテルのスタッフに頼んで作ってもらった場、茶やコーヒー、軽食などを出す場を用意して……当然これも無料。


 飛空艇貿易の成果や、我が領の名産品なんかのアピールもさせてもらおうことになっている。


 で、記者会見の場には、まずは俺だけで挑む。


 それから妻を紹介したいとしてコーデリアさんを呼ぶ予定で、更にそこからトレイサー博士も呼ぶ予定だ。


 一応いざという時の切り札ということでセリーナ司教様やお祖父様にも待機してもらってはいるが……まぁ、出番はないと思う。


 コーデリアさんを呼ぶ理由は妻として紹介したいからで……ドルイド族との関係も大々的に広めていくつもりだ。


 ロブル国との関係もしっかりアピールするし、ついでに大陸での父上達の状況もアピールするし……今俺がどんな状況にあるのか、多くの人々に知ってもらう良い機会とさせてもらうつもりだ。


 そういう訳でソファに座って待機をしていると……事前にホテルに宿泊していた記者達がゾロゾロと大ホールに入ってくる。


 スタッフの案内を受けて茶なりコーヒーなりを手にとってから席につき……そして机の上に置いておいた資料に気付いて早速確認しているようだ。


 お手元の資料を確認してくださいってやつだ、それにはパスカル博士のことや事件のこと、それとトレイサー博士の功績なんかがまとめてある。


 写真付きで。


 その写真は博士が発明した当初のものよりも、かなり画質が良くなっている。


 博士なりの改良をした結果、そうなったらしい、使っている薬品に色々混ぜた結果とかなんとか……元々カメラには詳しくなかった上に、聞いたことのない薬品を結構な種類使っているので、もう何がどうしてそうなっているのか理解は出来なくなっている。


 いくつかの薬品は博士が自ら開発し命名した代物らしいので、恐らくはこの世界独特の仕組みとなっているんだろうなぁ。


 飛空艇とかのように、この世界でしか作れないカメラのような何かなのだろう。


 そんな画質の良い写真付きの資料は、新聞記者達にとってはかなりの衝撃だったようだ。


 悲鳴のような声まで上がっていたり、混乱するような声も上がっていたり……ざわつき程度で終わるかと思っていたが、それでは済まないレベルで騒がしい。


「静粛に、席についたら始めるぞ」


 俺がそう声を上げると、大ホール全体に声が響き渡り、記者達は硬直しなんとも言えない顔をこちらに向けている。


 俺の目の前のテーブルには博士手作りのマイクがあり、大ホールの各所にはスピーカーが設置されている。


 電信が可能ならば、これも可能だろうと思っていたが……やっぱりあっさりと作ってくれたよね、マイクとスピーカー。


 正確に言うとこれに近いアイデアは元々存在していたらしい、しかし実用レベルには至らず、これといって使う方法も思いつかずで放置されていたものを洗練させることで完成した……とかなんとか。


 同時に蓄音機なども発明されて、それら全てがトレイサー博士名義の発明となっていて……今日発表する予定の発明の中心は、このカメラやマイク、スピーカー、蓄音機などなどとなっている。


 電信は海を超えての通信に成功してからということになっているし、他の技術は公表する訳にはいかないものが多いしで、この辺りならまぁ問題はないだろう。


 そんなマイクとスピーカーは見事なまでに記者達の度肝を抜いたようで……一気に静まり返った会場に向けて声を上げる。


「では我が家に関する不当な噂を払拭するための記者会見を始める。

 質問は順番に、手元の資料を読んだ上でするように、いつまでも付き合っていられないので質問は一人5回まで。

 質問の際には多少の無礼も許すが、これらのルールを守れないものには容赦はしない、即刻退場してもらう。

 ……では資料を読んだ上で質問がある者は挙手を」


 記者の数は全部で12人、つまりは最大60回の質問となる訳だが……さて、どうなるかな。


 流石に貴族相手となってルールを無視する記者はいなかったようで、手元の資料を読み耽る者ばかり。


 しばらくの静寂の後に、一人がおずおずと手を挙げる。


 すると脇に待機していたスーツ姿のライデルが動いてマイクを差し出し、記者にそれに向かって話すように促すと記者は立ち上がって背筋を伸ばし、マイクに向かって……本当にこれで良いのか? と、訝しがりながら声を上げる。


