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ホルムズ海峡海戦(Three Knives in a Narrow Gate) #17-1

灼熱・高視程のホルムズで、角度と密度が武器になります。

斜角盾で迎え角を立て、“砲窓”を薄く広く。

外層はSeaslugの事前方位線、中層は4.5in VTの蓋、下層はSSK牽制。

デコイ(商船8隻分)の腹を絡め、最初の咆哮直前までを張り詰めて描きます。

【場所:ホルムズ海峡 西口 時間:1963-08-14 10:40–11:40 GST】


海は白熱灯のように均一で、陰影は舷側の下だけで濃く育つ。

10:40、二列縦陣に組み替えた船団が潮目へ入る。先頭の10,000t級タンカーはさらに沈み、ブリッジの温度計は39℃。氷嚢は45分で水に戻る。整備員は氷を布で包んで頬に当て、油の匂いを額へ塗り込むようにして持ち場へ戻った。

旗艦 Jean Bart のCICは紙と鉛筆の気配が濃い。海図は湿り、角が丸く波打つ。作戦指揮官リシャールは真方位リングの縁に親指を置き、そこへ集中を結びつけた。

「方位060°、距離21nm、曳航目標三。デコイは針路330°、速力6ktで維持」

「囮灯火は?」

「日中効果は薄い。コーナーリフレクタ主体で反射を稼ぎます。レーダ断面は商船8隻分」

「よし。本隊は影に入り、間隔600yd、2列×4隻を厳守」

左舷外側の英駆逐(County級)から回線。「Seaslug、セクター030°–060°、事前方位線(来襲が海面効果に入る前に割り込む方位角の線)を設定。4.5inはVT、Seacatは艇を45ktまで引き付けてから」

「砲窓(海面効果に入る前、事前方位線へ置く弾幕)は欲張るな。迎え角は010°立て。低空面は4.5inで蓋だ」

「了解、斜角盾(列の肩を斜めにして面攻撃の角度をずらす隊形)維持。船団速力12kt確認」

10:52、ボースンがロープの塩を叩き落とす。甲板は指で押すとぺたりと鳴り、手袋に砂が張り付く。医療補給船では看護兵が包帯箱から輪ゴムを3本だけ取り分けて胸ポケットへ移した。いつもは意味のない備品の位置が、今日は速度や角度と同じ重さを持つ。

10:58、英駆逐のアスディック(旧称ASDIC)がSSKのかすれ音を撫でる。「方位255°、距離4.6nm、深度不明」

リシャールは紙の擦れる音に呼吸を合わせた。「S-2を右舷外へ。ソノブイ線を1.2nm伸ばし外弧を押さえろ。後続は曳航ノイズメイカーを下ろし、発振は弱から階段状に」

「ノイズメイカー、作動良好」

砂混じりの風。湾の奥、小島の影に細いマスト。波の周期と合わない揺れ——台船だ。

「前進サイトの可能性」

「届く位置にだけ椅子を置く。それが奴らだ」

11:06、英駆逐から修正。「SSK、方位252°、距離4.0nm。音紋は鈍い」

対潜士官が入る。「魚雷は音に寄る。寄らせて爆圧は真後ろに置け。後扉は閉鎖、隔壁は第3区画まで跨ぎ不可」

「換気最小、扉は楔で固定」

CICの空調は白旗を上げ、表示灯のカバーがぬめった指で曇る。

11:12、County の射撃長。「砲側、見越し+1目盛を基準。VTは低。Seaslugは即応2、待機2」

「砲窓の上端はSeaslug、下端は4.5in。間に隙間を残すな」

11:18、医療補給船の後甲板。氷嚢が2袋目に替わる。遠くデコイの反射板が陽炎に揺れ、擬似船団の腹は本船より堂々として見える。

「BARCAPは?」

「遠方CVAのF-8Dが東方210nmで旋回。限定介入だ。こっちは幾何で抜ける」

11:20、タンカーのブリッジ。見張りが汗で黒くなった双眼鏡を当て、空の明るさの中から Komar級ミサイル艇の刃先を探す。

「速力12kt維持。針路330°→335°へ5°、囮の虚像を視界に入れろ」

「335°、舵微角」

11:22、電話兵の声が弾く。「Vampire、方位052°!」

CICの空気が一段熱くなる。リシャールは秒針が12に乗るのを待ち、胸の中で030°→060°の扇を開いた。

「焦るな。列を太くした意味を思い出せ。1発の幾何を崩すための600ydだ」

11:24、County が低く返す。「Seaslug、スタンバイ。誘導良好」

英駆逐の4.5inは低角、連接は間隔1→0.8へ。空中で割れた白珠が薄い屋根を作り、海面効果に目を凝らす影へ目隠しを掛ける。

「低空面の蓋を厚く。迎え角は010°立て」

11:28、CICの鉛筆が短く折れる。拾わない。予備は山ほどある。

「Komar、方位210°、距離13nm、45kt」

「よく見ろ。Seacatは箱を開くだけで撃つな。角度を奪うのが先だ」

11:31、掃海隊。「曳索、張力良好。水路幅600yd、磁気反応なし、音響はむら」

「了解。那覇ではない、今日は湾岸だ。実回廊を先に作る」

11:33、航海長が335°→340°へ5°だけ振り、デコイの虚像を外へ滑らせる。

「列は太く維持。間隔600yd厳守。速力12kt」

11:36、County。「見越し+1目盛、VT低。Seaslug、誘導線路良好」

「砲窓の上端、1目盛だけ外へ。海面の蓋は崩すな」

11:38、Komar の反射がいったん消え、すぐ別所で生まれ直す。陽炎が輪郭を壊し、45ktの線だけが水面に残る。

「艇の発射兆候なし。岸基優先で来る」

「よし。椅子はこちらへ向き直った」

11:40、リシャールは各線を束ねる。「迎撃は外層。Jean Bart は028°へ2°、County は012°へ5°。斜角盾は保て。砲窓を薄く広く。船団は12kt、2列×4隻。S-2、ソノブイ線を右舷0.8nm寄せ」

均一な白昼の底で、遠く大きなものが息を吸う音がした。

最初の咆哮は、まだ落ちてこない。


読了ありがとうございます。幻彗(gensui)です。

本話は「角度を奪うための密度」が芯。

列を太く=600yd、迎え角010°、030°–060°の事前方位線で“先に置く”護衛戦を組みました。

表記の気づき(+1目盛、角度3桁、単位)や用語の補足要望はコメントでぜひ。

面白ければブクマ&評価(☆☆☆☆☆)お願いします。

次回更新は、明日 12:00 頃(JST)に公開予定。

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