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概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より  作者: ふーろう/風楼
第六章 芸術の羊飼い

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変人



「これは見事だなぁ」


 飛空艇工場の近くには当然ながら飛空艇の格納庫があり、これもまた当たり前の話だが発着所も整備されている。


 そしてその最奥には軍事用の発着場もあって、そこは一般人立入禁止、関係者しか入れない特別な場所となっている。


 そして今日はそこに親しい者達とやってきていて、空を見上げると恐らくこの世界初となる、飛空艇の編隊飛行が視界に入り込む。


 結局今回の作戦に参加することになったのは二十隻で、V字編隊が二重となった形で目標地点……北東へと向かって飛んでいく。


 隣ではコーデリアさんもその光景を見ていて、上を見上げ口をポカンと開けて目を煌めかせて、全力で見入っているようだ。


 今日のために奮闘したライデルは疲労困憊といった様子ではあるが、同時に満足げでもあり、空を眺めながら滂沱のごとく涙を流していて……姉上やプルミアは楽しげに、フィリップ他は興味深げにその様子を眺めている。


 そうやって皆で作戦の成功を願いながら空を見上げていると、なんだか遠くから甲高い声が響いてくる。


 うっすらと、何を言っているのか聞き取れないような遠距離で。

 

 しかしそれは確実に聞き覚えのある声で……特に耳の良いフィリップがそれに対して声を上げる。


「……博士?」


 いやいや、まさかそんな……博士は今日呼んでいないし、そもそもここに入る許可を持っていないはずだ。


 

「うぅ~~~らやましぃ~~~」


 そう思った瞬間、声が聞き取れるレベルで聞こえてきて、なんかもう博士としか確信出来ない単語が聞こえてきた。


 しかも声が近付いてきているってことは入り込んだのか、この発着場の敷地内に。


 敷地の外周は有刺鉄線つきのフェンスで覆われている上に、見張り塔を複数配置しているし、常に警備が周回しているんだが、それを突破してきやがったのか?


「ブーライト様~~~~、うへへへへへへ、良い案出来たんですよぉ~~~!!

 っていうかあれに乗せてくださいよぉ~~~、自分ならきっとアレに乗ることで更なる閃きを得られるはずですよぉ~~~!!」


 ……もうなんて言うか支離滅裂だった。


 いや、多分劇場に関する報告に来てくれたんだろうが、その途中で編隊飛行を目にしたことで願望が混在して暴走状態にあるらしい。


 そんな声がしてくる方に視線をやるとボロボロとなった白衣姿の博士が凄まじい脚力でもって、青いスーツに軽い防具と帯剣といった姿警備達を振り切りながらこちらに駆けてきていて……それを見て俺は思わず声を上げる。


「博士って身体能力高かったんだな」


「んまぁ、普段の動きからして結構な筋力いる動きしてるしね。

 それと兄貴の健康論に感化されてしっかり運動しながら質素な食生活を続けてるみたいだよ。

 長生きしてたくさん発明したいっていうのと、その方が頭が冴えるんだってさ」


 するとフィリップがそう返してきて、なるほどなぁと唸ると同時に警備体制の見直しを決意する。


「あふぇっ、はふぇっ、はひぃっ、と、とりあえずこちらの設計図をぉぉぉ」


 そしてついに俺達の目の前までやってきて、息を切らしながら設計図の束を寄越してきて……俺がそれを受け取ると博士はそのまま倒れ伏し、その上に追いかけてきた警備員達が次々に折り重なる。


「……あー、警備員諸君、今回の件で罰則などはないから安心して欲しい、それと圧迫で窒息させないように注意するように。

 そして博士、警備に迷惑をかける行為は慎むように。

 設計図はこの場で確認するから、それまではそこで休んでいてください」


 俺がそう声を上げると警備員達は恐縮しながらも安堵した顔となり、博士は警備員の隙間から腕を突き出して手を気持ち悪い動きでニョロニョロ動かし、恐らくだが了解したとの意思を伝えてくる。


 それを受けて俺は設計図に視線を落とし……博士の丁寧な解説付きのそれを読み進めていく。


 博士には可能な限りの知識を伝えてある、たとえば建物全体を音の反響を意識した形にするとか、演出のための大仕掛けを用意するとか、観客席の配置やランク付けなどの工夫とか。