「あーあー……うわ、凄いなこれ。

 えーっと……あ、あの、恐縮ですが伯爵に質問です。

 このパスカル博士は今どうしていらっしゃるのですか?」


「警邏隊に逮捕され拘禁中だ、法院からの処分が下ればそれに服してもらう」


「なるほど……。

 被害者の方々は今どうしていますか?」


「いつも通りの日常という訳ではないが、元気に暮らしていると報告を受けている」


「いつも通りではない理由は?」


「十分な補償をさせてもらったからな、暗い気持ちを吹き飛ばすために長期旅行に出かけているようだ」


「……補償とのことですが、具体的な金額は?」


「言えない、被害者に関するほとんどの情報は彼らの安全のために口外することは出来ない」


「……なるほど。

 では最後に……伯爵は今回の件になんらかの責任を感じていらっしゃいますか?」


「感じていない、私が負うべき責任は、この領のため国家のため粉骨砕身努力し、発展させていくことにある。

 その成果は君達にも見てもらえたと思う。

 であるならば何も恥じ入ることはない、先程も言ったが十分な補償はすでにしてあるからな」


「……ありがとうございます、質問に応えて頂き感謝するばかりです、伯爵の御慈悲にあらためて感謝申し上げます。

 ルールに則り五つの質問を終えたので、これで質問を終わらせていただきます」


 そう言ってその記者は着席し黙り込む。


 ……打ち合わせ通りに。


 まぁ、うん、仕込むよね、何人かは。


 仕込んだ上で真っ先に質問させることで流れというかテンプレを作り出させてもらった。


 しっかり質問をし回答を得て、私の睨まれることなく無事に質問を終えたことで残りの記者も、基本的にはこれに続いてくれることだろう。


 しかし念には念をということで次の記者も仕込み、当たり障りのない質問を先程と同じ流れでやってくる。


 それを三度繰り返せば他の流れを作る勇気がある者はいないはずで……仕込み以外の記者達も恐る恐るではあるが流れに乗る形での質問を始めて、特に問題なく答えていくことが出来る。


 ……まぁ、言っちゃうと俺に法的責任はないからなぁ。


 対等な関係ではなく貴族と平民、領主と領民という関係で多少のあれこれは許される状況にある。


 それでも度が過ぎれば問題だが、やらかしたのはあくまでパスカル博士で、任命責任とか監督責任とか、そういうことが追求されるようなことはない。


 まだそういう社会状況ではないと言うか、倫理観が育っていないと言うか、まだそんな言葉もないような状況なので、誰もそこら辺に突っ込んだりはしない。


 むしろ貴族としては想像もしていなかった程に下手に出ていると評価されているようで、会見が始まった当初は俺を睨んでいたような記者も、その敵意のかなりの部分を失っていた。


 そんな中でずっとニヤついていた、何かやらかしてやろうと画策しているような、その悪い性格が顔ににじみ出ているような、斜に構えた記者が質問を始める。


「伯爵は王太子殿下のことをどう思っているんですか?」

 

 随分とまぁストレートな質問だった。


「王太子殿下のことを私以上に嫌っている人物は、この世界には存在しないことでしょうね」


 と、返す。


 まぁ、嫌いってことは隠すようなことでもないし。


 しかしこれは記者達には意外というか、予想外だったようで会場内が一気にざわつく。


「殿下が姉君の婚姻を強制しようとしたという話は事実ですか?」


「さて、殿下と話したことすらないので事実かどうかは確認すらできないな。

 しかしそういった旨の殿下名義の手紙が届いたことと、大陸の無礼な貴族一家がふざけた理由で来訪したことは事実だ」


「……それに怒った伯爵が報復に出たというのは事実ですか?」


「報復とは何なのか、何をしたというのか具体性に欠ける質問なので答えようがないな。

 しかし貴族と王族の間に様々なやり取りがあることは事実だ」


「本音では殿下をどうしたいんですか?」


「人前で本音をぶちまける程、礼儀知らずではないつもりだ」


 俺がそう返すとその記者は露骨に不満そうな顔と態度となる。


 更に質問をさせろとそう言いたげだったが……ライデルがマイクを引っ込めたことでざわつきの中にその声は埋もれてしまう。


 するとその隣の席に座っていた記者が立ち上がって挙手をし、自分に質問をさせろと露骨にアピールしてくる。


 それを受けてライデルがこちらに視線を向けてきて……俺が頷くとライデルはマイクを差し出し、質問が始まる。


「実は王太子殿下とお話する機会がありまして―――」


 ……なんだって、王太子の関係者か? 記者ごときが王太子と会話する機会なんてまずないはずだし、確実に身内だよな、コイツ。


「―――殿下がおっしゃるには、伯爵と姉上がただならぬ関係にあるとか、なんとか?

