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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第六章 芸術の羊飼い

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教養



――――関所の女性用貴賓室で



 関所の貴賓室は一つだけではなく女性用のものも用意されていた。


 女性だけが、あるいはその使用人だけが入ることが出来るもので……この関所が出来て以来、そこが使用されたことは一度もない。


 だが管理や清掃はしっかり行われていて……そしてそこにはこっそり忍び込んだプルミア達の姿があった。


「お兄様は新聞記者を上手く使うみたい。

 ……ジェミィ、ロック、何かお手伝いはできないかな?」


 お忍びということでいつのよりも更に少年らしい、貴族令嬢とは思えない格好となったプルミアは、窓を開けて真下の部屋となる件の貴賓室の様子をうかがっていて、そんなプルミアと一緒になって会話などを盗み聞きしていたジェミィとロックは、お互いの目を見合い……ロックが代表して声を返す。


「色々な手があると思います。

 たとえば……他の新聞社にこのネタを漏らしちまうとかどうでしょうか?

 直接取材した新聞社より先にすっぱ抜かれたとなると、今取材している記者はそれはもう激憤してとんでもない記事を書くでしょう。

 そこにプルミア様のお小遣いを投入して、このネタを扱った新聞だけを各地で買い支えてやれば……他の新聞社も追随し、あることないことが乱舞する報道戦争になるはずです。

 何人かの記者を買収して報道の方向を誘導するという手もあります、それで王太子とあの伯爵に赤っ恥をかかせれば、二の舞いにはなりたくないと手出しをしてくる貴族は減るんじゃないですかね」


「ああ、それは悪くないかも。

 一度火が付けばあとは何もしなくても勝手に燃え上がって焼け野原になるまで燃え続けるだろうからねぇ」


 それにジェミィも同調し……プルミアは「なるほど」と頷き言葉を返す。


「お姉様を守るためだからそのくらいはしないとね。

 ただお家が関わっていると知られるのは良くないから、こっそりやりたいんだけど出来る?

 出来るなら今あるお小遣い全部渡すから二人でやっちゃって、もちろん手間賃も出すからね」


 その言葉にジェミィとロックは迷うことなく頷く。


 元々やろうとしていた活動に近い行いで、そのための情報収集や人脈構築はある程度済んでいる。


 それらがあればかなりのことが出来そうで……しかも予算は十分。


 家族に甘いブライトはまだまだ幼いプルミアにまでかなりの予算を組んでいて、完全に持て余してしまっている予算全てを託されたというのは、ジェミィとロックにとって喜ばしいことだった。


 それだけ信頼されている、腕を買ってもらえている。


 自分のことながら絆されているなぁとも思うが、それでも嬉しいことは確かで……そこから二人は動き始める。


 そうして動き出した二人によってこの騒動はより加熱することになり、ブライトにとっては全く予想もしていなかった展開へと転がっていくことになるのだった。



――――控室で ブライト


 

「この件はとりあえずこれで良いだろう」


 隣の貴賓室から聞こえてくる怒号と悲鳴、あれこれと取材しようとする記者とそれから逃れようとする貴族の声を耳にしながら俺がそう言うと、フィリップとライデルが何を言ってるんだお前という視線をこちらに向けてくる。


 ……いやまぁ、うん、色々言いたくなる気持ちは分かるが今はそれどころじゃない。

 

 反撃作戦中だし、パスカル教授のこともあるし、放っておくとあの博士が何しでかすか分からないし、まだまだやることは残っている。


「……とりあえず最初に確認すべきはパスカル博士かな。

 一体全体何をやらかしてパスカル博士は逮捕なんてことになったのか、その辺りの確認をしておきたいな」


 パスカルは俺が雇っている、そのことは世間に周知されていて、当然警邏隊も知っている。


 それでも逮捕したということは相応の理由があるはずで……その確認はすべきだろうなぁ。


「それならおいらの方で確認しておいてって人を送っておいたから、そのうち報告が上がるんじゃないかな。

 ……警邏隊が逮捕ってことは現行犯でなんかやらかしたんだろうけど、何だろうねぇ?