 そしてそれを博士は自分なりに解釈し、そして計算式を作り上げて計算をした上で劇場全体の設計を行ったようだ。


 ……うん、計算式が正しいのか正しくないのか、さっぱり分からねぇ。


 高度な計算式を使っていることは分かる、整然と書かれていることからデタラメを書き連ねたという訳でもないということも分かる。


 しかし計算式が複雑過ぎて理解するのが難しい……大学院レベルというか、それ以上の計算をしているんじゃないだろうか。


 俺には理解出来ないだろうと考えたらしい博士は、計算式一つ一つの解説をしてくれてはいるんだが……いやぁ、無理だ、数時間か数日か、一つ一つ丁寧に理解していってようやくうっすら理解が出来るかもしれないというくらいには無理だ。


 ……しかし劇場の形を見るに、現代でも見かけたような形となっていることから恐らくは正しい設計となっているのだろう。

 

 大仕掛けの仕組みに関しても問題ないように見える。


 だけどもこれは博士の設計で、博士には決して油断出来ない部分があることを知っている俺は、計算を理解した風を装いながら声をかける。


「博士、基本的な形状、設計は良いと思うが、そもそもの建物の強度や防火性能、それと避難経路についても考慮した設計にしているのか?

 火事が起きた際に安全に避難が出来なければ論外だ、全ての明かりが喪失しても出口が分かるような工夫と避難用の非常口の設置、それと地震が来ても耐えられる強度にするように」


 すると博士は警備員の山からどうにかこうにか顔を出して、返事を寄越してくる。


「そんなことしなきゃいけないんですかぁ? 良いじゃないですか~、火事がおきたらその時はしょうがないですよ、うん」


「……その時は博士の名前を冠した劇場で大量の死者が出たと報道されることになるんだが、それでも良いのか?」


 そう俺が返すと博士は顔をしかめて苦悩し……存分にした上でぬるりと山から抜け出して、俺の手から設計図の束をかっさらい、鉛筆を懐から取り出し、その場で設計図に書き足しを始める。


 それはすぐに完了するようなものではないはずで、まだまだ見える空の壮観たる光景を堪能するかと視線を上げていると、布帽子に作業服、革靴といったここの制服姿の職員がこちらに駆けてきて、背筋を伸ばして敬礼、いつかに教えた見事な仕草を見せてからハキハキとした声を上げる。


「で、電信での報告がありました!

 関所に向かう一団あり、至急対処されたし。

 とのことです!」


 その声はどこか興奮気味で……そうか、電信を使っての緊急報告という意味では世界初のことか。


 ここは軍事拠点……将来の空軍基地、まだまだ未発表技術ではあるものの、研究や改良をするために電信を設置することになっていて、かなり不格好ではあるが電信柱で屋敷や役所などへの配線がされている。


 何度か練習はしていたはずだが、正式に電信を受けての報告に成功したことは、歴史に残ることとも言えて……博士が大口を開けて唖然とする中、俺は言葉を返す。


「明瞭な報告助かった、すぐに飛空艇の準備をしてくれ。

 ここからこのまま飛び立つ、適当な飛空艇はあるか?」


「はっ、既に準備をさせています! もうしばらくお待ち下さい!」


 それを受けて俺が頷くと、報告に来てくれた職員は嬉しそうに笑って準備のためか来た方向……事務所の方へと駆け戻っていく。


「待ってくださいよぉ~~~、まだ未発表技術だったじゃないですかぁ~~、なんで実用化しちゃってるんですかぁ~~~。

 ブライト様が劇場なんか作れって言うからぁ、海底配線はまだ未完了なんですよぉぉ~~~!

 ひどい! ひどすぎる!!! 新聞社に漏れたら発表の価値がなくなっちゃう!!!」


 甲高く震える声でそう言う博士は俺の足に抱きつき縋ってきて……俺は博士の頭を掴んで引き剥がそうとしながら皆に声をかける。


「ライデル、フィリップは同行してくれ。

 コーデリアさん達は屋敷に戻って姉上の側にいてあげてください。

 既に関所にはどう対応すべきか伝えてあるので、問題なく処理できるとは思いますが、それでも安心させてあげた方が良いと思うのでお願いします。

 他の者達はこのまま残っても良いし、それぞれ帰宅しても良い、判断は任せるが……博士のように迷惑はかけないように」


 そう言って懸命に博士を引きがそうとしていると、先程の警備員達が手伝ってくれて、流石に複数人がかりとなると博士も流石に抵抗は出来ないようで引き剥がされ……そのまま事務所へと連行されていく。


「あぁぁぁあ~~~、またすぐに設計図持っていきますからねぇ~~~~」


 なんて声を上げながら。


 それを見送ったなら準備中らしい飛空艇へと向かい、搭乗準備をしているとそこにまた先程の職員が駆けてくる。


「ブライト様! 更に電信での報告です!