 最近発表された婚姻も、それを隠すための工作だなんて噂もありますが、真偽の程はどうなんですか?」


 ……うわ、凄いこと言いやがったなコイツ。


 多少の無礼は許すと言ったが、これは完全にライン越えの発言で……かつ、こいつは更にヤバい領域に足を踏み込んでいることに気付いていないらしい。


 そんな記者に俺がどう返そうかと……どういうウィットに富んだジョークで誤魔化してやろうかと、どういう手段で助けてやろうかと頭を悩ませる。


 この際俺への無礼はどうでも良い、姉上への無礼も……どうでも良くはないが、今は置いておく。それよりもと割と真剣に、本気でどうにかしようと唸り声を上げながら悩みに悩む。


 それを見て記者はしてやったりとほくそ笑んでいるが、違う、全然違う、俺はお前を助けようとしているんだぞ。


 しかし答えは出ず、出ないまま何分くらい沈黙してしまっていたのか……体感で結構な時間が流れた後に、大ホール奥の扉が勢いよく開け放たれる。


 そこにはセリーナ司教様の姿があり……司教様の護衛とて同行していた二人の教会騎士の姿もある。


 それを見て俺は、もう誤魔化せないようだと諦めて額に手をやって、過去最大の大きなため息を吐き出す。


 よりによって教会に喧嘩売るとはなぁ……もう俺にはどうにも出来ない。


 そんな俺の方をチラリと見て、俺に止める気がないことを理解したらしい教会騎士の一人は槍を構え、もう一人は罰則棒を構えて記者の方に前進していく。


 流石に緊急のことで鎧は着込んでいないが、それらの武器はすぐさま用意して駆けつけたらしい。


 槍は他の騎士達が使っているような一般的なもので……そして教会騎士だけが持つことを許される罰則棒とは、やたらとゴツゴツとした、明らかに持ちにくいだろそれって造りの鉄の棒で、先端が刺叉のようになっている代物だ。


 つまりは相手を殴ったり拘束したりするための武器で……その相手とは教会への無礼を働いた愚か者や利己的な理由で教義を捻じ曲げたり教会の名前を利用した異端者となる訳だが、今回のコイツは愚か者ということになるのだろう。


「神々が認めた婚姻を今なんと言ったか!

 そのような不義不貞に教会が関わったと今そう言ったのか!!」


 そして会見をちゃんと聞いていたらしい司教様の一括、これは予想していなかったのか……こうなるとは思ってもいなかったのか、それを受けて記者は真っ青な顔で震え上がり、足の間からは人としての尊厳が流れ出している。


 ……どこまでがアウトなのか、そのラインは知らなかったようだが、罰則棒の意味は知っていたらしい。


 一定の地位を持つ教会関係者からそれを向けられた時点で、その人物人権というか、そんな感じのものが喪失してしまう必殺兵器、とんでもない話しだがそういうものだと国家法と教会法で定められている。

 

 アウトロウ化と言っても良い、ロウ……つまりは法律からアウト、外に放り出されて法律に守られない存在となる。


 もう人ではなくなる、道端の石とかアリとかと同じ扱い、それを蹴飛ばそうがすり潰そうが、どんな拷問をしようが咎める者はいないし、法も国も貴族も騎士も当然教会も守ってはくれない、それどころか神々はアウトロウ化した人物に対するそういった一連の行為を褒めてくれさえするそうだ。


 ……あまり良くない考え方だとは思うが、教会として譲れないラインを守るための最終手段的な強権として、この国だけでなく大陸各国もそれの存在と価値を公的に認めている。

 

 話には聞いていたが初めて目にする代物だ、普段司教様はそれを厳重に封印していて、使ったことすらないはずなのだが……公の場でのあの発言を受けて使わざるをえなくなったようだ。


 そんな状況を理解しているらしいその記者は、ガクガク震えてこれ以上ない程に震え上がって、跪いて懇願するように静まり返る大ホールに声を響かせる。


「で、殿下が、殿下がこうしろって言ったんですよぉぉぉぉ!!」


 ……またすげぇこと言い出したな、コイツ。


 絶対にこの場では言っちゃいけないことだろ、ソレ。


 そうして会場は一気に騒がしくなる……が、しかし罰則棒を前にしてはしゃぐ者はいなかったらしく、すぐに静まり返り……そしてその記者はそのまま罰則棒で拘束され、連行されていく。


 ……それを見送った俺は、ホテルのスタッフにあの一帯を掃除するように指示を出し、それから、


「……コホン、では次に資料第二部の内容についての説明に入ろうと思う」


 と、咳払いついでの言葉を口にし、どうにか状況を立て直そうとする。


 それでは全然立て直せていなかったがそうするしか手はなく、とりあえずトレイサー博士に頑張ってもらおうかと、話題を強引に博士の発明の方へと持っていくのだった。

 


お読みいただきありがとうございました。


次回は冷えっ冷えの会見会場の続きです

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― 新着の感想 ―
王都新聞のモチ○キです
殿下の仕込みがある可能性までは予想して仕込みはあってもその仕込みの使い手が実感を伴ってなくてちゃんと実感と経験で使いこなせず主人公がしっかり対応して傷つけることが出来ずに対応して守勢を持ってやり返した…
破門のビートを叩き込まざるをえない! 証言1つじゃ王太子まで破門のビートを刻むのは無理かな。
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