 ……パスカル博士って具体的にどんな人なの? おいら会ったことないけど」


 俺の言葉にフィリップがそう返してきて……俺はパスカル教授の容姿を思い浮かべながら言葉を返す。


「教育熱心で真面目な中年男性、って感じだなぁ。

 特にこれといって特徴がある訳でもなく、薄い金髪をオールバックにした眼鏡の男性、頬がコケていて長身……安い着古したスーツを愛用していて、研究以外には興味が薄い所がある。

 学校教育の重要性をすぐに理解してくれた人物でもあって、夢は人類種全体の進化と発展だそうだ」


「……待って、なんか聞き逃がせない単語が出てきたんだけど、何て? 人類種の進化??」


「ん? あぁ、まぁ、言い方は独特だがようするに教育と知識……教養は大事だと、そういうことだ。

 仮に領民全員に一定水準の教育を行えたなら、一定以上の教養があったなら、我が領は一気に発展することだろう。

 発展するだけでなく、それぞれの考えが一段上のものとなり、様々なものが発明され、文化が発展し、犯罪が抑止され、人々が幸せになり、新時代が訪れる……はずとパスカル博士は考えているんだ。

 その一連の流れを人類種の進化と呼称しているという訳だ」


「……そう、なの? いやなんか、もっと不穏な気配を感じたんだけど……」


「それはまぁ、俺も最初はそうだったが、人類種の発展のためにとやっていることが近所の子供を集めての私塾だったからなぁ。

 ほぼ無料で教育を行い、様々な実験を見せてやり、子供達の知的好奇心を刺激し育て……その様子を見て夢に一歩近付いたと悦に入っていた所に声をかけたんだ」


「……なん、だろうなぁ、この今ひとつ安心しきれない不穏な感じ。

 ……しかしそう聞くとアレだね、何かの実験で失敗して周囲に被害出して逮捕、とかがあり得るんじゃないかな?」


 ああ、それならあり得るか。


 パスカル教授は確かに独特な考え方や言い方をする人だが、話をしてみれば至って真面目な教育者であることが分かる。


 俺が義務教育制度について話した時なんかは目を輝かせて喜んでいて……その実現のためなら協力は惜しまないと、寝食を忘れて協力をしてくれるような人物でもある。


 人類種の発展をと決意し、活動を始めて……教育を受けていない子供達と接してその現実を知って打ちのめされて、それでも心折れずにたった一人で頑張ってきたのだからその覚悟は並ではない。


 そう言う人物であればこそアレな犯罪に手を出したりはしないはずで……確認は必要だがそこまで焦る必要はない……はずだ。


「とりあえずフィリップ、お前にも確認に走ってもらって良いか?