 報告をくださったのは屋敷の方で、まずパスカル博士という方が警邏隊に逮捕されたとの報告です!

 次に芸術家の方々が劇場の噂を聞きつけて屋敷に殺到しているとか。

 そしてお祖父様が何やら用事があるとお待ちになっているようです!」


「……了解したとだけ伝えてくれ! 流石に関所対応が先だ!

 他もすぐに対応するとの返信を頼む!」


 飛空艇の駆動音で騒がしい中、どうにか声を張り上げてそう伝えて……それから俺達は飛空艇に乗り込み、貴賓室で発進を待つ。


「……パスカル博士は何をしでかした!?」


 ソファに座って一呼吸してからそう声を上げると、頭の後ろで腕を組んで壁に寄りかかったフィリップが言葉を返してくる。


「まーだ変な博士がいるんだ? 兄貴って何人くらい変人抱えてんの?」


「いや、誤解だ。

 まずそこまで変人はいない、次にパスカル博士は変人ではない。

 教育に関してを研究している、真面目で誠実な信頼出来る人物だ」


 パスカル博士は、博士と言うより教授と呼びたくなるような人物で、主に教育学みたいなことを研究している。


 子供を厳しい環境に置くべきなのか、ゆるい環境に置くべきなのか、どの方法が一番学力を伸ばす事ができるのか、子供を健全に育てることが出来るのか。


 そういったことを研究してくれていて、今後領内各地に学校を増やすに際して協力してもらっている重要人物だ。


 前世でさえ教育の現場には色々と問題があったからなぁ、中身が定まっていない状態で学校だけ増やしても問題が増えるばかりだろうと考えていて、パスカル博士の研究は最重要と言って良い程の価値があるものだ。


 その博士が逮捕されたというのは大問題で、今すぐ状況確認を行いたいのだけども今はそれどころじゃないのでぐっと我慢して関所に意識を向ける。

 

 ビフとボガーが情報収集をしてくれた所によると本当に一家全員でやってきているらしい。


 父、母、息子、息子、娘の五人家族。


 完全に大陸を脱出している状態で、こちらの平和な時間を楽しんでいて……その目的はもしかしたらこちらへの定住とかなのかもしれない。


 ……そこはまぁ理解出来る、同情するし原因の一端として責任も感じる。


 が、手法が大問題だ、姉上のことを無駄に不安にさせてくれやがって、その時点で同情も責任も吹っ飛んで、やってやろうじゃないか、この野郎ってな感情しか湧いてこない。


 他のことは考えず、真っ直ぐ関所のことだけに意識を向けて―――。


「うーん、兄貴の変人じゃないはあんま信用できないなぁ。

 兄貴もなんだかんだ変人枠だからねぇ、普通の基準がおかしいんじゃないかな?」


「うぉい!? 誰が変人だ、誰が!?

 至ってまともだろうが、誠実にやってきただろうが、流石にそれは聞き逃がせないぞ!?」


 意識を向けようとした瞬間、フィリップの言葉に意識を引き戻される。


 誰が変人だ、誰が、至って常識人だろうが。


 と、そんな事を考えているとフィリップは半目となって、


「いや、兄貴みたいな貴族がどこにいるのさ、聞いたことないよ、こんな貴族。

 だからこそおいら達はついていってるんだけど、だからって兄貴が変人じゃないってことにはならないからね?

 どう考えても常識外だからね? そこは自覚しておかないと色々大変だよ??」


 と、そんな言葉を投げかけてくる。


 それに反論しようとした俺は口を開き……しかし貴族らしい貴族ではないという部分は確かにその通りで、反論がうまく出来ず、そのまま何も言えずに口を閉じることになり、関所に到着するまで無言を貫くことになるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回は久しぶりの関所バトル、かも?

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― 新着の感想 ―
まあ、変り者、といういい方なら変人といえるかもしれないw
パスカル博士かぁ……人間は考える葦であるとか言いそう
あけましておめでとうございます。 ・博士 数学が凄いという兄嫁さんと交流させてみたいですね。 と言うか、そのうち、各人材を集めての、大学みたいな高度教育・研究機関も作られそうです王太子のアレと対比…
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