北岬ミサイル決戦 (OPERATION NORTH CAPE SALVO) #16-前編
北岬の霧下で数字が武器になります。
Komar×P-15はSeaslug/Terrierの“段差”を等時で穿ち、煙幕+チャフ+角反射器で露見を遅らせる。
環境と時間で戦う回。音(循環冷却・AEW輪音)と“影”の感覚で読んでください。
【場所:北岬—バレンツ海南縁 時間:1963-06-24 06:10 CEST】
06:42 北緯71°/真方位315°、距離22nm。
海は背の低い霧に押し潰され、輪郭だけが色を残した。ヴィクトルは双眼鏡を下ろし、艇橋の扉に肩をかける。Komarの艦橋は狭い。スイッチの匂い、油、濡れたロープ。耳の奥で整備兵がP-15の循環冷却を確認する金属音を立て、温度計の指針は+1目盛の遊びを残して止まった。
「目標、針路285°、速力12kt。列間隔1.2–1.5nm。列を太くしています」
測的士官の報。商船と護衛の間隔を広げ、1本の矢では裂けない布にする手だ。海図の角には薄く「等深線15ft」。そこに前進サイトAが潜む。
「ならば布目の交差を突く」
ヴィクトルは短く答える。海図に鉛筆で事前方位線を引く。自艇と北群2番艇、サイトAの等時点を合わせ、敵列の外弧SAM—内弧砲AAの段差に刃を差し込む。レーダ指示員が方位円を回し、「+1目盛右、305°」と肩越しに告げた。
「発射管、前装弾、温度は?」
「規定内。燃料温度22℃、シーカー自己診断=良。レドーム外板の着氷0」
艦橋の背後で、装填員がスリングの金具を3回小突く。台船に載せた粗末な箱。見つかれば終わるが、第2斉射ぶんの価値はある。
06:58。
遠方の空でAEWが小さく旋回し、通信が「針路不変285°/12kt、外弧にCounty級×2」と繰り返す。北西風15〜18kt、うねり2。波頭は3〜4ft。海鳥が低く飛び、200yd先で急に姿を消した——霧が切り落とす。
07:20。
合図は電鍵の短い一打だった。霧の上に白い爪が1本、東へ滑る。P-15は低く、重い。150〜200ftの帯を保ち、波頭を撫で、跳ねるたびに心臓が同じ高さに落ちる。距離21nm。計算上、Seaslugの高—中高度帯の“影”の下縁を一度かすめる。
「敵、発光。Seaslug来ます!」
測的士官の声。真方位305°、白い噴煙が海を引っかいた。近点高度は高い。炸花が400yd手前に咲いて、余波が霧の幕を裂く。予定通りだ、とヴィクトルは自分に言い聞かせる。こちらの1本目は誘い。2本目が本命。等時差15秒。
「2番艇、撃て」
短い返答。霧の縁からさらに低い影が飛び出す。敵列は斜角盾に変形。船と船が互いの影になる、古い手。CLGの指示音が空気を震わせ、Terrierが昇る。漏れは砲窓で叩かれる。4.5インチの水柱が5本、300〜500ydの帯に立った。
「煙幕、いま。レーダ・ヘッド、+1目盛左」
沿岸警備艇が灰色の壁を立てる。風はNW。こちらに有利。ロケット式チャフを1段、もう1段。帯の厚みは200yd。Komarは腹を見せない鳥のように真方位140°へ跳ね、霧の縁に身を擦る。レーダは+2目盛で偽像を育て、角反射器の筏を切り放した。
07:54。
AEWが「南群、接敵まで6nm」と送る。ヴィクトルは計器から目を離さず「北は段差を維持。Terrierと砲窓の間に時間の継ぎ目を」とだけ言う。P-15のシーカーは霧を嫌うが、海面反射が時に味方する。斜めのグリントが、標的の縁を光らせる。
08:00。
南群の電文が届く。「低高度突入」。北の霧越しに、命中——商船1、火災。歓声は出さない。出せば次が遅れる。BARCAPが入れ替わり、霧の天蓋のどこかで翼音が厚みを増す。レーダの端に点。こちらを見つけた。
「露見。回頭、真方位140°、速力30kt。チャフ1段、煙幕追加。距離保持2.5nm」
艇首が波を裂く。残弾1本は温存。第3波はサイトBと合わせる。等時——10:10。紙の上の数字は冷たい。だが冷たさだけが、艇を生かす。
09:12。
外弧からCounty級がわずかに踏み出す。Seaslug再装填で数分の“溝”が生まれるはずだと、測的士官が手帳に書く。海図上で真方位292°→298°、敵列回頭+1目盛。砲窓の扇が重なり、400yd帯はさらに濃くなる。
09:37。
北群3番艇が被弾。Seacatか砲かは判別不能。白い水柱が2度上がり、霧が震える。救助衝動を押さえ、ヴィクトルは鉛筆を握り直す。生き延びるために、次を打つ。
10:10。
サイトBが第2斉射。こちらは残存の1本で等時を合わせる。敵のSeaslugは再装填の隙。CLGのTerrierが上がる。内層の砲が吼える。護衛DDが中破——レーダの唸りが一瞬、途切れた。甲板の泡消火剤が太陽光を拾って白い筋を残す。
11:40。
双方、息が上がる。燃料計は無慈悲だ。敵は通過継続を選んだ。こちらはKomarを2隻失い、サイトBは沈黙。等価交換——地図はそう記すだろう。ヴィクトルは霧の向こうに黒い柱を見た。燃える荷は木材か油か。双眼鏡を外すと、金属と油の匂いが戻ってくる。
「撤収。真方位140°、速力28kt。無線沈黙。残燃料、+30分を割るな」
返答は短い。幕は下りない。ただ次の段へ続く。霧はなお薄く、海の色だけを奪い続けていた。
読了ありがとうございます、幻彗(gensui)です。
本話は「環境×時間×段差」の三点で組みました。
1本目の誘い→等時差15秒→第3波10:10の流れは、次話の救助・照明・撤収判断に繋がります。
表記の気づき(時刻コロン/波高表記/固有名の統一)や、戦術の疑問・補足要望をぜひコメントで。
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次回更新は、明日 12:00 頃(JST)に公開予定。