 こちらはこのまま片付きそうだからお前に動いてもらって、その間にあの伯爵を追い返し、それからお前と合流し、パスカル博士の件に当たる。

 それが終わったらまた発着所に戻るぞ、作戦の成否は見守らないといけないからな、同時にあの博士の劇場案とも向き合わなければな。

 ライデルはそちらで協力してくれ……今日は忙しくなりそうだが、よろしく頼む」


 俺がそう言うとフィリップとライデルは頷いてくれて、そしてすぐにフィリップは駆け出してくれる。


 これでまぁ……パスカル博士のことは問題ないだろう。


 そして取材の方はどうなったかと言うと……、


「で、出ていけぇぇぇぇ!!」


「ひぃぃぃぃ!?」


 と、そんな声が上がり、あの記者が窓から飛び出てきてどこかへと逃げていく。


 逃げていきながら一瞬こちらに視線をやってきて、なんともニヤけた面を見せてきて……さては穏便にあの部屋から逃げ出すために、あえて相手を煽りやがったな。


 その上で情けない逃亡姿を見せてやることで、とりあえずの安堵感を相手に与えて油断を誘っている……と、いった所か。


 ……あぁ、やだやだ、無駄に洗練されているから油断出来ないんだよなぁ、あの連中は。


「……さて、戻るか」


 記者が完全に関所から出ていくのを見守ってから貴賓室に戻り、相当に荒ぶったのだろう、居住まいを正していたリューイがこちらを睨みつけてくる。


 ……睨まれても困るよなぁ、やんちゃな記者が貴族の権力でコントロール出来ないということは、今アンタが味わったばかりだろうに。


「どうもお騒がせしたようで……新聞記者というのは貴族相手でも物怖じしませんから。

 どうにも相手し辛くてしょうがないですねぇ」


 そう当たり障りのないことを言うと、リューイは更にこちらを睨んできて、何かを言おうと口をパクパクとさせるが、言葉が出てこないらしく黙り込む。


 恐らくだが記者を相手にしたことで体力も気力も使い果たしている、元々消耗はしていた様子だしなぁ、疲労のピークという所か。


「……お疲れのようですから今日の所はお帰りを。

 これ以上ここで言い合っても進展はしないでしょう。

 ……王太子が何を言ったかは知りませんが、どうしても姉上と婚約したいと言うのなら改めて正式な使者でもって、当主たる私に話を持ってきてください。

 正当な手段で真摯に話をしてくださると言うのなら、こちらも真剣に検討はしましょう。

 ……今回お騒がせしてしまったことはお詫びします、こうして追い返す形になることも申し訳なく思っていますので、当面の宿代くらいは出させていただきます」


 と、そう言って俺が懐から何かあった時用の財布を取り出し、差し出すとダルデスパン伯爵は、それをじぃっと睨んで数秒躊躇してから、ひったくるように奪い取り、


「ふんっ、続きはまた後日!!」


 と、そう言って大股で貴賓室を出ていく。


「……あれで良かったのですか?」


 それを見送りながらライデルが小声で話しかけてきて、それに俺は、


「これ以上騒がれても面倒だ、追い払い代と思えば安いものだろう。

 それに王太子の同類と思われるのもごめんだ、相応の慈悲を見せて貴族らしい生活が出来るようにしてやるくらいはな」


 と、返す。


 するとライデルは納得したようでしっかりと頷いてくれて、それから「この後は?」と問いかけてくる。


「……さっき言った通り発着所に戻る、それから屋敷にも一度顔を出しておこう。

 忘れていたが姉上の状態も確認しておきたい……心の負担となっているようなら、もう追い返したと報告して安心させてやりたい。

 その後改めて発着所で残りの案件に対処する。

 今日は忙しくなるぞ……ライデルも覚悟しておいてくれ」


「は、了解しました」


 そんな会話をしたなら貴賓室を後にし……歩廊に戻って伯爵一家が去って行く様子を見守る。


 追い返される形にはなったが、十分な金を得られたということで顔は明るく足取り軽く、子供達も喜んではくれているようだ。


 ……伯爵本人はともかくとして子供達には思う所はないからなぁ、あの金で少しはマシな暮らしが出来ると良いのだが。


 ……しっかりと去るのを確認したなら関所の責任者に挨拶をし、飛空艇で発着所に。


 軽い状況確認をしたなら屋敷に向かい……姉上がいるらしいサンルームへと足を向ける。


 すると状況を聞いてはいたのだろう、不安そうな顔でサンルームの入口に顔を向けていた姉上と視線が合い……俺の顔を見てとりあえず問題は解決したと理解をしたのだろう、明るい笑顔となって駆け寄ってきて、勢いをつけたハグをしてくる。


 それを受け止めしっかりとハグを返し、一言。


「追い返しました」


 とだけ報告をする。


 それで十分伝わったのだろう、姉上が脱力し……失神という訳ではないのだろうけど、意識朦朧となる。


 ……よほどのストレスを抱えていたようだ。


 すぐにメイドを呼んで部屋へと連れていってもらって、母上にも簡単な報告をしてから……プルミアがいねぇ!? ということに気付く。


 いや、ここにないだけかも、またアーサーとランスと駆け回っているのかも。


 ……それならそう言う気配がするはずだが……うーぅむ。


 いや、大丈夫だ、ジェミィとロックが側にいるはずだし、問題はないはずだ。


 とりあえず今は発着所だと踵を返した俺は、ライデルと共に発着所に向かい……そしてそこで未だに暴れていたらしい博士……アーデル・トレイサー博士と向き合うことにし、そちらへと足を向けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回は残りのあれこれへの対処となります。

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― 新着の感想 ―
せんのうきょういく?
パスカル博士。 言い方がマズイだけの善良な人なのか、はたまた… はっちゃける人では無いっぽいけど、そういう人のがとんでもない事やらかすってのは往々にしてあるからなぁ。
パスカル先生、ニッコニコな笑顔で完全な善意で人体実験しそう(偏見) 大陸のクソ貴族(笑)は最悪切って山に埋めるか海に沈めれば良いからとりあえずは上手くやり込めれば良いよね。
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